背景を選択

文字サイズ

聞いてみた・やってみた

「ただ、好きな人には心地よくいてほしいから」視覚障害者とパートナーが語る、共に生きるということ

白杖の男性と晴眼者の女性が階段を下りている写真。

「この人と一緒にいたい。でも、周りの反対を押し切ってまでやっていけるだろうか」
「障害のこともあるし、相手にどう思われるか不安」

恋には、つらく苦しい時間もありますが、人生を豊かにしてくれる素敵なものでもあります。

視覚障害者の恋愛事情は知りたくても知る機会が少ないかもしれません。今回は、視覚障害者と晴眼者のカップル2組に、出会いから交際・結婚にいたるまでのお話をうかがいました。

座談会参加者

※参加者のお名前は仮名です。

視覚障害者のナナミさん(32)
晴眼者でパートナーのユウタさん(33)

ナナミさんは、網膜色素変性症。生まれつき左目はほとんど見えない。右目は視力・視野ともにあり車の運転もしていたが、進行性のため25歳のときに視野が急に狭くなる。趣味は身体を動かすことで、キャンプに行ったりカヌーに乗ったりする。晴眼者のユウタさんと同居中。

視覚障害者のタクヤさん(25)
晴眼者でパートナーのハルナさん(30)

タクヤさんは、レーベル病。15歳のときに視覚障害になる。現在は視覚障害者のスポーツに取り組んでいる。2022年に晴眼者のハルナさんと結婚。

はじまりは「道端での再会」と「駅の改札でのお土産交換会」

ーはじめに、それぞれの馴れ初めを教えてください。まず、タクヤさんとハルナさんはいかがですか?

タクヤさん 私は視覚障害者のスポーツに取り組んでいます。
彼女が練習先にボランティアに来たのが最初の出会いでした。チームメイトたちの間で「この前ボランティアに来た人可愛かった」という話になり、気になっていたら、その数日後に道端でバッタリ会って、その場でLINEを交換して、少しして付き合うことになりました。

ハルナさん LINE交換して2週間後くらいに告白されたんですけど、いやちょっと待って!と(笑)。少し考えたあとに、返事をしました。

ーユウタさんとナナミさんの場合はいかがでしょうか。

ユウタさん 私たちはマッチングアプリで知り合いました。でもなかなか会うタイミングがありませんでした。

私が当時働いていた会社で、社員が6人くらいしかいないのに、みかんが100個くらい届いてしまったんですよ。大量のみかんを持って帰らされて、「みかん好きですか?」ってLINEして、「もらえるならもらいます」と返事が来ました。夜、駅の改札で私のみかんと彼女の京都土産の八つ橋を交換したのが出会いです。

そのとき、めっちゃ可愛い子が来た!と思いました(笑)。
その日は終電近くまで話をしたのですが、もっと話したいなと思って、その後も私の方から積極的に連絡をしました。それで1ヶ月ぐらいでお付き合いすることになりました。

あそびに行こうって話をしたときに、私が水族館を提案したのですが、そのときに彼女から暗いところがちょっと苦手ということを言われました。
その後、実は障害があって、進行性のもので、今はこれくらいの視野なんだ、と話してくれました。

白杖の助成と晴眼者の男性の足元に、モミジの葉が落ちている写真。
(写真撮影:Spotlite)

ー晴眼者のお二人は、視覚障害者のパートナーと普段一緒に過ごす中で、気をつけていることは何かありますか?

ハルナさん 最初は、身の回りのものに点字のシールとか貼ったほうがいいのかな、とかいろいろ気にしていました。でも、今は特にやっていないです。

外に出かけて誰かに会ったときに、「いま〇〇さんがいるよ」と声をかけしたりはしますが、気負って何かやっていることはないですね。

ユウタさん 私も特にないですね。ただ、ナナミさんは、雑貨屋が好きなんですが、床や低い位置に陳列してあるものが見えにくいので、「足元に気をつけてね」とか声かけはしている気がします。

でも、見えているんだろうなと思っていると、ぶつかったりもするので、あんまりサポートしきれていないのかなと思うときもあります。

ナナミさん 私は、天気や気圧で見え方がだいぶ変わるんです。
一緒に出かけるときは「今日これくらいの見え方なんだ」「今日はこういう所は苦手かも」と伝えるようにしています。

ユウタさん あとは、お店で席を選ぶときは日差しが強い席は選ばないようにしたり、視覚障害があっても座りやすそうな席を選んだりしていますね。

でも感覚としては、“見えないから”というよりは、“ソファ好きだからソファの席にしよう”というのと同じで、「相手が心地いいように」という感覚に近いかもしれません。

ー一緒に過ごす中で、難しいなと感じたことや、この場面は困ったなと感じたことなどは何かありますか?

ユウタさん これは、見えないからなのか性格なのかわからないんですけど、何か物を取るときに自分で探さないんですよ(笑)。「ねえ携帯どこ〜」とか、まず探してから言ってくれない?みたいに思うことはときどきあります(笑)。

ただ、おかげで彼女が物を探している雰囲気を察知できるようにはなりました。ごはんを一緒に食べていて、あ、今ティッシュほしいんだろうな、と思って「右上にあるよ」と声かけしたり。
晴眼者の友達とごはんを食べに行ったときも、友人に「気遣いできるねえ」と褒められたりしました(笑)。

ナナミさん ティッシュもまさに、「ほしいな」と思ったら先に言ってもらえたり、「お茶ほしいな」と思ったときにお茶のボトルをすぐ取ってくれたり、そういうのは付き合い始めたときよりも格段に速くなりましたね(笑)。

ユウタさん やらないときもありますけどね。めんどくさいから自分でやってっていうときも、もちろんあります。でも、相手が見えないから代わりにやってあげるという気持ちではなくて、相手より自分の方が背が高いから高いところのものは自分が取ろう、みたいな感覚に近いと思います。

置かれた本のページが内側に丸まってハート型に見える写真。
(写真素材:GIRLY DROP)

白杖を見ても何もできないと思っていた自分が、自然と声をかけられるようになった

ー視覚障害者とお付き合いするようになって、気づけたことなどはありますか?

ハルナさん 彼と出会うまで、視覚障害者と関わったことがなかったので、最初に一緒に食事に行くときは、正直戸惑いました。

どうやって一緒に歩いたらいいんだろう?何をどこまでどうやってサポートしたらいいんだろう?と、わからないことだらけで。でも彼が「わからないことは何でも聞いて」という大らかな性格だったので、ホッとしました。

それから、今までは、たとえば道で白杖を持った人を見かけても、私には何もできないなと思って声をかけるのをためらっていたのですが、彼と出会ってからは、自然と声をかけたり、何かできないかなと考えられるようになりました。

ユウタさん 私も声をかけるハードルはぐっと下がりました。駅のホームで白杖を持った人を見かけたときに、この場所に慣れている人か不慣れな人か感覚でわかるようになりました。駅員さんより上手に案内できる自信があります(笑)。

ただ、自分はサポートできるって調子に乗ってしまって、視覚障害者の友人とごはんに行ったとき「ありがたいけど、これは自分でやりたいという人もいるよ」と言ってもらったことがありました。

彼の人柄を知ってもらうことで、きっと家族になれると思った

ーご家族や周囲の方たちとの関係についてはいかがですか。最近ご結婚されたタクヤさんとハルナさんはどうでしょうか。

ハルナさん 最初は、私の家族は大反対でした。
彼は本当に面白い人で力強く生きてきた人なのに、ただ視覚障害者というだけで色々と言われるのがすごく嫌で。
でも、彼の人柄を知ってくれたら、両親もきっと彼のことを気に入ってくれるだろうと思っていました。きっと分かってくれると信じて、彼と一緒に実家に行って、食事をしたり話をしたりしました。最終的には家族も理解してくれて、結婚をしました。

結婚して1年の間に、彼が家族を笑わせてくれたり、父から二人で仲良くしなさいと言ってもらえたりもしたので、結婚できてよかったなと思っています。

ユウタさん 私の両親はむしろ、こんな息子でナナミちゃんは大丈夫?という感じでした(笑)。

両親とも彼女と仲良くしているんですが、彼女は以前にお付き合いしていた方の家族に、障害が理由で反対された経験があって。
ですから、私の両親には、あえて、彼女に直接「障害の有無は気にしていないよ」ということを伝えてもらいました。

ふたつ並んだマシュマロに、かわいらしい顔が描いてある写真。
(写真素材:GIRLY DROP)

なにより、“好き”という気持ちを大切にしてほしい

ー最後に、視覚障害者のパートナーやカップル、またはパートナーが欲しいと思っているけれど踏み出せない視覚障害者へ伝えたいことはありますか?。

ナナミさん 過去にお付き合いした方はいたのですが、病気が進行するという話をすると驚かれてしまったり、視覚障害が理由でお別れしたりという経験をしました。次の恋愛に踏み出したいけれど、また前みたいなことがあったら嫌だなと思っていました。

ですから、ユウタさんとの時は、早い段階で障害のことを伝えることにしました。不安な気持ちもあったのですが、伝えてみたら意外と気にしていなかったので安心しました。

付き合ってからも病気が進行していてどんどん見えにくくなっていて、しんどいときもあります。でも、その気持ちを彼はちゃんと受け止めてくれて、出会ったときから変わらずそばにいてくれます。「今までなんで病気のことであんなに悩んでいたんだろう」と思わせてくれる存在です。

視覚障害があると、やっぱりどうしてもできない部分に目が行きがちだと思うのですが、それよりも内面に目を向けてほしいなと思います。視覚障害者でも、過去の経験や、今大事にしていることを聞いてみたら、素敵な部分もきっとたくさんあるので、“その人”を見てほしいなと思います。

タクヤさん 私は、自分の人柄を知ってもらえれば大丈夫だろうなという自信がありました。
ですから、彼女のご両親とも直接会って話をすれば大丈夫だと思っていました。ただコロナ禍でなかなか直接会うことができず、ビデオ通話をしようとしたけれど切られてしまったり、ようやく直接会いに行けたのに受け入れてもらえなかったり。

そういうことが何度もありましたが、自分のことを知ってもらえれば大丈夫だと諦めず行動しました。ここまで出来たのは、やっぱりハルナさんと一緒にいたいという気持ちが大きかったからだと思います。

私自身、あまり交際の経験がなかったのですが、やはりどこかで自分は視覚障害者だという部分が引っ掛かっていたのかもしれません。でも、彼女と出会って、ビビッときて、彼女と一緒にいたいという気持ちで、乗り越えることができたのではないかなと思います。

ー晴眼者のおふたりはいかがですか

ハルナさん 私は心配性なので、自分と同じように「反対されてもうまくいった人」に出会いたいという気持ちがありました。それで、ネットや知人を通じて探したのですが、なかなか見つかりませんでした。

そんな時にある方から「結局あなたの気持ち次第じゃない?」と言われてハッとしました。
似た状況の人を見つけて安心することよりも、私がタクヤさんを好きで「この人と一緒にいたらきっと人生が楽しいだろうな」「この人となら大丈夫だ」という気持ちを、大事にしたらいいのだと気づきました。今もそう思っています。

ユウタさん 周りから「大変だね」とか「えらいね」と言われますが、逆に助けてもらっているのは私の方だなと思っています。

「この人と一緒にいた方が自分の人生も楽しいものになる」と気づけたから、今一緒にいます。

視覚障害も含めて彼女の人間性だと思いますが、それだけではない良い部分はいっぱいあるので、出会えてよかったなと思っています。

―本日はいろいろなお話が聞けました。ありがとうございました。

アイキャッチ写真撮影:Spotlite
執筆協力:サトウミキ

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

他のおすすめ記事

この記事を書いたライター

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

他のおすすめ記事