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視覚障害者の同行援護をもっと簡単に。全盲のエンジニア2名が手がける「おでかけくん」開発秘話

スマートフォンを操作している晴眼者と白杖の人が話している。

視覚障害者の外出を支援する、同行援護サービス。視覚障害者、ヘルパー、サービス提供事業所の三者が関わるこのサービスを、より円滑に運営できるように株式会社mitsukiが開発したのが業務用アプリ「おでかけくん」です。このアプリの開発には、全盲のエンジニア2名がコアメンバーとして携わっています。

今回は、「おでかけくん」を開発した経緯や、当事者の立場を活かしたアプリ開発秘話について、たっぷりと話を伺いました。

高橋、野澤さん、永井さん 略歴

高橋昌希

株式会社mitsuki代表。メディア運営のほか、視覚障害者の外出を支援する「同行援護」サービスを提供する「同行援護事業所みつき」の運営を行っている。

屋外で、新緑の並木道に立ち、白いシャツを着ている笑顔の高橋さん。

野澤幸男さん

全盲。都内で一人暮らしをしながら、エンジニアとして働いて5年目。一般企業で晴眼者のメンバーと仕事をしている。

室内で、カラフルな壁を背景に、ソファに座っている野澤さん。

永井慶吾さん

全盲。慶應義塾大学2年生。大学ではコンピューターサイエンスを学んでいる。2024年4月からmitsukiでシステム開発に参画。

白い壁の前に立って、微笑んでいる永井さん。

視覚障害者へのサービスに、紙と印鑑?

─まず、「おでかけくん」を開発しようと考えたきっかけを教えてください。

高橋さん 「おでかけくん」は、視覚障害者の外出を支援する福祉サービス「同行援護」の業務を円滑にするアプリです。開発のきっかけは、既存の運用方法への疑問でした。視覚障害者向けのサービスであるにもかかわらず、紙と印鑑を使用する運用方法に違和感を覚えたのです。

現状ほとんどの事業所では、紙に書かれた実績(実際の利用時間)を、ガイドヘルパーが代わりに「10時から12時です」と読み上げて、視覚障害者が印鑑を押す方法で運用されています。意図的かどうかに関わらず、違った数字を読み上げることもできてしまうので、情報保障の観点からも良いとは言えません。視覚障害者に対するサービスとしては問題があると感じました。

また、事業所の運営面でも課題がありました。ヘルパーと利用者さんのマッチング業務を人力で行っていると、とても非効率的なんです。これらの問題を解決するために、システム開発が必要だと判断しました。

─「おでかけくん」はどのようなアプリなのでしょうか。

高橋さん 主な機能は、おでかけの依頼登録と受託、実績の報告と確認、ヘルパーと利用者間のチャット、プロフィール管理などです。利用者、ガイドヘルパー、運営スタッフの三者がそれぞれの立場で利用でき、同行援護サービスの関係者すべてにとって、より便利で効率的なサービス提供を目指しています。

具体的な利用の流れは、利用者が同行援護の依頼を登録し、ヘルパーがそれを受託。サービス提供後、ヘルパーが実績を報告し、利用者が承認するというプロセスです。これらをアプリ上で完結させることができます。

通知はLINEやメールで届きますが、メッセージはおでかけくん上のサーバーで行うため、LINEアカウントやメールアドレスなどの個人情報が、利用者とヘルパーの間で共有されることはありません。

アプリは視覚障害者にも使いやすいインターフェースで、もちろん音声読み上げにも対応しています。

お出かけくんの紹介画像。「おでかけくん、同行援護をペーパーレスに。紙と印鑑を使わず、パソコンやスマホがあればどこからでも操作可能。実績はボタン1つで請求ソフトに取り込み。同行援護に特化したDXを実現」と書かれている。

全盲の2名のエンジニア。出会いは「オーディオゲーム」

─「おでかけくん」の開発には、2名の全盲のエンジニアがコアメンバーとして携わっています。おふたりの関係性について教えてください。

野澤さん 私が大学生の頃、筑波大学附属視覚特別支援学校の学園祭に遊びに行ったときに、永井くんと初めて会ってオセロをやりました。そのとき永井くんは中学3年生でした。

永井さん オセロは記憶にないなぁ(笑)。実は、僕はもっと前から野澤さんのことを知っていました。中学2年生のときにオーディオゲームに興味を持ち始めて、そのうち野澤さんが開発した「にゃんちゃんゲーム」にたどり着いて、ゲームをやり込んでいたんです。

野澤さん その後は、視覚障害者向けのアプリを趣味で開発する団体で一緒に活動するようになりました。そこから頻繁に話すようになりましたね。

─おふたりとも、全盲でありながらエンジニアとして活躍されています。

永井さん 僕は、中学生の頃から興味を持ち始めました。最初はWebアプリを作っていましたが、本当に手探りの状態でしたね。「テキストが書ければプログラミングができる」と本で読んで、音声読み上げを使いながら、テキストエディタやメモ帳を使ってプログラムを書いていました。


野澤さん  プログラミングはテキストベースで作業できるので、視覚障害があっても取り組みやすい分野だと思います。音声読み上げ(スクリーンリーダー)、点字ディスプレイ、拡大機能などを使うことで、目が見えない・見えにくい状態でも読み書きできます。視覚障害者はエンジニアに向いているとも思っています。

開発に、視覚障害者を含むさまざまな立場の人が自然に関わること

─「おでかけくん」の開発で特に大変だった点はありますか?

野澤さん システム利用の規模が拡大するにつれて、最初の設計では対応しきれない部分が出てきました。たとえば、元々は同行援護事業所みつきだけで使用する予定だったものを、他の事業所にも提供することになったときです。事業所ごとのデータの区分けや、セキュリティの強化が必要になりました。

100%完成しているものを、200%に拡張するようなものです。今までの機能の運用を止めずに、将来の拡張性も考慮しなければならず、かなり頭を悩ませましたね。

高橋さん 他の事業所さんとお話をしていて、やはり当社と同じように紙の書類の管理や請求業務に時間を取られていて、同じことに困っていることがわかってきました。「おでかけくん」を紹介したところ、想像以上に「このアプリいいね」と言っていただけました。

ここまでの反響を想定していなかった私の見通しが甘く、野澤さんと永井さんには苦労をかけました……。でも大きなバグやサービスの停止、情報の流出などは一度もなく、本当にありがたいです。

─当事者が開発に携わることについて、どのようにお考えですか?

野澤さん 理想的なのは、普段の製品開発に視覚障害者を含むさまざまな立場の人が自然に関わることです。視覚障害者だけ、晴眼者だけといった「〜だけ」という状況が問題だと考えています。

高橋さん その通りですね。実際「おでかけくん」の開発では、野澤さんと永井さんが関わってくれたことで大きなメリットがありました。

ひとつは、実際のユーザーでもある視覚障害者として、自分事として考えられるという点。たとえば、私が「この機能が欲しい」と言うと、「本当に必要ですか?」と質問してくれたり、「この文言ではわかりにくい」とフィードバックをくれたりします。こういった議論が、より良いものを作る上で重要だと感じています。

もうひとつは、開発と運営の距離が近いことです。言われたタスクをこなすだけでなく、当事者の立場、エンジニアの立場から積極的に意見を出してくれます。

おでかけくんを利用している方の声を紹介する画像。
利用者の声「自分の好きなタイミングでスマホから依頼できて便利。ヘルパーとチャットでやり取りで来て、お出かけが楽しみに。利用時間を自分で確認できるので安心して利用できる」
ヘルパーの声「自分に合う仕事を選べるので、自分の好きな時間に働ける。
帰宅中に電車の中で実績を送信でき、報告が楽になった。
スマホ操作が不安だったが、わかりやすくてすぐに慣れた」
事業所の声「夜間や休日の連絡がほとんどなくなり、精神的負担が減った。
在宅やテレワークでも勤務でき、多様な働き方を選択できる。
請求業務がワンクリックでできるので、月初にも時間が取れる。」

永井さん 僕はこれまで、自分用のソフトウェアを作ったり、特定の状況下で使用されるプログラムを開発したりすることが多かったのですが、今回「おでかけくん」の開発を通じて、実際のユーザーや現場のニーズを意識することの重要性を学べました。

たとえば、ヘルパーの方々からの具体的な依頼や改善案をもとに開発を進めることで、より実用的なシステムが作られていきます。このように、実際にシステムを使用する人々を中心に考えた開発プロセスを直接経験できることは、とても刺激的です。

もちろん、新しい技術やフレームワークを学ぶことも重要ですが、それらは個人の努力である程度習得可能です。一方で、実際の運営を見ながら開発を進めるという経験は、一人では得難いものだと感じました。

─ありがとうございます。最後に、「おでかけくん」の今後の展望について教えてください。

高橋さん 大きく分けて二つあります。まず、「おでかけくん」自体の機能向上です。特にマッチングの質を高めていきたいと考えています。

具体的には、趣味が近いヘルパーとのマッチングや、性格診断を取り入れたマッチングなどを検討しています。「話しかけてほしい」「淡々と案内してほしい」など、利用者の希望を反映していけるようにもしたいですね。

もう一つは、先ほどお話しした通り、他の事業所さんへの展開です。既にいくつかの事業所さんから使用の希望をいただいていますが、正直なところ、自社の利益だけを考えるようなマーケティングはあまり考えていません。困っている事業所さんがあれば、どんどん使ってもらいたいです。いいモノが広がって、その結果、世の中が少しでも良くなればいいな、と考えています。

野澤さん  開発者としては、自分で使いながら改善点を見つけていくことを大切にしています。さっきもちょうど新機能を見ていて、改善したい箇所を見つけました(笑)。実際に使ってみないとわからないことも多いので、開発者自身がユーザーとして使い続けることが重要だと考えています。

おでかけくんのユーザー画面と事業所画面のイメージ。
ユーザー向けのスマホ画面は文字が大きくシンプルな画面。メニューは「お出かけを依頼」「申請中の依頼を確認」「決定した依頼を確認」など8つある。

まとめ

「おでかけくん」の開発には、同行援護サービスを提供する事業者と、ユーザーの視点に立った視覚障害者の両者が携わっています。当事者を交えた開発チームの構成が、ユーザーのニーズを的確に捉えたアプリの実現につながったのだと感じます。

今後「おでかけくん」がどのように進化し、視覚障害者の外出支援をより良いものにしていくのか。そして、この取り組みが他の障害者支援サービスにどのような影響を与えていくのか。「おでかけくん」の今後の展開に、ご期待ください!

おでかけくんに関心のある方へ

おでかけくんは、同行援護事業所の運営をDX化するクラウドシステムです。「同行援護の業務をペーパーレス化したい」「利用者もヘルパーも簡単・便利に同行援護を利用したい」という皆様、お気軽にお問い合わせ下さい。

詳しくは、サイト内の「おでかけくん」紹介ページをご覧ください。

なお、プレスリリースは、下記をご覧ください。
株式会社mitsuki、視覚障害者の外出を支援する「同行援護」のDXを推進する支援システム「おでかけくん」をリリース。

今後も、同行援護業界だけではなく、視覚障害者と、視覚障害者に関わる人、全員が暮らしやすい社会の実現につながる取り組みを行っていきます。

執筆協力:白石果林

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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