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聞いてみた・やってみた

視覚障害者が釣りを楽しむために。全盲の私が解説します

良く晴れている昼間の川のほとり。「きゅうなかがわ」とひらがなで書かれた看板がある柵のよこで、川の様子を確認している男性。その後ろには白杖を持った筆者とSpotlite代表の高橋さん。川の向こう側には東京スカイツリーも見えている。

「目が見えていないから釣りは危なそう」
「やってみたいけど初心者で何から始めていいかわからない」

視覚障害者が釣りをすると聞けば、そう感じる方が多いかもしれません。しかし適切な知識とサポートがあれば、目が見えていなくても、釣りは晴眼者と同じように楽しむことができるスポーツです。そこで今回は、毎月海釣りに出かける私の釣りとの出会い、そして安全に楽しむための工夫を、これから釣りを始めたい人に向けて大公開します。

釣りとの出会い

私は幼少期に全盲になりました。両親はそんな私をさまざまな場所に連れて行き、多くの経験をさせてくれました。

釣りもそのひとつです。毎年家族で離島に遊びに行き、釣りに親しみました。

海の浅瀬の水面の様子を写した写真。透明度の高い海水で、波紋が揺れて光っている。
(写真素材:Unsplash)

当時は釣りの面白さや奥深さには気づきませんでしたが、初めて釣った魚のことはとても印象に残っています。私が釣った小さなアジは、ぬるぬるしてぴちぴち跳ねる魚の動きはとても新鮮で「普段食べている魚はこんな形や動きをしているのか」と驚いたものです。その後、部活などが忙しくなるにつれて釣りに行くことは一時的に無くなりました。

転機となったのは新型コロナウイルスによる制限でした。室内でのスポーツや団体競技が制限され、スポーツ好きの私は困ってしまったのです。そんな時に外でできるスポーツとして思い出したのが釣りでした。最初は友人と近くの浜や堤防で楽しむ程度でしたが、気づいたらすっかりハマってしまい、今では毎月数回は釣りに行くほど釣り好きになりました。道具をそろえたり船に乗ったりとお金もかかりますが、いくら使ったかは内緒です。

釣りは、手の感覚がものをいう

釣り仲間から「目が見えていないけど、釣りのどんなところがいいの?」とときどき聞かれます。

私は、釣りは漁だと思っています。釣った魚で自分のご飯が豪華になるかどうかが決まるわけですから、必死になりますよね。もう少し真面目に答えると、釣りの楽しさは「自然との一体感を感じられるところ」だと思います。

釣りは手の感覚がものをいうスポーツです。

釣り竿を握っていると、海の中の潮の流れや海底の地形変化などさまざまな情報が感覚として手に伝わってきます。その多くの情報の中から魚の引きを感じ取り、魚とのやり取りを制して初めて魚を釣り上げることができます。私は釣りをしていると、自分が自然の一部になったような気がしてとても癒されるのです。世の中にスポーツはたくさんありますが、釣りほど手の感覚ですべてを感じ取れるものも珍しいでしょう。また海の中はある程度の深さになると晴眼者でも見えません。釣りは、見えていても見えていなくても手の感覚で楽しむフェアなスポーツと言えるかもしれませんね。

釣り竿のリール部分と、釣り竿を持っている手のクローズアップ写真。
(写真素材:Unsplash)

釣りの種類と楽しみ方

釣りには、釣り場や狙う魚種によってさまざまなジャンルが存在します。私は主に海で釣りをするため、ここでは海釣りの概要についてご紹介します。

海での釣り方には餌釣りとルアー釣りの大きくふたつが存在します。

餌釣りは釣り針に生きた虫や小魚、エビなどを付けることで魚を針に食いつかせて釣りあげます。場所にもよりますがアジやキスなどの小型の魚をターゲットにすることが多く、沿岸や水深の浅い場所での船釣りなどで用いられる方法です。餌が生物なので、餌が動く波動や匂いで魚をおびき寄せやすく、特殊な動きをしなくとも、待っていれば比較的簡単に魚が釣れます。一方で餌の交換で釣り針に触れる必要があり、視覚障害者の場合は怪我をしないよう慣れが必要です。

空中に垂れ下がった釣り針のクローズアップ写真。
(写真素材:Unsplash)

もうひとつのルアー釣りは、ルアーという魚の形に似せた金属製の塊を操って魚を釣る方法です。ルアーには金属製のほかにも、樹脂製や木製のものもあります。

ターゲットは主に小魚を餌とする中型以上の大きな魚です。釣り人はターゲットの魚がルアーを小魚と勘違いして食いつくように、ルアーのさまざまな動きで「小魚らしさ」を演出します。ルアーの動きをいかにうまく演出できるかという技術が重要なことはもちろん、ルアーの種類や大きさ、その日の潮の流れなどの周囲の自然環境にも大きく影響を受けます。そのため初心者には少し難易度が高いですが、その分ゲーム性があり人気の釣り方です。この釣り方はルアーを釣り糸の先に装着するのに細かな作業が必要なため、視覚障害者が1人で作業することは難しいのですが、一度装着してしまえば針に触れたり都度交換する必要がないという利点もあります。

また釣り場も、大きく分けて陸からの丘釣りと船釣りの2種類があります。

丘釣りとは砂浜や堤防から沿岸にいる魚を狙う方法で、餌やルアーを陸地から水中に投げ入れて魚を狙います。釣り人のパワーにも寄りますが、餌やルアーの飛距離には限度があり、狙える範囲はせいぜい岸から100メートル程度です。

メリットは釣り場の利用自体に費用がほとんどかからないことです。一方、デメリットは釣り場にそのタイミングで魚がいる保証はなく、釣れる確率が船より低い点が挙げられます。また岸から近い分狙える魚も中型クラスまでがほとんどです。一方、船釣りは船に乗って魚を魚群探知機で探しながら、魚がたくさんいるポイントで釣りができる方法です。魚がそこにいることを確認して釣るので、釣れる確率は丘釣りよりも高くなります。岸からは狙えない範囲に生息する魚や大物を狙えるのも大きな魅力です。ただデメリットとしては乗船料が1回1万円程度かかることでしょう。

みなさんも自分にあった釣り方を見つけてぜひ釣りに挑戦してみてはいかがでしょうか?

視覚障害者が釣りを始めるために。課題とみつきの取り組み

私はできるだけ多くの方に釣りを楽しんでいただきたいと願っていますが、一方で視覚障害者が釣りを楽しむ際に課題があるのも事実です。ここでは主に3つの課題をご紹介します。

まずひとつ目は釣り場へのアクセスの問題です。

釣り場となる海や川は公共交通機関でのアクセスが不便な場合がほとんどです。車を運転できない視覚障害者にとって、そもそも釣り場にたどり着くこと自体が困難です。釣りはどうしても魚の食性に合わせて早朝や夕方に開始することが多く、釣りの前後で近隣での宿泊を余儀なくされることもあります。

ふたつ目は、釣り場でのサポート体制の課題です。

釣りを始めるとなると現場への同行者が必要になります。加えて、釣りをしている最中にも餌やルアーの交換、急な釣り糸のトラブルなどサポートが必要なことが頻繁に発生します。

釣りのトラブル解消にはある程度の釣りの経験が必要になります。たまたま知り合いに釣り好きな人がいて同行してくれればいいのですが、釣りを始めたくても同行者を見つけることが難しいのが実情です。

そして最後に社会的な理解の課題もあります。

陸地で釣りをする場合にはそれほど問題にはならないのですが、船釣りをする際にはまだまだ視覚障害者が釣りをすることへの理解が進んでいないと感じることがあります。

私も自分自身で釣り船を利用するなかで、初めて乗船しようとした船で予約を断られたり、スタッフの方に冷淡な対応をされたりしたことが何度もあります。背景には、これまで視覚障害者の釣り船の利用が少なく、接する機会が無かったという点や、万が一の怪我や落水防止という安全面の懸念などがあるのでしょう。これは実際に視覚障害者の釣り人が増加し、利用者が増えれば緩和できる課題かもしれません。実際私も何度か利用するうちに、最初は冷淡だった船長さんと打ち解けたこともあるので、機会を作ることが大切だと感じます。

まだ課題もある視覚障害者の釣りですが、みつきでは少しでも視覚障害者が釣りを楽しむ機会を広げ、支援できるように取り組んでいます。2025年7月には、私も協力して釣りのサポートに対応できるガイドヘルパーさんの研修を実施しました。

川に向かい釣り糸を垂らして待っているSpotlite代表の高橋さんと、後ろから見守っている筆者ケビンさん。
みつきのガイドヘルパー向け釣りサポート研修の様子。

これまでに複数名の方がガイドとして実際に釣りを体験し、サポート方法を学んでくださいました。多くは釣り未経験でしたが、初めて魚を釣れたことに喜んでいたことが印象的でした。

釣り初心者の利用者をサポートするには継続的な技術習得が必要ですが、みつきでは今後も研修をする予定です。

また、2025年秋に、お子さんの利用者を対象にした釣りイベントも企画中です。アクセス良好な都心の河川で、ガイドさんと一緒に子どもたちにハゼ釣りを体験いただく予定です。

都心の河川で釣りを楽しんでいる、ガイドヘルパーの皆さんと筆者ケビンさん。
研修当日は筆者ケビンさんも一緒に釣りを楽しみました。

釣りは視覚障害があっても楽しめる

釣りは視覚障害があっても楽しめるスポーツだということがお分かりいただけたと思います。

まだ課題の多い視覚障害者の釣りですが、社会的な理解と支援の環が広がることを期待します。私もいち釣り人として、より多くの視覚障害者が釣りに興味を持ち、楽しんでいただけることを願っています。

みつきのヘルパー向け釣り研修で、川のほとりで話しながら準備をしている参加者。

執筆:ケビン
記事内写真撮影:Spotlite(※注釈のあるものを除く)

Spotliteでは、視覚障害者の外出時にガイドヘルパーを派遣する障害福祉サービス「同行援護」の事業所を運営しております。利用者、ヘルパーともに、若年層中心の活気ある事業所です。余暇活動を中心に、映画鑑賞やショッピング、スポーツ観戦など、幅広いご依頼に対応しています。お気軽にお問い合わせください。

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※ 当事務所は、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、および香川県に対応しています。

編集協力:ぺリュトン

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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