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編集部から

みつきエキスポ、開催しました!視覚障害者も晴眼者も楽しめるイベントを、今後も開催します

みつきエキスポ内トークショーの様子。ステージにみつき代表高橋さん、ガイドヘルパーの西さん、野口さんが座っている。

2024年4月29日、東京の池袋にある「イケビズとしま産業振興プラザ」にて、Spotliteの運営会社、株式会社mitsuki主催でみつきエキスポを開催しました。ゴールデンウィーク中の祝日でしたが、約200名の方が来場しました。

この記事では、ライターの遠藤が当日の様子をレポートします。

幅広い年代層のヘルパーが所属する、元気な事業所みつき

株式会社mitsukiは、視覚障害者の外出を支援する福祉サービス「同行援護」の事業所を運営しています。今回のみつきエキスポを開催した理由について、代表の高橋昌希さんに聞きました。

高橋さん「今回のイベントを通して、みつきを利用している方にもそうでない方にも、事業所の雰囲気が伝わればいいなと考えました」

厚生労働省の調査結果によると、ヘルパーの平均年齢は54.3歳。60歳以上のヘルパーが約4割を占めています。

しかし、みつきのヘルパーは10代から70代まで幅広い年齢層の方が偏りなく在籍しています。また、本社の運営メンバーは20〜30代が中心です。

高橋さん「みつきは若年層のヘルパーも多数在籍しています。また、年代を問わず元気で明るい方が多いのも特徴です」

今回のみつきエキスポでは、トークショー、ビンゴ大会、ブース出展などが用意され、多くの方が来場されました。順番にご紹介します。

トークショー「甲子園を目指した僕がアイドルヘルパーになるまで」

「野口勇太さんはみつきのヘルパーの中でも、リピート率も指名率もナンバーワンだと私は思います」

トークショー内で、同僚の西美月さんからそう言われて、野口さんは「ありがとうございます」と恥ずかしそうに笑います。

野口勇太さんは、同行援護従業者の資格を約2年前に取得しました。その後、みつきでガイドヘルパーを始め、今では「アイドルヘルパー」と呼ばれるようになりました。

トークショーで、マイクを片手に笑顔で話す野口さんと高橋さん。

野口さんについて、高橋さんは次のように紹介しました。

高橋さん「みつきに登録しているヘルパーの中でも、野口さんは、利用者さんから『次も一緒に出かけたい』と言われる象徴的な存在です。みつきにはたくさんの素晴らしいヘルパーさんが在籍しており、その代表として皆さんにご紹介したいと思い、このトークショーを企画しました」

一緒に野球をしていた幼馴染がレーベル病に

野口さんは男3人兄弟の長男で、茨城県で育ちました。家の庭や公園を走り回ってはケガをして帰ってくるような子どもだったといいます。両親からは「困っている人がいたら助けなさい」「人とはフェアに接しなさい」と言われていました。そのことが、ガイドヘルパーの仕事にも活きていると言います。

小学校2年生から野球を始め、県内でも強豪の公立高校に進学。真剣に甲子園を目指していました。

そんな野口さんが、はじめて視覚障害者と接したのは中学時代のこと。幼馴染で一緒に野球をしていた友人が、レーベル病を発症したことがきっかけでした。レーベル病は、発症すると視力低下や視野の欠損が起こります。

ある日、その幼馴染から「最近、野球でスランプになっている」と相談をされました。「見えにくい」ということも話していましたが、「それは言い訳なんじゃないか」と冷たく言ってしまったと、悔やむように語ります。

野口さん「その相談の後のことです。試合中に彼の方に打球が飛んで行きましたが、彼は立ったまま何もせずにいました。それを見て、彼が『見えない』と話していた意味が、はじめて分かりました」

病気が進行していく中で、幼馴染は学校に来なくなった時期もありました。野口さんは会いに行ったり、病院に付き添ったりしました。

野口さん「当時は、接し方がよくわかっていなくて知識もなかったので、『将来どうやって暮らしていくのかな』と、心配する気持ちのほうが強かったです」

マイクを持って、笑顔で話す野口さん。

直接、人の役に立つ仕事がしたい

中学校を卒業し、野口さんと幼馴染は別々の進路に進みました。高校を卒業した野口さんは、社会人野球チームがある企業に就職をしました。

やがて「製品を通してではなく直接人の役に立つような仕事をしたい」と思うようになりました。その時、その視覚障害者の幼馴染がガイドヘルパーという仕事があることを教えてくれました。

しかし、資格取得の研修の時には不安の方が強かったと言います。

野口さん「命にも関わる責任重大な仕事で、自分に務まるか不安でした。当時は自分が同行援護をやる姿がイメージできなかったです」

みつきでのはじめての同行援護の依頼は、ブラインドサーフィンのヘルパーでした。もともと趣味でサーフィンをしていた野口さんは、「ブラインドサーフィンはどのようにやるのだろう」という興味もありました。海に入ってサーフボードの上に立ち、心から楽しそうに笑う利用者さんの姿を見て「今、幸せなんだろうなあ」と実感しました。

最近では、利用者さんに誘われて「ブラインドゴルフ」の大会に、バディとしてチームを組んで参加をしました。ガイドヘルパーの役割は、ボールを置いたり、打つ角度やボールが飛んだ方向などを口頭で伝えることです。

野口さん「利用者さんの熱い思いを聞いて、一緒に出ましょう、と。1か月以上一緒に練習をして、今年の4月に初出場して初優勝しました。本当にうれしくて、利用者さんと二人で大喜びしました」

アイドルヘルパー野口さんの魅力

みつきのアイドルヘルパーの“先代”は西美月さん。トークショーの後半では西さんも登壇しました。

西さんは、大学在学中にガイドヘルパーの資格を取得しました。同行援護の経験を重ねていく中で、徐々に楽しくなっていき、現在は運営メンバーとして、みつきに関わっています。西さんも、日常の買い物等の同行援護のほかに、ブラインドサッカーやブラインドセーリングなど、多くのスポーツイベントにヘルパーとして同行しました。

そんな西さんから見て、野口さんのヘルパーぶりはどうなのでしょうか。

西さん「会場にいる方は感じていただけると思いますが、野口さんは、まず人柄が明るいです。利用者さんが『野口さんに依頼してよかった、次も野口さんと出かけたい』とよく話してくれます。利用者さん同士の横のつながりもあって、その中でも『野口勇太さんのサポートは最高だ』という話が出ていると聞きます。ただ、野口さんはとてもやさしいので、同行援護の制度の範囲を超えた支援を善意でしてしまわないか、心配もしています」

この指摘には野口さんも「気を付けます」と真剣に応えていました。

トークショーの最後に、野口さんはガイドヘルパーとしての理想像について、こう話してくれました。

野口さん「安全確保や情報提供をきちんと行うことはもちろんですが、利用者さんの伝えたいことをしっかりと聞き、尊重していきたいです。そして、一緒にいる時間を大事にして、穏やかな時間を作れたらいいな、というのが僕の理想像です」

その後の質疑応答では、「似ていると言われる芸能人は誰ですか?」「利用者に聞いてみたいことはありますか?」など次々に手が上がりました。視覚障害者やそのご家族、ヘルパー、みつき運営スタッフとのコミュニケーションの機会になりました。

「趣味を増やしたいので、これから同行援護を利用していきたいです」ビンゴ大会も開催

ビンゴカードを見ながら笑顔で話す、スタッフ一人と参加者二人の様子。

「次は、43番です!」

「ない!」「あった!あった!」

ビンゴ大会は、大盛り上がりでした。景品は、スターバックスカードやAmazonギフトカードが用意されました。

ビンゴには、視覚障害者も晴眼者も一緒になってコミュニケーションを楽しめる仕掛けが含まれています。

高橋さん「ビンゴを選んだ理由は、ルールが簡単であることと、カードが触ってわかりやすいこと、さらに見えない人のカードは、近くにいる人が番号をお伝えすることで、自然なコミュニケーションが生まれることもメリットだと考えています」

見えない方や見えにくい方は、支援者が番号を伝え、ご自身でカードに穴を開けていきます。

青いTシャツを着た4歳くらいの女の子に、目の高さを合わせて景品を渡すヘルパーの野口さん。

見事にビンゴになった方には、マイクが手渡され、一言ずつお話ししてもらいました。

「みつきさんの同行援護が良いと聞いて、今日はお友達と遊びにきてみました」

「趣味を増やしたいので、これから同行援護を利用していきたいです」

「3月から副業でガイドヘルパーを始めたばかりです」

参加者のみなさんにいろんなバックボーンや思いがあることがわかり、トークショーに続いて非常に有意義な交流の機会となりました。

またイベントを企画するので、ぜひ遊びに来てください!

株式会社mitsukiの代表で、Spotliteの編集長でもある高橋さんに、みつきエキスポ終了後にお話を聞きました。

高橋さん「来場者に『このようなイベントはよくやられているのですか?』と、聞かれたのですが、実は初めてです(笑)。

また、『活気があって驚きました』『応援したくなりました』というお声もいただきました。ご家族、ご友人を誘ってお越しになった方が多く、『紹介したい』と思っていただけたことも嬉しかったです」

今回のみつきエキスポにとどまらず、今後も新しいイベントを定期的に開催したいと考えているそうです。

高橋さん「この数年、視覚障害者の間でもオンラインのコミュニケーションが一気に浸透しました。ただ、今回のイベントでは、対面で話をする価値を強く感じました。

同行援護では、ガイドヘルパーと利用者さんは現地集合、現地解散でサービスを提供します。ヘルパーも利用者さんも、私たち運営メンバーと接点を持つ機会が非常に限られています。

このようなイベントに集まり、対面で話す機会があると、お互いをよりよく知ることができます。その結果、日常のやり取りで少し優しくなれる。そんなことにつながればいいなと思っています。今後も、このような場を定期的に作りたいと考えています。

また新しいイベントを企画するので、ぜひ遊びに来てください!」

掲示してある資料を指さしながら説明する女性と、熱心に聞き入る白杖を持った男性。
Spotliteが応援するアスリート、アーティストを紹介する展示コーナーも好評でした。
触覚書道の文字「島」と「紀」を手にして楽しそうな男性と女性。
触覚書道刻字協会のブース。筆に特殊な液をつけて発泡スチロールに書くことにより、書いた部分がすぐに凹んで、どんな字を書いたかが触ってわかる。
ブースでポーズをとるスタッフと視覚障害者のメンバー5人。
「視覚障害者だってバスケができる!」を合言葉に活動中の新しいスポーツ、ブランドニュー・バスケの紹介コーナー。
「小汐唯菜」と書かれたパネルの前で笑顔でポーズをとる小汐さんともう一人の女性。
東京パラリンピックの開会式で歌を披露した小汐唯菜さんも参加してくださいました。
サングラス姿の清水さんを中心に、両側に男女のみつきスタッフがいる。全員笑顔。
視覚障害者で演歌歌手の清水博正さんと、みつきスタッフで記念撮影。

取材・執筆:遠藤光太
執筆協力:aki
記事内写真撮影:Spotlite