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ストーリー

「選べることは豊かなこと。ロービジョンの子どもの選択肢を増やしたい。」伊敷政英さん

伊敷さんが、きみのてを持っている笑顔で写っている画像。

Webアクセシビリティに関する仕事を行う伊敷政英(いしき まさひで)さん。

2014年からロービジョンの子どもが使いやすいノート「KIMINOTE(きみのて)」も制作しています。

Webアクセシビリティと視覚障害者向けのノートの制作、あまり関連性がないように思う2つの仕事に関わるようになったきっかけや活動に込められた思いを伺いました。

略歴

1977年東京都生まれ。先天性のロービジョンで、中学校から高校まで盲学校に通う。一般大学を経て、ITコンサルティング会社に入社。2010年8月にCocktailz(カクテルズ)を設立し、ウェブアクセシビリティに関する調査や診断業務、執筆活動を行う。
2014年から、ロービジョンの子どもが使いやすくて、デザインもかわいい・かっこいいノート「KIMINOTE」を制作している。

インタビュー

友人からの依頼がきっかけで

ー見え方や病気のことを教えて下さい。
生まれつきのロービジョンです。視力は右眼が0.01、左目は光覚です。普段歩行する時は、白杖を持って歩いています。PCやスマホは視覚と音声を併用しており、日常生活で困ること少ないです。


ーどのようなお仕事をされているのですか?
Webのアクセシビリティに関する仕事をしています。具体的には、Webサイトの制作や既存サイトの検証、さらにガイドラインの作成やセミナーでの講師を務めることもあります。
また、「KIMINOTE」の制作と販売も行っています。ネット上で販売している他、全国の展示会やイベントにも出展しています。


ーまずWebに関する仕事について教えて下さい。なぜWebアクセシビリティに関心を持ったのですか?
大学生の時、友達に頼まれてWebサイトを作ったことがきっかけです。高校の同級生のバンドが全国大会で優勝して、メジャーデビューすることになりました。そこで、Webサイトが必要ということになり、私に頼まれたのです。
メンバー全員が視覚障害者だったので、更新や編集の方法を独学で勉強していくうちに面白いなと思うようになりました。


ーその後、IT系コンサル会社を経て独立されたのですよね。何か転機はあったのですか?
会社員の時、拡大機能などを使って仕事をしていたのですが、目に痛みが出て、朝起きられない日が続きました。当時は一般雇用でしたので、このまま目を酷使して、会社の中で同じように仕事をこなすのは難しいと判断して独立しました。自分のペースで仕事を調整できるので、自分には合っているのかなと思います。

伊敷さんが笑顔で話をしている画像。

ロービジョンの女の子のために

ーもう1つ活動されているKIMINOTEとはどのようなものですか?
KIMINOTEは、ロービジョンの子どもが使いやすいように開発したノートです。3種類のマス目と、横書き、縦書きの罫線が引かれた合計5種類のラインナップがあります。また、ノートの角を丸くして、ふいに目を怪我しないように配慮しています。デザインもかわいい、かっこいいものにして、子どもが使いやすくなるように意識しています。


ーKIMINOTEを作ろうと思ったきっかけは何でしたか?
小学校1年生のロービジョンの女の子から「ロービジョン向けのかわいいノートってないの?」と言われたことです。その子は、市販のノートでは罫線が見えないから、視覚障害者向けのノートを自分でマスキングテープでデコレーションしてもかわいくならなくて、友達に何か言われて剥がしたそうです。
何とかしたいと思って家に帰って調べてみてもロービジョン向けのノートはデザインがシンプルな1種類しかなく、それなら自分で作ってみようと考えました。


ーどのような方法で制作したのですか?
最初は文房具のアイデアコンテストに応募してみたのですが、採用されることはありませんでした。そこで、クラウドファンディングで盲学校と弱視学級にプレゼントするための企画を立ち上げました。
罫線の色や太さが様々な試作を用意して、子ども達にアンケートをして最も見やすいものを選んでいきました。

きみのてを開いて、マス目と横線のノートの様子が分かるように撮影した画像。
5種類のラインナップがある。

「KIMINOTE」に込められた思い

ーKIMINOTEの名前の由来は何ですか?
最後まで決まらなかったので、原点に戻って「やりたいことは何だったかな?」と考えました。すると、選択肢は与えられるものではなくて、自分で掴み取るものにしたいという気持ちにたどり着きました。そしてふと思い浮かんだのが「きみの手」です。英語にすると「NOTE(ノート)」という単語も含まれていて、これしかないと思って即決しました。


ー選択肢を自分で掴み取ってほしいという思いがあるのですね。

そうですね。選べることは、豊かなことだと思います。KIMINOTEを制作することで、ロービジョンの子どもちにノートの選択肢を増やしたい。そして、自らの手で世界を広げ、選択肢を増やしていけるようになってほしいと思っています。


ー伊敷さんが選択肢を増やしたいと思うのはどうしてですか?

高校3年生の時に同級生の1人が、疑いもなく「僕はあんま鍼灸の道に進むんだ」と言っていたことがずっと頭に残っています。色々な仕事を知った上でマッサージに進みたいというのならいいですが、それしかできないから選んでいるのであれば、何とかしたいですよね。そのころから選択肢を増やすことが大切だと思うようになりました。


ーKIMINOTEを使った子ども達には将来どうなってほしいと思いますか?

自分の言葉を持ってほしいと思っています。ロービジョンの人は、自分で工夫して頑張って、「拡大すれば見えるから」とか「少しは見えるから」と周りに要望を言わないことが多いと感じています。合理的配慮は、障害の当事者が自分から言わないと何も配慮してくれません。
勉強に限らず交換日記など幅広い用途でKIMINOTEを使い、多くの言葉に触れてもらいたいです。そして、自分のことを自分の言葉で伝えられるような子どもになってほしいです。

表紙が違うきみのてを3冊並べて撮影した画像。
表紙のデザインも豊富。

5周年の節目とこれから

ーKIMINOTEは今年で5周年なのですよね。KIMINOTEに関する動画を制作されたとお聞きしました。
最初はイベントをやりたいと思ったのですが、全国から子どもを集めるのは難しかったので、実際にKIMINOTEを使っている子どもに会いに行き、CM風の動画を作りました。お子さんだけでなく保護者にもお話を伺い、実際の生の声を届けられるようにしました。


ーこれから新しくやりたいことはありますか?

男の子用のデザインが少ないという意見を頂くので、電車や車などのバリエーションを増やそうかなと思っています。ロービジョンの子どもが今までにないワクワクする気持ちを経験してもらえると嬉しいです。
あとは、発達障害や学習障害のお子さんにも知ってもらいたいです。例えば、小さなマスの中に文字を書くのが苦手なお子さんは使いやすいのではないかなと思います。


ー伊敷さんが今の社会に伝えたいメッセージを教えてください。
視覚障害に限らないですが、当事者と関わる時間を大切にしてほしいです。来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、バリアフリーや共生をテーマにしたイベントや勉強会が増えていますが、一方通行のものが多いと感じます。一般化してマニュアルを作っても、実際に当事者と接したことがなければなかなか実践できないはずです。
当事者と接するためにどうすればいいか分からない方は、まずは私と食事に行きましょう(笑)

女の子のイラストが書かれているきみのての表紙をアップで撮影した画像。

Webサイト

Webサイト:Cocktails(カクテルズ)

Webサイト:KIMINOTE(きみのて)

動画:「KIMINOTE MOVIE – キミはひとりじゃない -」

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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