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啓発

視覚障害学生が直面する、働く機会の壁。ダイアログ・イン・ザ・ダークの取り組みを紹介します

ダイアログ・イン・ザ・ダークのロゴ入りの黒いTシャツを着て白杖を持った人たち11人が笑顔で立っている。

社会人として働く前に、学生時代のアルバイトやインターンとして働くことはとても大切な経験となります。その後の「働く」ことにおいて、選択肢の広がりや意欲にかかわる経験となるからです。しかし、一般的な企業において、視覚障害者の雇用率は少しずつ上がっているものの、視覚障害学生がアルバイトやインターンとして働こうとする場合、選択肢も機会も少ないという課題があります。そんな現状の中で働く経験を積む機会の広げ方を考えてみましょう。

視覚障害学生はアルバイトやインターンの経験が少ないのはなぜ?

今の社会において、視覚特別支援学校や大学の授業では自分の「学びたい」という希望に即した環境が以前よりも整いつつありますが、社会に出るという、もう一歩外へ環境を広げるときに、視覚障害があることで「壁」が少なからずあるようです。

地面に座ってスニーカーのひもを結んでいる手元の写真。靴の横には折り畳んだ白杖が置かれている。

はじめに、視覚障害学生の学校卒業後の就職について、どのような分野で働いているのかを見てみましょう。

ハローワークの調査によれば、令和5年度の視覚障害者の就職率は39%で、この数字は前年度+2.5ポイントと上がっています。また、平成30年度の調査ですが、就職先のジャンルとして多い順に、あんま・鍼・灸・マッサージ(47.8%)、運搬・清掃等の職業(18.8%)、事務的職業(14.8%)となっています。

参照:
視覚障害者へ企業が配慮すべきこと -雇用状況、職種、仕事内容|チャレンジラボ|Persol(外部リンク)

以下内部リンク

ただ、これは正規雇用としての就職の場合です。就職先の一位になっているあんま・鍼・灸・マッサージは、まだ資格がない学生の場合はアルバイトやインターンをすることはできません。かつては、視覚障害のある学生が経験するアルバイトやインターンの場合、選択肢も絶対数も少ないものでした。ですが、スマホやタブレットが普及しテクノロジーが進化していることにより、ここ数年で環境は変わりつつあります。

実際に、「視覚障害学生向けインターン」で検索すると、KindAgentとデロイト トーマツが提供する「Diverse Abilitiesインターンシッププログラム」や、Cybozuが開催する「チャレンジドインターンシップ」などテック系大手が開催するインターンシップなどがヒットしますが、まだその数は多くありません。

では、今の視覚障害のある学生はどのようなインターンやアルバイトをしているのでしょうか。視覚障害のある現役の学生4人に聞いてみました。

  • 家庭教師
  • 視覚障害者向けの製品やサービスのモニター
  • 音声ガイドのモニタリング(映画などの音声ガイドに対して、上映前にわかりやすさなどをフィードバックする)
  • 食堂の皿洗い
  • 文字起こし
  • スターバックスのパートナー
  • 飲食店(弱視)
  • スーパーの品出し作業(弱視)
  • ディズニーランドのアトラクションキャスト(弱視)

家庭教師のアルバイトは定番とされていましたが、ほかにも接客業やパソコン技能を生かした仕事、エンターテイメントまで、様々な職種への挑戦経験があることが窺えます。本当に少しずつではありますが、インターンとして働く機会・環境も、変わってきていると言えるのかもしれません。

見落とされがちな視覚障害学生の可能性と企業側の課題

視覚障害者がノートパソコンを使用している手元の写真。

それでも、視覚障害学生のアルバイト先の選択肢には、晴眼者の学生に比べてどうしても制限があります。加えて、「やりたい職業」と「できる職業」には大きな乖離があるのも現状です。

その理由のひとつには、雇う側の設備投資の問題があるかもしれません。たとえば弱視の場合、大きなPCモニターが必要になるなどの課題があります。しかし、実際にはテクノロジーの進化により、特別なデバイスを導入しなくても、事務作業であれば十分にこなせるスキルを持った人も少なくありません。

視覚障害者といえば点字での読み書きが主流で、一般的な文字の読み書きはできないのではと考えられている、という理解不足もあります。また、「視覚障害者は通勤することが非常に難しい」などといった先入観から、採用を控えるといった例もあるようです。

そこには、採用する側の「目が見えなければ、これはできないだろう」という思い込みの部分が大きく、障害に対する理解や配慮の欠如による影響がありそうです。

実際には、パソコンでの入力もできるし、データにさえなっていれば読み上げ機能で読むことも可能なのに、企業側の視覚障害者への理解度によって、学生アルバイトを起用するという発想に至らないケースも多く存在していると思われます。

あかるい窓際の場所で、様々な障害のある人が、円卓を囲んで座り、話している様子。車いすの人もいる。
画像提供:ダイアログ・イン・ザ・ダーク

視覚障害者が持つ「強み」とは?社会に必要な視点

一方、視覚障害学生自身が自分のもっているポテンシャルについてどう自覚しているでしょう。実は見落としていることがあるのかも、と話すのは、今回取材をした谷口真大さん。実際に学生時代にアルバイトを経験し、現在ダイアログ・イン・ザ・ダーク(※)でアテンドスタッフとして働いています。

谷口さん「私自身の学生時代は十数年ほど前になるので、今の学生とはまた状況が違い、当時多かったのは視覚障害者向けの家庭教師でした。もうひとつ、私の場合は少し変わった経路で経験したアルバイトがあります。

ペットの犬や猫を預かる施設が近くにあり、そこではじめは学生ボランティアとして参加していました。そこで働くうちにだんだんと、私にできること・できないことが具体的に周りに伝わって行き、アルバイトとして働くことにつながりました。

このように、視覚障害学生としてできることや、本人の意欲が直接伝わることでアルバイト経験につながるということはあると思います」

では、どのようなことが「視覚障害学生だからこそできること」なのでしょうか。

谷口さん「働きたいという意思を持っている学生は、知らない人と積極的にかかわる人でもありますよね。そうした視覚障害学生は、コミュニケーション能力、人との関係性の作り方がわかっている人だと思います。

どういうことかというと、たとえば駅で改札やホームへの行き方を尋ねるために、声をかけることもあれば、逆に『お手伝いしましょうか?』と声をかけられることも多くあります。人に『助けて』というのは言いづらいことですが、慣れている分そのハードルが低いということ、これが強みになります。

知らない人になんでも聞いてどこにでも行ける、人をじょうずに頼ることができるコミュニケーション力は、自分が何に困っているのか、困っていないのかを自覚できるということでもあります。これは、社会に出てみるとわかる、大きな強みなのです

※ダイアログ・イン・ザ・ダーク:照度ゼロの真っ暗闇の中、視覚障害者が案内人・アテンドとなって、様々なアクティビティを体験する、ソーシャル・エンターテイメント。発祥はドイツ。

ダイアログ・イン・ザ・ダークの看板を囲み、視覚障害者のアテンドを含めた8人が笑顔で記念撮影。白杖を持っている人は4人いる。
画像提供:ダイアログ・イン・ザ・ダーク

「強み」を認識し、社会で活躍するために

視覚障害があるからこその「強み」を活かした、アルバイトやインターンの機会を提供する一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティでは、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク・アテンドスクール」(以下、アテンドスクール)を開催しています。

ダイアログ・イン・ザ・ダークの暗闇では、視覚障害者のアテンドは、ただ暗闇で案内するだけではなく、アテンドという言葉通りゲストに寄り添う役割も担っています。

このアテンドを養成するのがアテンドスクールですが、ここでは実際の発声練習まで含めた案内人としてのトレーニングに加え、「対話を深める」ためのコミュニケーション研修をしています。

対話を深めるとは、先に谷口さんが話している視覚障害者の強みとしてのコミュニケーション力を、さらに高めるということ。研修では、できないことにフォーカスして補うためのスキルを学ぶのではなく、強みとなりうる部分を伸ばしていくことをしています。

自分自身について向き合う研修であり、自分が成長する機会となる「アテンドスクール」は単にダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドを養成するためだけの場ではありません。今後、「社会に出て働く」ということについて掘り下げる時間になります。

社会に飛び込むために必要な強みの自覚、そのための実践の場としてのアテンドスクール

アテンドスクールでは、「視覚障害者だからこそ」できる仕事への視点を伝えます。それは社会が見落としている点であると同時に、学生自身が強みとして気づいていない点かもしれません。

実際にアテンドスクールに参加した人に聞きました。

「視覚特別支援学校から一般の大学に行ってなかなかポジティブに捉えられずにいた自分の障害を、前向きに強みとして考えられるようになりました」

「人と接する際のコミュニケーション力と呼べるような引き出し・聞く力を得ました。お客様の声を聞き逃さないよう、一人一人の発言に耳を研ぎ澄ませることを意識して取り組んだところ、ささいな会話のきっかけをつかめたり、小さな不安の声を拾えるようになったと思います。
この力は、大学での教育実習で大きな助けになりました。多くの生徒に対して授業を実施するにあたり、生徒達の一人一人の声に向き合うことができました。教育者として現場に立つ上でのアドバンテージになったと思います」

「コミュニケーション能力が向上しました。初めてお話しする方、またお子さんからご高齢の方までさまざまな方と短時間で距離を縮められるようになりました」

4人の白杖を持った人たちが笑顔で立っている。全員ダイアログ・イン・ザ・ダークのロゴの入った黒いTシャツを着ている。
画像提供:ダイアログ・イン・ザ・ダーク

今後求められるのは、社会の理解と多様性を受け入れる文化の醸成

視覚障害がある学生にとって、まだ「プレ就職」としてのアルバイトやインターン経験の機会は限定的ではあります。

その機会を拡充していくためには、雇用側の視覚障害者への理解を進める一方で、学生自身や周囲が自分の強みに気づくことのできるきっかけや、強みを伸ばすことのできる機会を提供することが大切です。アルバイトやインターンの経験は、単なる働く機会にとどまらず、視覚障害学生が自分の可能性を広げる貴重なステップとなります。

今回紹介した「ダイアログ・イン・ザ・ダーク・アテンドスクール」はその一例ではありますが、あらゆる団体や企業が連携しながら、強みを引き出す仕組みを共に作り上げることが必要です。多様性を社会の力へとつなげるために、私たち一人ひとりができることを考えていきたいですね。

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク・アテンドスクール」は2月受講生を募集しています。
詳細は以下をご覧ください。

ダイアログ・イン・ザ・ダークアテンドスクール 2025年開講のお知らせ|一般社団法人 ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ(外部リンク)

執筆:一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ
アイキャッチ写真提供:ダイアログ・イン・ザ・ダーク
記事内写真撮影:Spotlite(※注釈のあるものを除く)
編集協力:parquet