背景を選択

文字サイズ

啓発

【視覚障害と選挙】選挙情報が入手しづらい……点字版や音声読み上げが抱える問題

白状を持った女性が、公園などの入り口にある車両侵入防止の柵を、手で確認しながら慎重に歩いている様子。

この冬は急遽衆議院議員選挙が行われました。2026年1月27日公示、2月8日投開票とあまりにも急な日程で、候補者を吟味する時間が少ないことや降雪のある地域で掲示板の設置が間に合わないことなどがニュースになりました。選挙権は障害の有無や居住地、性別などにかかわらず基本的に18歳以上の日本国民に与えられるものです。投票所に行けばある程度投票のサポートは受けられますが、投票に必要な情報を手に入れるハードルは急な選挙によりさらに上がりました。

急な選挙で見えた投票のアクセシビリティの脆弱性

総務省のサイト「なるほど!選挙」によれば、視覚障害者は投票所で点字投票や投票所の事務従事者による代理投票を利用できます。投票したい候補者の名前を書く自書式投票が基本になっているため、自分で投票できるように選択式や記号式などを望む声もありますが、投票先を決めて投票所に行けば投票は可能です。

投票所への交通アクセスが悪く、降雪や体調を考えて高齢者や障害者が投票所に行けないのではという懸念も今回の衆院選では言及されました。視覚障害者特有の問題としては、選挙公報の点字版作成が間に合わないことが報道されましたが、投票所への交通アクセスほどは注目されなかった印象です。

点字、音声、拡大文字版での選挙公報を各自治体が作成していますが、入手難易度が自治体によって異なったり、届くのが投開票日直前になってしまったり、今回の衆院選以前も十分に情報が届いているといえない状況でした。そこに急な選挙が決定し、短い選挙期間のなかで情報を届けられない事態が生じてしまったのです。

参考:選挙についての紹介 : 総務省(なるほど!選挙)(外部リンク)

投票用紙を投票箱に入れようとしている手元のシルエット。背景は白。
(写真素材:Unsplash)

点訳や音訳の現場から見る選挙公報のアクセシビリティ

点字版や音声版の選挙公報の入手方法を調べてみると、自治体によりますが自治体の広報誌の点字版や音声版を申請している人の元に選挙公報の点字版や音声版が届く形になっているところが多く見られます。

身体障害者手帳も自治体への転入の度に手続きするため、その際自治体に視覚障害者として認識され、そこで防災や福祉の観点からさまざまな情報提供やサポートを受けられるシステムは近年浸透してきています。

では、点字版や音声版の選挙公報は誰がどのように作成しているのでしょうか。各自治体が依頼し、点字版は点字印刷所や点字図書館などの視覚障害者関連団体、それらに加えて音声版は無報酬のボランティアなどが関わって作成しているようです。関連団体がどれほどの水準の報酬を受け取れているかは定かではありませんが、音声版の作成に無報酬のボランティアが入っていることから推測するに十分な報酬ではないことも考えられます。

点訳には当然ながら点字の理解が必要とされますし、音訳にもそのための訓練が欠かせません。アクセシビリティの仕事は高い専門性が要求されるにも関わらず十分な待遇でないことも多く、そのせいもあって担い手不足の問題も生じています。

自治体から発行されるものは選挙公報だけではなく、広報、健康診断のお知らせなど多岐にわたります。自治体から発信されるすべての情報は視覚障害者にも届かなければなりません。その頻度や規模を考えると、関連団体や無償のボランティアに依頼するのではなく、専門性を持った人材を雇用し自治体に専門部署を作る、関連団体に民間委託し安定した体制を作るなど持続可能なシステムが欠かせません。

視覚障害者がテーブルを前に椅子に座っている。スマートフォンを操作しながら耳元に持ち、音声読み上げで読んでいる。

しっかりと届くPDF作成で手元へ情報を

視覚障害者と聞くと、多くの人が点字、次に音声を思い浮かべるでしょう。しかし実は点字を利用する視覚障害者はそう多くありません。古い数字ではありますが、視覚障害者で点字の読み書きができる人は1割程度といわれています。パソコンやスマホを利用した音声読み上げ機能の利用拡大、高齢者や中途失明者など点字教育を受ける機会がなかった視覚障害者も多く、点字版の充実だけで視覚障害者に情報を届けられる状況ではなくなってきています。

ICT活用が進み、インターネットによる選挙運動も解禁された現在、点字、音声、拡大文字に加えて求められているのが音声読み上げができるPDF版の作成、配布です。ただ音声読み上げに対応したPDFであればいいのではなく、読み上げ順の指定、構造化やタグ付け、グラフ等への代替テキストの設定などが大切です。

私自身も今回、日本経済新聞の選挙特集サイトに各政党が提出した政策のPDF版を確認しましたが、音声読み上げの設定どころかテキストデータのない画像として作成されているものもあり、充実しているとはとてもいえない状況でした。これは政党や候補者の個々の自助努力に任せてよいものではなく、構造そのものが変わらなければ解決できない問題です。

政党内にPDFの扱いに慣れたスタッフがいなくても、政党や候補者に資金やスタッフが乏しくても、政党や候補者の主張は視覚障害者にも届くようにしなければいけません。

参考:総務省|インターネット選挙運動の解禁に関する情報(外部リンク)

次に備え選挙のアクセシビリティ向上を

次の国政選挙は、衆議院の解散がなければ、2028年7月の任期満了による参議院選挙です。2026年4月現在、次の選挙まで約2年の準備期間があります。視覚障害者に選挙情報を確実に届ける体制を作り上げていくためにこの準備期間を使えるはずです。

視覚障害者に選挙の情報を届けるために必要な改善点は、以下の通りです。

  • 候補者や政党向けの音声読み上げ対応PDF作成マニュアルやテンプレートを各自治体で準備
  • 点訳や音訳に携わる人々の安定した雇用形態や報酬の改善
    (点訳や音訳をすべて有償労働にする)
  • 点訳や音訳の専門性を持った人材の養成や確保
  • 上記に必要な予算の確保、法律や条例の整備
  • 公職選挙法における選挙のアクセシビリティの明文化
    (政党や候補者、選挙ボランティア、自治体のやるべきこと、やってはいけないことを確定させる)
人通りの多い道路を歩く、白杖の人とガイドヘルパーの胸元から下の様子。

主に選挙情報へのアクセシビリティを考えてきましたが、他にも投票所への交通アクセスやガイドヘルパーとの調整、外出の難易度が高い人も投票所に行かなければいけないことなど、問題は山積しています。視覚障害者で郵便投票ができるのは身体障害者手帳の等級が1級の人に限られており、かなり厳しい条件です。

支持政党や思想信条は違っても、国民の誰もが当たり前に投票できること、そのための情報を手に入れられることが保障されるべきという点で合意できるのではないでしょうか。民主主義の堅持は日本の基礎のはずです。

記事内写真撮影:Spotlite(※注釈のあるものを除く)
編集協力:株式会社ペリュトン

この記事を書いたライター

雁屋優

1995年生まれ。ライター。アルビノによる弱視と、発達障害を併せ持つセクシュアルマイノリティ。大学では生物学を専攻。自身のマイノリティ性からマイノリティに関することに関心を持つようになる。その他、科学や医療に関する理系記事も執筆している。

他のおすすめ記事

この記事を書いたライター

この記事を書いたライター

雁屋優

1995年生まれ。ライター。アルビノによる弱視と、発達障害を併せ持つセクシュアルマイノリティ。大学では生物学を専攻。自身のマイノリティ性からマイノリティに関することに関心を持つようになる。その他、科学や医療に関する理系記事も執筆している。

他のおすすめ記事