「同行援護」とは、視覚障害者が外出するときに、必要となる支援を行う福祉サービスのことです。そして、その制度のなかで視覚障害者をサポートするのが「同行援護従業者」の資格を持っているガイドヘルパーです。
今回は、人気ガイドヘルパーの木村さんと利用者の石井さんに同行し、その様子を見学させていただきました。当日のガイドの様子や同行して気づいたことなどをお伝えします。
待ち合わせは利用者さんのご自宅から

待ち合わせは、2025年10月のある休日の朝10時。過ごしやすい気候のなか、東京都内の石井さんのご自宅から同行援護がスタートしました。
ヘルパーの木村さんは、動きやすいパンツに、ペットボトルホルダー付きのショルダーバッグを斜めがけにしたスタイル。常に両手を使える状態にされているのが印象的でした。
今回の目的は国分寺散策です。まずは、電車を乗り継いで約40分先の国分寺駅を目指します。
最寄駅に到着して電車に乗ると、お二人は並んで座り、なごやかに談笑されていました。「今回の同行援護は何度目ですか?」と聞くと、「もう数えきれないほどです」とのこと。普段も同行援護の道中で、次はどうするかを相談しながら決めることもあるそうです。
「まもなく、新宿、新宿です」。乗り換え駅である新宿駅に到着するというアナウンスが流れると、木村さんはさっと立ち上がり、石井さんの前に立って降りる準備を始めます。
駅に着いて電車を降りると、木村さんは周りをまんべんなく見渡し、エレベーターを探します。人の多い駅構内では、特に慎重に、ゆっくりと移動していました。
そして、JR中央線に乗り換えて約30分。目的地である国分寺駅には、待ち合わせから1時間後の11時に到着しました。

時にはユーモアを交えて話す木村さん
駅構内で、これから向かう喫茶店について話し合います。木村さんは、候補に挙げたお店の特徴や開店時間を、言葉で丁寧に説明していきます。石井さんが聞き取りやすいように、常にゆっくり、はきはきと話されているのが印象的でした。
行き先はレトロ喫茶「胡桃堂喫茶店」に決まり。駅から北に向かって歩きます。
道中では、「右に曲がります」「階段を下ります」とこれからの動きを伝えるのに加えて、信号待ちの時間には「道の向こう側につけ麵屋さんが見えますね」と街の様子を言葉で共有する木村さん。まさに「ガイド」の役割を担っていると感じました。
駅から北東方面に5分ほど歩き、目的地である胡桃堂喫茶店に到着しました。

案内されたのは、2階の階段を上がってすぐの広い席。席に着くと、木村さんは石井さんに、店内の様子とメニューの内容を言葉で説明します。
木村さんの話す内容を聞いていると、普段、自分がいかに「なんとなく」のニュアンスで話しているかに気づかされました。視覚情報がないことを前提にしたコミュニケーションでは、見える景色の一つひとつを正確に言語化する力が重要です。
料理と飲み物が運ばれてくるまでの間、木村さんはおしぼりの位置やお冷のグラスの形、店内の混み具合を説明します。
会話は情報提供だけではありません。なごやかに雑談を交わすお二人の様子からは、まるで友人とお出かけをしているような雰囲気も感じました。利用者である石井さんが楽しめるように、さりげなくユーモアを添える。その姿に、木村さんのおもてなしの心とプロ意識を感じました。
滝行も一緒に。フットワークの軽さがうれしい
石井さんは、木村さんを指名してよくお出かけされているそうです。「フットワークが軽くて、行きたいところに気軽に付き合ってくれるのがありがたいんです」と笑顔で話してくださいました。
最近のおでかけで特に印象に残っているのは、西多摩郡の山奥で体験した滝行だそう。前日に雨が降ったため、ぬかるんだ山道や急な斜面を歩くことになり、靴もびしょ濡れに。さらに滝の水量も増していて「水流がすごすぎて笑ってしまうほどでした」と石井さん。それでもお二人は、「大変さよりも楽しさが勝った」と、笑顔でそのときの様子を語ってくださいました。
「雨のせいもあってか思ったよりも経験者向けで、呼吸するのも難しかったけれど、いい経験になりました」「今度はもうちょっと初心者向けの滝行に行ってみたいですね」と、石井さんもヘルパーの木村さんも次の計画に前向きです。
これまでにも、高尾山に登ったり、長瀞で舟下りを楽しんだりと、さまざまな場所を一緒に訪れてきたお二人。回数を重ねるごとに、自然と信頼が深まっていったのだと感じました。近々、吉祥寺に演劇を見に行く予定もあるそうです。
飲み物が運ばれてくると、木村さんは「1時の方向にカフェラテがあります」と声をかけ、ストローを差したり、グラスの結露をそっと拭き取ったりして、石井さんが快適に食事を楽しめるようにサポートします。
食事中も、雑談を交えながらさりげなく石井さんの様子に目を配る木村さん。居心地の良い店内で、石井さんも穏やかな表情を浮かべ、ゆったりとした時間を過ごしていました。
「もうこのお店に思い残すことはないですか」と確認する木村さんに、笑って「大丈夫です」と応える石井さん。
次の目的地は、駅から南西方面にある武蔵国分寺です。
安心安全かつメリハリのある移動
武蔵国分寺は、胡桃堂喫茶店からは歩いて20分ほどの距離です。
車道側を木村さんが歩き、水溜まりや段差に気を配りながら進みます。人通りの少ない安全な道はやや足早に移動するなど、メリハリをつけて動いているのが印象的でした。
途中、「お鷹の道」と呼ばれる、隣に清流が流れる石造りの細い遊歩道に差し掛かります。山道にも慣れているお二人は、息をぴったり合わせ、スムーズに進んでいきます。
武蔵国分寺に到着しました。参拝のため、本殿へ続く階段を登ります。石井さんは左手に手すり、右手に白杖を握り、一歩一歩慎重に進みます。その様子を斜め前から見守り、「ここで一度手すりが途切れます」と声をかけ、ガイドする木村さん。

本殿に着くと、カワセミの鳴き声が聞こえる自然豊かな環境で、静かに参拝しました。
今回、同行させてもらったのはここまで。この後お二人は、隣にある公園も訪れたそうです。
終始笑顔で楽しんでいた石井さん

木村さんのガイドに同行してみて、プロフェッショナルなガイドヘルパーとしての仕事ぶりに感銘を受けました。さらに印象に残ったのは、利用者の石井さんが終始楽しそうに笑顔を見せていたことでした。周囲から見ると、友人同士のお出かけに見えるほど、二人とも肩ひじ張らずに過ごしていました。
石井さんが安心安全に移動できるよう周囲の様子を確認し、食事を楽しむために店内の状況や料理の種類を言葉で丁寧に伝える。そして説明するだけではなく、時にはユーモアを交えた雑談をする。石井さんがこの時間を楽しめるようにという、木村さんのおもてなしの心を感じました。
取材・執筆:原田美緒
取材・写真撮影:遠藤光太
編集協力:株式会社ペリュトン