背景を選択

文字サイズ

聞いてみた・やってみた

視覚障害者が引っ越し・一人暮らしで困ることとは?座談会を実施しました

鍵が刺さった白いドア

視覚障害者の引っ越しや一人暮らしには、独特の困難さがついてまわります。

Spotliteでは、2021年に視覚障害のある新入社員の家探しの様子、そこから見えてきた問題点、その後の様子をお伝えしました。

視覚障害の新入社員、家を探す。何度も断られた原因と解決策とは? ~問題提起編~ | Spotlite(内部リンク)

視覚障害の新入社員、家探しのその後。自然と社会に溶け込むために。 | Spotlite(内部リンク)

引っ越しや一人暮らしで重視すること、困難、感じ方はその人の見え方によっても違ってきます。そこで、今回は視覚障害者の方3人に引っ越しや一人暮らしをテーマにお話ししていただきました。「視覚障害者のお部屋探しは難しい」と聞くことも多いですが、どのように物件を選び、生活しているのでしょうか。

座談会参加者

村竹 陽太(むらたけ ようた)さん
レーベル病。両目とも光覚弁で、光の明暗がわかる程度の視力。現在は大手通信会社で障害者採用に従事。今の家のいいところは、駅前に行きつけのラーメン屋やバーがある点。

自然豊かな公園でほほえむ村竹さん
(写真撮影:Spotlite)

栗原 (くりはら こずえ)さん
網膜色素変性症で白内障を併発しており、手術を検討中。視力は0.4程度。視野は中心のみ8度。眩しさに弱く、昼間は霧のように見える。都内在住。家のお気に入りポイントは床暖房。

花束とメダルを手に持つ栗原さん
(写真提供:栗原梢さん)

北原 新之助(きたはら しんのすけ)さん
網膜色素変性症で、白内障を併発しており、視力は両目とも0.05。視野は2〜3度で、暗所や夜に見えにくくなる夜盲症がある。香川県出身、声楽家。都内在住。家の決め手となったのは駅からの近さ。

紅葉した木々を背景に、まっすぐカメラを見る北原さん
(写真撮影:Spotlite)

視覚障害だからこその内見、契約の壁

―視覚障害が理由で、家探しに困ったことはありますか?

栗原 一人で内見に行くのでは気づけない部分もあって、前の家では床の角が剥がれていることに住んでから気づきました。それで、内見にはガイドヘルパーさんと一緒に行くようになりました。契約書の細かい文字を読むのはガイドヘルパーさんに助けてもらって、契約しました。

村竹 視覚障害があるとわかると、断られる確率が上がりますね。合理的配慮の事例を踏まえて、「こういう理由があれば断れるんでしょ」というように断る理由をしっかりと揃えてくる大家さんもいます。

北原 僕は夜盲症があります。駅から遠いと、夜に帰宅するときに危ないので、駅から近い家を選んで住んでいます。利便性や安全には代えられないのであきらめていますが、駅から近い物件はどうしても家賃が高くなってしまいます。

入居時には、今よりも見えていたのもあって、「視覚障害」とは言わずに、「ちょっと目が悪い」程度の説明で契約しました。入居できたけれど、先方は視覚障害者とは知らないので、紙で掲示されるお知らせは読めずにあとから困ることもありました。

村竹 ベランダにある避難用のはしごの定期点検の日程が、エントランスの貼り紙で知らされていました。でも僕は見えていなかったので、「あ、今日だったんだ」と当日に知りますね。

学生時代には、夜中に騒ぎすぎてしまって、苦情の貼り紙が出ていたこともありました(笑)。でも、僕自身は見えないので、気づいていませんでした……。

間取り図が描かれた紙の上に、家の模型と虫メガネが置かれている

―視覚障害のことを言わなければ入居しやすいけれど、入居後に困る可能性もあるんですね。そういったお知らせはどのようなかたちだと認識しやすいですか?

村竹 インターネット上に掲示されるようなものであれば、能動的に情報を取りに行くことが可能です。そうでないものは、直接言ってもらった方が確実に伝わります。

北原 直接言ってもらう以外にも、メールやショートメッセージ、電話など、視覚障害があっても利用できるもので伝えてもらえれば伝わります。

―部屋探しから引っ越し、入居後すぐで、視覚障害者ならではのことがあれば教えてください。

栗原 私は今スマホで賃貸情報サイトを見られるけれど、それができない人は街の不動産屋さんに行って、条件を言って探してもらうしかないので、選択肢が少なくなります。さらにそこから症状に合わせて立地をはじめとした条件を絞っていくと、数も少ないし、家賃も上がります。

北原 引っ越しの後、住民票を移すだけでなく、その自治体の障害者支援をしている部署に行かないといけないのも大変ですよね。災害のときにサポートが必要なのかなど、事前に話しておくべきことがあって、それで結構時間を取られます。しかも役所なので、基本的に平日でないと行けません。

村竹 ゴミの出し方がわからずに、違う場所に出していたことがありました。知り合いに助けてもらって、どうにか対処して今は問題ないのですが。

リサイクルマークが描かれた青いゴミ箱

生活のトラブルも解決策も視覚障害と切り離せない

―生活をしていて、何かトラブルが起きたことはありますか?

北原 家の前で鍵を失くしてしまったことがありました。管理会社が対応してくれなくて、24時間サポートに電話したら「警察の立会いがないと開けられない」と言われてしまったのです。それで警察署まで行ってから、一人で玄関の前で待ちながら、鍵を探しました。最終的に地面を触って探していたらなんとか鍵が見つかって、来てくれた警察の方にもそうお伝えしました。

この経験から、鍵にAppleのAir Tagをつけて、失くしても音で探せるようにしています。

―不動産会社や大家さんが「火事を起こすのではないか」と不安に思って、視覚障害者の入居を断るケースを耳にします。実際に、火事の危険は感じますか?

村竹 程度の差はあれど、あると思います。コンロの隙間にしゃもじが入ってしまっていて、熱で変形してしまっていたことがあります。

北原 火事にならないように、ガスコンロではなくIHがいいと言われることも多いですが、IHでも油を拭き取れていないと燃えます。海外で暮らしていたときに、古い機器だったのかもしれないのですが、危ない経験をしたことがありますね。火災対策は必要だと思います。

(注:IHでは鍋を置く位置もフラットになっており、熱くなる場所がわかりにくく、ガスコンロより扱いが難しいと考える視覚障害者もいます。)

ガスコンロの火が燃えている

入居を断る前に実際の生活を知ってほしい

―視覚障害者の入居を断る大家さんや不動産会社に伝えたいことはありますか?

栗原 理由も告げずに断られるよりは、どういう条件を満たしていればいいのかなど、しっかり話してほしいです。そうすればこちらも「こういった対策があります」と示すことができます。

北原 視覚障害のある人の暮らしについて、あまり理解されていないのを感じます。見えなくても料理もできるし、一人暮らしもできます。それから、2024年(令和6年)から改正障害者差別解消法が施行されるので、民間業者でも合理的配慮が義務化されますよね。そういうところも意識してほしいです。

村竹 やりあうことなく、心地よく入居できるのが一番ではあるんですけどね。

―入居や一人暮らしをうまく進めるために、視覚障害者の側からはどんなことができると思いますか?

北原 「自分が今までどんな風に生活をしてきて、こういうことができる」ということをお伝えすることかなと思います。

村竹 視覚障害者がどういう風に暮らしているのか知らない人も多いですからね。僕は引っ越して6年目になって、ようやく部屋に電球をつけました。自分自身は真っ暗でも困らないので必要ないのですが、晴眼者の人が遊びに来たときに困るからです。逆の「配慮」もあるんですよね。

栗原 いざというときに頼れる人がいることを伝えるなど、先方にとって安心できる材料を増やすのもいいのではないでしょうか。

スーツを着た2人が握手している。手元が大きく映されている

編集後記

視覚障害者にもそれぞれの見え方、見えにくさがあり、希望する立地も違います。かくいう私も視覚障害者の一人ですが、座談会に参加してくださった方々の言うことがすべて自分にも当てはまるわけではありません。

また、何となくそういうものだと思いこんでいたことにも気づきました。視覚障害者だから、駅の近くがいいだろう。視覚障害者だから、ガスコンロよりもIHがいいだろう。もちろんそれがいい人もいますが、そうでない人もいます。

例えば、村竹さんは次に引っ越すときには駅から遠くてもいいから安くて部屋の多い物件がいいと話してくれました。村竹さんも歩くのに苦労がないわけではないけれど、村竹さんのなかで優先したいことは、それだけではないのです。

また、照明がなくても困らないため、電球をつけていなかった話も印象的です。言われてみれば納得できるのですが、聞くまではなかなか思い至らないことでした。

視覚障害者の側も、不動産会社や大家さんの側も、相手について知らないことが多いのではないでしょうか。憶測で入居を不安がる前に、目の前の方は何ができるのか、どういう風に暮らしてきたのか、耳を傾けてみる。それがありふれた光景になるように、少しずつ互いを知る努力をしていけたらと思います。

(記事内写真素材:Unsplash) ※注釈のあるものを除く

この記事を書いたライター

雁屋優

1995年生まれ。ライター。アルビノによる弱視と、発達障害を併せ持つセクシュアルマイノリティ。大学では生物学を専攻。自身のマイノリティ性からマイノリティに関することに関心を持つようになる。その他、科学や医療に関する理系記事も執筆している。

他のおすすめ記事

この記事を書いたライター

この記事を書いたライター

雁屋優

1995年生まれ。ライター。アルビノによる弱視と、発達障害を併せ持つセクシュアルマイノリティ。大学では生物学を専攻。自身のマイノリティ性からマイノリティに関することに関心を持つようになる。その他、科学や医療に関する理系記事も執筆している。

他のおすすめ記事