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ストーリー

「アプローチ次第で私たちが優しい社会を作っていける」大川和彦さん

満面の笑顔でお話する大川さん

今回お話を聞かせてくれたのは千葉市中央図書館で働く大川和彦さんです。
視覚障害に関する意見交換を行う馬場村塾の塾長として、多くの視覚障害当事者たちに必要な情報を届けようとする大川さんの熱い気持ちをお話いただきました。

略歴

1970年千葉県生まれ。生まれつきのロービジョンで、盲学校を経て理療科へ進学。卒業後は、病院で勤務した後、千葉市中央図書館に転職する。
40歳を過ぎたころ網膜剥離を起こして全盲となり、その後、国立障害者リハビリテーションセンターで生活訓練を受けて復職。視覚障害に関する意見交換を行う馬場村塾の塾長も勤める。

インタビュー

分かりやすい発信が「楽しい」につながる

ー馬場村塾とはどのような集まりなのでしょうか。
馬場村塾は、月に一度、高田馬場近郊で開催している視覚障害当事者や支援者たちの意見交換会です。
全員が自己紹介をした後、約1時間程度、プレゼンターがテーマに沿ってお話します。その後、ディスカッション形式で自由に意見交換をするという流れで行っています。終了後、希望者で懇親会も行っています。

ー大川さんはいつから塾長をやっているのですか?
馬場村塾自体は2015年4月に始まり、私はこの年の7月に初めて参加しました。
その時に「次、プレゼンターをやりたい人」と言われまして、他に希望者がいなかったこともあり、早速8月にプレゼンさせていただきました。
2018年の年明けくらいから塾長にならないかとお声かけいただき、引き継ぎ期間を経て、春から塾長になりました。
塾長と言ってもやることは変わらず、偉いわけでもなんでもないんですけれど。みんなフラットに意見を言い合える集まりになっています。

ー馬場村塾で大切にしていることは何ですか?
馬場村塾のコンセプトは、「自由な発信 楽しい交流」です。プレゼンターにお話いただくテーマは特に縛りがあるわけではなく、基本的に自分が発信したい内容をお話いただきます。それを元にディスカッションするため、事前に打ち合わせをしていた内容と違った視点で盛り上がることもあります。
また、メーリングリストにも300人近い方が登録いただき、普段から活発に情報交換が行われています。
人は誰でも承認欲求があると思うので、幅広く自分のことを発信していければいいのかなと思っています。

ー塾長として、会の中で意識していることはありますか?
なるべく全員に1度は声を出してお話してもらうようにしています。
あと、視覚障害者の世界だけで使用される略語は使わないよう、お願いしています。例えば「にってん」は日本点字図書館のことですが、私たちが当たり前に使っていても、初めて聞く人には分からない言葉がたくさんあります。
会の様子を動画で撮影してYouTubeで公開しているのですが、例えば小学生や視覚障害者の周りの人など、ちょっと関心を持ってくれた人がたまたまこの動画を見たときにも分かるように心がけています。
誰かを置いてきぼりにしないような分かりやすい発信が参加者の「楽しい」につながるのかなと考えています。

軽く腕を組みながらお話する大川さん

たくさんの情報に触れるために

ー大川さんとは馬場村塾以外でも色々なイベント会場でお会いしますよね。
そうですね。国リハに入所した直後、所沢市で視覚障害リハビリテーション協会の全国大会が開催されました。そこで歩行訓練士や眼科医などの色々な勉強会があって、視覚障害者でも参加できることを知りました。
そのあと、色々な勉強会に行きまくるのですが、どこに行っても必ずいる人がいたのです。「そういう人がいるということは必要性があるのだろう。自分もそうしよう。」と思ったのをきっかけに、今も積極的に参加しています。

ーその中で感じることはありますか?
視覚障害者の間で情報共有がされていないことが多いなと思います。全員が自分から情報を得られるわけではありませんし、自分から情報を得ている人も普段とは違うコミュニティで有益な情報が流れていることがあります。
もっとうまく情報が共有出来れば、同じ方向を目指す人達が出会えるかもしれません。
大切なことは、必要な情報になるべく苦労せずにたどり着けることだと思います。そのためには誰もが恥ずかしがらず、気軽に情報交換できる場所が増えればいいなと感じます。

ー馬場村塾としてこれからやりたいことはありますか?
馬場村塾のような集まりを高田馬場だけでなく全国の色々な場所で開催したいです。まだ詳しいことは決まっていませんが、来年あたりに東北での開催を考えています。
地方では馬場村塾のような集まりが少なく、「関東はいいな」と言われることもあります。少人数でもいいので、首都圏以外でもこういった会ができるといいですね。

能動的に社会に混ざる

真面目な表情でジェスチャーを交えながらお話しする大川さん

ー馬場村塾を知らない視覚障害者へメッセージがあればお願いします。
視覚障害の有無に関係なく誰でも参加していただきたいのですが、その中でも特に、見えなくなりかけている人で情報が無いなあと感じている人にぜひ来て欲しいですね。
「勉強会に行くぞ」という堅苦しい感じではなく、興味があるテーマの時に気軽に来て、色んな人と繋がるきっかけにしてもらえたら嬉しいです。

ー社会に向けて伝えたいことがあれば教えてください。
視覚障害者はどうしても「あの制度をこうしてほしい」とか「あれを安く買えるようにしてください」と社会にお願いをすることが多くなります。
もちろん必要なこともあるのですが、私たちはお荷物扱いされるだけでなく、能動的に社会に混ざることで周りの人に気づきを与えられることもたくさんあると思っています。そのためには、私たち視覚障害者が積極的にアピールしていく必要があるのです。

ー具体的にどのようなことが必要なのでしょうか?
近所の人に挨拶をするなどの小さなことでいいと思います。
私たちが出来ることをやっていく。そういう事例の共有を馬場村塾でも行いたいです。
アプローチ次第で私たちが優しい社会を作っていけると考えています。そう思えば、混雑する駅や街中で、我が物顔で白杖を振り回すように使ったりせず、周りの声かけに対しても優しく対応できるはずです。
そんな風に考えているので、健常者の皆様も「障害者ってどんなことを考えているのかな」「友達になってみたいな」と思う方はぜひ馬場村塾に参加してみてください。
関心を持ってもらうことがスタートだと思うので、気軽に参加して視覚障害者のことを知ってもらえたら嬉しいです。

馬場村塾に参加しました

会の冒頭、挨拶をする大川さん

6月8日土曜日、東京都新宿区にある下落合図書館で行われた馬場村塾にお邪魔しました。
都内はもとより、千葉県、埼玉県、神奈川県からも参加者が集まり、総勢32名。図書館職員も5名加わり、会場は満員でした。

テーマ

楽しく、可愛く社会に混ざる
~みんなでインクルーシブを考える~

「視覚障害者=かわいそうな人」ではなく、お互いに楽しく可愛くどのように社会と関わるかをテーマにディスカッションが行われました。

内容

進行役は塾長の大川さん。
今回はファシリテーター(調整役)として田中恵さんをお迎えして、話が進みます。色々なお話の中から、少しだけご紹介します。

大川さん(左)と田中さん(右)を中心にアップで撮影した画像

視覚障害者の情報発信について

現状の課題は、社会が視覚障害者について知らないことと、視覚障害者同士でも情報共有がされていないこと。それをなくすためには、視覚障害者から積極的に情報発信する必要があるという意見は多くの方から聞かれました。

東京オリンピックパラリンピック

本日の参加者の方々が、どんな形で来年のオリンピックパラリンピックに関わりたいかという問いかけがありました。せっかくなので何らかの形で関わりたいと思っている視覚障害当事者は多いようです。
様々な場面で音声ガイドが充実してきているという話が出た一方で、オリンピックの申し込みの際に電話番号での認証が必要になり、視覚障害者が一人で行うのは難しかったという体験談もありました。

どうやって可愛く混ざるか

今回のテーマにもなっている、「可愛く社会に混ざる方法」と実現するためには何が必要なのか。
街の人は、ほとんどが視覚障害者と関わったことがない人ばかりだそうです。そんな人達にとっては、接し方ひとつで視覚障害者に対してのイメージが決まってしまいます。言動には注意して、笑顔で好感度の上がる話し方を心がけることが大切です。声で笑顔を表現する「笑声(えごえ)」がポイントだという話が印象に残りました。

まとめ

積極的に自分から発言される方や皆さんの意見に熱心に耳を傾ける方、色々な方がいましたが、全員が1度は何かしらの形で発言されていました。
大川さんの「出来るだけ参加者全員に話をしてもらいたい」という思いが体現されており、これがまさに「自由な発信 楽しい交流」なのだと感じました。
終了後、多くの方が懇親会に参加していました。私たちは参加できませんでしたが、まだまだ尽きない話で盛り上がっていたのかと推測します。
今度は懇親会までのフルコースで参加したいです。

次回以降のご案内

7月と8月の馬場村塾のご案内です。

なんと、8月の馬場村塾ではSpotliteの高橋がプレゼンします。まだ申し込みは開始していませんが、Spotliteのサイトを見た方からの問い合わせは特別先行予約となります。ぜひご参加ください。

7月15日(月)14時~16時30分

<テーマ>
共生社会に向けて!
視覚障害者がやれる事、やるべき事

<プレゼンター>
嵯峨野新次 氏

<場所>
新宿リサイクル活動センター 2階集会室
〒169-0075 新宿区高田馬場4-10-2

高田馬場駅より徒歩2分程度です。駅からの誘導も可能です。
誘導希望の方は、申し込み時にお知らせの上、13時45分にJR高田馬場駅戸山口改札付近にお越しください。

<定員>
30名

<申し込み>
大川 和彦
メール:tqj00070@nifty.com
携帯電話:080-5681-9852

8月31日(土)13時~15時

<テーマ>
視覚障害とWebメディア
情報発信の可能性と課題

<プレゼンター>
Spotlite発起人 高橋昌希 氏

<場所>
専修大学サテライトキャンパス スタジオA
〒214-0014 
神奈川県川崎市多摩区登戸2130-2 アトラスタワー向ヶ丘遊園2階

小田急線向ケ丘遊園駅、北口より徒歩1分。
誘導希望者は申し込み時に記載の上、12時40分に北口改札にお越しください。
※向ケ丘遊園駅は急行停車駅で新宿からおよそ20分です。

<定員>
30名

<申し込み>
大川 和彦
メール:tqj00070@nifty.com
携帯電話:080-5681-9852

この記事を書いたライター

下田ゆかり

1985年神奈川県生まれ。警備業に10年以上従事していたが、28歳の時、交際相手が視覚障害者になったことをきっかけに、ガイドヘルパーの仕事を始める。同行援護従業者養成研修一般過程・応用過程修了。介護職員初任者研修修了。

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下田ゆかり

1985年神奈川県生まれ。警備業に10年以上従事していたが、28歳の時、交際相手が視覚障害者になったことをきっかけに、ガイドヘルパーの仕事を始める。同行援護従業者養成研修一般過程・応用過程修了。介護職員初任者研修修了。

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