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聞いてみた・やってみた

ブラインドサッカー体験授業でみえた子どもたちのまなざしの変化 ~後編~

ブラインドサッカーの選手が児童の前で話をしている画像

Spotlite運営メンバーの植松です。ひとつ前の記事で発起人の高橋から「原点にかえる~見え方の違いが活きる社会」という記事を発信させていただきました。私自身も想いに共感しており、mitsukiに関わるようになって半年が経ちました。私自身も未来につながるきっかけとなるような記事を自分の視点も織り交ぜながら伝えていけたらと思っています。

それでは少し間が空いてしまいましたが、昨年友人が担任を務める千葉県松戸市立南部小学校の3年生が総合学習で初めてブラインドサッカーの授業を取り入れると聞き、足を運びました。この後編の記事では、体験後の授業にお邪魔した際の様子を中心にレポートします。

下記前編に体験授業の様子をまとめています。

https://spot-lite.jp/wp-main/blind-soccer/

前編では子どもたちが当事者と関わり、伝えることに向き合ったことで授業の最後の方ではいつの間にか誰から言われるでもなく、自ら行動を変化させる姿を見せてくれました。

前編同様、総合学習(正式名称:総合的な学習の時間)の狙いにもある「自己の生き方を考えていく」という視点を持ちながら、ご覧くださいませ。

教室で植松さんが児童に対してお話をしている画像。
教室での授業の様子(写真提供:松戸市立南部小学校)

授業の感想を皆で分かち合い

改めて私の自己紹介から始めました。

私はこれまで10年近く視覚障害者と一緒に働いていました。プライベートでも共に過ごしてきたり、ブラインドサッカーのチームに所属して選手やキーパー、ガイドなど様々な立場を経験したことがあります。実はこのクラスの先生が幼稚園からの幼馴染であることもきっかけで今回パラスポーツの授業を行いたいという話を聞いてブラインドサッカーの仲間と訪れたことを紹介したところ一気に親近感をもったまなざしで関心を寄せてくれました。

打ち解けてきたところで「今日の授業の感想を私やお友達に話してくれる人はいますか?」と聞いてみました。

子どもたちの声

子どもたちから挙がった感想を紹介します。

・目が見えない人は耳だけ使っていてすごい。

・八の字にボールを蹴っていたのが凄かったです。目の見えない人に説明するのは大変でした。

・目の見えない人の目の病気を治してあげたいです。

・びっくりしたことなんですけど、盲導犬といるかと思ったけど杖を使っている人もいることを知りました。

・ガイドの言葉も「もうちょっと右」「もうちょっと前」とか色々あって難しいと思いました。音を鳴らして気づいてもらう方法も知りました。

・いつも仕事場やサッカーの会場など、一人で白杖で行くと言っていたけれど、私は前に白杖体験をしましたが、一人では段差や階段は怖くてなかなか行けませんでした。目が見えないのに慣れてくるとできるのはすごいなと思いました。

・時計の針の位置とかを使って伝えることで言葉でわかるのがすごくて初めて知りました。いろんな話を聞いて、色んな工夫をしていることが分かり、ボールや色んな音が分かるのを知りました。

・お買い物をする時に見える人と一緒に行って、買いたい商品をその目が見える人に言って、ここにあるよと言ってくれる話がとても驚きました。

子どもの感想「目隠しをしていたから難しかったです。だけど普通のサッカーとは違って音が鳴るサッカーボールを使うので面白かったです」
子どもの感想シート①(写真提供:松戸市立南部小学校)
子どもの感想「アイマスクをつけてまっすぐ歩けたのが嬉しかったです。私はアイマスクをしてボールを蹴ったらいつの間にかゴールに入ったのが嬉しかったです。」
子どもの感想シート②(写真提供:松戸市立南部小学校)
子どもの感想「目が見えないのに音で反応して色々できるなんてすごいなと思いました。ご飯は時計みたいに見るってすごいと思いました。」
子どもの感想シート③(写真提供:松戸市立南部小学校)

難しい + 楽しい = 理由は?

次に、実際にブラインドサッカーを体験する前と体験後の感じ方の違いを聞いてみました。

体験前は「難しい」と思っていたけど、

体験後は「難しいけど楽しかった」という声が多く挙がっていたので、

「楽しくなったきっかけ」について質問をしてみました。

子どもたちの声

・軸足を相手に向けるように気をつけて、声がした方に蹴る

・鈴の音や声が目印になった

・見えなくてもイメージした

・人がいっぱいいる方にボールがあると思って、人から出る音を参考にした

それぞれが工夫していた様子を教えてもらいました。

他にブラインドサッカーをパラリンピックで絶対見ますと楽しみにしてくれる声も多く挙がっていたので、体験授業では伝えられなかった競技の魅力を少し話してみました。

その中で、声で指示を伝えるガイドやキーパーの人たちが守っているルールの1つに声を届けられる範囲が決まっていることを紹介しました。

(認知度が高まってきたブラインドサッカーですが、細かなルールは知られていなかったりするので、気になる方は調べてみるとより面白く観戦できるかもしれません。)

子供たちからは、

「知らなかった!」

「見える人と見えない人が一緒にやるスポーツなんだ」

「キーパー怖そうだけど面白そう」

と興味津々に反応を示してくれました。

体験授業では、普段のブラインドサッカーをそのままの形で実施することは安全面や時間的制約を考えると難しいので、こうして授業の後にお話しをすることで、より競技自体にも関心を持ってもらうことができたように思います。

ブラインドサッカーとは違う視点から

ひとしきりブラインドサッカーの話が盛り上がったところで、今回の経験をスポーツの中だけの出来事や視覚障害者の世界と留めずに視野を広げてもらえたらと思い、ユニバーサルデザインの切り口からお話をしてみました。

子供たちにはクイズと伝えて、自宅から持参したシャンプー、リンス、ボディソープにある触って分かる目印を探してもらいました。

事前学習でユニバーサルデザインについて学んでいた子もいたようで、教室に書籍が何冊も置いてありましたが、このように実物を見るのは初めてのようで、ワクワクした表情でクイズを楽しんでくれました。

実際に本体の上部の部分と側面に線が入っており、3週類とも違う目印になっています。この目印は消費者から声が挙がり、実際に視覚障害者の意見も取り入れて生まれたと言われています。

子どもたちと話す中でこの工夫によって見えない人だけでなく、普段メガネの人がお風呂だと見えづらい人もいるかもしれないし、お風呂だと泡だらけで困っているときもあるかもしれないと視点が広がり、結果触って分かることでいろんな人が使いやすいようになっていることを知り、楽しく理解を深めてくれました。

最後に今日の様子も踏まえて、私から下記メッセージを伝えました。

「これまで仕事やスポーツ、プライベート含め多くの視覚障害者の方と接してきた中で、パラスポーツで活躍している選手もいたり、音楽が好きな人など私たちと同じものを好きな人もいること。

盲導犬といる人もいれば白杖を使っている人もいること。

外出する時に慣れている道もあれば、初めてでドキドキする場所もある。

見えない人と一括りにみてしまうのでなく、自分とお友達とも一緒だったり違うこともあることと同じで、これからみんなが色んな人と出会う中で目の前の人と「違うこと」、「同じこと」のどちらも大切にして関わっていってもらえたら嬉しいです」

体験授業に訪れたチームの皆さんとの集合写真
体験授業に訪れたチームの皆さんとの集合写真(写真提供:松戸市立南部小学校)

新たな問いが生まれた瞬間

先ほどのメッセージを伝えた後に、一人の子がぽろっと新しく浮かんだ考えを話してくれました。それがきっかけとなり、他の子も続けてポツポツと自らに生まれた問いを教えてくれました。

「目が見えなくて聞こえない人はどうしているんだろう」

「逆に目が見えない人の方が私たちより頭を使っているかもしれない」

「何かを触って感じるものが多いから、声でもより感じるのかもしれない」

私自身もこのそれぞれの問いの答えを持っていないので、正解か間違っているかもわかりません。

でも1つ言えるのは、総合学習の狙いにあるように子どもたちが探究心を持って自ら考えてくれたことこそが大切な経験だと思うので、その姿を最後に見れたことが嬉しかったです。

もう授業も終わり際なので、先生がすかさずこの問いに対して

「引き続き調べてみてね」と伝えると

「調べてみます!」と元気な声が返ってきて、授業は幕を閉じました。

今回体験授業の後で更に学びを深める時間にご一緒できたこと、この場を借りて関係してくださった皆様ありがとうございました。

終わりに まなざしの変化

今回子どもたちは、ブラインドサッカーの体験授業を通して当事者と関わり、事前学習で学んだことや発見がだんだんと自分ごとになっていき、新たな発見や学ぶエネルギーに変わる瞬間に子供たちがキラキラしたまなざしをしている場面にたくさん出会うことができました。その様子を見ながら、いろんな視点を持つことが目の前の人を一方的に見るのではなく、様々なことを包み込むまなざしに代わっていくのではないかと感じました。

これまでは一方向で目の前の人を見ていたまなざしが、様々な方向に矢印が延びて視線を向けているイラスト
まなざしの変化イメージイラスト(イラスト:植松那波)

もしかしたら授業の最後に浮かんだ問いを引き続き持ち続けてくれたら、子どもたちが視覚障害者の人に話を聞きたいと思って、どこかのブラインドサッカーのチームの練習に参加してみたり、趣味の集まりの場などを見つけて訪れるかもしれません。そうすると視覚障害者に対して接したことのない方が挙げられる声として「声をかけて助けなければ」というようなサポートする対象としてのイメージだけでなく、色んな場所で新たな関係性が生まれ、サポートする側/される側で優劣や関係性が固定されずにお互いに人と人として出会い、関わり合うきっかけとなり得るのではないかと感じました。こうした人との対等な出会いや関わり方をパラスポーツを通して伝えられるのではないかと思います。

これからも総合学習などの機会で子どもたちが様々な人、もの、情報と出会い、新たな視点が増えたらいいなと願っています。

最後までご覧いただきありがとうございました。

この記事を書いたライター

植松那波

1989年千葉県生まれ。大学での経験から、年齢や肩書きに捉われず人と人が対等に関わる場に関心を持つ。 10年近く視覚障害者とともに企業等のダイバーシティ推進に携わり、ブラインドサッカーやゴールボールのチームでも活動経験がある。

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植松那波

1989年千葉県生まれ。大学での経験から、年齢や肩書きに捉われず人と人が対等に関わる場に関心を持つ。 10年近く視覚障害者とともに企業等のダイバーシティ推進に携わり、ブラインドサッカーやゴールボールのチームでも活動経験がある。

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