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ストーリー

出不精だった私が、視覚障害者のガイドヘルパーになって「おでかけ」するようになった話

海辺のレストランのテラス横の席で、海を眺めている、黒いキャップをかぶった大塚さん。

Spotliteが運営する、同行援護事業所みつきのガイドヘルパーである“みーちゃん”さん。「石橋を叩いて叩いて渡らない性格」と言う“みーちゃん”さんが、どんなきっかけでガイドヘルパーになったのか。そして、ガイドヘルパーをやっていて気づいたこととは。ご自身の変化について、体験記を寄稿してくれました。

水族館のお土産ショップで、シャチの被り物を試着して満面の笑みの大塚さん。
ガイドヘルパーの“みーちゃん”さん(写真提供:みーちゃん)

人見知りの私が、気づいたら研修を受けることに

ガイドヘルパーをしているみーちゃんです。

私と「同行援護」の出会いは、視覚障害者である元パラアスリートYさんと仕事先で知り合ったことでした。

Yさんの「受けたらいいよ!」という軽い一言で、研修を受けることになりました。正直なことをいうと、当時は「どうやって断ろう……」という気持ちでいっぱいでした。

なぜなら私は、極度の人見知り、怖がり、石橋を叩いて叩いて渡らない慎重派の、どちらかと言えばインドアタイプの人間なのです。

研修で関わる方々、その先に待っている利用者の方々、予想される新しい出会い……新しいことを想像するだけで、引きこもり体質の私がむくむくと出てきます。私はいつものごとく石橋の手前でのんびり向こう側を見ているはずでした。

ところが、行動力がありまくりのYさんに背中をグイッと押され、気付いたら研修会場にいたのです。そうして踏み出した一歩が、私を大きく変える一歩になるとは、このときはまだ思ってもみませんでした。

そんな出不精だった私が、同行援護をきっかけにどのように変わっていったのかをお伝えします。

出不精で培った「想像力」が同行援護に役立った

机の上に置かれた「同行援護従業者養成研修テキスト第4版」。

私は、2024年3月に同行援護従業者養成研修を受けました。

実際の研修は、想像していた通りドキドキの連続で、緊張し続けていたように思います。

いろいろな理由や境遇、年齢、職業の方々が集まって学び、同行援護で重要なことを議論したり、視覚障害について考えたりしました。

実際のお店を使う、電車に乗るといった実践の時間は、ガイドをする利用者さんの命を預かっているという事実を実感させられる時間でした。

無事に研修を終えて、最初の依頼を受けるまでもかなり時間を要し、依頼内容とにらめっこすること2~3時間……。おでかけ当日の様子を何度も想像して、できるかどうか不安な気持ちは変わらないままでしたが、意を決して「受ける」のボタンを押しました。

悩みに悩んでお受けしたご依頼は、私の背中を押してくれたYさんで、私の同行援護デビューはとても温かい環境の中で終えることができました。

 恥ずかしながら、研修を受けるまでの私の視覚障害者に対するイメージは、単に「視覚に障害がある人」という程度でした。

白杖を持って歩く様子は街の中で見ます。でも、その白杖がどのような使われ方をするのか、点字ブロックを歩くとどのように感じるのかなど、想像したことはほとんどありませんでした。

Yさんとおでかけをした際に、言われた言葉があります。

「もし自分だったら……ということをいつも考えられたらいいかもね」

この言葉は、初めての同行援護以降、とても大事にしているものです。

時間をかけながら依頼を受ける中で、変化したことがあります。

「このおでかけ先ならこんな情報があったら嬉しいかも」「階段が苦手ならこのルートがいいかもしれないな」など、慎重派の私が、自分自身の不安を解消するために“想像して考え続けること”。それを利用者さんに置き換えて考えるようになったのです。

視覚障害者の「見え方」は千差万別です。おでかけの目的も、楽しむ方法も様々です。

一人ひとりに必要な情報や掛ける言葉を準備するのに、私の出不精が培った、想像力や熟考力が役に立ちました。

それが嬉しくて、「またお出かけできるといいな」と思うようになり、ガイドヘルパーを初めて半年以上が経った今では、ご依頼を受けるまでの時間が6割くらい減ったと思います(笑)

自分の体験も広がって、無理なく働ける同行援護

私は今、本業をやりながらお休みの日などに同行援護をしています。時間や場所によって受けられるときにだけ依頼を受けられるので、無理なく働くことができます。

依頼の内容は、イベント、研修、施設等の見学、スポーツなどの体験………と多種多様です。

本業と自宅を往復するだけの1週間に、自分1人では選ばないであろうお出かけ先に行く予定が加わるのは、とても刺激的です。同行援護を通して新たな発見や知識を得ることは、本業でも、普段の生活でも自分の糧になっていると思います。

同行援護を始めて気付いたことですが、私のように出不精の方でも、出てしまえば意外と大胆に行動できることもあるようです。外に出るきっかけとして、同行援護はかなり力になってくれるはずです!

今まで、いろいろな場所に行きましたが、その中で一番遠い場所が大阪でした。また、他のガイドヘルパーさんからの話では、海外に行かれている方もいるとか。ぜひ私も行きたいです!

もちろん関東でも、国内でも、行ったことのない場所、やったことのないこと、新しい体験を利用者さんと楽しみたいと思っています。また、読書や映画、音楽など、インドア派の私の好きなことが役に立つお出かけもしてみたいです。

同行援護をして気づいた、視覚障害者の日常にあるバリア

アーチ形の車両侵入防止用ガードパイプを手で確認しながら歩く白杖の女性。ガードパイプはたがい違いになるように、6つ以上設置されている。

実際におでかけをしたときに、ガイドヘルパーとして必要な情報だけでなく、いろいろな会話も楽しんでいます。その中で、利用者さんの考え方や思うことに、いつもハッとさせられます。

点字ブロックは、必要な道路上でも突然途切れてしまっていることがあること。

点字ブロックの場所によっては、滑って歩きづらいために使用をやめる人もいること。

電車のホームドアがどれだけ安心感を与えるものなのかということ。

電子化され便利になったけれど、タッチパネルだと希望する支払い方法が難しいときがあること。

公共交通機関での対応には、地域によって差があること。

「見る」見学以外に「触る」見学があるのがどれだけ嬉しいかということ。

その他にも様々なことに対して、利用者さんの隣で利用者さんと同じような感覚を持てたことは、私の世界を広くしてくれました。

私の周囲にいる晴眼者に尋ねると、視覚障害者の存在は知っていても、同行援護という福祉サービスは、まだあまり知られていません。同行援護という福祉サービスが、晴眼者にとっても当たり前の存在になるような社会になるといいなと思います。ぜひ、同行援護に興味をお持ちいただけると嬉しいです。

物理的にも精神的にも、世界は広いんだ!と思わせてくれたこの気持ちを、より多くの人にも味わってもらえると幸いです。

執筆:みーちゃん
アイキャッチ写真提供:みーちゃん
記事内写真撮影:Spotllite(※注釈のあるものを除く)

この記事を書いたライター

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Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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