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舞台に上がる?視覚障害者が演劇を楽しむための観劇サポートとは。

9月1日日曜日、劇団銅鑼が行う演劇「ENDLESS ー挑戦!」を高橋が観に行きました。

今回の公演では視覚障害者向けに観劇のサポートを行っており、開演前に舞台のセットを触ったり、観劇中はラジオから音声ガイドを聞くことができました。

視覚障害の有無に関わらず多くの人が楽しめるように工夫された様々な取り組みをご紹介します。

劇団銅鑼(げきだんどら)とは

1972年に創設し、「平和」と「人間愛」を求めて「本当に人間らしく生きることとは何か」をテーマに創造活動を続けている劇団です。

現在、男優20名、女優34名、スタッフ7名、合計61名の劇団員が在籍しています。

東京都板橋区にアトリエを構え、全国で演劇やワークショップ、公演活動などを行っています。

演劇「ENDLESS ー挑戦!」

今回観劇したのは、「ENDLESS ー挑戦!」
働くことと生きることをテーマにして、実在する産廃業者をモチーフに、人が働くことに喜びを感じ、人間性を回復していく姿を感動的に描いた最新作です。

8月27日(火)から9月1日(日)まで、東京芸術劇場シアターウエストで開催されました。

東京芸術劇場のシアターウエストでスタッフが受付をしている画像。

あらすじ

ある地方都市の産廃業者。水質汚染が問題になり、「原因はこの会社だ!出ていけ!」と住民運動が立ち上がった。そんな中、二代目社長を継ぐことになった、奈倉葵(なくら あおい)。“所詮は、嫌われる仕事”と全くやる気がない社員たち。産廃業を始めた父の意志を継いで会社を存続させるには…?
思い悩むうちに、他県にある産廃業者で、“企業の使命はより良い未来を創ること”と廃棄物を資源として捉え、100%のリサイクルを目指し、社員の意識を変えた会社の存在を知る。それを手本に大改革をしようと試みる葵。しかし、ただの真似では、うまくいくはずもなく…そんな時、町を揺るがす大事件が…

「ENDLESS ー挑戦!」HPより

観劇サポートサービス

今回の公演では、開催期間中の特定の日に視覚障害者と聴覚障害者を対象にした観劇サポートサービスを行いました。

<視覚障害者向け>
事前の舞台説明会と音声ガイドによる観劇サポートです。
日時:8月31日(土)14時の部、9月1日(日)14時の部(要予約)
※両日ともに13時から舞台説明会がありました。

<聴覚障害者向け>
「ポータブル字幕機」による観劇サポートです。
日時:8月31日(土)14時の部(要予約)

視覚障害者への観劇サポート

視覚障害者向けに行われた観劇サポートをご紹介します。
今回は、開演の1時間前から行われた舞台説明会に、視覚障害者や付き添いの方など約30名が参加しました。

舞台説明会

実際に舞台に上がり、セットや大道具を触って確認することができました。

舞台を触る

舞台のセットを触って確認する視覚障害者と様子を説明する劇団員の画像。
劇団員の説明を受けながら、舞台を触って確認できる。
舞台の中央に、大きなショベルの柄の部分が上から取り付けられている画像。
工事現場をイメージして、中央には大きなショベルが。
劇団員が腕を使って視覚障害者にショベルの形を伝えている画像。
直接触れないセットは、劇団員が手の動きで説明していた。

俳優の声を聞く

俳優が、自分の役や見どころを紹介します。俳優の声と名前を事前に1度確認することができました。

舞台の上で俳優が一人ずつ自己紹介している画像。

ライブ解説

ラジオを貸し出しており、観劇中は音声ガイドを聞くことができました。
舞台の様子に合わせて臨場感を持たせるため、俳優がリアルタイムで解説をしているそうです。

貸し出し用のポケットラジオとチケットを手に持っている画像。

実際の音声ガイド

演劇の中で流れたガイドの中から、印象に残った音声ガイドの一部をご紹介します。
※実際の表現とは異なる可能性がありますので、参考までにご覧ください。

  • 俳優が「これ」というタイミングで「赤いヘルメットを差し出す」
  • 俳優がうつむいていたら「○○、真剣な表情でうつむく」
  • 後ろから別の俳優が来た時に、「○○が来る」

このように、短いセリフで端的に状況を解説していました。
俳優のセリフとかぶらず、非常に聞きやすい印象を受けました。

参加者にお話を伺いました

ーバリアフリーの演劇はいかがでしたか?
舞台を触ったことでイメージが膨らみ、音声ガイドで状況が把握できるので、非常に楽しめました。音声ガイドは適切な量で分かりやすかったです。何でもかんでも解説すればいいというものでもないので、必要な部分だけを補っていただけたように思います。

ー視覚障害者へのサポートがある演劇をご覧になられたのは初めてですか?
今回が3回目でした。以前、別の劇団が同様のサポートを行っている演劇を観て、これなら視覚障害者でも楽しめると思い、観に行くようになりました。
最近、映画では音声ガイドが付いている作品が増えましたが、観劇でも同様のサービスがあるとは知らず、私の中では演劇は面白くないという固定観念があったのかもしれません。しかし、実際に観てみるととても楽しかったです。


ー演劇の魅力は何でしょうか?
数メートル前から、生の演者が躍動する空気が伝わってきて臨場感が感じられることです。これは映画では体験できないことです。
聴覚からの情報だけになるので、100% 晴眼者と同じように理解することは難しいかもしれませんが、視覚情報を少しでも補うために今回のような観劇のサポートは非常に役立つと感じています。

劇団銅鑼の平野真弓さんにお話を伺いました

手に資料を持っている平野さんを撮影した画像。
劇団銅鑼の平野真弓さん

ーいつから観劇サポートを行っているのですか?
2006年からです。お借りした劇場に音声ガイドがついていて、このような取り組みがあることを初めて知りました。今は、来年のパラリンピックなどを契機にバリアフリーが盛んに言われていますが、10年以上前は劇場に障害者の方が来るということ自体があまりなかったので、少しでも多くの方に演劇を楽しんでもらいたいと思って始めました。


ー音声ガイドはどのように作成しているのですか?
最近まで映画の音声ガイドなども作成している外部の専門家に依頼していたのですが、2018年からは自分の劇団で作成しています。
稽古を行うごとに変わっていく動きやセリフに対応するには、長時間一緒に行動できる劇団員の方が適しているのかなと思います。自分の劇団で音声ガイドを作成したのは、今回で3回目でした。


ー劇団員の方が障害者に関する専門的な勉強をされているのですか?
はい、バリアフリー映画鑑賞推進団体シティ・ライツが開催している勉強会で映画に音声ガイドをつけたり、別の劇団が行っている演劇を観に行ったりして情報を得ています。また、実際に観劇された視覚障害者から意見を頂いて、次回の作品に活かすようにしています。


ー舞台説明会や音声ガイド以外で視覚障害者が楽しめる演劇はあるのですか?
以前、ダイアログ・イン・ザ・ダークさんの協力で、五感を使って楽しむ演劇を行ったことがあります。私たちの劇場に、砂利をひいたり水を垂らしたりして、感触や音を組み合わせた作品になりました。次回は未定ですが、また行いたいと思っています。


ーこれから取り組みたいことはありますか?
現在、音声ガイドの付いている作品は少なく、日時指定があります。今回も約1週間の公演で2日しか対応できていません。
視覚障害者は、音声ガイドが付いている演劇の中から自分の予定と合うものを観に行くという状況だと思うので、自分で作品や日時を自由に選べるくらい普及したいと思っています。同時に、それらの情報を多くの人に届ける必要があります。本当に自分が楽しめるか分からないと思う方もいると思うので、気軽に体験できる機会も設けたいですね。

最後に

今回の演劇では、終演後に劇団員がロビーでお客様をお見送りし、団らんしたり写真を撮ることができました。
舞台に出ていた俳優と実際に関われることで、演劇を身近に感じ、感動も大きくなる気がしました。

このような観劇サポートをきっかけに、少しでも多くの人に観劇の楽しさが伝わればいいですね。かくいう私もその1人です。

次回の視覚障害者向け観劇サポートは、3月に予定しているそうです。
ぜひご参加ください。

演劇終了後、ロビーで劇団員と観客が話をしている画像。

問い合わせ

劇団銅鑼 Webサイト

電話:03-3937-1101(受付時間:平日10時~18時)

FAX:03-3937-1103

この記事を書いたライター

高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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