視覚障害のある小学生が自宅から視覚特別支援学校に通うためには、毎日電車を乗り継いで通学する必要があります。なぜなら、視覚特別支援学校は東京都内ですら数か所しかなく、晴眼者のお子さんのように地域の学校に徒歩で通うことが難しいからです。児童によっては、片道1時間以上をかけて、通学しています。
さらに、1人で通学するのではなく、保護者やガイドヘルパーが同伴することが必須になっている視覚支援学校が大半です。保護者は、身体的な負担だけではなく、就労が難しくなるなど二次的な影響も出てきます。
これらの課題を解消するため、通学時にガイドヘルパーと一緒に登下校をすることができる、「移動支援」という福祉制度があります。みつきでは、移動支援を実施することにより、関東圏のお子さんを中心に視覚支援学校への送迎時のヘルパー派遣を行っています。
今回は、移動支援の概要と、みつきが視覚障害のあるお子さん向けに移動支援を行う背景をご紹介します。
「同行援護」と「移動支援」の違いとは?
同行援護は視覚障害者に特化した、国による外出時のサービスです。 これに対し、移動支援は視覚障害者・四肢不自由者・知的障害者・精神障害者が利用できる、地方自治体による外出時の福祉サービスです。視覚障害者においては、同行援護と移動支援のサービス内容は非常に似ています。
私たちは、同行援護の事業所を運営しているにも関わらず、どうしてわざわざ移動支援を行っているのか、疑問に思われる方もいるかもしれません。
理由は、通勤や通学で同行援護を利用できないためです。そこで、同行援護のサービス対象外である通学は、各自治体が実施する移動支援を活用して行うのが通例となっています。
詳細はSpotlite内、以下の記事をご覧ください。
まとめると、
- 同行援護は国の制度であるが、移動支援は各自治体が実施する制度であること
- 同行援護は通勤、通学で利用できないが、移動支援は児童の通学で利用できること
以上が同行援護と移動支援の大きな違いです。
通学における「移動支援」の大変な点とは

移動支援は、同行援護で対象外となる範囲を補う意義ある福祉サービスなのですが、いざ支援の提供を行うとなると非常に大変です。
事業所運営の視点からは以下のような課題があります。
- 個別のケースごとにお子さんの住む各自治体と協定書を締結しなければいけない
- 同行援護は事業所開設時、1回のみでOK
- 毎月、各自治体に書類を郵送して請求しなければいけない
- 同行援護は全自治体まとめてオンラインで請求
- 自治体によって運用のルールや解釈が異なるため、利用条件や内容を各自治体ごとに確認しなければいけない
- 同行援護は国のルールなので自治体ごとの差は少ない
さらに、ヘルパーさんの視点からも以下のような特徴があります。
- 朝の登校は、朝6時~7時台など早朝に待ち合わせをすることが多い
- 就業が短時間となり、1回あたりの収入が見込めない
- 片道のみの依頼となり、集合場所と解散場所が大きく異なる
皆さん、ヘルパーの立場で少し想像してみてください。「自宅から1時間ほど離れた視覚障害者の自宅で朝6時半に待ち合わせをして、1時間で視覚支援学校にお送りし、7時半に業務を終えて、自宅まで1時間以上かけて帰宅する」というお仕事があった際、お受けいただけますでしょうか。
1日だけならまだしも、毎週、毎日ということになれば、1人のヘルパーで対応することが難しく、複数人で依頼を担当していきます。
みつきでは、ありがたいことに、早朝の依頼であっても、短時間の依頼であっても継続して対応いただけるヘルパーさんが多数在籍しているおかげで、お子さんの移動支援を行うことができています。

一般的な移動支援の事業所は、事業所のある市内や区内だけをサービスの対象範囲としていることが多いようです。それでは、東京23区外や千葉県など様々な場所から通う視覚障害のあるお子さんに対応することは難しくなります。
手前味噌になりますが、視覚障害のあるお子さんの移動支援を行うには、以下の3つの条件を満たした会社である必要があるということが分かってきました。
- 移動支援を収益の柱にせず、別の基盤がある会社
移動支援は1回の依頼が短時間で大きな収入が見込めず、更に運営のコストもかかるため、別の収益の基盤が必要になります。 - 複数の市や区で、移動支援に対応できるヘルパーさんが多数在籍していること
先程の理由と同じですが、東京都や近隣県に多数のヘルパーさんが在籍していなければ時間や集合場所が異なる多くの依頼に対応できません。 - 移動支援をやる意思がある会社
上記2つの条件が揃っても、会社として移動支援を行うという決定をしなければ、もちろん実現しません。
全国で、視覚障害のあるお子さんの移動支援に注力している会社はみつきしかないという自負があります。多くのお子さんやご家族に必要とされているからこそ、これからも継続していくことが求められているように感じます。
ここまで、最もらしい理由を羅列してきましたが、冷静に考えれば経済合理性の観点からは移動支援を行う理由が見つけにくいのが実際です。雑談の中でですが、知人の会社経営に精通したコンサルタントや経営者からは、「なぜ、そんなことをやってるの?」「よくやっているね」と言われたこともあります。
子どもの支援は家族の支援であり、社会への投資
「これまで、職場では仕事を代わってもらうことばかりでした。でも、ヘルパーさんにお願いすることで、私が同僚の仕事を代わってあげることができました。ありがとうございます」
みつきで最初に移動支援を行った小学生のお母さんからいただいた言葉です。移動支援は、お子さんの支援だけではなく、保護者を含めた家族の役にも立っている。それに気づいたとき、より一層、移動支援の意義を感じました。
また、個人的な話になりますが、私は大学時代に教育学部の特別支援教育教員養成コースを卒業しました。視覚障害を専攻し、視覚特別支援学校で教育実習を受けました。そして特別支援学校の教員免許を取得したものの、1度も教員として勤務していません。教員免許を持ちながら、教育現場で役に立てていないことがずっと引っかかっていました。
大学を卒業して10年以上経ってしまいましたが、移動支援を行うことで少しでも子どもたちの成長に寄与できるのではないかと思うと、やらずにはいられません。

少子高齢化の日本において、子どもたちはやがて社会に出て、いずれ世の中を支えてくれる大切な存在です。
さらに、私が少しだけ期待していることがあります。将来子どもたちがいろいろな進路に進み、それぞれの専門性を身につけたときに、何らかのかたちで私たちの仕事をお手伝いしてくれるのではないか、ということです。それまでに、エンジニア、ライター、イベント企画、事務職など、視覚障害の子どもたちにも幅広い職種を用意しておきたいと考えています。
子どもへの支援は10年、20年先を見越した投資だと捉え、売上や利益など目先の数字以上に必要性とやりがいのある移動支援をこれからも継続していきたいと思います。
記事内写真撮影:Spotlite(※注釈のあるものを除く)
編集協力:parquet