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技術者が作るこだわりの白杖とは。視覚障害者に寄り添う会社「KOSUGE」

折りたたみ式の白杖を持ち真剣な顔をしている小菅さんの画像
記事内写真撮影:Spotlite

株式会社KOSUGEは、MyCaneⅡ(以下:マイケーン)に代表される白杖をはじめ、視覚障害者向けの製品の開発・販売を行っています。

文字を音声で読み上げるエンジェルアイ・スマートリーダーの輸入販売や人工衛星みちびきを使った経路案内の開発にも取り組むなど、幅広い事業を展開しています。

代表の小菅一彦(こすげかずひこ)さんに、視覚障害者に関する製品を開発するようになったきっかけや商品のこだわりを伺いました。

インタビュー

ー会社の概要を教えて下さい。
白杖の製造と販売に加えて、今年の3月からエンジェルアイ・スマートリーダーの輸入販売を行っています。また、人工衛星みちびきを利用した歩行補助システムの開発に協力しています。みちびきにおける課題は、GPSの精度と、50cm程度の弁当箱ほどの大きさの受信機が必要なことです。受信機を小さくする技術はあり、実用化に向けての体制はできています。


ー視覚障害者に関する製品を始めようと思ったきっかけは何でしたか?
前職の東レ・デュポン株式会社を退職する頃、視覚障害者の父親を持つ同僚と話をする機会がありました。同僚から「父が使っている白杖は海外製。カーボンは重たいし、折れてしまう」という話を聞きました。そこで、日本点字図書館などへ見学に行き、NEDOへ白杖の製作に関するプロジェクトを申請しました。東レ・デュポンを退職して3ヶ月後には申請が通ったと連絡があり、本格的に開発を始めました。


ーもともと前職ではどのようなお仕事をされていたのですか?
繊維に関する生産技術、および用途開発に約30年間従事していました。同僚のお父様が使っていた白杖のカーボンは強度がありますが、折れやすいのです。一方、ケブラーというアラミド繊維は伸縮性があり、折れにくいのが特徴です。これまでの繊維技術の専門性を活かして、視覚障害者が使いやすい白杖を作ることにしました。

小菅さんが笑顔でお話している画像。
終始、楽しそうにお話してくれました

ー白杖を開発する中でのこだわりはありますか?
白杖を使用するときの軽さです。「軽さとは何か」「腕が疲れるとはどういうことか」を考え直すため、視覚障害者の腕に筋電図をつけて各種角度のグリップ形状をもった白杖を使用してもらい、筋肉の動きを確認しました。同じ重さでも形状が異なるグリップを持ったときに、手のひら全体で握れて中指が引っかかるものの方が、視覚障害者には軽く感じられました。白杖を地面につけたままスライドして使うのか、左右の2点を突くのか、白杖の使い方によっても重さの感じ方が変わります。白杖のグリップ形状と軽さの関係性については、歩行訓練士もあまり知らないことなのかなと思います。


ーチップ(石突き)もオリジナルのものがあるのでしょうか?
マイチップとマッシュチップの2種類のオリジナル製品があります。マイチップは、側溝の蓋の溝に嵌まらない形状にし、かつ高密度ポリエチレン樹脂という摩耗しにくい固い材料にしています。しかし、マイチップを使用してスライドテクニックされる人には、路面の凹凸に引っかかり易いとのことで、溝に嵌まりにくく、凹凸に引っかかり難く、摩耗しにくい高密度ポリエチレン樹脂製で、きのこ形状を有したマッシュチップを開発しました。路面状態を把握しやすい反面、手がしびれるくらい振動が伝わってくるという意見もありました。
マッシュチップは、白杖の中に通したゴム紐にチップをひっかけています。そのため、路面の状況に合わせて自由に動きます。皆さんの用途に合わせて選んで頂ければと思いますが、マッシュチップが1番使いやすいと評価してくれる歩行訓練士の方もいました。


ー修理などはどのように対応されているのですか?
マイケーンであれば、全国どこでも基本的には郵送で対応し、購入後もサポートを行っています。詳細はお問い合わせください。

オススメの製品紹介

KOSUGEが開発・販売されている白杖「マイケーン」と、輸入販売を行うウェアラブル機器「エンジェルアイ・スマートリーダー」の2つをご紹介します。

マイケーン

小菅さんの前職の知識や技術を生かした目玉商品です。

折りたたみ式マイケーンの製品画像。
マイケーン(フィットグリップ・カーブ)

グリップ

素材や大きさの異なる豊富なグリップがあります。
ゴム製のフィットグリップの方が重く、カーボン樹脂製になると、軽くなります。

ゴム製のフィットグリップは、ストレート型とカーブ型の2種類です。
カーブ型は、白杖を持つ時の手首の角度に合わせてグリップが折れ曲がっていることで、自然に握れるように工夫されています。

カーボン樹脂製のグリップは特に軽く、シンボルケーンとして使用する場合にもおすすめです。カーボン樹脂は、汗や皮脂に侵されにくいので、経年劣化によるベタつきなどが発生しにくいのが特徴です。

「白杖をオシャレに」のコンセプトの元に、オレンジ色のグリップも用意されています。

様々な白杖を並べて、グリップ部分をアップで撮影した画像。
グリップにもこだわりがあります

本体(パイプ部)

白状のパイプ部分に、アラミド繊維を樹脂で固めた素材を採用することで軽さと丈夫な白杖を実現しています。
アラミド繊維は振動の伝達性に劣るため、外側のパイプにはカーボンとのハイブリッドにして、地面の細かな変化も分かりやすくさせています。

折りたたみタイプは、ジョイント部分に独自のカバーを取り付けることで、衝撃を受けたときの縦割れ防止と反射シートの剥がれを抑制しています。長期間使用していると、外側のパイプの内壁が削れてきて、インナーパイプとの間に隙間ができることよるガタつきが発生してきます。この長期間使用時のガタつき発生を最小限に抑えるために、受け手側のパイプの端にテープを巻いて、つなぎ目を全てジョイントカバー方式にした新商品を2021年度に発売予定です。

折りたたみ式白杖のジョイント部分の画像。ブレにくくするためのカバーがついている。
独自の工夫がなされています
折りたたみ式白杖のジョイント部分にテープが巻かれている画像。
(新商品)ジョイント部分のガタつきを抑えます

チップ

自社開発のチップが2種類あります。

1つ目は、しずく型の「マイチップ」です。
一般的なストレートチップに比べ、先端が少し膨れていることで、側溝の蓋の溝にはまりにくいのが特徴です。

2つ目は、先端がくねくねと動く可動式の「マッシュチップ」です。
チップが自由に動くため、スムーズに路面の状況を捉えることができます。

白杖の中を通っているゴム紐に接続することで、機能面と耐久性を向上しています。
ユーザーからは、「点字ブロックの線状ブロックと警告ブロックの判別がしやすい」との声があるようです。

小菅さんがマッシュチップを持って少し動かしている画像。
チップは路面の状況を捉える大事な要素です

マイケーンを使ってみて

マイケーンを4年使用している私、渡辺が、ユーザー目線で感想をお伝えします。

以前は、カーボンファイバー製の白杖を使用していましたが、調べて行くうちにマイケーンの存在を知りました。
サイトワールドで現物を見ながら小菅さんとお話をして、素材をはじめ様々な工夫をされている点が気に入ったため、購入を決意しました。

使用すると、とにかく軽いことに驚きました。当時、肘の痛みがあったのですが、歩行訓練士に白杖の振り方の指導を受けたことと、白杖が軽くなったことが重なり、肘の痛みは嘘のように解消しました。

何度か歩行者の足に白杖が引っかかり、白杖が手から離れたことがありますが、いずれも折れることなく無事でした。逆に、白杖が丈夫すぎるがゆえに、歩行者が派手に転んでヒヤッとしたことがあります。(歩行者も無事で安心しました)

現在使用している直杖と折りたたみ式の白杖は、どちらもマイケーンです。
経年劣化でグリップがベタベタするのを避けるため、どちらもカーボングリップを選びました。3~4年使用していますが、未だにベタつくことはありません。

チップはパームチップを使っていますが、今後はマッシュチップにぜひ変えてみようと思ってます。

エンジェルアイ・スマートリーダー

中国製のウェアラブル型支援機器です。
カメラを内蔵した本体をメガネのツルに取り付けます。ライターほどの小ささで重さも気になりません。カメラで印刷物を撮影すると、文字を読み取って音声で読み上げます。

2019年のサイトワールドでプロトタイプが紹介され、今年から本格的に日本での販売が始まりました。株式会社KOSUGEは、正規の代理店として輸入販売を行っています。

エンジェルアイスマートリーダーを取り付けたメガネの画像
エンジェルアイ・スマートリーダー

印刷物を読み取る時に、「右端が切れています」というように適切な位置を教えてくれたり、解析中には音声ガイダンスがあったりするので、視覚障害者が使いやすいと感じました。

新聞などの縦書きと横書きが混在している原稿でも、ある程度正確に読み上げていました。
インターネット環境を必要としないので、電波の届かない山奥や建物の中でも使用できます。

小菅さんがエンジェルアイスマートリーダーをつけて本を読んでいる画像。
両手が自由に使えるのもメリットです

イベントにも出展

小菅さんは、可能な限り日本全国のイベントや機器展に参加しているそうです。自らがブースに立ち、視覚障害者の声に直接耳を傾けています。

白杖は、豊富なサンプルを用意しているので、グリップや素材の違いを試すことができます。
来場者との話に夢中になりすぎて、昼食を逃すことも度々あるそうです(笑)

機器展で小菅さんと渡辺が話している画像。
お話していると、製品への愛情が伝わってきます

最後に

これまでイベント会場で何度もお会いしていた小菅さんに改めてインタビューを行いました。

元々福祉とはかけ離れた仕事をしていましたが、同僚のお父さんが視覚障害者であるというやり取りをきっかけに、白杖を開発することになったというお話を初めてお聞きしました。

新しい分野でも、優しい人柄と技術者としての経験が生かして、視覚障害者のために仕事をされています。イベント会場では、我が子を愛でるかのように熱心に白杖の話をする姿が印象的です。

近頃は新型コロナウイルスの影響で機器展やイベントは減っていますが、いずれまたどこかの会場で小菅さんを見かけたらぜひ声をかけてみてください。

小菅さんが立体コピーの似顔絵を持って笑顔で立っている画像
またお会いできることを楽しみにしています

お問い合わせ

株式会社KOSUGEホームページ(外部リンク)

この記事を書いたライター

渡辺敏之

1970年神奈川県生まれ。IT関係の自営業をしていたが糖尿病網膜症により、44歳で身体障害者手帳を取得。自分の経験を生かしてロービジョンや白杖に対する啓発活動を行うため、はくたんストラップ制作委員会を発足し、非営利で活動する。防災士。

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1970年神奈川県生まれ。IT関係の自営業をしていたが糖尿病網膜症により、44歳で身体障害者手帳を取得。自分の経験を生かしてロービジョンや白杖に対する啓発活動を行うため、はくたんストラップ制作委員会を発足し、非営利で活動する。防災士。

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