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無印良品でアイコサポート実証事業がスタート!全盲のサービス開発担当者が語る

笑顔で立っている藤田さんと藤井さんの写真。

見えない人、見えにくい人に声で視覚情報を提供するサービス「アイコサポート」をご存知ですか?

アイコサポートは、スマホカメラの映像や位置情報をもとに、オペレーターが視覚情報を伝え、移動や買い物をサポートしてくれるサービスです。

「建物の近くまで来たけれど、入り口がわからない」
「外出前の身だしなみをチェックしてほしい」
「書類に何が書いてあるのか読み上げてほしい」
「自動販売機の利用や買い物をサポートしてほしい」

ちょっとしたサポートが必要なときにすぐ利用できる利便性の高さから、多くの視覚障害者に利用されています。

アイコサポートの紹介動画

2023年6月1日から8月31日まで、横浜駅西口にある「無印良品 横浜ジョイナス」にて、店内案内やお買い物サポートを誰でも利用できる実証事業が行われています。今回は、アイコサポートを手がける株式会社プライムアシスタンスのお二人に、実証事業までの道のりや開発の背景、サービスの特徴などを伺いました。

お二人の略歴

藤田玲子(ふじた・れいこ)さん
株式会社プライムアシスタンス ビジネス開発部 企画室副長。立ち上げ時からアイコサポートのサービス開発に携わる。

藤井実都江(ふじい・みつえ)さん
20代後半で網膜色素変性症を発症し、現在は全盲。10年間自宅に引きこもっていたが、就労移行支援を利用したのち、プライムアシスタンスに入社。アイコサポートのサービス開発を担う。

アイコサポートと出会い「諦めていた自分」に気づいた

─SOMPOホールディングスの傘下である、プライムアシスタンス。ロードサービスが主軸の貴社から、アイコサポートが生まれた背景を教えてください。

藤田さん 当社の企業理念は「『最上級のサービス』で世の中のあらゆる困りごとからお客様をアシストする」です。当社のコールセンターのリソースを活かしつつ、誰一人取り残さない社会の実現をするためには何ができるか、話し合い生まれたのがアイコサポートです。

サービス内容が明確に定まっていない段階で、複数名の視覚障害者にヒアリングを行いました。当時、就労移行支援事業所にいた藤井さんにもヒアリングをして、そのときの彼女の言葉が本プロジェクトの後押しになったんです。

藤井さんは、「見えないけれど、工夫すれば大抵のことはできるので困っていません。……でも、ここ何年もふらっと出かけたことがないです」と発言されました。「ふらっと出かけられない」という彼女の言葉が関係者の胸に響き、この事業には価値があると確信を持てたのです。

藤井さん 私は中途視覚障害で、20代後半で網膜色素変性症を発症し、現在は全盲です。

当時、支援機関のおかげでできることが増え、前向きになっていた時期だったので、「困ってることはほとんどありません」と話したのですが、サービス内容を聞いて「ひょっとしたら私は諦めているのかも」と思い始めました。

笑顔で話している藤井さんの写真。
「当時、何かを諦めている感覚は、それほどありませんでした」と話す藤井さん
写真撮影:Spotlite

藤井さん 「なんか喉渇いたな」と思ったとき、新しいカフェができたと聞いたとき、ふらっと出かけることができないと気づきました。

行かなくても困らないから「我慢している」とは感じておらず、「同行援護を頼んだときに行けばいいや」と、自分の生活に満足していると思っていたのです。でも見えていたときは、「天気いいから行ってみようかな」と、ふらっと足を運んでいたなと思いました。

藤田さんたちから改めて「何か諦めていることはありますか」と聞かれたとき、自分の思うがままに、自分の気持ちに蓋をしないで行動できたら、世界が広がるんじゃないかと感じたんです。

10年間の引きこもり生活を経て、アイコサポートの開発へ

─藤井さんは、入社するまでどのような生活を送っていましたか?

藤井さん 20代後半で病気が発覚するまで、アパレルの販売員をやっていました。

発症したばかりのころは一人で歩けていたし、字も書けていましたが、徐々に病気が進行して、それまでできていたことができなくなっていきました。視覚障害者である自分をなかなか受け入れられず、引きこもってしまい、それは10年間続きました。社会とのつながりを完全に断ち切っていたので、iPhoneのアクセシビリティが優れていることや同行援護の存在すら知らず、すべてを家族に委ねていました。

家族みんながストレスをためている状態が続き、周囲を傷つけている自分に気づいてからは、職業訓練に通ったり歩行訓練をしたりして、道が拓けていきました。

─プライムアシスタンスに入社されたのは、どのような経緯でしたか?

藤井さん 藤田さんたちからインタビューを受けて数ヶ月経った頃、お声がけいただきました。選考と試用期間を経て入社しました。

アイコサポートでは、オペレーターが道案内や買い物のサポートをしますが、プロジェクト発足当初は、「どう案内していいかわからない」といった状態からのスタートでした。私は週に1度、3時間ほど参加し、藤田さんと、もう一人の担当者と3人で検証を重ねました。私がひたすら外を歩き、お二人がオペレーター役で案内をする。その案内に対し私がフィードバックすることを繰り返し、オペレーションを構築していきました。

笑顔で話している藤田さんの写真。
「藤井さんの雇用をきっかけに、社内の意識が変わりました」と話す藤田さん
写真撮影:Spotlite

藤田さん グループ全体を見ても、全盲の方の受け入れは前例がありませんでした。そのため、「怪我せず会社に通えるだろうか」「パソコンはどうやって操作するのだろうか」といった疑問からのスタートだったのです。視覚障害者を受け入れる体制を一から作り上げていきました。

藤井さんの雇用に伴い、会社のダイバーシティへの意識が一気に加速し、今では社員の42名 が同行援護の資格を持っています。障害のある方の雇用を進める上で、良いきっかけになりました。

藤井さん 視覚障害者がどうやってパソコンを使うのか、想像がつかない人は多いと思います。そのため、役員の方たちの前でパソコンを使ったデモンストレーションを行うなど、理解を深めてもらう機会をいただきました。

引きこもっていた当時を振り返ると、今のような生活は想像できませんでした。でも引きこもっていた10年間を無駄だったとは思っていません。その過去もひっくるめて今があるし、そう思えるようになった今、「目の前のことに丁寧に向き合って生きていこう」と考えられるようになりました。

「アイコがあるから出かけられる」お守りのようなツール

無印良品店内でアイコサポートを利用している視覚障害者の男性の写真。
写真提供:株式会社プライムアシスタンス

─アイコサポートの特徴や強みはどういったところですか?

藤井さん アイコサポートの魅力は、オペレーターとのコミュニケーションにあります。

以前、私がアイコサポートを利用し、友人の家まで行ったときのことです。道中、激しい雨に降られ、びしょ濡れになってしまいました。無事友人の家に到着したはいいものの、せっかくのお出かけが台無しだと落ち込んでしまって……。そんなときオペレーターの方が「大変でしたね。でも無事に着いて本当によかったです」と声をかけてくださって、落ち込んだ気持ちを吹き飛ばしてくれました。

デジタルやAIを駆使したツールが増えているなかで、人と繋がり、心を通わすコミュニケーションができることがアイコサポートの最大の魅力だと改めて感じました。

藤田さん オペレーターはもともとロードアシスタンスのプロなので、現在地を特定するスキルに長けています。アイコサポートではストリートビュー、GPS情報、スマホの映像の3点を同時に見て、現在地と目的地の位置関係をかなりの精度で割り出します。単純に地図だけを見ていたら間違えてしまうような路地裏の道でも、目的地まで案内できるオペレーションを構築することができています。

私もテスト段階でオペレーター役をやりましたが、案内は非常に難しく、ロードアシスタンスで長年培ってきたスキルがあるからこそアイコサポートが成り立っているのだと実感しました。

─利用者からはどんな声が届きますか?

藤田さん 「ずっと渡れなかった横断歩道を、ひとりで初めて渡れた」と言ってくださる方がいました。その方は横断歩道を渡るためだけに、毎回同行援護を頼んでいたようです。「ひとりで横断歩道を渡れるようになって、行動範囲が広がりました」と言っていただいたことが印象に残っています。

藤井さん 「視力を失ってから苦痛に感じていた買い物が、今はすごく楽しい。アイコちゃんはお守りです」と言ってくださる方もいました。「アイコちゃん」と愛称で呼んでくれる方もいるんですね。外出に際して「道に迷ったら人に聞けばいいや」と思っていても、確実に聞ける誰かがいるとは限らないので不安が残ってしまいます。でも今は「迷ったらアイコに聞けばいいや」と思えるようで、「出かけるのをやめとこうかな」と行動制限することがなくなったようです。

「アイコがあるから出かけられる」と、お守りのように思ってくださる方は多く、皆さんの背中を押すツールになっていることを実感します。

アイコサポートを利用して、洋服を選んでいる視覚障害者の男性の写真。
写真提供:株式会社プライムアシスタンス

─今回、無印良品で実証事業をするに至った背景を教えてください。

藤田さん アイコサポートでは2023年3月から、 企業・自治体プランの提供を開始しています。プランは数種類ありますが、今回無印良品を運営する良品計画様と実証事業を行っているのが「フリーエリアプラン」。Wi-Fiのフリースポットのようなイメージで、特定のスポットに行けば、誰でも無料(通信費は自己負担)でアイコサポートを利用できます。

私は、エレベーターやスロープなど、ハード面でのバリアフリーだけではなく、情報のバリアフリーも広がっていくべきだと考えています。しかしそれは、ひとつの企業だけが取り組んで成し得るものではありません。国や自治体、多くの企業がそれぞれできることをともに行うことが重要だと思います。

これらの理念が良品計画様と一致し、今回の実証事業に繋がりました。誰もが暮らしやすい社会を実現するために企業にもできることがある、その意識が広がっていくことを願っています。

藤井さん 実証事業に際して何度も無印良品に通い、カメラをどの位置に動かしてもらえば案内がしやすくなるかなど、検証を重ねました。無印良品は商品の数が多く、パッケージが洗練されていてシンプルなので、アイコサポートを利用することで買い物の利便性は大きく向上すると考えています。

また、カメラに映った視覚情報だけではなく、1歩先の情報も提供できればと考えています。視覚障害者は1人で買い物に行くとき、店員さんにサポートを頼みます。目的の商品はすぐに購入できますが、新たな出会いがないことがネックだと感じていました。

アイコサポートを通じ、「その場所にはこんなものが置いてあります」と、目的の商品以外の選択肢も利用者様にお伝えできれば、新たな出会いも生まれるかもしれません。そういった楽しみ方も含め、オペレーターとのコミュニケーションをぜひ体験していただきたいです。

アイコサポートで、店内の様子をオペレーターに確認している視覚障害者の男性の写真。
写真提供:株式会社プライムアシスタンス

「無印良品 横浜ジョイナス」でのアイコサポートフリーエリア体験のご案内
https://eyecosupport.prime-as.co.jp/424/(外部リンク)

6/1から「無印良品 横浜ジョイナス」にて視覚に障がいのある方や視覚に不安を持っている高齢者等を対象とした遠隔サポートサービス「アイコサポート」活用の実証事業開始
https://www.ryohin-keikaku.jp/news/2023_0523.html(外部リンク)

 

取材・編集:遠藤光太(parquet)
執筆:白石果林
アイキャッチ写真撮影:Spotlite

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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