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ストーリー

「人の気持ちに寄り添いながら、モチベーションを高められる存在になりたいです」三輪瞭さん

ライブでギターを弾いている三輪さんの横顔の画像。

記事の目次

アイキャッチ写真提供:三輪瞭さん


埼玉県内の大学に通う三輪瞭(みわりょう)さん。

軽音楽部に所属してライブを行ったり、障害者向けのインターンシップ(以下、インターン)に参加したりするなど、幅広く活動しています。

網膜色素変性症を発症して見えにくさがある中での就職活動やインターンでの気づき、障害の捉え方などを伺いました。

略歴

1998年埼玉県生まれ。埼玉県内の大学で社会福祉を専攻。現在4年生。軽音楽部に所属し、ギターを担当している。IBMが行う障害者向けインターンシップ・プログラム 「Access Blue Program 2020」に参加。

インタビュー

ー病気を見え方について、教えてください。
網膜色素変性症で、右目は視力が0、左目は0.1です。視野は10度程度です。中学2年生の時、よく段差につまずいたりものにぶつかるので病院に行って診断を受けました。父親が同じ病気で全盲の視覚障害者、母親は晴眼者です。


ーずっと普通校に通っていたのですか?
小学校と中学校は地元の公立校に通いました。中学3年生の秋、自分の見え方に限界を感じたので埼玉県立特別支援学校塙保己一学園(盲学校)に転校して、高校3年間通いました。その後、県内の大学に進み、福祉系の学科で学んでいます。


ーそうだったのですね。今は大学4年生、進路はどのような方向で考えていますか?
もともと福祉系の仕事に関心があって大学を選んだのですが、今は福祉以外の道に進もうと思っています。大学1、2年生の時に、アルバイトで障害者の福祉施設で働きました。先生の言っていることが正しいか、現場を見て答え合わせをしたいと思ったからです。私は、障害者の社会復帰など前向きな取り組みに関心がありましたが、施設の方針は現状維持のように感じました。別の施設では利用者さんの接する時と職員同士で関わる時の職員さんのギャップが大きかったです。
進路を考え直していた時に、IBMが行う障害者向けインターンシップ・プログラム 「Access Blue Program 2020」を知って参加しました。

三輪さんが公園で笑顔で立っている画像。
さわやかな笑顔の好青年(撮影:佐藤七海さん)

ーAccess Blue Program 2020ではどんなことをするのですか?
3月~9月までの7か月間、障害のある若者が約30名参加します。主な目的は、テクノロジーの知識を深めることです。
企業の問題解決のコンサルティングを体験する「仮想クライアント提案プロジェクト」や、リモートで働きやすくするためのアプリの開発を行いました。講義形式でAIやブロックチェーンなどの知識を学ぶ時間もありました。


ー印象に残った出来事はありますか?
インターンが始まる前、2日間の研修に参加しました。視覚障害者と聴覚障害者が参加しており情報保障をするのが難しいと思ったのですが、聴覚障害者向けにはスクリーンに文字を表示させて、視覚障害者には音声を流したり大きな文字を表示していました。相反する障害でも、同じ空間で情報を同時に共有できることを知り、「テクノロジーで障害の壁が超えられる」と衝撃を受けました。


ーインターンを通して、どのようなことを学びましたか?

新型コロナウイルスの影響により、出社したのは2日間だけで残りはテレワークでした。最先端の働き方をいち早く経験できてよかったです。さらに、同期には聴覚障害、発達障害、精神障害など様々な障害を持つ学生がいました。それぞれ困っていることは違いましたが、自分の障害を周りに伝えれば適切に対応してくれました。自分に適した環境があれば、高いパフォーマンスを発揮する人ばかりです。それぞれが活躍する場を見つけられれば社会の中で力になれると感じました。


ー三輪さんに合う仕事のヒントは見つかりましたか?
同期からは、「オンライン会議に三輪くんが入ると和む」と言われました。インターンに参加するまで気づかなかったのですが、私には周囲の雰囲気を柔らかくする役割があるのかなと思いました。人の話を聞くのが好きなので、悩んでいる同期の相談に乗ると「前向きになれた」と喜んでくれることもありました。

三輪さんが笑顔でインタビューに答えている画像
明るくインタビューに答えてくれました(撮影:佐藤七海さん)

ー就職に対する思いに変化はありましたか?
もともと公務員などの安定志向だったのですが、自由な環境で自分の力をもっと発揮したいという気持ちが強くなりました。業種は決まっていませんが、人とコミュニケーションしながら悩みや課題を抱えている人の背中を押せるような仕事をしたいです。


ー具体的な就職活動は行っていますか?
障害者専門のエージェント会社からの紹介で数社と面接しました。その中の一社で内定を前提にした10日間の実習を受けました。しかし、業務は新聞の仕分けと文字起こしをしただけで、「自分には合っていない」と感じてお断りしました。ちょうどその頃、大学のキャリア担当者からの紹介で成澤俊輔(なりさわしゅんすけ)さんにお会いしました。


ー成澤さんとはどのような方なのですか?
私と同じ網膜色素変性症の視覚障害者で、経営コンサルティングの仕事をしています。私と同じ病気で健常者と同等、もしくはそれ以上にアクティブに動いている成澤さんと出会い、「見えていなくてもバリバリ働けるんだ。自分でもできる」と自信が湧いてきました。視覚障害者の仕事は、マッサージや事務作業しかないという固定概念が覆りました。

※参考:TED sapporoで成澤さんがプレゼンする動画です。


ー後輩などこれから社会に出ていく視覚障害者に伝えたいことはありますか?

多くの視覚障害者は、成澤さんのような働き方をしている人の存在を知らないと思います。同じルートから情報を得て、似たような価値観の人と関わると、選択肢も同じになります。そのため、自分とは違う分野の人と関わることが大切だと思います。私の場合は、IBMのインターンや成澤さんとの出会いが大きな転機になりました。


ーたしかに、三輪さんは積極的に行動されているように感じます。

目が見えないからできないと諦めるのではなくて、できなくてもあえて挑戦しようという気持ちは常に持っています。できない環境に飛び込んだ後、周りに自分の障害のことを伝えて、助けを借りながらできるように微調整することが大事だと思います。


ーそのように考えるようになったきっかけは何かあったのですか?

今、大学の軽音部に所属してギターを担当しています。ライブハウスが暗くて、最初は会場の準備ができませんでした。そこで仲間やスタッフに助けをお願いしました。私は、中学2年生からギターをやっていて腕には自信があります。軽音部の中では楽器の演奏力が全てで、目が見えるかどうかは関係ありませんでした。だからこそ、積極的に参加することができたのだと思います。


ーギターを弾いている時は、視覚障害が関係なくなるのですね。

「見えないことで多少迷惑はかけるけど、演奏で喜ばせられればいい」という気持ちになれました。私のギターを楽しみにしてライブに来てくれる方がいますが、私が視覚障害者だとは知りません。ギターと出会ったことで、「誰でも長けている部分はあるのでそれを見つけて伸ばせばいい」ということに気づきました。

ライブのステージ上で三輪さんが真剣な表情でギターを弾いている画像。
軽音部では定期的にライブを行っている(写真提供:三輪瞭さん)

ー視覚障害者に関わる人は、どういうことに気をつければいいのでしょうか。
視覚障害者と晴眼者、それぞれがお互いを理解しようとすることは大事ですが、100%は理解できません。だから、少しでも理解しようと寄り添う気持ちが大切だと思います。私は父が全盲で、母は晴眼者です。母に対して父が「なんで視覚障害者のことが分からないんだよ」と言っていることもありましたが、今になれば「分からないものは分からないよね」と思えます。


ーお互いが完全に理解できないことを前提に、寄り添うことが大切なのですね。
周りを見ていると、視覚障害者が受け身になりすぎているような感覚があります。晴眼者は見えない世界で生きている訳ではないので、「視覚障害者のことが分からない」ということを私たちが想像しなければいけません。そうすれば少しは寛容になれると思います。そのために私は、聞かれたことに答えて、自分の状況を発信するなど、視覚障害のことを伝える努力が必要だと思っています。コミュニケーションすれば、自分の性格も伝わるので一石二鳥です。目の見え方も大事ですが、その人自身を知ろうとすることがもっと大事で、その中に見え方も含まれているのだと思います。

笑顔で歩く三輪さんを斜め後ろから撮影した画像。
晴れた空に映える三輪さんの笑顔(撮影:佐藤七海さん)

ー父親が視覚障害者だったことは三輪さんにとってどのような影響があったのでしょうか?
読み上げソフトやデイジー図書など便利なサービスを早く知れたことがよかったです。さらに、父は唯一の理解者です。父がいなければ自分の気持ちを分かってくれる人が周りにおらず、悩んでいたと思います。母も、父という存在がいたから私のことを理解してくれました。だから、私は恵まれています。


ー父が三輪さんの気持ちを理解してくれる存在だったのですね。
私は、周囲から目が見えているように見られます。そのため、ふと電柱とかにぶつかると「何やってるの?」と思われてしまいます。見た目で分かりにくい障害を持っている方には共通していると思いますが、「自分はこういう状況なのに誤解されている」という孤独を感じています。晴眼者は、アイマスク体験しても、外すと晴眼者に戻ります。でも、私たちはそうじゃない。晴眼者には伝わらないという孤独感を経験してから、考え方や行動が変わったかなと思います。


ー孤独感という言葉が印象的でした。
私には、手汗がたくさん出る病気でずっとハンカチを持っていなければいけない知り合いがいます。視覚障害者の友達は少ないけど、同じような孤独を味わっている人とは仲良くなりやすいみたいです。その孤独感の存在を知ることが、障害理解の本質かなと思います。視覚障害者が悩んだときは、「同じ孤独を感じているのは自分たち視覚障害者だけではない」ということが分かると、もっと生きやすくなるのかなと思います。これからは自分の経験を活かして、人の気持ちに寄り添いながらモチベーションを高められる存在になりたいです。

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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