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アイテム・テクノロジー

経営学部の大学生がなぜ? 視覚障害者の声を取り入れた新製品の開発秘話。

両手の上に凸ペタシールをのせている画像。
アイキャッチ写真提供:凹ni-Que.



今回は、ものを触って区別するための新製品「凸ペタシール(でこぺたしーる)」をご紹介します。

この製品は、視覚障害者と接点のない経営学部の大学生のアイデアから生まれました。学生たちが視覚障害者の抱える困りごとに目を向け、当事者と向き合いながら開発を進めています。

まだ発売前ですが、今回は先取りで製品の誕生秘話を取材しました。

凸ペタシールとは

凸ペタシールは、6種類の手触りなどが違うシールを対象物に貼ることで物の識別ができる製品です。

法政大学経営学部の西川・本條ゼミの学生4人で構成された「チーム凹ni-Que.(ユニーク)」が企画・開発しています。昨年12月には、大学のゼミ対抗で参加する商品企画の全国大会『Sカレ』で優勝しました。
その結果、「社会課題を解決する印刷製品を作る」というテーマで協賛していた明成孝橋美術(めいせいたかはしびじゅつ)と共同で製品化を進めています。

デコペタシールの箱だけを撮影した画像。
1箱で3種類のテープが使える学生手作りの試作品(写真撮影:Spotlite)

箱のサイズは小ぶりなルービックキューブほどの直方体です。

1箱に3つのテープが収納されており、箱上面の一辺から内部のテープが引き出せます。シールはテープ状の剥離紙に1つづつ張り付いており、テープを静かに引き出すとシール1枚が自然に剥がれます。
剥離紙から剥がしたシールは、自分の好きな所に目印として貼り付けて使用します。

デコペタシールの3種類をアップで撮影した画像。
色ごとに突起の数を変えてあり識別ができる(写真撮影:Spotlite)

触って分かる突起は最初、6種類でしたが、最新の試作品では種類を増やし、ブラッシュアップしています。現在、明成孝橋美術と共同で、商品化を進めています。

【明成孝橋美術とは】
大阪に本社を置く印刷会社
化粧品や食品などのパッケージデザインや、デザインの作成相談を行う。Sカレの協賛企業として、2019年から2年連続で参加している。

明成孝橋美術ホームページ(外部リンク)

6種類のシールを並べて撮影した画像。
視覚障害者の意見を取り入れて試作した6種類(写真提供:凹ni-Que.)

インタビュー

法政大学経営学部の西川・本條ゼミ「チーム凹ni-Que.(ユニーク)」の増山さん、平本さん、内田さん、宮越さん、明成孝橋美術の孝橋さん、薮内さんにオンラインでインタビューを行いました。

ー商品開発のきっかけを教えてください
Sカレに出場するにあたり、どんな商品が良いかをチームで話し合っていました。そんな時、数年前に見た光景がヒントになりました。たまたま立ち寄ったコンビニで視覚障害者が「ポイントカードが見つけられない」と、複数枚のカードを広げて、店員に申し訳なさそうに探してもらっていたのです。「この課題を解決する商品を作れないかな」と思ったことがきっかけです。


ー実際に開発する中で、大切にしていたことはありますか?
私たちの身近に視覚障害者がいませんでした。そのため、視覚障害者の声を聞くことから始めなければと思い、いくつかの福祉施設に連絡しました。新型コロナウイルスの影響でなかなか対面で会えない中でしたが、オンラインも使い、30名の視覚障害者と出会うことができました。対面で会える時は試作品を実際に触ってもらったり、オンラインの時は事前に試作品をご自宅に郵送して感想を聞いたり、実際に視覚障害者の声を大切にしながら開発を進めていきました。

デコペタシールの箱の一部をアップで撮影した画像。
心を込めて手作りした試作品(写真撮影:Spotlite)

ー実際に視覚障害者の声を聞くことで、商品に反映された部分はありますか?
デザインや厚みは当初とだいぶ変わりました。
私たちは勝手なイメージで「テープの凹凸は分厚くないと分からない」と思い込んでいたのですが、実際に触ってもらったら試作品の中で一番薄いものでも十分分かると言われました。私たちが思っているよりずっと手先の感覚が優れているようでした。そうやって視覚障害者に実際に触ってもらって、当初作成した12種類の試作品は、半分の6種類に絞ることができました。

デコペタシールを触る視覚障害者の手元を撮影した画像。
視覚障害者が試作品を触っている様子(写真提供:凹ni-Que.)

ー凸ペタシールはゼミ活動の一環として生まれた商品だと伺いました。どのような課程で製品ができたのでしょうか?
元々、私たちの所属するゼミは商品企画やデジタルマーケティングを研究しています。実践的に学ぶ活動の一環で、3年次にSカレに参加するというのが恒例です。1学年上の先輩もSカレで優勝しています。
私たちは2020年6月頃にチームを結成し、半年かけて企画やサンプル作りなど行い、中間発表を経て、12月のSカレで優勝することができました。今は商品化に向けて、明成孝橋美術様とサンプルの作成をしています。今後は、販売してもらえる場所を見つけるために、様々な施設にアポイントを取って説明に行く準備をしています。


ー今回お話をお伺いして、とてもバランスのとれた良い4人のチームだと感じました。4人の役割は決まっているのですか?
基本的にはみんなで協力してやることが大前提なのですが、リーダーの増山がチームを引っ張っぱり、デザインは宮越が中心になっています。平本と内山がSNSでの広報を担当し、試作品の写真なども撮影してくれています。

メンバー4名と教授がオンラインの画面上で映っているスクリーンショットの画像。
Sカレ優勝時の1コマ(写真提供:凹ni-Que.)

ー凸ペタシールの商品化の先に思う理想の社会はどういったものでしょうか?
この活動を通して、私たちに当たり前にできることが、実は当たり前にはできない人が多くいるということを知りました。この商品が世に出ることで、そういう人がいるという認識を忘れずに、どんな人でも当たり前のことが当たり前にできる社会になったらいいのかなと思います。


ーこの記事を読んでいる皆様にお伝えしたいことがあれば教えて下さい。

たくさんの方に「ありがとう」と言ってもらえる商品になれば嬉しいです。今後も皆さんや明成孝橋美術様と共に商品を作り上げていきたいと思うので、この活動を色んな人に知ってもらいたいです。

まとめ

この活動は現在進行系で、記事を作成している間にも新しい試作品の写真を送っていただきました。

皆さんに希望の進路を伺うと、「視覚障害者と健常者の壁を強く感じました。障害だけでなく、国籍や年齢層の違いなど、人種の違いから人の間に壁ができてしまっていることを知れたので、そのような人達が手を取り合えるような仕事をしたいです」「視覚障害者はこういう人、という思い込みでは今回の製品はできませんでした。現場に足を運んで実際の声を聞きながら、皆さんに喜んでもらえる製品作りがしたいです」など、様々なビジョンを教えてくれました。

大学生が主体的に視覚障害と関わる活動をしていること自体、とても貴重で励みになります。

凸ペタシールの製品化と、これから社会に飛び立つ皆さんの益々の活躍が楽しみです。

メンバー4名がテーブルを囲んで議論している画像
これからも継続して製品化を進めていきます(写真提供:凹ni-Que.)

凸ペタシールの使い方

凸ペタシールを箱から取り出す様子を動画でご紹介します。3種類の中から自分が取りたいシールを引っ張ると、1つのシールが自然と剥がれます。

※BGMが挿入されていますので音量にご注意ください。

最新の試作品

箱からシールを取り出す形式から、シート状に変更して製作を続けています。2021年の夏頃、発売予定だそうです。待ち遠しいですね。

最新の試作品を並べて撮影した画像。
シート状になり、突起の種類も増えています(写真提供:凹ni-Que.)

この記事を書いたライター

高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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この記事を書いたライター

高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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