背景を選択

文字サイズ

聞いてみた・やってみた

サウンドテーブルテニスの魅力

卓球台の上にラケットとボールが置かれている画像

こんにちは、ガイドヘルパーの下田です。
今回は視覚障害者向けの卓球、サウンドテーブルテニス(略称、STT)をご紹介します。

私のSTTとの出会いは、ガイドとしてSTTの試合に同行したことがきっかけです。元々運動が苦手な私ですが、一緒にプレーすると、とても楽しかったのです。
視覚障害者と晴眼者が一緒になってこんなに楽しめるものが、どうして全然知られていないのだろう。
もっとたくさんの人に知って欲しい。もっと大勢の人にこの楽しさを広めたい!
そういう思いから記事にすることにしました。

取材させていただいたのは、大和サウンドテーブルテニスクラブ(神奈川県大和市)です。
クラブの創設者であり代表の高橋さんは全国大会で何度も優勝されている実力者。
この日もレベルの高い練習が行われていました。

サウンドテーブルテニス(STT)とは

ネットとボールの隙間は2mmしかない
ネットとボールの隙間は2mmしかない

卓球台はネットの下があいており、その下をボールを転がします。
ネット下の幅が4.2センチに対して、ピンポン玉は4センチ。少しでもボールが浮いてしまうとネットに引っかかってしまいます。
参加者はアイマスクをつけて条件を同じにします。ボールの中には金属球が4つ入っていて、音で判断します。
ラケットは通常のものと違い、打球音が分かりやすいようにラバー(ゴム製の板)がついていません。卓球台は平坦で継ぎ目のない専用の卓球台を使用します。

ボールの音で判断しているので、プレー中は物音は厳禁。
しかし、みなさんおしゃべりに夢中。周りの話し声は、ボールの音に紛れなければプレーに集中して聞こえないんだとか。
逆に、ビニール袋をゴソゴソしたり椅子を動かすような音は気になるようです。

ラケットをアップで撮影した画像

私が感じたSTTの魅力

最初に感じた印象は、他のスポーツ競技より参加者の年齢の幅が広いこと。
仕事を定年された方や、子育てが終わった主婦の方など、年齢・性別を問わず楽しめます。
また、全盲でも弱視でも晴眼者でも、見え方に関わらずアイマスクを着用するため、全員が同じ条件でプレーできることも魅力です。

練習にお邪魔しました

大和STTクラブのご紹介

参加者全員が卓球台の後ろで記念撮影をしている画像

大和STTクラブは月に2~3回程度、大和市保健福祉センターで活動しています。
取材に伺った日は月曜日だったのですが、平日昼間にも関わらず、当事者7名、ガイド3名、ご家族の付き添い3名、ボランティア2名、合計15名もの人達が集まりました。
地元大和市以外にも、近隣の藤沢、平塚、寒川などからも参加しています。
目的を伺うと、毎年欠かさず試合に出る人もいれば運動不足を解消するために来る人まで、実力もモチベーションも様々です。

私が印象に残ったのは、家族の付き添いで来られる方です。
代表の高橋さんも審判の講習を受けられているご主人と一緒に来られていました。
家族の理解があり、一緒に活動出来る素晴らしさを感じました。

視覚障害者の選手がトランプを引いている画像
トランプを引いて順番を決める

練習開始

会場に入ると、まずは全員でコートのセッティングです。
卓球台を出したり椅子を並べたり、手分けして会場設営します。

準備が整うと、ラジオ体操で体をほぐします。

卓球台が2台あるので、2チームに分かれて練習開始。
トランプでチーム分けを行います。ガイドやボランティアもそれぞれのチームに分かれます。

この日行った練習は、

  • 視覚障害者と晴眼者の5分間ラリー
  • ワンツースリー
  • 視覚障害者同士の試合

です。

晴眼者と視覚障害者がラリーをしている画像

視覚障害者と晴眼者の5分間ラリー

視覚障害者はトランプで決まった順番で晴眼者とラリーを行います。
晴眼者はアイマスクを着用せずに打ち返します。

「見えている状態で、転がってきたボールを打ち返すのは簡単だろう」と思っていたのですが、体験してみるとこれがなかなか難しい。
少し角度が悪いと手前から落ちてしまったり、ネットに引っ掛けてしまったり。なかなか思うようにラリーが続かないのです。

見えていても正確に打ち返せないのに、視覚障害者はアイマスクをした状態でどうやって打ち返しているのだろうと思います。
上手く打つコツは慣れと特訓だそうです。
「相手がボールを打つ瞬間の音で方向と強さを判断し、ボールが転がってくる音で速度を予測して打ち返すんだよ」と教えてくれました。
慣れていても空振りしたり、変なところに打ってしまうこともあり、ベテランが新人に負けることも珍しくないとか。

特別練習?「ワンツースリー」

ワンツースリーとは、視覚障害者と晴眼者が向かい合い、

  1. 視覚障害者がサーブをする
  2. 晴眼者が打ち返す
  3. 視覚障害者がスマッシュで打ち返す
  4. 晴眼者は返ってきたボールを打ち返さず、どの位置にボールが来たかを教える

という練習方法です。

強く打つとどうしても玉が浮き上がってしまい、ネットに引っかかったり思ったところに返せなかったりします。
力を加減しながら狙ったところに正確に打ち返す技術が要求される高度な練習方法です。

最後は白熱の試合

視覚障害者の選手同士がラリーをしている画像
球を打った瞬間、「カン」っという渇いた音が響く

アイマスクをした視覚障害者同士が11ポイントマッチで試合をします。
ルールの講習を受けているボランティアやガイドが審判をして、本番さながらの勝負です。

STTは今年4月にルールが大幅に変更になりました。
審判の方たちも新しいルールの勉強会などに積極的に参加されているそうです。

選手も審判も皆で楽しく、真剣にプレーします。

休憩中の交流

練習の合間には、別の部屋で持ち寄ったおやつを食べながら休憩します。
直近の練習予定、神奈川県STT協会からの連絡事項、近隣のイベント案内など、様々な情報を共有する大切な時間です。
休憩が終われば、チームを変えて試合再開です。

会議室で参加者が机に座ってお話をしている画像

STTを行うために必要なこと

参加者が口を揃えて言うのは、
「STTは視覚障害者だけでは出来ない。」
ということです。

STTではプレーする選手以外に審判、副審、得点係、ボール拾いが必要です。
卓球台や椅子などを用意するのも視覚障害者だけでは危険です。
ある選手からは「視覚障害者だけで行うと、ボール拾ってるだけで日が暮れる」という声も。

視覚障害者と晴眼者、それぞれが自分の役割を全うするからこそ楽しめるユニバーサルなスポーツだと感じました。

ラリー中の審判をアップで撮影した画像
審判は中央で得点を判断したりサーブ権などを伝える役割がある

最後に

STTはパラリンピック種目ではありませんが、毎年全国大会が行われています。
多くの盲学校で体育の授業に取り入れられるなど、視覚障害者の中では経験がある方もいるのではないでしょうか。
しかし、世間的にはまだまだ知られていない障害者スポーツの一つです。
少しでも多くの方に知ってもらい、視覚障害の有無に関わらず、みんなで楽しんでもらいたいです。
視覚障害者と一緒にプレーすることで障害への理解も深まると思います。
ぜひ体験してみてください。

大和STTクラブのご案内

今後の練習予定

<日程>
7月8日(月) 午後
7月22日(月) 午後
8月5日(月) 午前
8月11日(日) 全日
8月26日(月) 午後
以降、月2回月曜午後開催

<会場>
大和市保健福祉センター
〒242-0004 
大和市鶴間1-31-7
小田急江ノ島線鶴間駅徒歩5分

問い合わせ

<大和STTクラブ>
代表 高橋ミヤさん
電話:090-7218-1917

<神奈川県サウンドテーブルテニス協会>
会長 落合三千男(おちあいみちお)さん
メール:m3000.netz@jcom.zaq.ne.jp

この記事を書いたライター

下田ゆかり

1985年神奈川県生まれ。警備業に10年以上従事していたが、28歳の時、交際相手が視覚障害者になったことをきっかけに、ガイドヘルパーの仕事を始める。同行援護従業者養成研修一般過程・応用過程修了。介護職員初任者研修修了。

他のおすすめ記事

この記事を書いたライター

この記事を書いたライター

下田ゆかり

1985年神奈川県生まれ。警備業に10年以上従事していたが、28歳の時、交際相手が視覚障害者になったことをきっかけに、ガイドヘルパーの仕事を始める。同行援護従業者養成研修一般過程・応用過程修了。介護職員初任者研修修了。

他のおすすめ記事