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“見ても見なくても見えなくても楽しめる”。大学生が作ったユニバーサルボードゲーム「グラマ」の体験会を開催しました

参加者がグラマを楽しむ様子
記事内写真撮影:Spotlite

大学生の作った“ユニバーサルボードゲーム”が、クラウドファンディングで1,126,000円もの支援を集めました。
ボードゲームの名前は「グラマ」。“見ても見なくても見えなくても楽しめる”をコンセプトに、大学生の団体・Blined Project (ビーラインドプロジェクト)が制作しました。

目標金額を達成したクラウドファウンディングのサイト(外部リンク)

Spotliteを運営する株式会社mitsukiは、Blined Projectと協力し、グラマの体験会を開催しました。今回は、体験会の模様をレポートします。

視覚障害者も晴眼者も、ごちゃまぜで楽しめる

2022年6月某日。会場で行われているのは、ボードゲーム「グラマ」の体験会です。4人ずつ、5つのテーブルに分かれたグループには、視覚障害者も晴眼者もごちゃまぜに座っています。
グラマは、触感と表現力を頼りに、それぞれが持つ袋の重さを揃えるボードゲームです。

まず参加者1人ひとりに、中身の重さが異なった袋が配られます。お題に合わせて自分の袋の重さを表現し、メンバーに説明します。今回は「小学校にあったもの」というお題。

「蛍光ペンが5,6本入った筆箱かな」
「机に入っている空の道具箱!」
「彫刻刀のセット……?」

それぞれの記憶が刺激され、かつて持ったことのある「小学校にあったもの」の重さを思い浮かべていきます。みんなが出した表現のなかで、このグループは「文鎮にしよう」と決めました。さらにコミュニケーションが深まっていきます。

「安っぽい文鎮」
「1本タイプ?2本タイプ?」
「2本タイプのうちの1本!」

それぞれが言葉を参考に、おもりを出し入れして、自分の袋の重さを調整します。

箱に入れられたボール型のおもり
おもりを袋に出し入れして、重さを揃えます

それぞれが自分のイメージする文鎮の重さの袋を作れたようです。天秤に載せて手を離し、重さが釣り合えばクリア、崩れてしまうと失敗です。そして緊張の瞬間……。

クリアして喜んでいる参加者の4人
天秤から手を離す瞬間に息を呑みます

4人の重さが見事に揃い、クリア!天秤が安定した様子を感じたみなさんは、笑顔と拍手に。

グラマには、勝ち負けはありません。重さが揃っても揃わなくても、みんなでコミュニケーションを取り、ひとつの目標に向けて楽しく取り組むことで、「楽しさの垣根」がなくなっていきます。

「ありがとうの重さ」とは……?

お題には、「小学校にあったもの」のように、日用品などの物理的な重さだけでなく、「ありがとう」や「悲しさ」など、抽象的な概念もあります。例えば「親友が誕生日プレゼントをくれたときのありがとうの重さ」というように、手元の袋の重さを、自分の体験に置き換えて表現するのです。

たくさん質問をして、コミュニケーションを取らなければクリアできない仕掛けなのが、グラマのおもしろいところ。

クリアした天秤を囲み、拍手する参加者
こちらのグループもクリア!

お題「爽快感の度合い」では、サウナの話で盛り上がりました。
「1回目のサウナのあと、水風呂に入ったときの爽快感!」と声が上がると、ほかのサウナ好きの方からは、「水温は何度の水風呂ですか?」と質問が。質問を重ねて、抽象的な概念の重さを揃えていきます。

Blined Projectの副代表・三浦輝(みうらひかる)さんが、感想を教えてくれました。

「サウナのあとに水風呂に入ったときの爽快感の話が出て、僕はサウナに行かないのでよくわからなかったんですけど(笑)。でも、話していくうちにみなさんが通じ合っていて、共通の話題が見つけられるゲームだと新たに発見することができました。すごく嬉しかったです」

ほかにも、「緊張の度合い」「え、それヤバくね?の度合い」など、幅広いお題でみなさんがグラマを楽しんでいました。

4人のメンバーが話し合っている
よくコミュニケーションを取ることがグラマの楽しさです

大学生が集まり、ユニバーサルボードゲームを開発

Blined Projectは、大学生5人で結成されたグループ。別々の大学に通うメンバーが集まって立ち上げました。グラマを通して、「楽しさの垣根のない世界」の実現を目指しています。

クラウドファンディングで、1,126,000円、目標額の281%が集まったことから、期待の高さが窺えます。

Blined Projectの林かりんさん、浅見こうすけさん、三浦ひかるさん
Blined Projectの(左から)林かりんさん、浅見幸佑さん、三浦輝さん

代表の浅見さんがプロジェクトを立ち上げたきっかけは、大学で受けた福祉関係の講義でした。視覚障害者の生活について学び、衝撃を受けたそう。浅見さんが覚えているのは、服の選び方でした。その彼女のクローゼットは、左から順に白から黒に移っていくグラデーションになっていて、色を置き場所で知るのです。

それまで視覚障害者と接する機会のなかった浅見さんは、講義を経て、視覚障害者と晴眼者が楽しく遊べるコンテンツが不足していることに気づきます。

浅見さんの課題意識に共感した仲間が集まり、Blined Projectが始まりました。

今回の体験会を、浅見さんが振り返ります。

「今回は僕の友達も来てくれていました。視覚障害者と関わったことがほとんどなかったようですが、一緒に楽しんでもらえたのが嬉しかったです。楽しんでゲームをしていくなかで、小さな助け合いが生まれていて、お互いを知ることもできて、グラマの可能性を感じることができました。楽しみながら相互理解を深められる様子を見るのは嬉しいですね。

グラマの改善点も確認できました。ボール型のおもりが転がっていってしまう場面があったので、これからはキューブ型のものも検討していきたいと考えています」

4つの袋の重さが釣り合った天秤
重さが揃えばクリア!

参加者の三好直人(みよしなおと)さんにお話を伺いました。三好さんは、視覚障害の当事者です。

「網膜色素変性症で、右の視力0、左は中央から5度の視野と視力がない状態です。わかりやすく言うと、あのトイレットペーパーの芯を覗いているような見え方です」

白杖を持って立つ三好直人さん
三好直人さん

「グラマをやってみて、いろんな人とつながれる良いゲームだなと思いました。チームワークが試されるゲームでしたね。ひとつのお題に対して、みんなでディスカッションをして重さを揃えていくのはすごく楽しい。サウナの話題で、結果的に重さが揃って、クリアできたときはめちゃくちゃ盛り上がりました。

僕は、袋やおもりはピントが合ったときに少し見える程度でした。最後、天秤に袋を載せるときには場所がわからなかったんですけど、手で誘導してくれたりしてサポートしてもえたのはやりやすかったです。ジャンケンは口で言いましたね。視覚障害者もやりやすくて、楽しめるゲームだと思いました」

Blined Projectによるユニバーサルボードゲーム「グラマ」の開発と体験会は続いていきます。

Blined ProjectのウェブサイトやTwitterで、情報をチェックしてみてください!

Blined Projectのウェブサイト(外部リンク)

以下、Blined ProjectのTwitterです。最新情報は下記をご覧ください。

この記事を書いたライター

遠藤光太

1989年生まれ。ライター、編集者。26歳で自身が発達障害の当事者だと知ったことをきっかけに、障害全般、マイノリティ全般に関心を抱く。執筆分野は、社会的マイノリティ、福祉、表現、コミュニティ、スポーツなど。著書:『僕は死なない子育てをする』(創元社)。

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遠藤光太

1989年生まれ。ライター、編集者。26歳で自身が発達障害の当事者だと知ったことをきっかけに、障害全般、マイノリティ全般に関心を抱く。執筆分野は、社会的マイノリティ、福祉、表現、コミュニティ、スポーツなど。著書:『僕は死なない子育てをする』(創元社)。

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