先日、視覚障害者の資格試験の同行援護をしました。ITエンジニア向けの国家資格である「基本情報技術者試験」。主催は、独立行政法人・情報処理推進機構(以下IPA)です。
参考:基本情報技術者試験 | 試験情報 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構(外部リンク)
現在、この試験はCBT方式(会場に用意された専用パソコンを使う方式)で実施されています。
- 解説
CBTとは「Computer Based Testing(コンピュータ ベースド テスティング)」の略。コンピュータを使って実施される試験方式のことで、主に「テストセンター」と呼ばれる試験会場で受験します。従来の紙を使った試験(PBT:Paper Based Testing)と違い、問題の表示から解答の入力までをコンピューターで行います。近年は様々な資格試験でCBTが活用されています
事前申請から受験まで
【特別措置申請の流れ】

試験用のPC環境そのままでは、画面を音声で読み上げるソフト、スクリーンリーダーが使えません。用意された環境では、視覚に障害がある人は「問題を読むこと」も「解答を入力すること」も難しい状況です。そのため、別の方法で受験できるようにするための特別措置が用意されています。
受験者の方に聞いたところ、今回は、だいたい次のような流れで申請から受験まで進んだそうです。
- IPA のマイページにログインして特別措置申請を行う
- IPA から連絡があり、障害の状況や希望する配慮内容について詳細な聞き取りがある
- IPA による、使用パソコンの事前の動作確認
事前の動作確認では、IPA の担当者が勤務先に何名か来訪し、当日に使用するパソコンの動作確認や、必要なファイルのインストールなどを行ったそうです。
ここに至るまで、準備にそれなりの手間がかかるという印象を受けました。
資格試験の合理的配慮について、視覚障害者の村竹さんが執筆したコラムを以下のリンクからお読みいただけます。
【受験前の準備】ヘルパーとしての役割
今回の同行援護での私の役割は、移動のサポートだけでなく、試験中の一部の問題の代読も含まれていました。
基本的には、受験者本人が読み上げソフトを使って問題を読み、解答を考えます。
そのうえで、図・表・グラフなど、読み上げソフトだけでは対応しづらい部分をヘルパーが代読・説明します。
そのために、事前にサンプル問題を共有してもらい、以下のような形で受験者と一緒に準備をしました。
- サンプル問題をもとに事前打ち合わせ
- ZOOM を使って1時間未満のリモート打合せを2回実施
- 「読み上げソフトで対応できる部分」と「ヘルパーが説明したほうがよい部分」を一緒に仕分け
実際にやってみると、説明は想像以上に難しいと感じました。
同じ図でも「これは比較的伝えやすい」「これは言葉だけで説明するのはかなり難しい」など、難易度に差があり、そのあたりも事前に確認しておけたのは良かった点だと思います。
【試験当日】広いキャンパスの特別会場

基本情報技術者試験は、全国各地のCBTテストセンターから空き会場を選んで受験できますが、今回は特別措置のため、一般のCBT会場とは別の場所で受験することになりました。受験者が住んでいる県とは別の場所での受験を希望したところ、事情を考慮してもらい、東京都内の早稲田大学での受験となりました。
大学の敷地は広く、最初は別の試験会場の建物に入り込んでしまいましたが、途中で試験関係者の方に何度か道を尋ねつつ、最終的には無事に正しい教室にたどり着きました。校内のあちこちにスタッフの方が配置されていて、皆さんとても丁寧に案内してくれたおかげで、スムーズに移動することができました。
試験は午前と午後に分かれており、お昼休みは1時間ほどあります。ただ、外に食べに行く余裕はなさそうだったので、受験者と相談して事前に近くのコンビニで昼食を購入して持っていきました。
【試験開始まで】1人の受験者に4人の試験官
試験を行う部屋に案内されると、受験者はその部屋に1人だけで、他に受験者は居ませんでした。他の部屋にも特別措置の受験者がいるようでしたが、それぞれ1部屋につき1人という形で受験しているようでした。中には、車椅子で医療機器をつけている方もいて、一人ひとりの事情に合わせた形で試験が運営されていることが伺えました。
私たちの部屋には、試験官が4人いました。
- 時間を管理する人
- 解答をマークシートに代筆する人
- USB メモリから問題をPCにコピーする人
- 全体の進行やトラブル対応を行う人
回答方法は、受験者が選択した解答を口頭で伝え、それを試験官がマークシートに記入する方式です。
受験者は、「自分1人のために4人も付いてもらって、なんだか申し訳ない」というような、気まずさを少し感じているようでした。
私自身も、「思っていたより大掛かりな体制だな」という印象を受けました。
【試験中の様子】想像より出番が少ないヘルパー
特別措置があるため、試験時間は通常より少し長めに設定されています。
読み上げソフトを使って問題文を確認し、口頭で解答を伝える形式なので、その分時間がかかることを見込んだ配慮だと思います。
試験の流れは、おおよそ次のような形でした。
- 持ち込んだ本人のパソコンに問題ファイルをコピー
- 読み上げソフトで問題文・選択肢を読み上げる
- 受験者が解答を決め、代筆者に伝える
- 表やグラフなど、読み上げソフトでうまく読めない箇所だけ、ヘルパーが代読・説明を行う
午前午後ともに、最初に問題ファイルを開く際にエラーが出る場面はありましたが、どれもすぐに解消し、その後は特に大きなトラブルもなく進みました。
ヘルパーとしての私の正直な感想は、「思っていたより出番が少ない」というものでした。
読み上げソフトで対応できない問題はそこまで多くない印象です。私は普段エンジニアとして働いていて、今回の試験も自分で受験したことがあります。それでも、図や表の中には「これは言葉だけで説明するのはだいぶ難しいな」と感じるものもありました。
そういう意味では、基本情報技術者試験の受験経験がある人や現役エンジニアなど、ITに馴染みのある人のほうが、今回の試験の場合にはヘルパーとしてやりやすい部分も多いと思いました。ただ、一緒に問題を解くわけではなく、あくまで「書かれている情報をどう伝えるか」がヘルパーの役割です。サンプル問題を使って事前に練習しておけば、試験の中身を深く理解していなくても十分務まるとも感じました。
以前、企業のオンライン試験で代読を担当したこともありますが、そのときは事前に問題を共有してもらい、1人で読み込んでから本番に臨みました。しっかり準備しておくことで、本番はかなりスムーズに進めることができたので、とにかく事前準備が大切です。

【試験が終わって】丸見えになる思考プロセス
試験後、受験者が印象に残ったこととして挙げていたことがあります。それは、「読み上げソフトの音声が皆に聞こえる状態なので、どこを見ているか、何に迷っているかが全部筒抜けで、やりにくかった」というものでした。
普段読み上げソフトを使わない晴眼者の視点ではなかなか気づきませんでしたが、言われてみれば確かにそうだと思いました。
試験官が同じ部屋にいる状況で、画面に表示された内容をすべて音声で読み上げるため、思考のプロセスが丸見えになります。実際のところは、こちらが気にしているほど試験官は特に受験者が何を考えているかに関して気にしてないとは思いますが、気になるという気持ちは理解できます。
「それでも受験できる環境があるだけ良い」と言ってしまえばそれまでですが、「配慮を受ける代わりに、通常とは違うストレスを受ける」側面もあると感じました。
視覚障害と就職のこと
視覚障害者と話をしていると、就職に関する悩みを耳にすることがよくあります。
最近では選択肢も少しずつ広がってきたとはいえ、昔は按摩師くらいしか選択肢がなかったという話も聞いたことがあります。
一方で、システムエンジニアという仕事は、選択肢のひとつとして十分に現実的だと感じています。実際に、私は全盲でエンジニアとして活躍している方と一緒に働いたことがありますが、その方は非常に優秀で、その仕事にもとても向いていると感じました。
それだけに、「視覚障害があることで本来の能力を発揮できない」「環境や理解がないせいで、そもそもスタートラインに立てない」といった状況で才能が埋もれてしまうのは、とてももったいないことだと考えています。
「障害は本人にあるのではなく、社会の側にある」
何かのテレビ番組で、「障害は本人にあるのではなく、社会の側にある」という言葉を聞いたことがあります。いわゆる「障害の個人モデル(医学モデル)」ではなく、「社会モデル」に近い考え方です。
参考PDF:基本的な考え方|2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会|会議一覧|首相官邸(外部リンク)
社会の仕組みや制度が「すべての人」の存在を前提に設計されていない。その結果として、ある人は能力を発揮できない状態になってしまう。
今回の試験も、特別措置がなければ「受験すること自体」が難しかったはずで、環境を整えることで初めてスタートラインに立てるという典型的な例だと感じました。
実際に、職場の理解が得られずに、環境面で非常に苦労している、という話も何度か聞いたことがあります。だからこそ、社会の側にあるこうした「障壁」を少しでも取り除けるように、これからも意識していきたいと思っています。
私を育ててくれた全盲のプログラマーのこと
最後に、少し個人的な話をします。
私は、全盲のプログラマーで会社経営もしていた方に、未経験からプログラマーとして育ててもらったという経緯があります。
その方はもともと公務員をしていましたが、網膜色素変性症により中途で視力を失いました。そのときに「自分に何ができるのか」と向き合い、結果としてソフトウェア開発の会社を立ち上げたそうです。
長いあいだ連絡を取っていませんでしたが、少し前に久しぶりに連絡をしてみました。すでに70歳を超えていましたが、まだ現役で会社を経営していると聞き、とても嬉しくなりました。
初めてお会いしたとき、私はたしか17歳で、特にスキルもなく、続けられる仕事も見つからない状態でした。そんな私を雇い、プログラミングを一から教え、目が見えない中で会社を経営し、その傍らで塾も運営しながら司法試験にも挑戦するなど、いろいろな活動に精力的に取り組む姿を目の当たりにしました。当時、大きな衝撃を受けたのを今でも覚えています。そして、その姿を今でも時々思い出します。
あのときから約25年、私は今でもエンジニアの仕事を続けています。
そんな背景もあり、「障害のある人に配慮してあげる」という上から目線の感覚は、自分の中ではあまりしっくりきません。
むしろ、「自分がこれまでにしてもらったことの“社会への恩返し”」「立場は違っても、お互いに補完し合いながら取り組んでいく」……。そんな気持ちで、今回のような同行援護や、バリアを減らすための取り組みに関わっていきたいと思っています。

執筆:中卒プログラマ
記事内写真撮影:Spotlite(※写真はイメージです。記事内のヘルパーと利用者ではありません)
編集協力:株式会社ペリュトン