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聞いてみた・やってみた

視覚障害者とガイドヘルパーの濃密すぎた東京旅行記

カフェの看板の横で丸山さんが笑顔で立っている画像。

こんにちは、高橋です。10月中旬、香川県にお住まいの丸山真樹(まるやままき)さんが東京へ一人で旅行に来られました。

私がガイドヘルパーとして2日間丸山さんに同行すると、普段のガイドにはない刺激的な出来事ばかりでした。

私が今回の旅行をガイドするようになったいきさつや、丸山さんの思いをお伝えします。

いきさつ

丸山さんと私の出会い

丸山さんは、目の難病である網膜色素変性症を発症し、現在は光を感じる程度の見え方だそうです。
香川県の有料老人ホームで機能訓練指導員とあんま指圧マッサージ師として勤務しながら、自宅で経絡アロマリンパマッサージ治療院「Calme(カルム)」を経営されています。

私と丸山さんが知り合ったきっかけは、香川県網膜色素変性症協会(以下、JRPS香川)でした。JRPS香川とは、網膜色素変性症だけでなくあらゆる疾患の視覚障害者や家族、支援者の集まりです。ヨガやカラオケなど毎月様々なイベントを行っています。その活動の一つとして、若者が中心になって行う交流会があります。
丸山さんは患者会員、私は支援会員として、その交流会の度にお会いするようになりました。

カフェのテーブルの上にオレンジジュースとエスプレッソが置かれている画像。

1回目の東京旅行

丸山さんの東京旅行は、今回が2回目です。
1回目は、今年の3月、地元のヘルパーさんと一緒に1泊2日で東京に来られたのです。

私は2日目にご一緒して、日本点字図書館や浅草、スカイツリーなどに行きました。この時はガイドヘルパーではなく、観光案内役でした。

そして丸山さんはこの旅で自信をつけられ、今回一人で東京に行くことにしたそうです。

旅の目的

今回の1番の目的は、観光ではなくマッサージの勉強です。表参道にあるアロマサロンや尊敬する国際エステティシャンの資格を持つ先生のマッサージの施術を体験すること、そして接客方法を学ぶことです。

その合間で行きたい観光地やカフェなどを丸山さんが教えてくれていたので、私はスケジュールを立てて誘導するだけでした。

木が植えられたオシャレなアロマサロンの入り口を撮影した画像。
丸山さんがマッサージを受けた表参道のアロマサロン。

旅行での出来事

前置きが長くなりましたが、実際の旅行で印象に残った出来事をいくつかご紹介します。

東京は便利?

「もう、香川にいる時の1ヶ月分くらい歩いたと思います。」

合流して間もなく、駅の中を移動している時の丸山さんの言葉にハッとしました。

香川県は電車やバスが少ない車社会です。視覚障害者の家まで車で迎えに行けば、目的地までほぼ歩くことなく到着できます。

「東京は公共交通機関が発達していて便利だ」と言われますが、必ずしもそうでもないのかもしれません。大きな駅になると、駅構内の移動ルートが複数あったり、全ての階段にエスカレーターが設置されている訳ではありません。

電車の号車と階段の位置関係、乗り換え時の移動距離などを把握しておかなければ、慣れない視覚障害者にとって相当の負担になると再確認しました。

交差点を大勢の人が行き交う画像。

竹下通りにて

原宿の竹下通りを歩いていた時のことです。
私が、ふと目に入った「エチュードハウス」という英語を読むと、丸山さんが「行きたいです!」と仰ったので、中に入って娘さんへのお土産を買いました。
(エチュードハウスとは、韓国の人気コスメのお店でした。)

前回の旅行では行ったけど今回は諦めていたそうで、大変喜んでくれました。
私は「エチュードハウス」を知らなかったし、なぜあのタイミングで声に出してお伝えしたのか分かりません。まさに偶然の産物です。

ヘルパーが伝える言葉が、視覚障害者の選択肢そのものになることを実感しました。
流行に敏感になって、移動中の会話から視覚障害者の関心があることにアンテナを張っておかなければいけないですね。

今度、丸山さんが来る前には勉強しておいた方がよさそうです。チェックしておくべき雑誌やテレビがあれば教えてください。

原宿の竹下通りでタピオカを手に笑顔の丸山さんの画像。
人生初のタピオカを堪能。

視覚障害者との交流

丸山さんから、事前に「東京の視覚障害者の方と交流したい」と伺っていたので、知人の村松芳容(むらまつよしひろ)さんとランチをご一緒しました。

村松さんは、あんま鍼灸の国家資格を持ち、盲学校の教員を目指して筑波大学理療科教員養成施設に通っています。アロマ検定の資格を持っていたり、都内の有名なマッサージ店をたくさん知っていたり、丸山さんとの共通点が多くて話が弾みました。

村松さんと丸山さんがカフェで食事をしながら話をしている画像。
話が盛り上がりすぎて、次の予定に遅れました。

上野動物園で実況中継

上野動物園では、オープンな展示が多かったので、動物の足音や鳴き声が聞こえて、雰囲気を楽しむことができたようでした。
しかし、丸山さんは動物の様子が見えないので、視覚情報は私の言葉が全てです。ガラス越しで音が聞こえないブースは、私が実況アナウンサーのように状況をお伝えしました。

語彙力のなさに辟易しつつ、自分が楽しんでいる雰囲気だけは伝わるように意識しました。

よく観察すると、シロクマって意外と黄色いな、とか、ゴリラの仕草は想像以上に人間ぽいな、という新しい発見もありました。

上野動物園の入り口をバックに丸山さんが立っている画像。
ぬいぐるみやお菓子など、お土産もたくさん買いました。

その他、明治神宮の参拝や伊勢丹での買い物など、1泊2日とは思えない量の予定を、芸能人顔負けの分刻みのスケジュールでこなし、とても濃密な旅になりました。

丸山さんのお話

表参道の路上で笑顔で立っている丸山さんの画像。

高橋さんにガイドしていただく中で、東京での移動の大変さを感じました。山手線、特に新宿駅はアナウンスが大きいため、電車が入ってきた音が分かりづらく、人も多いです。転落事故が多いのも納得できました。
駅の構内は、迷路のようで歩くだけで緊張感がありました。

一方、良かったのはサービスが行き届いていることです。伊勢丹のアテンドサービス、アロマサロンやホテルでの配慮、どれも視覚障害者への理解があり、素晴らしいサポートをしてくれました。

明治神宮でトイレの中を案内してくれた外国人観光客は、英語が伝わらなくても、ボディージェスチャーで伝えてくれました。ANAのアテンドサービスでは、空港に到着した時からトイレ、移動、ATM、お土産選び、全て私が飛行機に乗るまでサポートしてくれました。

目が見えなくなり、1番怖かったのが1人で外出することです。私は、今回たくさんの方のサポートにより、白杖一人旅を実現することができました。

タピオカ店の前で、商品を受け取るために待っている丸山さんの画像。

見えなくても、視覚以外の感覚を使って感じることができるので、今まで諦めていた動物園、ショッピング、カフェ巡り、どれも本当に楽しく体験できました。

見えなくなっても夢を持つこと、勉強すること、新しいことにチャレンジすること、私でもできるということを皆さんにお伝えし、多くの方に勇気と自信を持っていただければ嬉しいです。

新しい方との出会い、体験、それは人生において私を成長させてくれました。目が見えないということは暗闇の世界だけではないということを皆さんに知ってほしいです。

視覚障害者の旅行をガイドする魅力

私が今回の旅行で感じたことを、ガイドの視点からまとめてみます。旅行だから、ということでもないですが、行く先々で多くの発見がありました。

人の優しさに触れられる

明治神宮以外でも、渋谷駅構内で日本人の方にトイレの誘導をお願いすると、快く引き受けてくれました。

カフェで、座っている人が少し椅子を引いてくれたり、店員さんがドアを支えてくれたり。丸山さんの人柄によるものだと思いますが、周りの方の小さな優しさに触れる機会が普段のガイドより多い気がしました。

入場料や運賃の割引がある

明治神宮御苑や上野動物園で本人と介助者1名分の入場料が無料になりました。電車やバスの利用時は、1種の身体障害者手帳を提示すると本人と介助者の運賃が半額になります。
いくら仕事とはいえ、自分も楽しんでいるので申し訳ない気もしますが、ありがたいです。

新しい世界を知れる

エスプレッソが有名なカフェや、若者に人気のエチュードハウスは、自分では絶対に行かない場所です。
丸山さんのおかげで、一生縁がなかったであろうオシャレで華やかな世界を知ることができました。

表参道のアロマサロンでたくさんのアロマを見てから、ディフューザーを買ってみました。
明治神宮御苑を散策してから、神社に関する本を買って、近所の神社に行ってみました。
ミーハーの私ですが、生活に新しい変化が生まれました。

明治神宮御苑の清正の井戸で記念撮影する丸山さんの画像。
明治神宮御苑の清正の井戸。パワースポットだそうです。

最後に

後日、丸山さんが旅行の様子をTwitterで投稿すると、多くの方から反響があったそうです。さらにライターさんの目に留まり、Webサイトの記事にもなりました。

仕事としてこんな貴重な体験ができるのは、ガイドヘルパー冥利に尽きますね。
丸山さんは、何度も感謝の言葉を口にしてくれましたが、感謝しなければいけないのは私のほうです。

次回は、来年4月に2泊3日で東京に来られるとのこと。どんな場所に行けるのか、どんな出会いがあるのか、今から楽しみです。

この記事を書いたライター

高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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