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ストーリー

同行援護の利用を躊躇していた私が、ガイドヘルパーと水泳大会参加やスキー検定受験をするようになるまで

人通りの多い道路を歩く、白杖の人とガイドヘルパーの胸元から下の様子。

皆さんは「ガイドヘルパーとの外出」と聞いてどのようなイメージをお持ちでしょうか?

「知らない人とずっと一緒にいると気疲れしてしまいそう」

「初対面の人にガイドを頼むのは少し気が引ける……」

そんな風に感じてガイドヘルパーの利用を躊躇している方も多いかもしれません。

私は全盲で、今でこそ積極的にこのサービスを利用するようになりましたが、以前は利用を躊躇していましたし、どちらかといえばネガティブな印象を持っていました。

そんな私が同行援護を利用するようになったきっかけは、単純な便利さだけではない魅力に気づいたからでした。今回は私の経験を通してガイドヘルパーを利用して外出する魅力についてご紹介します。

同行援護について知りたい方は、以下の記事もお読みください。

同行援護の魅力「言葉で世界が広がる」

同行援護とは、利用者である視覚障害者の依頼に応じて福祉事業所がガイドヘルパーを派遣し外出をサポートする福祉サービスです。

ガイドヘルパーは、視覚障害者のサポートに必要な研修を受けているため、私たち利用者は安全快適に外出を楽しむことができます。利用シーンもさまざまで、買い物や通院といった日常的な外出から、旅行やイベント参加、趣味活動まで、目的に合わせて同行してくれます。

私は同行援護サービスの魅力は主にふたつあると考えています。

ひとつ目は、なんといっても安心安全に目的地へたどり着くことができる点です。

視覚障害があると、初めての場所に行くことや人混みを歩くことに不安を感じる場面が多くあります。目的地に無事たどり着けるだろうか。道に迷ったらどうしようか。このような不安から外出を躊躇してしまう方も多いのではないでしょうか。

かつて、私も1人で頻繁に外出をしていたものの、特に初めての場所を訪れる場合は到着するまで不安を感じていました。スマホの位置情報やカメラからの景色を利用して音声で案内してくれるナビアプリなどもリリースされていますが、電波状況の影響で誤差が生じるため確実ではありません。私は、やはりガイドヘルパーが最も安全かつ確実に目的地へたどり着く手段だと思います。

そしてふたつ目の大きな魅力として、利用者のニーズに応じて周囲の状況や雰囲気をコミュニケーションの中で言葉で具体的に伝えてくれる点が挙げられます。

景色の見えない私たち視覚障害者にとって、周囲の建物や状況を知ることができるガイドヘルパーとの外出は、1人では気づけなかった世界を“言葉”で広げてくれるという大きな魅力があります。私はこの魅力に気づいてから積極的にガイドヘルパーを利用するようになりました。

「言葉で世界を広げる」と言うと少し大げさに感じられるかもしれません。そこで私が実際にガイドヘルパーとの外出で世界が広がったと感じる体験をお話しましょう。

ガイドヘルパーの研修内容について知りたい方は、以下の記事をお読みください。

ガイドヘルパーさんの案内をきっかけに体験した「寄り道」

白杖の男性とガイドヘルパーが、飲食店が並ぶ都市部の古い裏路地を会話をしながら歩いている。

ガイドヘルパーを利用し始めた当初、私の主な利用目的は、ブラインドテニスの練習参加と、スポーツジムへの同行でした。当時は新しい場所に出かけてみたいという気持ちも特にありませんでした。しかしそんな普段と変わらない道を歩いている中でも、ガイドヘルパーの何気ない状況説明の言葉をきっかけに自分自身の世界が広がる経験を何度もしてきました。今では新たな気づきが楽しみで積極的にガイドヘルパーを利用するようになりました。

ある日、いつも通りガイドさんとテニスの練習会場への道を歩いていたときのことでした。

ガイドさんが周囲のお店や建物を説明してくれている中で、道沿いにカフェがあることを初めて知りました。そしてガイドさんと相談して少し寄り道してそのカフェに入ってみることにしたのです。

気になったお店にふらっと立ち寄ってみるということ自体は、特に晴眼者の皆さんには当たり前のことかもしれません。しかし私にとって寄り道をするということはとても新鮮なことでした。

それまでの私1人での外出では、出発地から目的地までの道をいかに間違わずに、そして安全に歩くか、ということに集中していたので、道沿いにあるお店や建物に気を配る余裕はありませんでした。

もちろんいろいろなお店が周囲にあるということは雰囲気から感じてはいましたが、1人で寄り道をして初めてのお店に入ることなど想像できないことでした。

まさにガイドヘルパーの利用を通して世界が広がった瞬間でした。それ以来ガイドさんと出かける時には意識的に気になるカフェやお店に入るようになりました。時には事前に行きたいお店をリサーチして行くほど、今ではカフェ巡りにハマっています。

ガイドヘルパーさんに相談して実現した、水泳大会参加

ガイドヘルパーさんとはこんな体験もしました。

私は趣味で水泳を定期的にしていましたが、1人で泳ぐことに飽きてきてしまったので、何か水泳の大会に出たいなと思って色々調べていました。小さい頃から海が大好きだった私は「海で長距離を泳ぐオープンウォータースイムなんて楽しそうだな」と興味を持ちました。

しかし視覚障害者が出場する場合にはハードルがあります。当日の会場までの往復のサポートに加えて、一緒に泳いでガイドしてくれる伴泳者を見つける必要があったのです。当初私は知人に声をかけてみましたが、そう簡単に長距離を一緒に泳いでくれる人は見つかりません。

困ってしまった私は、ダメ元でいつも水泳のガイドヘルパーをお願いしている方に一緒に泳いでもらえないか聞いてみました。するとなんとその方は伴泳の経験者で、私と一緒に大会に出ることも快諾していただけました。そしてついに今年の夏、念願のオープンウォータースイムの大会に出場し、無事500メートルの部で完泳することができました。ガイドさんとの関わりが無ければ私1人では達成できない目標でした。「ガイドヘルパーは世界を広げてくれる」ということを改めて強く実感した体験でした。

ご縁でスキー検定を受験

1人のスキーヤーが雪の斜面を滑り降りている写真。空は青く、斜面で一面雪、背景には黒っぽい針葉樹が見える。
(写真素材:Unsplash)

私は小さい頃からスキーが大好きでした。みつきにはスキーのできるガイドさんも在籍しています。

私は昨年初めてスキーのガイドをお願いすることにしました。最初は「スキーのガイドはどのようにするのだろう」と疑問でしたが、滑っている間は滑る方角だけでなく、山の風景や斜面の様子、周囲の人の様子などを細かくガイドしてもらえました。街中をガイドしてもらうときのように、スキー中も周囲の様子を細かく知ることができて、とても良い体験でした。

実は私にはスキーで実現したい夢がありました。それは国際スキー連盟が実施する国際スキー技術検定を受験し合格することでした。

そして、ガイドさんを通して、なんと全盲でもこの検定を受験することができました。必死に2日間練習を重ねた結果、無事目指していたレベルに合格できました。検定に合格したことはもちろん嬉しかったのですが、それ以上にガイドさんとの関わりの中で自分の夢が実現したことにもとても感動した体験でした。

ガイドヘルパーは、特別な理由がある視覚障害者だけが利用するものではありません。

「ちょっと出かけてみたい」「新しいことを始めたい」そんな気持ちに寄り添い、一歩踏み出すことを支えてくれる存在なのです。

編集後記

Spotliteでは、これまでも同行援護で視覚障害者の皆さんの趣味やレジャーをサポートする様子をお伝えしてきました。

はじめて同行援護を利用したときの体験については、以下の記事も参考になるかもしれません。

やってみたいことや新しいチャレンジにも、ガイドヘルパーを利用していただけたら嬉しいです。以下の記事を参考にしてみてください。

みつきでは、スポーツの経験があるヘルパーも多く在籍しています。

みつきの登録ヘルパーについては以下のページも参考にしてみてください。(個別での仕事の斡旋や特定のヘルパーの紹介依頼、おでかけをお約束するものではありません)

執筆:ケビン
記事内写真撮影:Spotllite(注釈のあるものを除く)
編集協力:株式会社ぺリュトン

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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