2025年10月下旬の土曜日、雨交じりの肌寒い日。ロービジョンの秋山ユウタさん(仮名)とガイドヘルパー木村さんは、都内大型ターミナル駅のファッションビルにウィンドウショッピングに向かいました。
前回木村さんの同行援護を取材した記事は、以下のリンクからお読みいただけます。
移動中の雑談で自然な情報提供
「これまで、木村さんには5回ほど通院の同行援護をお願いしたことがあります。休日の“おでかけ”の依頼は、今回がはじめてです」
秋山さんは、ガイド開始前にそう教えてくれました。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
明るい声で、息を弾ませながら小走りにガイドヘルパー木村さんが到着しました。ガイドのスタートです。
秋山さんは、画面を拡大すればスマートフォンが使える程度の見え方です。普段は、慣れている場所では白杖は使いません。この日も折りたたみの白杖をリュックのサイドポケットに入れていましたが、使用せずに移動します。ガイド時も肩や肘を掴まず、木村さんのとなりを歩きながら口頭でガイドを受けます。

電車に乗ると、木村さんは秋山さんの希望を確認しながら立つ位置に誘導します。木村さんは、秋山さんが目的の街にはどの程度慣れているか、行ったことのあるエリアや店舗はあるかなどを雑談しながら自然な流れで確認します。
好みの服装や気候などの話題をにこやかに進めていく木村さん。会話をしながら合間にでスマートフォンで情報収集し、秋山さんに伝えます。
「目的地のビルには、大手の雑貨チェーンやTシャツブランドが入っていますよ。キャラクターショップでセールをやっているみたいです」
「今日は給料日後の週末だから、混雑しているかもしれませんね」

秋山さんは、東京近郊の住宅街に住んでいます。目的の駅までは、最寄りの私鉄で40分ほどかかります。この路線は特急から各駅停車までさまざまな種別があります。地下鉄にも乗り入れており、経路には複数の選択肢があります。
木村さん「A駅で急行に乗り換えるのと、各駅停車でゆっくり行くのと、どちらがいいですか?」
秋山さんは、急がず行きたいという希望を伝えます。木村さんは楽しく雑談をしながら、乗り換え検索をします。
木村さん「このまま今の電車に乗っていくと地下鉄に乗り入れてしまうので、B駅で別の行先の電車に乗り換えるのがよさそうです」
秋山さんも同意します。
人混みの中、キューピーの手で小さな工夫
都心に近づくにつれて電車が混雑するなか、乗り換え駅に到着しました。降りた位置は、ホーム階段わきの狭い場所でした。人混みの中、木村さんが前に立ち、後ろを歩く秋山さんをガイドします。木村さんはさりげなく、周りが気づかない程度に、右手を体より5センチほど離して手の平を下にし手首をそらし、キューピーの手のようにしています。すれ違う人が秋山さんと近い距離ですれ違ったりぶつかったりしてしまうことを自然に防ぐ工夫のようです。

目的の駅に着くと、出発したときは小雨だった雨が本降りになっていました。秋山さんは傘を持っていなかったので、買うことにしました。木村さんは周辺を見渡して、横断歩道を渡った先にドラッグストアと大手ディスカウントストアがあると伝えます。ディスカウントストアなら傘があるかもしれないと判断し、寄ってみることにしました。入口にビニール傘があります。
木村さん「65センチのジャンプビニール傘が、725円です。こちらでいいですか?」
秋山さん「はい。大丈夫です」
木村さんはレジに誘導し、秋山さんが「QR決済で」と伝え会計をすませて傘の購入は終了です。
傘をさして目的地のファッションビルまで移動します。歩きながら、先ほど電車内で調べたイベント情報や街の様子などをガイドしていきます。途中、動く歩道がありました。「乗りますか?」と秋山さんに確認して動く歩道にのります。

目的のビルに着くと、周辺の店舗や商品を案内しながら進みます。
秋山さんが「上の階に行ってみましょう」と言い、エスカレーターで移動します。木村さんはすぐに「1列で乗るタイプのエスカレーターです。先に乗りますね」と伝えます。
エスカレーターをおりて、フロアマップの前まで向かいます。

木村さん「この階はお食事が多くて、雑貨店はXとYがありますね。メンズファッションではブランドA、B、Cあります」
秋山さん「雑貨店のXをみてみたいです」
木村さん「わかりました。ちょっとお待ちくださいね」
フロアマップでサッと道順を確認すると、人混みを避けながら秋山さんを誘導します。秋山さんも「すごい人ですね」と話しました。
現物サンプルで言葉の情報がより具体的になる
目的の雑貨店に到着。セール中でにぎわっています。大きな店舗で、洋服、食品、雑貨などさまざまな商品があります。
通路を歩きながら、どんな商品が置いてあるかを口頭で木村さんが案内します。洋服売場では、シャツやセーターなど服の種類、色柄、素材などを説明しながら移動します。

日用雑貨の売場に来ました。除湿剤のコーナーで木村さんが商品の説明をしていると、実物のサンプルに気付きました。秋山さんは、実物を手に取ったことで「あ!こういう感じなんですね!」と声のトーンが上がります。使い方や素材、サイズのイメージが具体的になったようです。興味は沸いたようですが、今回は買わずに売場を離れました。
そのあと、秋山さんがお手洗いに行っている間に、木村さんは帰りの電車の時間も確認します。戻ってきた秋山さんに、この後の予定と残りの散策時間を伝えて希望を確認します。秋山さんはファッションビルに戻ることにしました。
靴を試着。「主体は利用者」のガイドを実践する木村さん
秋山さんは、雑談から普段はいている靴が点字ブロックに引っかかるなどの不便があることを思い出し、靴を探すことにしました。まず、洋服も売っているお手頃価格の店で靴コーナーを見ることにしました。秋山さんは気になる靴を手に取ってみます。価格やデザインなどの情報を木村さんが伝えます。
「点字ブロックに引っかかる」というニーズから、手に取った靴のつま先が上がっているかフラットかを伝えます。秋山さんは、検討したい商品のときは木村さんに詳細を確認します。
秋山さんが「もう少し見てもいいですか?」「試着してもいいですか?」と聞くと、木村さんはいつも明るくおだやかなトーンで「もちろんです」と答えます。気になる靴を試着してみることにしました。
この店舗は、靴用のハンガーにつるされているものを自分で外して試着します。木村さんは様子を見ながら、秋山さんが自分でやろうとしているときは、情報を伝えて手を貸さずに見守ります。
ガイドヘルパーの研修では、「主体は利用者」「視覚障害者は何もできない人ではない」と習います。木村さんは自然にそれを実践していました。
試着した靴は素材名が大きく書かれたPOPがついていました。秋山さんが試着している間に、会話をしながら素材についてスマートフォンで調べた木村さん。「この素材は『耐久性があり丈夫』と書いてあります」とネットの説明を読み上げます。「調べてくれたんですか、ありがとうございます」と秋山さんが言うと、木村さんは「私が気になっちゃって」と笑顔で応じます。「たしかに丈夫な感じがする」と、秋山さんも気に入った様子です。素材名をもう一度確認して、いったん商品を戻します。
靴ハンガーにかけなおすときも、少し木村さんが手を添えて秋山さんが自分で戻しました。他にも違う素材の靴を2足ほど試着します。手入れ方法や注意書き、商品特徴の記載があると、木村さんはすべて声に出して読みあげます。素材が気に入った一足を候補に入れて、別の靴専門店を見ることにしました。
靴専門店では、スポーツブランドのスニーカーを中心にどんな色のどんな形の商品があるかを確認します。専門店のブランドスニーカーは格安店に比べると価格が高めだったので、今回は見るだけで店を出ました。
普段はネットで靴を買うという秋山さん。「店頭で試着をすると、購入前に歩いたりできるのがいいですね」
何も考えずに「普通に」おでかけできた

今回は、ここで帰宅する時間になりました。秋山さんに今日の感想を聞いてみました。
秋山さん「必要な情報を読み上げていただいたり、歩きながらいろいろ教えていただいたりして、新しい店などを知ることができました。人混みは苦手なのですが、先を想定して早めに『少し左に寄りましょう』などの声をかけていただけて、“普通に”というのが適切かわかりませんが、何も考えずにおでかけができました」
今回、木村さんの同行援護に密着してみて、安全な場所ではつねにサッとスマートフォンで検索し、雑談の中から自然に情報提供をしている姿が印象的でした。また、声のトーンは常に明るくかつおだやかで、利用者の方が不安になったり申し訳なく思ったりすることが少ないだろうなと感じました。
月の利用時間に余裕がある場合にはなりますが、今回のように目的を決めずに情報収集を兼ねたおでかけで同行援護を利用してみるのも、新しい発見があるかもしれません。
- 白杖の携帯について
当記事では、白杖を使用していない写真を掲載していますが、以下の考え方に基づいて、同行援護と取材を行っています。
- 「利用者には外出時できるだけ白杖を携帯してもらうようにします。白杖があれば、視覚障害者と同行援護従業者であることが第三者にわかりやすく、事故などのリスクも軽減できるからです。ただ、白杖を持つということは利用者にとって、精神的な負担を強いる場合もありますので、同行援護従業者から持つことを強制はしないようにしましょう。」
引用元:新版同行援護従業者養成研修テキスト(中央法規出版)(第6章 同行援護従業者の実際と職業倫理)
- 「利用者には外出時できるだけ白杖を携帯してもらうようにします。白杖があれば、視覚障害者と同行援護従業者であることが第三者にわかりやすく、事故などのリスクも軽減できるからです。ただ、白杖を持つということは利用者にとって、精神的な負担を強いる場合もありますので、同行援護従業者から持つことを強制はしないようにしましょう。」
取材・執筆:aki
取材・写真撮影:遠藤光太
編集協力:株式会社ペリュトン