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編集部から

課題や葛藤にも光をあてて、視覚障害者の生きた言葉を伝えたい。「Spotllite」を立ち上げたワケ【代表コラム】

池のほとりで、ガイドヘルパーと白杖の人が談笑している。

「視覚障害者のリアルな声を、もっと必要としている人に届けたい」

2019年、そんな思いから、私たちはWebメディア『Spotllite』を立ち上げました。

インターネットには情報が溢れ、学問的な知識や制度の概要を調べることが容易になりました。しかし、視覚障害者がどんな思いで日々を生きているのか、どんな葛藤や希望を抱いているのか。そうした当事者同士にしか分からない情報は、まだまだ足りないと感じています。

今回のコラムでは、Spotlliteを立ち上げた経緯、具体的な記事作成の流れ、私たちがどのような思いで記事を作っているのか、そしてこれからの社会に向けて何を目指しているのかをお伝えします。

「もっと早く、情報や人と出会いたかった」という当事者の声

白杖を使って歩行している人の足元。

私自身、学生時代から視覚障害者と関わる中で、こんな声を何度も聞いてきました。

「人生の途中で見えなくなり、何年間か引きこもっていた」
「自分の周りに視覚障害者が誰もおらず、世界で見えないのは私だけだと思っていた」
「もっと早く、色々な情報や人と出会いたかった」

必要なときに必要な情報にたどり着けない。健常者はもちろん、視覚障害があれば、より顕著になる課題です。

だからこそ、視覚障害者にとっては当事者の声がとても大きな意味を持ちます。そこで、制度解説ではなく、生の声を届けるインタビュー記事を中心にしたメディアを作ろうと考えました。

私が視覚障害者と関わるようになった経緯については、以下のリンク記事からお読みいただけます。

紆余曲折の末に公開。独学でアクセシビリティも

「文章を書くのは好きだから簡単にできるかな」という軽い気持ちで始めたのですが、公開までに紆余曲折がありました。

当初、ネットの比較サイトで恐る恐る調べて、外部のWeb制作会社に依頼したものの、出来上がったものはテンプレートの使いまわし。要望を出しても全く反映されず、いくらやり取りをしても想定したサイトは全く出来上がりません。

そこで、制作会社に見切りをつけ、「自分でやってみよう」とWordPressを勉強し、1万円ほどの有料テーマを購入しました。HTMLやCSS、JavaScript、そしてアクセシビリティ対応についても独学で学びながら、約2か月でサイトを形にしました。

同時に6本の記事を公開し、なんとか2019年4月1日にWebサイトを公開しました。約30万円の制作費は無駄になったのですが、結果的にいろいろな知識が身についたので勉強代だと思えました。

ノートパソコンを使っている視覚障害者の手元の写真。

視覚障害者のアクセシビリティも、手探りで実装していきました。

画像にはすべてALTテキスト(代替テキスト)を設定したり、見出しの階層構造、キーボード操作でのナビゲーションも意識し、視覚に頼らずに記事を読むことができるよう工夫しました。

また、配色についてもコントラスト比に配慮し、弱視の方でも判読しやすいデザインを心がけています。音声読み上げの流れを崩さないよう、余計な装飾や無意味なリンクは避けています。かといって、見た目が淡白にならないよう、最低限のデザイン性も担保するためのバランスを意識しています。

視覚障害者のWEBアクセシビリティについては、以下のリンク記事からお読みいただけます。

視覚障害者や現場支援者の言葉の重み

記事制作の流れはとてもシンプルで、地道な作業です。

企画から始まり、取材先の選定、アポ取り、インタビューと撮影、文字起こし、原稿執筆、先方への確認、入稿、そして公開とSNSなどでの広報……と、細かく書き出すと10以上の工程があります。

私たちが何より大切にしているのは、取材対象者自身の思いを伝えることです。

社会的評価や肩書きに左右されず、その人自身の言葉に耳を傾けたい。たとえば、パラリンピックに出ているようなアスリートだけではなく、趣味としてランニングをしている方にも、語ってくれる言葉には重みがあります。

また、単にイベントを紹介するのではなく、そこに関わる人の「思い」や「きっかけ」を掘り下げるようにしています。

さらに、「取材したい」という一言は、とても力のある言葉だと感じています。普通は見学できないような大企業や有名施設でも、真摯な気持ちを持ってお願いすれば、驚くほど多くの方が応じてくださいます。

これまでの視覚障害者や支援者のインタビュー記事、エッセイは以下のリンクからお読みいただけます。
参考:ストーリー | Spotlite(内部リンク)

企業やイベント、施設等の取材記事は、以下のリンクからお読みいただけます。
参考:施設・サービス | Spotlite(内部リンク)

課題や葛藤にも光をあてたい

白杖を持った女性が、森林の中の遊歩困っているのか、顎に手を当て周囲を見回しながら歩いている。

Spotlliteでは、「頑張れば報われる」ような成功談だけを取り上げているわけではありません。

突然の大会中止に打ちひしがれたアスリートの声や、住宅探しで苦労した視覚障害者の記事など、社会が見過ごしている課題や葛藤にも光をあてることを大切にしています。

こうした記事が思わぬかたちで届くこともあります。不動産業界の団体から「視覚障害者に対する接し方をもっと学びたい」と連絡をいただいたときは、メディアの持つ力の大きさを感じました。

今年8月に東京で開催される視覚障害リハビリテーション研究発表大会では、シンポジウムの1つで住宅をテーマに取り上げる予定です。

視覚障害者の引っ越しや家探しについての過去の記事は、以下のリンクからお読みいただけます。

新型コロナウイルスの流行で大会が中止になったときの若生裕太選手の取材記事は、以下のリンクからお読みいただけます。

視覚障害者が働く場にもしていきたい

今後、私たちはこのメディアを単なる発信の場ではなく、視覚障害者の働き方を広げる場にもしていきたいと考えています。

カメラマン、ライター、編集者、Web制作、アクセシビリティ対応、事務担当など、多くの役割があります。

視覚障害者が関われる役割を少しずつ増やしながら、実践的な経験の場を提供する。開設当初、弱視のカメラマンにお願いしたことが大きなきっかけになりました。これからも徐々に視覚障害者がたずさわることができる職種を増やしていきたいです。

伝えたいことが尽きないのが私たちのリアル

「人は、想像以上に自分のことを知ってほしいと思っている」

取材をしていると、予定した質問の半分も聞けないまま、時間が過ぎてしまうことがよくあります。

話したいこと、伝えたいことが尽きないのが私たちのリアルなのだと思います。そして、取材を通じてその人の「いい面」が見えてくることで、自然と仲良くなれる。それは、取材者にとっても大きな財産です。

公園のベンチで、視覚障害者と晴眼者が談笑している。

Spotlliteの公開から6年以上が経ち、時代はどんどん変化しています。最近は、コスパ・タイパという言葉が浸透し、どれだけ効率的に、同時並行で物事をこなすかが重視されています。

AIの台頭で、私たちの仕事や生活はさらに便利になっていくでしょう。この記事を最後まで読むには、スマホを手に持ち、目で文字を追い、数分間は画面を見なければいけないでしょう。

今はそれすら時間が取れない、時間がもったいない、と思うかもしれません。

そんなみなさんに、AIが要約したこの記事をラジオ風の音声でお届けして、記事を締めくくります。
(クリックしていただくと、AIで生成した音声が流れます)

これからも時代に即した方法で、必要な人に必要な情報を届けていきたいと思います。

記事内写真撮影:Spotlite
編集協力:ぺリュトン

この記事を書いたライター

高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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