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ストーリー

「視覚障害を持つ声優」「eスポーツプレイヤー」「司会」…新しい道を切り開く 北村直也さん

微笑む北村さん

記事の目次

記事内写真撮影:Spotlite

Spotlite運営メンバーの植松です。

今回ご紹介するのは、声優やeスポーツプレイヤーとして活動されている北村直也(きたむら なおや)さんです。

また、7月20日に開かれた「Any%CAFE(エニーパーセントカフェ)」というバリアフリーに特化したeスポーツカフェのオープニングイベントにも参加しました。

(Any%CAFE https://any-percent-cafe.studio.site/

イベントでは北村さんが司会からゲームプレイヤー、ゲーム解説まで幅広く活躍されていらっしゃいました。イベントレポートも最後にご紹介します。

取材に至るきっかけとして、同僚の三輪くんがTwitterを通して北村さんと出会い、面白い活動をしている方がいると紹介してくれました。

私自身一体どんな方なんだろうと関心が湧き、北村さんの活動の背景にある想いについてもお伺いさせていただきました。

略歴

サングラスをかける北村さん
サングラスをかける北村さん(ご自身のSNSではこの姿がイラストのアイコンとなっています)

1993年東京都生まれ。先天的に眼球が小さく、色と光だけ見える状態から20歳頃に全盲になる。高校から盲学校に通い、筑波技術大学でITを学ぶ。卒業後、2年間企業でITエンジニアとして働く。現在「視覚障害を持つ声優」として声のお仕事や「株式会社ePARA」から生まれたeスポーツチーム「Fortia(フォルティア)」でeスポーツプレイヤーからSNS運用など幅広くご活躍中。

インタビュー

現在のご活動について教えてください。

個人で取材を受けるのが久し振りで、声優かeスポーツか決まった上での依頼が多かったので、話すこと迷いますね。

まず所属している「株式会社ePARA」というのがeスポーツの競技で頑張ろうだけでなく、障害者が活躍するというビジョンを掲げているのでプレイヤーに留まらずSNSの運用なども担当しています。

(株式会社ePARA https://epara.jp/about/

声優関係だと最近色々な取材が増えて認知が増えてきた気がしています。

現在の活動をする前はどのようなお仕事をされていたのですか?

大手のIT企業でエンジニアをしていました。社内SEというポジションで他の部署の仕事を楽にするツール作成やエクセルの設計などをしていました。

エンジニア時代も事務所のレッスンを受けていて、デビューしたのは退職してからでした。事務所には大学卒業とほぼ同時に入りました。

企業内エンジニアから他の道へ飛び出した時はどんな想いでしたか?

大学時代から視覚障害で全盲だと就職率がとことん低いというのは聞いていたので、きつくても何も他にできなくなるのではという焦りや年齢的に間を空けると就職しづらくなるのではという想いがありました。

そんな中、退職してちょっとしてから小説のコンテストに応募する機会があり、賞は取らなかったけど出版の話がきたり、Twitterで知り合った人からのきっかけでイベント用に小説書いてという発展があったり、ナレーションの大きい仕事が決まったり、なぜか3か月に1回大きい話がきたんですよ。

好き勝手出来るうちに挑戦してそれでもだめだったら就職しようという気持ちに代わったというのがあって、気付いたら個人の活動が軌道に乗った感じです。運の要素やTwitterで発信していたことも幸いでした。

個人で活動する際に感じる壁はどのように乗り越えていますか?

困ったら人に相談することですかね。意外と人に相談して直接解決につながる時もあれば何カ月か経って、巡り巡って解決する時がありますね。

声優の営業活動がいい例です。

営業が超苦手で営業メールって基本的に返ってこないことが多いじゃないですか。でも返ってこないことにショックを受けやすいタイプなんですよ。自分の実力が伴ってないんじゃないかと思うことが多くて、その時に演技の先生が「自宅でYouTubeにボイスサンプルをあげられるといいよね」と話を提案してくれていました。

昨年春にYoutubeでの発信を始めて、聞いてくれた人が何かアクションを起こしてくれたらいいなと思っていました。

同じ年の夏に「みみよみ」という視覚障害者のナレーション事務所の代表の方からTwitterのDMで「YouTube聴きました」と連絡がありました。

それから「みみよみ」を通して仕事が生まれる流れもできて営業的な代わりになったので営業問題も解決しました(笑)

(「みみよみ」 https://www.mimiyomi.audio/

人に聞くのとそこそこあきらめないことが大事なんじゃないですかね。

様々な経験を明るく語る北村さん
これまでの挑戦を明るく語る北村さん

現在につながる過去の経験や出来事はありますか?

なんでしょうね。小学校の頃からラジオと野球が好きで、野球中継をラジオをで聴いてて、そのまま興味本位で様々なラジオ番組を聞いてました。

こっそり夜寝れなくて「オールナイトニッポン」を聞いたり、日曜日の夜25時に「空想科学研究所」という番組がやっていて、遅い時間帯なので起きて聞けたらラッキーという風にラジオを楽しんでいました。

時が経ち高校生の時に文化放送の「A&Gアカデミー」が行っている短期セミナーに参加しました。優秀者はラジオ番組に出演できる特典があり、ラジオドラマだけでなく舞台演技という科目をセットで受講すると割引になるというところから受けてみたのが芸能界のレッスンに初めて触れるきっかけでした。

元々芸能に憧れが強かったり、音楽をやったり色々してきましたけど、たぶんラジオが始まりとして今につながるきっかけが生まれていると思っています。

声のお仕事で視覚障害のハードルを感じることはありますか?

目が見えないから声の仕事は難しいということはないと思いますが、イメージする部分で苦労することがあります。

例えば「夕暮れの海」というシーンを視覚的に想像した表現ができなかったり、「夜が更ける深夜2時」というシーンがあった場合に暗さが分かりづらいなど細々した表現上の問題は正直あります。

視覚的表現が必要な時はどんな風にイメージ作りされているのですか?

あまりそういう案件が回ってこないというのはさておくとして。(笑)

こればっかりは過去のドキュメンタリーや作品を見た経験の引き出しから持ってくるしかなくて。その時にどんな効果音とかBGMが流れてたとかから感じるしかないですね。

ナレーションの先生が期待してくださってる部分として、目が見える人は夕暮れの海の視覚で捉えている風景を想像するけど、目が見えない人は海のせせらぎなどの音から想像することで目が見える人と違った視点で表現することができることが新しさになるんじゃないかと伝えてくれました。

ちなみに以前出版した小説の中ではいわゆる主人公の1人称の語りして感情面をメインにしました。そうして応募した作品が良かったみたいです。

「視覚障害を持つ声優」としてはじめから活動されていたのですか?

視覚障害と伝えることが良くも悪くも評価につながる可能性もあるため、あまり言い過ぎると技術が無さ過ぎるうちから注目されてしまうので、視覚障害の知り合い同士やコミュニティ内に留めていました。

タイミングとしては、「みみよみ」の方が言い始めたことがきっかけかもしれません。

これから珍しさや話題性を考えた時に視覚障害であることを知られて仕事をいただくことも大事なことだし、押し出していこうという流れになりました。

挑戦したことのない声やキャラクターの依頼はワクワクしますか?

それはありますね。野球が好きなので野球に関わるキャラクターか野球選手のドキュメンタリーのナレーションをやってみたいと思ってます。

具体的に声優の仕事はどのように声を吹き込んでいるのですか?

だいたい台本はブレイルセンスでテキストを点字に変換して改行したり読みやすいようにいじってます。

タイミング合わせるナレーションは時間が決まっているので、スタジオ収録だった場合は秒数のデータに基づいて1秒前にブースからディレクターさんにヘッドフォンに指示を音で出してもらいます。

自宅収録だった場合は1秒前に音が鳴るように自分で細工しています。BGMを流すように指定の時間に指定の音を鳴らすのは割と簡単にできるので。

声優のお仕事ではご自身に合ったスタイルを見つけているように感じましたが、いかがでしょうか?

元からITが好きなことや大学時代IT系の専攻だったのでこの活動が出来てるのかなと思ってます。困った時はこういう手段を使えば乗り切れるという発想が出来るタイプで既存のモノでどうにも出来なかったら作ればいいやとなります。

自分の進路が良かったのと20年前だとできてなかったかもなと思ってるので、IT革命があり、技術が進歩している今の時代だからこそこの活動ができているということを大事にしなきゃいけないなと思っています。

これまで声優に関心がある弱視の方の相談を聞いていて思ったのが、点字が読めないため台本を点字にするのが環境的に難しい人もいたり、視野が狭くて台本やモニター文字が追えない人もいるので、自分はいさぎよく点字ユーザーだからこの方法で声優ができたんじゃないかという気もしています。

こういう見えないところをカバーするのは人それぞれなんだなと色んな人の相談を聞き始めて思いました。

様々な挑戦する中心にあるものは「あきらめないという気持ち」なのか、「目指している姿」があるのか、その辺りはいかがですか?

「視覚障害を持つ声優」はおそらく日本では初なので、もしいないと仮定した時に、他の声優と比べてどんなに劣っていたとしても初めての存在なんですよね。

日本初の視覚障害を持つ声優と言っているうちに本当は業界内ではそうじゃないかもしれないけど、視覚障害のつながりの中で注目してもらえることが増えていきました。

学生時代は勉強が出来なくて順位が最下位争いのレベルだったけど、この分野で走り続ける限りしばらくトップでいられると強く思ったので、できるうちはやってみようかというところですかね。

もう1つ活動の中心とされているeスポーツに出会った経緯を教えてください。

以前仕事で関わっていた方に「直也さんゲーム好き?」と声をかけられ、

「好きですよ」と答えたところ、今所属している「株式会社ePARA」のキックオフミーティングに参加する流れになりました。

そこで全盲で「パワプロ(実況パワフルプロ野球)」というゲームをプレイする話が面白いと思ってもらえて、「株式会社ePARA」のメディアで記事を書いたり、あれよあれよという間に対戦格闘アクションゲーム「鉄拳」の大会に出たりしてました。

いつからゲームをプレイしていたんですか?

小学生の頃から兄弟や目が見える友達と対戦するのが当たり前でした。

野球ゲームの「パワプロ」は、投手が投げたところまでは音で分かるけど、球が真っすぐに来ているのか、曲がるのかが分からないため半分勘で打っています。チェンジアップという遅い変化球主体の投手にノーヒットノーランをくらったり、逆にストレート150キロメートルのエースピッチャーだと打てることがあります(笑)

取材メンバーと北村さん
取材の合間にそれぞれ親しんだゲームの話で盛り上がりました

7月20日のイベントでの対戦に向けてトレーニングはされてるんですか?

2週に1回プロプレイヤーがコーチとしてチーム全体に教えてくれています。

提携している企業に「鉄拳」が強い方がいて、メンバーの鉄拳力を上げる強化担当として技術向上のために関わっていて、他チームとも交流があります。

ゲームではどんな時が嬉しい気持ちになりますか?

やりたいことが出来た時に気持ちがいいです。

相手が人なのでできたりできなかったりするんですよね。半分運みたいなものですけど、「鉄拳」って体力がギリギリになると攻撃力が上がるので大技を決めてコンボを畳みかけて逆転勝ちできると良かったなと思います。

うまいプレイヤーさんだと避けたりできちゃいますけどね。ギャンブル作戦だと思ってます。

eスポーツって人との出会いも増えそうですね?

声優にしてもeスポーツにしても話題性があるところにいるので、面白がってもらえています。

最近感じているのが割とどちらもハードな世界なので体調と自己管理が大事だなあとひしひし感じています。「鉄拳」は強くなればなるほど一試合での疲労が半端なくて、オンライン対戦だと自分に近い相手が来るので接戦になるほど疲れます。

今後どういう未来を進んでいくというイメージはお持ちですか?

未来のことを考えるのはそんなに得意ではないのですが(笑)

楽しそうだからやるというのはあって、将来どうなっているかのイメージは正直持っていません。

こうなってしまった以上はしばらくは話題性のあるところで生きていくのかなと思います。こればっかりは気の利いた答えができないんですけど。

最後に質問です。北村さんの想いを未来にメッセージとして届けるとしたら、どんな方が浮かびますか?

夢があって一歩踏み出せない人達。

とりあえず自分でできないって決めつけなくていいと思っていて、声優やりたいと相談してくれる人は大手の事務所に断られて無理と思っている人が多いように感じていますが、そういう決めつけはしなくていいのかなと思っています。

困ったらあきらめないで、近くの人に相談しまくってみると答えが見つかるかもしれないよ。

微笑む北村さん
北村さんの笑顔と様々な挑戦ストーリーから生まれる言葉に元気をもらいました

【イベントレポート】2021年7月20日eスポーツカフェ「Any%CAFE(エニーパーセントカフェ)」オープニングイベント

壇上で司会をする北村さん

2021年7月20日に開かれた「Any%CAFE(エニーパーセントカフェ)」のオープニングイベントにSpotlite運営メンバーの植松、三輪で参加をしてきました。

このカフェは、eスポーツを通じて障害者が生き生きと働ける機会をつくる「バリアフリーeスポーツ」事業を行う「株式会社ePARA」が、eスポーツの年齢・性別・障害の有無という壁を越えて、誰とでも交流できるという特徴を最大限発揮できる環境を整備した新たな交流の場です。

北村さんの司会進行で開演し、第一部では「株式会社ePARA」代表の加藤大貴(かとう だいき)さんの開会の挨拶からスタートしました。

挨拶では2つの場にしたいと話されていましたのでご紹介します。

「1つ目は、集まれる居場所となる空間とすること。障害者が気軽に利用できるeスポーツの施設はこれまでなかったということがきっかけでこの場が生まれ、できるだけ安い価格で参加できたり、バリアフリーの度合いを高めたり、様々なデバイスを使って交流できる場にしたいと考えています。」

「2つ目は、挑戦の場です。司会を務めている直也さんはブラインドのeスポーツプレイヤーや声優をしており、このように司会に挑戦するのもひとつのチャレンジで新たな挑戦を生む場にしていきたいです。」

1試合目 ケニア VS 日本

第二部では対戦格闘アクションゲーム「鉄拳7」でのエキシビジョンマッチが行われました。

1試合目はケニア初の女性プロゲーマーであるシルビア・ガソニさんと「株式会社ePARA」所属のたま選手との対戦から始まりました。

オンラインツールZoomで対戦前後にケニアにいるガソニさんとつなぎながら進行していきました。

今回Twitterをきっかけにガソニ選手に出演のオファーをしたとのことで、eスポーツが遠く離れて国境という壁を越えて交流でき、世界中に出会いを開いていることを肌で感じる時間でした。また人との出会い方も多様化していることを強く感じました。

2試合目 北村直也さん VS 加藤大貴さん

「株式会社ePARA」内部対決 北村さんと加藤さんの対戦の様子

2試合目は、「株式会社ePARA」所属の北村さんと代表の加藤さんの対戦でした。

今回両者で違うデバイスを使用していたのが印象的でした。北村さんは家庭用ゲームのコントロールとヘッドホンで音に集中した環境でプレイし、一方加藤さんはゲームセンターのアーケードゲームで使うようなコントローラーを使用していました。

初めの加藤さんの開会挨拶で「様々なデバイスを使って交流できるようにしたい」いう話がありましたが、こうしたデバイスを個人で変えられることが片まひの方など身体に障害がある方でもプレイできる環境につながり、様々な方がeスポーツを通して交流できる可能性を具体的に知るきっかけとなりました。

試合では北村さんの選んだキャラクターがリズムよく軽快に技を決めており、加藤さんと互角に渡り合っている姿に会場内の観客の熱が高まっている様子が伝わってきました。

最終的に北村さんが勝利を収め、スポーツ観戦をした後のような興奮と会場の一体感が感じられました。試合後すぐに壇上の席に戻られ、次の試合では他のプレイヤーの方々とゲーム解説をされており、北村さんの挑戦や活躍ぶりが発揮されていたイベントでした。

イベント終了後の記念写真
イベント終了後、北村さんと他のeスポーツプレイヤーとの記念写真

編集後記

インタビューでは、北村さんは未来を考えるのは得意ではないとおっしゃっていましたが、同じ道に次に続く人や関心を持つ周りの方のことも気にかけていらっしゃるように感じ、私には今後の北村さんが新しい道の先頭に立って楽しい未来を導いていく姿が浮かびました。

また7月20日のイベント終了直後に北村さんにお声がけした時に、すぐさま「取材の続きは大丈夫ですか?」と聞いてくださいました。大役を果たされた直後でも相手のことを気にかけて下さる北村さんの姿に温かさを感じるとともに、日頃から周りに目を向けていらっしゃるこうした姿勢が次々に新しい道を北村さんの前に開いているのではないかと感じました。

また今後の北村さんのご活躍の背中を追いかけて取材させていただきたいと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました。

この記事を書いたライター

植松那波

1989年千葉県生まれ。大学での経験から、年齢や肩書きに捉われず人と人が対等に関わる場に関心を持つ。 10年近く視覚障害者とともに企業等のダイバーシティ推進に携わり、ブラインドサッカーやゴールボールのチームでも活動経験がある。

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1989年千葉県生まれ。大学での経験から、年齢や肩書きに捉われず人と人が対等に関わる場に関心を持つ。 10年近く視覚障害者とともに企業等のダイバーシティ推進に携わり、ブラインドサッカーやゴールボールのチームでも活動経験がある。

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