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聞いてみた・やってみた

目が見えなくてもテニスができるの? 音を感じて楽しむブラインドテニスの世界

室内でブラインドテニスをプレー中のg筆者。前傾姿勢で空中のボールをラケットがとらえようとしている様子。

「目が見えなくてもテニスができるの?」そう思った方もいるかもしれません。

実は、視覚障害者のために考案された「ブラインドテニス」というスポーツがあります。私は全盲ですが、約1年前にこのブラインドテニスに出会い、すっかりハマってしまいました。今は初心者向けの大会出場を目標に練習を続けています。

この記事では、私自身の体験を通して、ブラインドテニスの魅力や始め方、練習の工夫についてお伝えします。

参考:日本ブラインドテニス連盟 (外部リンク)

視覚障害者のスポーツについては、以下の記事も参考にしてください。

なぜブラインドテニスに挑戦したのか?

私は幼少の頃に全盲になりました。

小学校は地域の学校に在籍していたこともあり、スポーツ全般、特に球技が好きでした。当時は、晴眼者の友達と一緒に野球やサッカーをしてよく遊んでいました。

芝のコートのクローズアップ写真。緑の芝の上に白いラインが引かれている。
(写真素材:Unsplash)

しかし社会人になると子どものころのように球技を楽しむ機会も無くなり、私は何か全盲の自分でも楽しめる球技がないかと探していました。

過去には、ゴールボールやサウンドテーブルテニスなどの視覚障害者向けスポーツもいくつか体験しましたが、どれも地面を転がるボールの音を頼りにプレーする2次元的なスタイルが主流で、健常者スポーツを長くやってきた私は、少し物足りなく感じていました。

そんな時出会ったのがブラインドテニスです。

ブラインドテニスの一番の魅力は、3次元的な動きです。通常のテニス同様、バウンドして空中に浮いたボールを音だけを頼りにラケットで打ちます。他の視覚障害者スポーツではあまり見られないこの3次元的な動きに、私は非常に魅力を感じました。「自分が求めていた“本格的な球技”がここにある」と感じたのです。

また、通常のテニスとルールが似ているため、晴眼者の友人や家族ともプレーしやすい点ももうひとつの魅力です。

一番の魅力である「3次元的な動き」と聞いて、「なんだか難しそう」と思われるかもしれませんが、ブラインドテニスは慣れれば誰でも楽しめるスポーツです。

地元の体験会で初めてラケットを握った時は、音でボールの位置を把握したり、自分の体との距離感をつかんだりすることが難しく、空振りばかりしていました。ボールを打つことに夢中になりすぎると体に力が入ってしまい、イメージした軌道でラケットが振れなくなってしまうのです。

そんなときは、体の力を抜いてボールのバウンドする音の違いに集中します。すると、微細な音の違いでボールの軌道やバウンドの高さまで想像し的確にラケットでボールを捉えることが増えました。

自分の想像通りの位置でボールを打てた時の達成感と「空中のボールを打てた!」というあの瞬間の新鮮さが忘れられず、どんどん夢中になっていきました。

ブラインドテニスでは空中に浮くボールの軌道と位置をイメージする感性も大切で、単に音を聞くだけの競技ではありません。

目ではなく、耳と身体、そして想像力を一体化させてプレーするスポーツ。それがブラインドテニスなのです。

青いテニスコートの白線の上に、青い硬式テニスのラケットと黄色いテニスボールがおかれている。
(写真素材:Unsplash)

ブラインドテニスの基本ルールと楽しみ方

ブラインドテニスのルールは、通常のテニスをベースに、視覚障害者にとってプレーしやすく工夫されている点があります。

まず、選手は視力の程度に応じてB1、B2、B3の3クラスに分けられています。私は全盲なのでB1クラスに該当します。

使われるボールは直径10cm程度でテニスボールよりも大きいものを使用します。やわらかいスポンジ素材のボールの中に金属の粒が入っており、転がると「シャカシャカ」と音が鳴ります。この音が、ボールの位置を知るための重要な手がかりになります。

参考:ボールについて | 競技について | 日本ブラインドテニス連盟(外部リンク)

相手のサーブやレシーブで自コートに打ち返されたボールは、通常のテニスなら1バウンド以内に相手コートへ打ち返す必要があります。しかし、ブラインドテニスでは、返球までに認められるバウンド数も視力に応じて異なります。

全盲のB1では3バウンド以内、B2は2バウンド以内、そしてB3は1バウンド以内に返すルールです。

コートにも違いがあります。

コートサイズは通常のテニスよりも小さく、バドミントンコートと大体同じサイズのため、視覚障害があっても練習すればコートの端から端まで縦横無尽にボールを追いかけることが可能です。(コートサイズはクラスによって異なります。)

そしてコート上のラインにはタコ糸を使用し、ガムテープを上から張り付けて固定します。そうすることで、見えなくても足の裏でラインの感触を確かめ自分のコート上の位置を把握しながらプレーできます。

参考:コートについて | 競技について | 日本ブラインドテニス連盟(外部リンク)

室内でブラインドテニスをプレー中の筆者。サーブをしているところで、ラケットを頭上から振り下ろしている様子。ボールはケビンさんの胸くらいの高さの空中にある。
ブラインドテニスをプレー中の筆者(写真提供:筆者)

どうやってブラインドテニスを始める?練習方法と体験方法

では、どうやってブラインドテニスを始めたらいいのでしょうか。初心者の方でも気軽に体験できる方法と、私の普段の練習環境についてご紹介します。

私がブラインドテニスを初めて体験したのは、地元のスポーツセンターで開催された体験会でした。

障害者スポーツセンターなどでは、不定期で体験会を開催していることがあります。「まずは体験してみたい」という方はそのような施設のイベントをチェックするといいでしょう。

スマートフォンを見ている視覚障害者を肩越しに写した画像。スマートフォンの画面にはSpotliteのサイトが表示されている。
(写真撮影:Spotllite)

継続的に練習したい場合は、インターネットで地域のブラインドテニスチームを検索してみるのが有効です。全国各地にブラインドテニスのチームがあり、初心者でも参加できる練習会や体験会が開かれています。「視覚障害者 テニス」や「ブラインドテニス 体験」などで検索してみると、きっと近くのチームが見つかると思います。

また私は、みつきの同行援護サービスも活用して、テニスの練習を続けています。

同行援護では、外出支援だけでなく、ブラインドテニスをはじめ利用者のニーズに応じてスポーツの練習のサポートも行ってくれます。

みつきの特徴として、スポーツ経験のあるヘルパーさんが多く在籍しており、中には、テニス経験のあるヘルパーさんもいます。私は同行援護を利用して、毎月数回、自宅近くの体育館でブラインドテニスの練習をしています。ヘルパーさんと1対1の個人練習なので、周囲を気にせず自分のペースでじっくり取り組めるのがメリットです。

私がよく依頼しているガイドヘルパーの方には、サーブやレシーブの練習相手をしていただく以外に、フォームのアドバイスやラケットの持ち方、サーブの打ち方など、具体的な技術面も教えていただけるので、毎回とても勉強になります。

最初はボールの位置がわからず空振りばかりしていた私ですが、最近はガイドの方と、時々は4往復程度のラリーが続けられるようになり、自分でも成長を感じています。

様々な人との関わりの中で成長できるのは、同行援護をスポーツの時に利用する魅力のひとつだと感じています。

まとめ

ブラインドテニスは視力の状態に関係なく、音と想像力で誰でも楽しめるスポーツです。

空中に浮かぶボールの音と自分の想像力を頼りにラケットを振り、ボールに当たった時の爽快感は格別です。もしこの記事を読んで、「やってみたいな」と少しでも思った方がいれば、ぜひ体験してみてください。

きっとブラインドテニスの楽しさと奥深さを感じていただけると思います。

執筆:ケビン
アイキャッチ写真提供:ケビン

Spotliteでは、視覚障害者の外出時にガイドヘルパーを派遣する障害福祉サービス「同行援護」の事業所を運営しております。利用者、ヘルパーともに、若年層中心の活気ある事業所です。余暇活動を中心に、映画鑑賞やショッピング、スポーツ観戦など、幅広いご依頼に対応しています。お気軽にお問い合わせください。

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編集協力:ぺリュトン

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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