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ストーリー

「きつね色」を視覚障害者はどう判断すればいい? 味の素がレシピサイト「音でみるレシピ SOUNDFUL RECIPE」を公開

赤い服に白いエプロン姿の全盲のみきさんが菜箸を持っている。画像左側に「音でみるレシピ 「音でみるレシピ SOUNDFUL RECIPE」と赤い文字で書いてある。

Sponsored by 味の素株式会社

「この音が聞こえると成功なんだね!」

同行援護事業所みつきの料理教室で、アジの三枚おろしをしたときに視覚障害の小学生が口にした言葉です。

視覚障害者は、主に視覚以外の情報を頼りにして料理をします。しかし、一般的なレシピサイトの多くは視覚情報が多用されています。スマートフォンが普及し、音声読み上げ機能などを使って視覚障害者もレシピサイトを利用していますが、すべてのサイトが利用しやすい設計ではないのが現状です。

手でアジの感触を確認している視覚障害の小学生の男の子。
写真撮影:Spotlite

味の素株式会社は、2025年2月19日に「音でみるレシピ SOUNDFUL RECIPE」を公開しました。同社が持つ多くのレシピを活用し、視覚障害者が使いやすい形式のレシピ集や「サウンドコラム」を掲載しています。

味の素株式会社マーケティングデザインセンターの赤坂由美子さんと、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のアテンドで、料理が大好きな全盲のみきさんに、開発の背景や思いをうかがいました。

音でみるレシピ SOUNDFUL RECIPE(外部リンク)
ダイアログ・イン・ザ・ダーク(外部リンク)

同行援護事業所みつき主催の料理教室の様子は以下のリンクから

料理の「音」に含まれる多くの情報

「温めたフライパンに、生のお肉を入れるとシュワッという水分を含んだ音が聞こえます」

「肉を炒めていくと、次第にパラパラと乾いた音に変わってきます」

これは、「音でみるレシピ SOUNDFUL RECIPE」の「定番の肉じゃがのレシピ」のサウンドコラムの内容です。

「料理が大好き」という全盲のみきさん。彼女のにこやかでやわらかい声が、調理のコツとなる音のポイントを教えてくれます。みきさんの声とともに、調理しながら収録した料理の実際の音も聴くことができます。

サウンドコラム収録中の笑顔のみきさん。マイクの前に立ち、右手を左手で握りながらあごの近くに置いている。

味の素株式会社では、事前にみきさんにヒアリングをして料理のおいしさの判断に役立つ音を確認しました。さらに、音声収録当日は調理をしたり食べたりしながら、ポイントになる音を確認し、録音しました。

味の素株式会社の赤坂由美子さんは次のように話します。

赤坂さん「驚いたのは、ひとつの料理の中でも具材や調理器具から実にさまざまな種類の音が生まれていることです。刻々と変化する音に耳を澄ませる体験は新鮮で、晴眼者である私も料理の新たな楽しさを発見する機会となりました」

視覚障害者にとって料理をするうえで難しいことのひとつが、火の通り具合の確認です。

みきさん「お料理をするとき、私は視覚以外の感覚をつかって食材や調理器具と対話をします。天ぷらを揚げるときは、耳を澄ませて『チャンチャン』と油が踊りだす音がしてきたら、食材を油に入れる合図です。

また、音以外の情報も大切です。例えば、ほうれん草に熱が加わり変化して、ゆであがった時の青々とした『香り』。揚げものが仕上がったときに菜箸を通して手に伝わってくる食材の『箸ざわり』。調味料が食材とちょうどよく混ざり合ったときに手に伝わってくる重さの変化などの『手分量』。こうした感覚を音とともにフル活用して、お料理を楽しんでいます」

調理中の鍋に向かい、首を傾けて耳を澄ませているみきさん。

サウンドコラムでは、みきさんによる触覚や嗅覚についての「気づき」も収録されています。

みきさん「音の変化や視覚以外の情報を感じてもらえるサウンドコラムは、五感を使ってお料理を楽しめむための新しい試みだと思います」

音声収録時の様子は、公式動画で見ることができます。(画像をクリックすると動画が再生されます)

誰もが使いやすい「レシピサイト」を目指して

一般的なレシピには、「きつね色になったら」「焦げ目がついたら」といった視覚的な表現が多く含まれています。しかし、こうした情報は、視覚障害者にとって調理工程の目安にするのは困難です。「SOUNDFUL RECIPE」では、これらの表現を見直しました。

音声読み上げを利用した際の難しさもありました。予想外の誤読が発生し、修正は想像以上に時間がかかったといいます。

赤坂さん「代表的なものは重さを表す『グラム』です。アルファベットの小文字で表記するのが一般的ですが、音声読み上げでは『ジー』と読んでしまうため、カタカナ表記に変更。意外な誤読では、漢字表記の『麻婆豆腐』を『あさばどうふ』、漢字と仮名の『長ねぎ』を『ちょうねぎ』と読み上げてしまうなどです」

解説画像。文字内容は以下。
画像タイトル「POINT、音声読み上げ時に読み間違いが発生する表記を変換」。
以下、表記、音声読み上げ、変換の順に記載。
主菜、ぬしな、しゅさい。
100g、100ジ―、100グラム。
麻婆豆腐、あさばどうふ、マーボー豆腐。

今回、サイトデザインやページ設計は視覚障害者と対話をしながら制作しました。複数の視覚障害者にテストサイトを確認してもらうことで、音声読み上げにはさまざまな機能があり、ユーザーそれぞれで利用方法やカスタマイズの仕方が異なることもわかりました。

また、文章では「玉ねぎ80グラムとにんじん40グラムをフライパンに入れて……」と、作り方の中でそのつど分量を記載しています。材料欄にも記載していますが、音声で利用する際は、ユーザーが情報確認のためにページ内を行き来をすることが多いとわかったためです。

こうした工夫により、音声読み上げ時のサイトの利便性が向上し、スムーズな利用ができるようになりました。

みきさん「日頃、さまざまなサイトのレシピを参考にしています。しかし、あまりにたくさんの情報があることで、自分が探したい項目を見つけるのが大変なときがあります。

『SOUNDFUL RECIPE』は、知りたい情報にすぐたどり着ける、コンパクトでシンプルなサイトになったと思います」

赤坂さん「みきさんをはじめ、ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドの皆さんに何度もテストをしてもらいました。これまでにない新しいサイト設計なども試みましたが、『シンプルな構成が一番“みやすい”』という皆さんの意見を踏まえ、現在のデザインに落ち着きました」

ダイアログ・イン・ザ・ダークさんから寄稿いただいたSpotliteの記事は以下のリンクからお読みいただけます。

全盲のみきさん「調理器具と仲良くなって“おいしい”にたどり着く」

みきさんのご両親は喫茶店を経営していました。「こんがり焼けたトーストとコーヒーの香りが大好き」と話します。おいしいものを食べながら語らう場所が日常の中にある……そんな環境の中で、みきさんは自然と料理が好きになったといいます。

みきさんが、ゆであがったパスタをフライパンに移しているところ。画面左に収音マイクが見える。

料理のときに気を付けていることもあります。一番は火の始末です。ガスコンロの周りに何かものが落ちていないかなどを、火をつける前に確認してから調理をはじめます。

みきさん「使う調理器具の特徴や癖を理解することも大切です。何度か使用することで、調理器具同士が触れ合うときの音や感触がわかるようになります。それが自分の感覚の一部になり、調理器具と仲良くなることで、献立によって何を使ったらやりやすいか、わかるようになります」

みきさんは、これまで、料理は自己流で楽しんできました。失敗もしたし、思っていたものと違う仕上がりになることもありました。

みきさん「今思うと、うまくいかないことも上達へのステップでした。障害があってもなくても、お料理をする中で自分が『おいしい』と感じる味にたどり着くには、誰でも様々な工夫をします。その試行錯誤の段階が本当に楽しいんですよね。

今回、『SOUNDFUL RECIPE』に携わったことをきっかけに、もっとお料理の楽しさや奥深さを追求するために、基礎の部分からお料理を習ってみたいと思いました」

誰もが自分らしく料理を楽しめる環境をつくるために

最後に、お二人に「音でみるレシピ SOUNDFUL RECIPE」への思いを聞きました。

赤坂さん「これまでも数々のレシピを発信してきましたが、それが『みんなに』やさしいものであったかを見直す機会になりました。レシピに使われる料理の画像や映像は、音声読み上げで利用する際は、情報の妨げになることもあると気づきました。

今回の取り組みを通じて、視覚障害者の皆さんと話したり、みきさんが料理をする姿を拝見したりする機会がありました。『見る』という言葉は一般的に視覚を使う行為を指しますが、視覚障害者の皆さんも晴眼者と同じように、音のわずかな変化や箸から指へ伝わる振動など、視覚以外の感覚を駆使して目の前で起きていることを把握し、豊かな情景を感じ取っているのだと実感しました。

料理は、単に食事を作る行為ではなく、人と人をつなぎ、日々の暮らしを豊かにする力を持っています。視覚、聴覚、触覚など、人それぞれの感じ方を大切にしながら、誰もが自分らしく料理を楽しめる環境をつくること。その積み重ねが、『今日も明日も、1人でも多くの人が楽しく料理できる世の中』につながると信じています。

これからも、すべての人にとって料理がより身近で、自由で、ワクワクする体験になるような未来をつくっていきたいと考えています」

みきさん「誰でもおいしいものを味わう時間は本当に幸せを感じますよね。

しかし障害があると、『火を使うのは危ないのではないか』『包丁は怪我をするのではないか』など、楽しさよりもついマイナスの面に意識を向けてしまうこともあるかと思います。そうなるとお料理に挑戦してみたいという気持ちはあっても無理なのではないかと諦めてしまいます。

これは本当にもったいないことですよね。楽しそう、やってみたいと思ったら一歩一歩。まずは鍋を火にかけてみましょう。耳を傾けていると、ぷくぷくとお鍋が沸騰してくる音が聞こえてきます。食材に火が通ると甘く柔らかい香りが湯気に乗って漂ってきます。

こうして、小さな発見と経験を繰り返していると、いつの間にか食材や調理器具と仲良くなり、その人ならではのお料理の楽しさを見つけることができるのだと思います。『SOUNDFUL RECIPE』が1人でも多くの方のおいしい幸せな時間のお供になりますように。」

音でみるレシピ SOUNDFUL RECIPEはこちらから(外部リンク)

揚げたてのアジフライを前に、写真を撮ったり話したりしている人たち。左から、座っている全盲の男性、写真を取っている視覚障害の小学生、男性ヘルパー、肘をついてテーブルを見ている視覚障害の小学生、笑顔で話しているみつき代表の高橋さん。
写真撮影:Spotlite

記事内画像・写真提供:味の素株式会社(※注釈のあるものを除く)
ライター:aki

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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