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聞いてみた・やってみた

ブラインドセーリングを知っていますか? 視覚障害者の栗原さんと体験してきました

海の上にヨットが3漕あり、海が太陽できらめいている様子。

ブラインドセーリングという競技をご存知でしょうか?視覚障害者と晴眼者が協力してヨットを操船するスポーツです。ブラインドセーリングは視覚以外の情報として、風の方向や波を身体で感じることが求められるスポーツです。視覚障害があっても、いやむしろ視覚障害があるからこそ楽しめるスポーツのひとつかもしれません。

今回はそんなブラインドセーリングを楽しむためのヨットクラブであるNPO法人日本視覚障害者セーリング協会(以下、JBSA)へ、視覚障害者の栗原梢さんと一緒に体験へうかがいました。

ヨットハーバーを背景に、三人が並んでいる写真
写真左から、JBSA副理事長の殿垣内(とのがいち)さん。JBSAの副田(そえだ)さん。体験者の栗原さん

船の上に「本当の共生」があると思った。(JBSA 副田さん

栗原さん「これまでブラインドサッカーやゴールボール、柔道などさまざまな競技を経験してきましたが、ブラインドセーリングははじめてです。どんな体験になるのか想像がついていませんが楽しみですね」

体験当日は、朝9時に東京都江東区の新木場駅に集合しました。体験場所である夢の島マリーナまでは新木場駅からシャトルバスが出ているため、JBSAの殿垣内さんと副田さんの案内のもと移動しました。

セーリングで大事なことは、風をつかむこと。ブラインドセーリングでは、視覚障害者と晴眼者が役割分担をして、風をつかみにいきます。ヨットの進む方向をコントロールする舵取りと、速度などを調整する大きな帆の操作は、ブラインドと呼ばれる視覚障害者が担当します。ヨットの前方にある小さな帆の操作と、ブラインドの目の代わりとなって情報提供や操縦のサポートを行う船長の役割はサイテッドと呼ばれる晴眼者が行い、両者が協力してヨットを進めます。

JBSA 副田さん「私自身は晴眼者でセーリングの経験もなく、たまたま視覚障害者の知人についていき、JBSAの体験会に参加したんです。周りが見える私よりも、ずっと巧みに風を操ることができるブラインドの方が多くいらっしゃいます。そういう方から教えてもらううちに、船の上には本当の『共生』があるんだなと思ったんです」

今回取材を行ったJBSAでは、国内レースや国際レースへ参加するなど競技活動行いながら、デイクルージングを楽しむこともできます。

座っているだけでも体幹を鍛える感覚があり、おもしろい(栗原さん)

乗船前に、参加者全員がヨットを囲んで撮影した写真。
体験会当日に乗船したJBSAのみなさん

取材当日は晴れ、最高気温は30度と天気に恵まれましたが、風が強く吹いており風速10メートル程度と、はじめてのセーリングにしては、ややスリリングな環境でした。JBSAの殿垣内さんによると、セーリングを体験する場合、風速5~7メートル程度がおすすめとのこと。風が弱いとヨットを進めることが難しく、かといって風が強すぎると危険であるためです。

栗原さん「時折、水しぶきが船内までかかることもあり、アトラクションのような気分ですね。船に乗りなれていないのもあり、ただ座っているだけでも体幹を鍛えるような感覚もあり、おもしろいですね」

今回は、私たち体験者以外に、JBSAの会員8名(うち5名がブラインド)が、東京都江東区の夢の島マリーナから乗船しました。乗船したヨットは全長約8メートル程度、船上には帆を張るためのロープや道具が随所に置かれていましたが、ブラインドの方も、慣れ親しんだ家のように、どこに何があるかを把握して出航の準備を進める様子が印象的でした。

今回乗船したヨットには、エンジンが搭載されており、出港してからセーリングができる場所まではエンジンで進みます。帆をあげて、エンジンを切ってからは、風の力だけを動力にして走りました。

ヨットの舵は、前方に車のような車輪状のハンドルがついているのではなく、船体の後方から伸びた舵棒を左右に動かして操作します。舵が進みたい方向と逆に向ける必要があり、たとえば右へ行く場合には左側へ舵を向けるようにします。

船を操縦するテイラーを握っている写真。

一見シンプルな操縦方法ですが、ヨットは風の力で走るため、常に風の方向をつかみながら進みたい方向へ操縦する必要があります。風の方向を読み間違えると、進みたい方向に進めないばかりか、船の種類によっては転覆してしまうこともあります。反対に、風をしっかりとつかむことができると、風を動力にして気持ちのいいスピードで走ることもできるのです。セーリングの魅力のひとつに、こうした自然を身体で楽しむことが挙げられると思います。

自然条件を身体で把握するのが新鮮(栗原さん)

セーリングを体験する栗原さんと、指導してくださったJBSA・副田さん。
セーリングを体験する栗原さんと、指導してくださったJBSA・副田さん。

沖に出てルートを確保したタイミングで、JBSAの副田さんのガイドのもと、栗原さんが舵取りを行いました。これまでブラインドサッカーやゴールボール、柔道などさまざまな競技を経験してきた栗原さんも、はじめてのブラインドセーリングは一筋縄ではいかない難しさとおもしろさがあったとのこと。

栗原さん「風や波などの自然条件を身体で把握するということは新鮮でした。風の方向をつかむことができたと思う瞬間もありましたが、次の瞬間には見失ってしまい、習得するには時間が必要だなと思いました。ただ、副田さんはじめJBSAのみなさんの楽しい雰囲気もあり、充実した体験になりましたね」

栗原さんの言葉の通り、取材当日は波も高く緊張感のある環境でしたが、船上ではJBSAのみなさんがチームワークを発揮し安定した操船を行なっていました。また、波を感じながらのんびりと談笑することも、活動の魅力のひとつだと感じました。

JBSAは現在、東京・神奈川・東海を拠点に70名以上の会員が所属しています。ベテランから初心者の方まで幅広く在籍しており、体験を幅広く受け入れています。風を身体で感じるスポーツ、ブラインドセーリングに興味をもった方はぜひ体験してみてはいかがでしょうか?

NPO法人 日本視覚障害者セーリング協会 JBSA(外部リンク)

取材・執筆・写真:加藤夏海
取材協力:栗原梢