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ストーリー

「人生で今が一番幸せ」全盲の画家、オバケのタムタムさんに聞く

オバケのタムタムさんの作品「オバケのタムタム」の貼り絵。 サングラスをしたふわふわした綿のオバケが赤い自動車に乗っている。

全盲の画家、オバケのタムタムさんは、SNSでの作品紹介やグッズ販売など活動範囲を広げています。2023年は公募作品も多く入賞しました。

「全盲の画家」の創作方法や描くことの楽しさなど、お話をうかがいました。

オバケのタムタムさん 略歴

16歳で網膜色素変性症の診断を受け、現在は全盲。
自身の子どもが独立する年齢になってから創作活動をはじめる。
作品を発表しているインスタグラムのフォロワーは2023年12月時点で4800人を超え、最近では自分で返信コメントも書き込む。

主な受賞

「全盲専用車、海へ行く」:株式会社タウ「クルマとかなえる世界」アートコンテスト、千葉支店賞を受賞
「たんぽぽ」:広島市ピースアートプログラム、審査員賞受賞
「ステゴサウルス」:第二回canvasアートコンテスト、優秀賞
「虹色マンモス」:三菱鉛筆主催「私らしさを描くアートコンテスト」最優秀賞

貼り絵作品の写真。海の中を車に乗ったオバケのタムタムが進んでいる。たこや魚、海藻などが見える。
株式会社タウ主催の「クルマとかなえる世界」アートコンテスト、千葉支店賞受賞作品。

全盲の画家「作品は見てもらって完成する」

「SNSの中で、オバケのタムタムとしてふるまうことで、自由になるんです」

オバケのタムタムさんは、素顔や本名、年齢などの詳細をほとんど明かさずにSNSで作品を発表しています。投稿を担当するのは社会人の「息子」さんです。

「オバケのタムタム」は作品に出てくるキャラクターのひとりで、SNSのアカウント名、作品に添えるアーティスト名もすべて「オバケのタムタム」です。
(※以下、記事内ではタムタムさんと表記)

タムタムさんは中途障害で、子どもの頃は見えていました。読書や文章を書くことが好きで「表現することが好きだったんでしょうね」と話します。

絵を描くことは全盲になってからはじめました。

きっかけは年賀状でした。2013年に、粘土とモールを使って干支の「ヘビ」を描きました。それから、年賀状ではほぼ毎年、何かしら作品を描くようになります。

ある日、息子さんから「なにか趣味でもはじめてみたら?」と言われ、年賀状で作品を制作していたことを思い出したタムタムさん。実際に絵を描き始めてみると「すごく楽しかった」といいます。
今では朝起きてから寝るまで、ほぼ一日中作品を作っています。

タムタムさんの主な作品は貼り絵です。
インスタグラムでは、その制作過程も公開しています。

制作中の様子をまとめた動画
(動画提供:オバケのタムタムさん)

まず、粘土で作品の「型」を作ります。その「型」に合わせて土台となる紙を切り、その土台の上に、紙吹雪のような小さい色のついた紙を貼り付けていきます。
色を付けた紙を箱や缶に色別にわけて入れておき、そこから使いたい色を選んで取り出し、貼っています。

ムタムさんの制作中の手元の写真。綿をもって形を整えている。机の上には型紙も見える。
立体物も使いながら制作します。

タムタムさん「見えないから、ふくらませるかへこませるか、紙を折るかしかないなと思って、自分でこのやり方を思いつきました。粘土の型が下絵の代わりです。
中途失明なので、見えていたころの記憶でモノの形や色はイメージできます。

さらに、実物に触ってみたり、インターネットを検索して、文章で詳しい解説があるサイトを音声読み上げで読んで、細かいイメージを補完します」

制作中にパーツが落ちてしまって見つからなくなったり、型紙の裏表を逆に貼りつけてしまったりすることもあるといいます。

息子さん「偶然の運も含めて作品だと思っているので、僕が直したり指摘したりはしません。タムタムは自分で自分の作品を見ることができないので、誰かに見てもらうことではじめて完成する。だからSNSに投稿しています」

思春期に診断「ロールモデルがなく苦しかった」

視覚障害について、明確な診断が出たのは16歳のころでした。
当時は思春期で、自我が確立する年齢。中途障害で診断当初は見えていたため、一般の学校の普通級に通っていました。周囲にロールモデルもいませんでした。

タムタムさん「仕事に就けるだろうか。仕事に就いたとして、今より見えなくなったらどうしよう……と考えていました。当時は苦しかったです」

高校卒業後、見えにくいながらも就職し、日常生活を送りました。そして20代で結婚。その後子どもが産まれました。しかし、徐々に人の顔が判別できなくなったり、離れた場所から知人が手を振っていても気づかなかったりすることが増えてきました。そして、全盲になりました。

タムタムさん「落ち込んているというわけでもなかったんですが、何かをしたいとか、どこかに行きたいとか、そういうことは当時はまったく思わなかったですね」

タムタムさんの貼り絵作品。アリがほかの虫を食べている様子。英語で「Eat oe Be eaten」(食うか食われるか)と書いてある。

息子さん「今の距離感が一番いい形」

カッコつけているつもりのクロコダイルボーイ。
正義感があるけど、ちょっと怒りっぽいおんどり君。
気がいいけど忘れっぽいダチョウさん。
ヤマアラシ君は、大きな目を隠したくてカラフルなゴーグルをつけている。

いつか絵本を作りたいと考えているタムタムさんの作品には、特徴のあるキャラクターがいます。

息子さん「タムタムが作るキャラクターは、 みんなちょっとだけ何か抱えていたり、短所やハンデがあったり、そういうキャラが多いですね。
だけど、タムタムワールドの中では、みんなそれが当たり前で生きている。素敵な世界観だなと思っています」

タムタムさんに創作を勧めたのは息子さんです。少しでも社会につながってほしいと思ってのことでした。

息子さん「作者が自分で方法を考えて絵を描き出してから、”あれ?これすごいことしてるんじゃない?”と思いはじめました。
完全な全盲で絵を描いている方ってほかにいらっしゃるのかなと思って調べたんですけど、探した限りでは見当たりませんでした」

そして、2019年ごろからタムタムさんがつくった作品を、息子さんが代行してインスタグラムに投稿をはじめます。
タムタムさんと同居する家族が作品の写真を撮り、離れて暮らしている息子さんに送って息子さんが投稿をします。

タムタムさん自身は、はじめはSNSをどう使ったらいいのかわからず、コメントもすべて息子さんが転送したものを読んで、息子さんにその返信を依頼していました。しかし、「触っているうちにわかってきた」と、今ではタムタムさん自身がコメントの返信をするようになりました。

ある日、息子さんの家に泊まりにきていたタムタムさんが、ふと「今が一番幸せ」と話したといいます。

息子さん「そんなこと言うんだ!と驚きましたが、嬉しかったです。
ひとりで引きこもっているように見えていた時期もありましたが、SNSを通して交流する人が増えたり、夢中で作品を作っている姿を見たりすると嬉しいですね。
今は離れて暮らしていますが、ひとりで飛行機に乗ってうちに遊びに来ます」

オバケのタムタムさんの作品。夕焼け空のような感じのイラスト。深い赤から黄色、オレンジ、ブルーと右下から左上に向かって色が変化している。
一般社団法人プラスケア様の新規店舗に飾る水彩画描き卸し「夕暮れ」

かつて息子さんは、全盲のタムタムさんのために、近くに住んで生活全般をサポートしようと思ったこともありました。ですが、「何もかも手伝うのは違う」と気づいたといいます。

息子さん「目が見えないことは、ひとつ苦手なことがあるというだけのこと。今は、その苦手な部分だけを手伝おうという感覚に変わりました。
僕の好きな言葉で‟その人を愛せる距離にいよう”というのがあります。離れて暮らしていることも含めて、愛情を感じ伝えられるいい距離感だと思っています」

「全盲の画家として、絵本を出版するのが目標」

少しずつですが、作品をプリントしたグッズやTシャツも売れています。インスタグラムでは外国の方からの反応もあるそうです。アート展では、晴眼者の画家の方から、作品のキーホルダーを使っていると声をかけられたこともありました。

タムタムさん「自分の作品を、誰かがどこかで着たり使ったりしてくれていると思うと、嬉しいし、励みにもなります」

オバケのタムタムさんの作品「たんぽぽ」の画像。紙面に3つのたんぽぽの花の絵。たんぽぽを表す黄色い丸がふんわり輝くように咲いていて、その下に緑色の葉が広がっている様子。
広島市ピースアートプログラム、審査員賞受賞の「たんぽぽ」

2023年は、公募やコンテストに積極的に応募しました。
広島市ピースアートプログラムでは、「たんぽぽ」が審査員賞を受賞するなど、作品が評価される機会が増えました。

息子さん「晴眼者の方も含めて、より多くの方に作品をみてもらえるきっかけになったら嬉しいですね」

タムタムさんに今後の夢を聞いてみました。

タムタムさん「高齢になってきて今後の人生のあり方を考えることもあります。不安はとても大きいですが、それはそれで解決策を考えていきたいです。

今、全盲の画家としての一番大きな目標は、絵本を出版することです。昔から童話を書いていましたが、今は絵も自分で描けるようになったので、自分の生きた証を小さくても残せたらいいなと思っています。

デザインの仕事も少しずつ頂けるようになってきました。今は息子がグッズの制作やスケジュール調整などを無償で協力してくれています。いつか、息子や家族にしっかり支払いができるようになれば……というのも夢のひとつです。
全盲の画家の絵が必要なときは、ぜひ声をかけてください!(笑)」

オバケのタムタムさん インスタグラム:【全盲の絵描き】オバケのタムタム🎨《Blind artist tom-tom ghost》 (@tom_tom_ghost)|Instagram photos and videos(外部リンク)

オバケのタムタムさん グッズ販売等リンク集一覧:全盲の画家オバケのタムタム|Share this Linktree(外部リンク)

記事内画像・動画提供:オバケのタムタムさん
取材・執筆協力:aki

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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