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ストーリー

視覚障害者のメイク。ロービジョンの私が自分らしいメイクを楽しめるようになるまで

視覚障害者の女性がメイクをしている様子を左後方から写した写真。手鏡を顔の近くに持ち、アイラインを引いている。

私はロービジョンです。先天性の緑内障で、視野の右上だけが見えています。私のメイクとの出会いから、「楽しい」と思えるようになるまでをまとめました。

白杖で外出するようになって、メイクに興味を持つ

10代のころの私は、メイクにはあまり関心がありませんでした。周りの友達が楽しそうにメイクの話をしていても、自分にはあまり関係ないかな……と思っていたくらいです。

働くようになってから「身だしなみとして、やらなきゃいけないのかな」と、少し義務のような気持ちで始めました。

20歳を過ぎたころから少しずつ見えにくさを感じるようになりましたが、そのころは、まだメイクをする上で特に困ることはありませんでした。鏡を覗けば、なんとなく自分の顔が分かる。眉を描き、リップを塗る。そんな日常の中で、メイクは“身だしなみのひとつ”でしかなかったのです。

メイクに対して気持ちが大きく変わったのは、白杖を持って歩くようになってから。街で人に声をかけられる機会が増え、「できるだけ明るい印象を持ってもらいたいな」と思うようになりました。

あまりメイクに興味を持たずに過ごしてきただけに、うまくできていない気がして、「やっぱり見えないとメイクは難しいんだ」と思われたくないなと感じたこともあります。

それでも、見えなくてもおしゃれでいたいし、自分らしくいたい。そんな思いが、心の中に少しずつ芽生えていきました。

「メイクが上手ですね」と言われて自信に

白いデスクの上に置かれた化粧品。口紅、アイシャドウ、アイライナー、チーク、コンシーラーなど。

白杖を持つようになって1年ほどたった40歳のころ、まだ鏡の中の自分の顔が少し見えていたので、雑誌を読んだり、自己流で試してみたりしながら、少しずつメイクを楽しめるようになっていきました。

視覚障害者の集まりに参加したとき、知人に同行していたガイドヘルパーさんから「メイクが上手ですね」と言われたことがありました。そのひとことが本当にうれしくて、「見えにくくてもちゃんとできているんだ」と思えた瞬間でした。

その日から、メイクは“身だしなみ”ではなく、“自分を表す時間”に変わっていったように思います。

でも、ここ4〜5年で見えにくさが進み、メイクをするのに不自由さや面倒くささを感じることが増えてきました。眉の左右がそろっているかも分からないし、チークがどのくらいついているのかも見えません。

それでも、できないことを数えるより、どうしたらできるかを探すようになったのは、ロービジョンになってからかもしれません。少しずつ工夫を重ねながら、今も自分らしいメイクを楽しんでいます。

ロービジョンならではの難しさや困りごと

メイクをするとき、まず鏡を覗きます。

でも、私の場合は残っている視野がとても狭く、主に右上しか見えません。自分の顔全体を一度に見ることができないのです。

鏡に近づき、鏡と目を動かしながら見える場所を探して確認しますが、どんなに近づいても全体のバランスは分からない。そんなもどかしさをいつも感じています。

一番難しいのは、やっぱり眉。左右の高さや長さがそろっているかどうかはもちろん、そもそも描けているのかすら分かりません。

右手にメイクブラシを持ち、チークをブラシの毛先になじませている手元の写真。

そして、アイシャドウやチークでは、色の濃さや加減が分からないのです。

一度、お店の人にすすめられるままブルー系のアイシャドウを買ったとき、つけすぎてしまい、「殴られたみたい」と言われたことがありました。自分ではうっすらとのせたつもりだったので、その言葉を聞いたときはショックでしたし、すごく恥ずかしかったです。

それ以来、どのくらいがちょうどいいのかが分からないのが怖くて、色ものを使うのに少し慎重になりました。

ファンデーションも難しいのです。

シミや赤みをカバーできているのかが分からず、何度も重ねてしまって厚塗りになることが多く、塗りムラを確認することもできません。鏡の中の自分を見ても、細かい部分の仕上がりまでは確認できないのです。

さらに、色選びも悩みのひとつ。自分に似合う色がどんなトーンなのか、明るさや印象の違いを目で確かめることができないからです。

店頭でテスターを手に取っても色の違いがはっきり分からず、店員さんに具体的な色や仕上がりイメージをたずねることがよくあります。

見えにくい中でのメイクは、いつも手探り。目で確認できない分、指先の感覚や塗り心地、匂いや道具の形など、いろいろな感覚を頼りにしています。試してみないと分からないことがたくさんあります。

それでも、「うまくできないかもしれないけど、何もしないよりはやってみよう」と思えるのは、やっぱりメイクが“自分らしくいられる時間”だからだと思います。

試行錯誤と工夫で、自分に合ったメイク法を探す

見えにくさが進んでからのメイクは、最初は本当に手探りでした。

「こうすればいい」という正解が分からず、いろいろ試してはうまくいかないことの繰り返し。それでも、少しでも自分らしくいられるようにと、工夫を重ねてきました。

私の場合、視野が狭いため、大きな鏡よりも小さめの鏡のほうが見やすいです。顔全体を映すより、必要な部分だけを近くで確認できるほうがやりやすいのです。一時期は拡大鏡を使ってみたこともありましたが、拡大されすぎて視野に入りにくく、私の場合はかえって使いづらかったです。

今までで一番助けになったのは、やっぱり視覚障害者向けのメイクセミナーでした。

さまざまなメーカーが、いろいろなところで開催しています。数回参加して、講師の方から眉の描き方やチークの入れ方、ブラシやファンデーションをつけるときの力加減や回数など、具体的な方法を教えてもらいました。

さらに、失敗しにくい色選びのポイントも学ぶことができ、自分に合ったメイクの仕方を少しずつ身につけていきました。

セミナーで学んだことを家でも毎日練習し、手に感覚を記憶させようと頑張っていましたが、仕上がりの確認ができないという落とし穴が……。

でも、「今日はうまくできたかも!」というときの写真を撮って姉に送ったり、それほどメイクが必要ない外出のときでも、見える人と一緒のときにはフルメイクをしてチェックしてもらいながら、徐々に覚えていきました。

見えにくくても“できる方法”を積み重ねていくことで、自信につながっていったのです。

一番苦手な眉メイクは、セミナーで習った方法でもうまくいかないことが多く、結局、試行錯誤の繰り返し。

でも、先日参加したセミナーで教えてもらった方法が、史上最高にシンプルでほぼ失敗なしの方法だったのです。長年にわたる眉描きの悩みが、ようやく解決したかもしれません。メイクに関心がある視覚障害者の方には、自分に合った視覚障害者向けのメイクセミナーに参加することをおすすめします。

とはいえ、眉は今も毎回スマホで自撮りした写真を拡大してチェックしています。

正直、眉尻がどうなっているのか、左右のバランスは取れているのかなど、細かいところは見えていませんが、なんとなく「いけてそう」と思うので、よしとしています。

メイクしている視覚障害者女性の後姿。持っている手鏡に左目だけが写っている。丁寧にアイライナーを引いている。

Spotlliteでは、2019年にファンケルのメイクセミナーを取材しています。以下のリンクからお読みいただけます。

ほかの企業や団体でも視覚障害者向けのメイクセミナーを実施しています。

メイクは、自分の心の小さなスイッチ

見えにくさが進む中で、メイクはときに難しく、面倒に感じることもあります。それでも私は、「見えないからできない」とは思いたくないのです。うまく描けない日もあるし、仕上がりに納得できない日もあります。でも、自分の顔に手を添える時間は、私にとって“自分を整える時間”でもあります。

メイクを通して、自分の気持ちを前向きにできたり、自信がもてたりする。

そんな小さな変化の積み重ねが、見えにくくなった今の私を支えてくれているような気がします。

「見えないのにメイクしてすごいね」と言われることがありますが、私にとっては“すごいこと”ではなく、“普通のこと”。見えにくくてもおしゃれを楽しみたいし、できる範囲で自分を表現したい。その気持ちは、昔も今も変わりません。

メイクは、見た目を整えるためだけではなく、「今日も大丈夫」と自分に言い聞かせるための小さなスイッチ。これからも、その時間を楽しみながら大切にしていきたいと思っています。

白杖を持った女性が、画面右側で笑顔で手を振っている。画面左側には応じている晴眼者の女性。

執筆:小林直美
記事内写真撮影:Spotllite

編集協力:株式会社ペリュトン

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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