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啓発

パラリンピックだけじゃない。もうひとつの舞台で輝く視覚障害者。 

こんにちは、高橋です。最近、2020年東京パラリンピックへの注目度が高まってきたことを感じます。

Spotliteを初めて間もないころに取り上げたゴールボールの宮食行次(みやじきこうじ)さんややり投げの若生裕太(わこうゆうた)さんは、日本を代表する選手になりました。

試合の結果は新聞に載り、テレビや雑誌で特集されることも増えています。

そして先日、宮食さんは東京パラリンピックのゴールボール男子日本代表メンバーに内定しました。おめでとうございます。

彼らの活躍の裏には私達の知らない努力があるからこそで、本当に尊敬します。

宮食行次さんの記事(内部リンク)

若生裕太さんの記事(内部リンク)

ただ、スポーツに取り組む視覚障害者は、パラリンピックを目指すアスリートだけではありません。

今回は、新聞にも雑誌にも取り上げられることは無いであろう視覚障害者がスポーツに取り組む日常をお伝えします。

運動で健康維持を

Mさんは、IT企業に勤務するサラリーマンです。
網膜色素変性症を発症し、視野は5度程度。しかし、視野に入れば文字は読めるので、携帯やパソコンは目で見て操作しています。

学生時代は、卓球部や演劇部に所属していたそうです。

私とは、もうすぐ2年のお付き合いになります。
同行援護の仕事を始めた2018年の4月、ブラインドサッカーチームを通じて知り合い、個人的なガイドの依頼を受けるようになりました。

健康づくりを主な目的として、毎週1回、都内のスポーツセンターなどでランニングやトレーニングを行い、不定期でマラソン大会などに出場しています。

マラソン大会の前に体操をするMさんの画像。
マラソン大会の前に、準備運動のストレッチ。

突然、陸上競技の世界に

そんなMさんと運動を始めて数ヶ月後、地元の障害者スポーツ大会に出場すると、好記録で全国障害者スポーツ大会の地区代表に選ばれました。

全国障害者スポーツ大会では、陸上競技の2種目にエントリーできます。
地区代表に選ばれてからは、頻度を増やして毎週2~3回練習を行いました。

練習の成果もあり、本番では自己ベストで走ることができました。

陸上競技場でスタート練習をするMさんの画像。
スタート練習も繰り返し行った。

全国障害者スポーツ大会とは

全国障害者スポーツ大会は、3日間の会期で開催され、全国から都道府県・指定都市選手団約5,500人(選手約3500人、役員約2000人)が参加し、個人競技6競技、団体競技7競技の13競技及びオープン競技が実施される国内最大の障害者スポーツの祭典です。

平成12年まで別々に開催されていた「全国身体障害者スポーツ大会」と「全国知的障害者スポーツ大会」を統合し、平成13年に第1回大会が宮城県で開催されました。

以降、オリンピック終了後に開催されるパラリンピックと同じように、毎年、国民体育大会終了後に開催されています。

全国障害者スポーツ大会(外部リンク)
全国障害者スポーツ大会のメダルとお弁当を撮影した画像。
全国障害者スポーツ大会でのメダルとお弁当。

パラリンピックと全国障害者スポーツ大会の違い

パラリンピックと全国障害者スポーツ大会は、行われる競技や参加するための条件なども異なります。

全国障害者スポーツ大会は、各地区から推薦された選手が参加する国内の大会です。40歳を区切りに年齢でクラスが分かれている種目もあり、幅広い世代の方に出場するチャンスがあります。

一方、パラリンピックは日本トップレベルの選手が出場して世界各国の選手と競う大会です。
世界ランキングや公式記録を元にした参加条件があり、陸上競技の場合、現状日本選手で誰も参加条件を満たしていない種目もあります。

種目は、パラリンピックと全国障害者スポーツ大会のどちらにもあるものや、一方にしかないものなど様々です。
陸上競技はどちらの大会でも行われますが、例えば、50メートル走は全国障害者スポーツ大会でしか行われません。

全国障害者スポーツ大会は、地域の障害者スポーツの振興を図るという観点から、Mさんの地区の場合、2年に1回しか出場できないという規定があるようです。そのため昨年はお休みでしたが、今年は再び出場するチャンスがあります。

最近の練習では、5キロ程度のランニングを行ったあと、ジムで筋トレをしたり、体育館でブラインドサッカーのボールを蹴ったりします。

「今日は寒いからこのくらいにしておこうかな」とか「美味しくご飯を食べるために無理はしない」など言いながら、いざ始めると真剣な表情で汗だくになるまでトレーニングをしています。

次回の全国障害者スポーツ大会への出場に向けて、徐々に練習頻度も増やしていくそうです。

全国障害者スポーツ大会のスタンドから競技場を撮影した画像。
全国障害者スポーツ大会の競技場。

Mさんの話

私は、人間ドッグで悪玉コレステロール値が高かったことがきっかけで、定期的に運動を始めました。
マラソン大会などの情報を調べて、面白そうなものがあればたまに参加しています。
団体行動が苦手なので、個人競技の陸上は自分に合っていたのかもしれません。

最終的には、ハーフマラソンまでは完走できるようになりたいなと思っています。

一昨年は全国障害者スポーツ大会に出場しましたが、パラリンピックは目指していません。目指したところで記録的に出場できませんよね(笑)

もちろん、パラリンピックにも関心はあります。ただ、パラリンピック全てに関心があるというより、知っている人が出場する試合は応援に行きたいなと思い、チケットも申し込んでいます。

これからもまったり、楽しく運動を続けていきたいと思います。

パラリンピックは何のため?

皆さんはパラリンピックの目的をご存知でしょうか?

日本パラリンピック委員会が目指す究極のゴールは、
『パラリンピックムーブメントの推進を通してインクルーシブな社会を創出すること』です。

パラリンピックムーブメントとは

パラリンピックスポーツを通して発信される価値やその意義を通して世の中の人に気づきを与え、より良い社会を作るための社会変革を起こそうとするあらゆる活動のことを指します。

日本パラリンピック委員会HP

インクルーシブとは、『包み込む』『包括する』という意味です。
インクルーシブな社会とは、障害の有無に関わらずみんなが共に暮らせる社会ということでしょう。

パラリンピックの目的は、各競技のナンバー1を決めることでも、国ごとにメダルの個数を競うことでもありません。

東京パラリンピックを4年に1度のスポーツイベントで終わらせないために私達にできることは何でしょうか。

パラリンピックを通してアスリートの「人」そのものに興味を持つこと。
そして、明日すれ違うかもしれない障害者のことまで思いを巡らせること。

みんなが共に暮らせるインクルーシブな社会を作るために、自分たちにできることを見つけたいですね。

全国障害者スポーツ大会の聖火台で炎が燃えている様子。
全国障害者スポーツ大会での聖火。パラリンピックではどんな演出があるのだろう。

最後に

パラリンピックが近づいてくると、どうしても華やかな競技や活躍する選手に目が向きがちになります。
そんな世間をよそ目に、自分のペースで淡々と、充実したスポーツライフを送るMさんを見ると、スポーツとは何かを考えさせられます。

定期的に通うスポーツセンターでは、高齢の視覚障害者がグラウンドの中央から伸びた鎖を持って走る円周走をしている姿もよく見かけます。

これからも視覚障害者が関わるスポーツで、メディアで取り上げられる機会が少ないものをたくさん取り上げていきたいと思います。

この記事を書いたライター

高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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