こんにちは、スポットライトを運営している高橋昌希です。
「視覚障害者の家探しは大変」という話は聞いていましたが、実際に視覚障害者の家探しをお手伝いする中で色々な経験ができました。
4月から新卒で入社した新入社員の三輪くんは、網膜色素変性症の視覚障害者です。実家から職場までは遠くて通えないため、一人暮らし用の賃貸物件を探すことになりました。
会社での賃貸契約を検討していたため、私が一緒に家探しを手伝いました。
今回は、私と三輪くんの体験を率直にお伝えします。波乱万丈ありましたが、最終的にはいい物件が見つかりましたので、前向きな気持ちでお読みください。
これから引っ越しする視覚障害者、家族、不動産関係者、ご近所さん、1人でも多くの人にこの記事が届き、皆さんの街が今より住みやすくなることをひそかに期待しています。
賃貸物件を借りるための基本的な流れ
体験談をお伝えする前に、賃貸物件を借りるための一般的な流れをご紹介します。
- 申し込み
仲介業者を通して、希望の物件に入居希望の意思を伝えます。物件によって、複数の仲介業者が紹介できるものや、特定の仲介業者しか紹介できないものなど条件が異なる場合があります。 - 審査
管理会社、保証会社、大家などが入居者の審査を行います。大家が直接管理している場合、管理会社はありませんが、大半の物件は保守・清掃などを管理会社に委託しています。保証会社の利用の有無も、物件によって異なります。 - 契約
管理会社や大家などへの書類送付から審査を経て、双方で合意できれば契約を行います。
いきなりの…
早速、インターネットでいい物件を見つけたので、仲介業者に連絡しました。
内見した後、管理会社に申込書を送る際、担当者には入居者に視覚障害があるが日常生活は問題なく行えることを伝えていました。
数時間後、「管理会社の審査に落ちました」と連絡がありました。
後日、「あの管理会社はご夫婦で経営されており、入居者に視覚障害があると難しいという話になったそうです」と教えていただきました。
「審査に落ちた」というのは建前で、実際は視覚障害を理由に入居を断られました。
出鼻をくじかれましたが、気を取り直して次の物件を探します。
内見でタッチパネルの物件へ
担当者に物件を見繕ってもらい、何件か内見に行きました。
そのうち1件は日当り抜群だったのですが、玄関の鍵がタッチパネルでした。
画面に触れると、毎回ランダムに表示されるテンキーから、4つの数字をタッチして解錠します。さらに、数秒の間に番号を押さないと、画面が消えてリセットされます。三輪くんには夜盲があり、「これは厳しいね」と諦めました。
担当者は視覚障害者の専門家ではありませんので、見え方などを丁寧に伝えなければいけないことを実感しました。
門前払いの連続
再度、仲介業者の事務所に戻り、物件を調べていただきます。
目ぼしい物件を見つけると、担当者が管理会社に電話します。しかし、「入居者に視覚障害があるのですが、ご紹介可能でしょうか?」と伝えると、次々と断られました。
20件近く電話していただきましたが、半分以上は門前払いでした。私たちはカウンターでその様子を見ているしかありませんでした。
雇用主にも責任あり!?
助成金などの関係で、法人契約を前提に探していたのですが、電話口で法人の規模を伝えると、「売上高○円、資本金○円以上」「上場企業のみ」などの指定がある物件がいくつかありました。
担当者が、管理会社に法人の規模を聞かれて「小さな法人です」とお話しているのが聞こえてきたときには、「そりゃそうだけど」と思いながら、何とも言えない気持ちになりました。
こればっかりは私の責任です。こんな小さい会社に入社してくれた三輪くんに感謝しつつ、家が決まらない現状に拍車をかけてしまいました。
険しい道のりは続く
ほとんどは電話口で断られましたが、「相談可能」という物件がいくつかありました。
その中の1つは、希望条件をすべて満たしていました。さらに、宅配ボックス付き、インターネット無料、礼金0など、嬉しいおまけ付きでした。
しかし、管理会社に申込書を送った翌日、「審査に落ちました」と連絡がありました。審査落ちの理由は教えてくれず、真相は分かりません。
相談可能の物件でも、申込書を送るとあっさり断られてしまいました。
契約当日の朝
物件があまりに決まらないので、仲介業者を変えました。
いくつか仲介業者が直接管理する物件を出していただき、その中の1つが良かったので、予算を少し超えますが「ここしかない」と申し込みました。
担当者は福祉の知識があり、手帳の等級の違いなどを大家さんに説明してくださり、入居の了承が得られました。
保証会社の審査も無事に通り、契約を交わすだけになったので、一安心しました。
初期費用の支払いを終え、契約書に押印するという日の朝、仲介業者から着信がありました。一瞬嫌な予感がしましたが、まさかと思いながら折り返すと、「大家さんから、『やはり視覚障害者が入居するのが怖い。契約は無しにしてほしい』と連絡があった」とのことでした。
これにはズッコケました。契約前だったので契約違反ではないにしろ、初期費用を振り込み、契約当日の朝に断るというのはあまりにも…と思いましたが、どうしようもありません。
最後は、あっさりと
もう1度、仲介業者を変えて物件を探しました。めぼしい物件が見つかり、今回も担当者が大家さんに直接連絡してくれました。
担当者が、「視覚に障害のある方が入居しますが、日常生活は問題ありません。万が一、何かあれば私達がなんとかします」とお話してくださると、大家さんは快諾してくださりました。
大家さんは優しいおばあちゃんだと担当者が教えてくれました。
今までの苦労が何だったのかと思うくらい、あっさりと三輪くんの住む場所は決まりました。
まとめと次回予告
ここまで「視覚障害者の家探しが大変でした」という体験談を羅列してきたわけですが、本質的な原因と課題解決のために必要なことは何でしょうか?
入居を断られた際に、障害者差別解消法や合理的配慮の話を伝えて、交渉すればよかったのでしょうか。
入居が決まった物件の大家さんは、担当者のことを非常に信頼している様子でした。最後は信頼関係に助けられたような形ですが、このような理解のある担当者と大家さんに巡り合えるまで、運任せで手当り次第に探すしかないのでしょうか。
次回の記事では、歩行訓練士と雇用主という立場から、なかなか家が決まらなかった原因と解決策について、私なりに仮説検証している様子を三輪くんの近況とともにお伝えします。
今回のいきさつを踏まえて、視覚障害者やご家族、福祉関係者、不動産関係者など、皆さんのご経験や率直なご意見をいただけると嬉しいです。