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施設・サービス

障害者を支援する団体が、持続可能であるために。視覚障害者支援を20年以上行う神戸アイライト協会への取材で考える。

神戸アイライト協会室内の写真。整頓されていて、白杖がたくさん置いてある。

「認定NPO法人神戸アイライト協会」は、1999年に発足した視覚障害がある方が困りごとを相談できる施設です。公益財団法人中山視覚福祉財団の開設した中山記念会館を拠点とし、視覚障害者専門相談やパソコン講習、白杖歩行指導などを行っています。年間3,000件以上の利用があり、神戸市を中心とした視覚障害者の生活の支えになっています。

2002年に開始した通所事業では、自立支援給付就労継続B型施設や視覚障害者を対象とした地域活動支援センターも運営しています。

今回は、神戸アイライト協会の施設紹介と理事長 森一成(もりかずなり)さんへのインタビューを通して、神戸市の視覚障害者を支える神戸アイライト協会の魅力をお伝えします。

神戸アイライト協会 施設紹介

神戸アイライト協会が事務所を置く中山記念会館は、2021年に竣工した清潔感と開放感のある建物です。
視覚障害者だけではなく、盲ろう者も含めた当事者団体や支援団体が入居しています。

神戸アイライト協会は、中山記念会館の2階フロアにて、視覚障害者を対象にした様々な事業を行っています。(参照:神戸アイライト協会HP・外部リンク)

1 相談(医療・福祉機関との連携)

ロービジョン・視覚障害に関する相談を受け付けています。
眼科患者さんや医療・福祉機関からの相談に対応したり、用具の紹介や指導、提供したりしています。

ロービジョンフロアでは、様々な種類の白杖や拡大読書器、ルーペなどを体験することができます。

講習用のパソコンが並んだ机の写真。
拡大読書器を使ってみることができます。(写真撮影:Spotlite)

2 訪問

白杖での歩行指導を行っています。対象地域は、神戸市、伊丹市、たつの市、赤穂市です。

3 通所

パソコン、点字などの通所講習があります。また、点字名刺や工芸品の制作などを行う就労継続B型施設「ITハンドファーム」と、体操や音楽などを通して地域活動を支援する「視覚障害者活動センター アイライト新神戸」という2つの通所施設も運営しています。

4 講師・スタッフ派遣

視覚障害者ガイドヘルパー養成講習、ボランティア講習、音声パソコン講習などの講師・スタッフ派遣を行います。

5 各種イベント開催

パソコン講習会、用具展示紹介、相談会、交流会、シンポジウム、ボランティア講習、コンサートなどを開催しています。

6 ガイドボランティア派遣(現在は活動休止中)

現在は休止中ですが、県外を含めたガイドボランティア派遣についても相談を受け付けていました。

協会内の通路の写真。
協会内は、視覚障害者向けの様々な配慮がされています。(写真撮影:Spotlite)

施設内の床には、歩導くんガイドウェイが敷設されていました。神戸アイライト協会は、視覚障害者が安心して来所し、それぞれの困りごとやニーズに合わせた様々なサポートが受けられる場所です。

インタビュー

理事長の森一成さんに、神戸アイライト協会を立ち上げたきっかけや思い、現在運営を行う中で感じる課題などについて伺いました。

お話している、理事長の森さんの写真。
協会設立の経緯や、現状と課題を語ってくださいました。(写真撮影:Spotlite)

自己資金と自分の労力だけで乗り越えた3年間

ー神戸アイライト協会ができるまでの背景を教えてください。

1990年代ごろまで、関西の視覚障害者はまず、明石市にある神戸視力障害センターや大阪の日本ライトハウスを紹介されるのが主流でした。どちらも素晴らしい施設なのですが、行ける方は限られます。居住地によっては、半年から1年、家を離れて入居して訓練や支援を受けなければいけませんでした。今、神戸視力障害センターは訪問指導も行っていますが、元々は入所施設でした。多くの視覚障害者は在宅での支援を受けられなかったのです。

この問題を解決するためには、居宅介護や同行援護などの福祉サービスを利用したり、居住地から通える施設を整えなけれないけません。歩行訓練事業は神奈川県では実施されていたと思いますが、当時神戸市では行われていなかったのです。

ーそのような思いから、神戸アイライト協会を立ち上げられたのですか?

きっかけの一つは、1995年の阪神淡路大震災です。視覚障害者の被災者もたくさんいらっしゃいました。私自身は盲学校で勤務しており、避難所の運営で手が回らないという状況でしたが、全国から歩行訓練士などがボランティアとして、安否確認をしたり、緊急の歩行訓練をしたりしてくれました。

しかし、あくまでボランティアなので1週間くらいで引き上げてしまったんです。この現状を見て、「自分が早く行動を起こさないと」と感じました。
そして震災から4年後の1999年に、NPOを立ち上げたんです。当初、資金のあてはないし、スタッフも私だけ。訓練は1回2,000円で行っていたので、NPOだけでは食べていけませんでした。週の半分は別の仕事をして、残りの3日でNPOの仕事をしていましたね。

鞄を持って歩く、ビジネスマン風の男性の写真。
(写真素材:Unsplash)

中山視覚福祉財団との連携により視覚障害者のサポートを本格化

ー中山視覚福祉財団とつながるきっかけはありましたか?

中山視覚福祉財団の方と初めて出会ったのは1999年です。役員の方を通じて活動内容をお話ししたところ、翌年から少しですが補助金をいただくようになりました。

その頃、視覚障害者から「パソコンの使い方を学びたい」という声をたくさん聞きました。しかし、そのような場所が兵庫県内になかったので、中山視覚福祉財団の支援を受けて、私たちのNPOでパソコン教室を始めることになりました。そして事務局を、神戸アイライトにすることになったんです。ここから、中山視覚福祉財団とは本格的なお付き合いが始まりました。

ー現在は、中山記念会館に拠点を置いて活動されてますよね。

中山視覚福祉財団は、兵庫県内で活動する視覚障害者関連の福祉団体を支援しています。中山記念会館には点訳ボランティア団体や盲導犬協会、盲ろう者の支援団体など、12の団体が入居しています。さまざまな団体が1箇所に集まれば、サポートできる幅も広がります。私たちには、サポートのノウハウはあるけれど、資金はありません。一方、財団には資金はあるけれどノウハウはない。お互いにないものを補い合える、良い関係性なのかなと思います。

会議中のデスクの上で、5人の人が片方の握りこぶしを合わせている写真。
(写真素材:Unsplash)

市の予算が大幅に減少。年間800万円の赤字に

ー神戸アイライト協会の活動は、その後どのように広がっていったのでしょうか?

2007年の中山記念会館の開館記念式典で市の職員とお話しした際、視覚障害福祉事業での提案を相談されました。それで視覚リハ事業を提案し、人件費など運営を継続するための予算が認められると期待していました。しかし、契約時になって、「この事業には寄付金を充てる」と言われました。それが2008年から神戸市委託の視覚障害者トータルサポート事業 (視覚専門相談と歩行訓練等の視覚リハビリテーション事業)」です。その後2010年になって寄付金事業なので3年で終了と通告され、半年くらいやりとりをして市は撤回しました。
一方、神戸アイライト協会の活動は広がっていきました。視覚障害者トータルサポート事業は開設当初は、電話やメール、来所の相談は年間500件程度ですが、年々増えていき、最近は市内だけで年間3,000件を超えています。しかし、この事業は継続要請にもかかわらず2022年3月で終了しました。

2022年4月からは神戸市が新たに始めたIT支援等の「神戸市視覚障害者生活支援事業」および歩行訓練、ロービジョン対応等の「神戸市視覚障害者生活訓練事業」という2つの公募事業で委託契約をしましたが、両方あわせても予算がトータルサポート事業の3分の2程度。これにより、2022年度は約800万円の赤字予定となりました。

確実に視覚障害者のニーズは増えているのに、今の職員の雇用を維持するのが精一杯というのが現状です。

「カンパ」と書かれた募金箱と、「世界も大変ですが、アイライトも大変です!」と書かれたボードの写真。
(写真撮影:Spotlite)

職員の生活の心配を無くして、事業に集中したい。

ー神戸アイライト協会への支援を募るため、メーリングリストなどを活用されたと聞きました。

2022年12月、緊急支援のメーリングリストで、現状の報告などを行いました。また人件費が足りない旨の説明なども行い、寄付を募りました。おかげさまで全国の方からご支援をいただき、赤字を埋めていただきました。

2023年度の予算改善を求めて、要求を出したり市議会議員に話したりしましたが、結果は前年度と同じ金額であることは変わりませんでした。


ー神戸市をはじめ、神戸アイライト協会を取り巻く環境が少しでも改善されることを望みます。

今のままだと、本当に潰れてしまいます。私はもう70歳になりますし、職員にも60代以上の方が多いです。事業を続けるために後継者を育てないといけませんが、とても新しく職員を雇える状況ではありません。今は職員が辞めないで頑張ってくれていますが、いつ辞めてもおかしくありません。

まず、私が望むのは職員の生活の心配をなくすこと。神戸市が神戸アイライト協会の必要性を認めて、財源を付けて欲しいですね。そうして、視覚障害者のための事業に集中できる体制を整えていければと思います。

打ち合わせや相談のためのスペース。
(写真撮影:Spotlite)

最後に

阪神淡路大震災が契機となり、森さんの思いと行動力で立ち上がった神戸アイライト協会は、いまや神戸市の視覚障害者に欠かせない存在になりました。

2021年に竣工した中山記念館は、とてもきれいな建物です。1階にはカフェが併設されており、時代に合わせた開放感と福祉の専門性を併せ持つ全国でも稀有な場所だと感じました。

だからこそ資金的な課題に直面していることに胸が痛みます。

私たちは神戸市とのやり取りに直接関与できませんが、1人ひとりが神戸アイライト協会の魅力や必要性を伝えていくことが、小さな一歩になるのではないでしょうか。

森さんが「3年で予算がつかなければやめる」と決心していたところ、4年目に初めて予算をつけてくれたのも神戸市でした。双方が連携して運営が継続されることを心から願っています。

「low vision floor」と書かれたパーティションの写真。背景にはトイレの入り口をわかりやすく色付けした壁も見える。
(写真撮影:Spotlite)

外部リンク:特定非営利活動法人 (認定NPO法人)神戸アイライト協会

(アイキャッチ写真撮影:Spotlite)

この記事を書いたライター

高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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