働くことは生計を立てるためという側面もありますが、自分のやりたいことを実現できたり、他者や社会と関わる大切な窓のようなものでもあります。障害がありながら働くことは、働くことの楽しみもある一方で、独特の悩みもあるかもしれません。
今回は、企業の人事担当者として障害者採用に携わり、自身も視覚障害のある手嶋さん・村竹さん・森さんの3名が、お互いの情報交換のためにオンラインで交流会を行いました。
企業で働く中で考えていることや悩み、障害者雇用においてこれから実現させたいことなどを鼎談形式で話しています。
プロフィール
手嶋さん
2020年8月より化学メーカーにてダイバーシティ推進担当。レーベル遺伝性視神経症により現在は物の動きが判別できる程度。
村竹さん
通信関連会社で人事・採用担当。レーベル遺伝性視神経症により明暗のみ判別可能。
森さん
福祉関連企業で人事・採用担当。網膜色素変性症により視野欠損あり。
企業内の当事者コミュニティの役割とは?
森 視覚障害のある人事担当者となかなか話す機会がないので、今日は楽しみにしていました! よろしくお願いします。まず、お二人の会社に視覚障害のある社員が何人いるか聞いてみたいです。
村竹 弊社にいる障害者は全員で60人くらいなんですが、そのうち視覚障害者は4人くらいでしょうかね〜。
手嶋 うちの会社は全国に拠点があるので拠点ごとに人事部があるので全体は把握できませんが、本社に所属している障害者全員で30名ぐらい。視覚障害は私が把握しているところで、私以外に弱視が2人いるくらいですよ。
森 企業就労をしている障害者全体の中でも視覚障害者は少数派なんですね。私の会社も、障害のある社員全体で100人くらいいますけど、そのうち視覚障害は私ともう1人かなって感じです。
村竹 障害の有無や種別についてはプライバシーにかかわることなので、気軽に聞くこともできないですし、そもそも当事者を把握すること自体が難しいですよね。ただ、うちの会社では2020年の冬ごろから当事者同士の交流会を企画しはじめました。
森 え!どういう経緯で交流会がはじまったんですか?
村竹 もともとはグループの親会社のダイバーシティ推進室からの発信で、グループ企業内にいる障害のある社員のメーリングリストがあったんですね。ただ、なかなか登録者も増えないし、情報発信も少ないということであまり活性化していなくて。そこで、一旦自社内でつながりをつくろうと思ったんですね。というのも、障害者関連の取り組みってどうしても個別性が高くて会社に働く環境の改善などを伝えることも難しいので、集団で声を集めて届けられればいいなと思って。
森 なるほど。
村竹 さっそく自社内で声がけをしようと思ったんですが、同じ障害者とはいえ障害種別によってニーズも違うので、種別に分けてコミュニティつくったんです。特に視覚障害と聴覚障害は比較的社内で障害が認知されていて、かつ困りごとがあるので、まずは視覚障害と聴覚障害の社員で集まりました。ただ、今は私自身が繁忙期に入ってしまって進められずにいます(笑)
手嶋 うん、うん。春先は人事として忙しい時期ですよね(笑)
森 うちの会社も当事者の集まりがあったんですけど、社内体制の大きな変更により、気づいたら解体しまして。今はないっていう悲しみです。手嶋さんの会社は当事者コミュニティってあるんですか?
手嶋 私自身がまだ去年転職して入社したばかりなので、わからない部分も多いんですけど、そういう横のつながりはないんじゃないかなと思います。なので、村竹さんの話を聞いていていいなあと思いました。
森 ぼくも村竹さんの話を聞いて、うらやましく思いました。一方で、うちの会社だと障害種別で固まるのってどうなの? っていう議論もあったりするんです。ピア的な関わりって必要だと思うんですけど、他の障害のない人に相談できるからいいやっていう人も多くいるので。コミュニティをつくりたいと思う一方で、何のために?というところを打ち出せない自分もいるというか。
手嶋 なんかわかる気がします。自分のことは自分の周りで解決できるっていうスタンスの人もいるってことですよね。
森 そうそう。でも今話しながら、入社したばかりの時点とかで当事者コミュニティがあるのは助かるのかなと思ってきました。新しいチーム、新しい環境に慣れないときに、定着支援の依存先の一つとして、人事担当の定着支援とは別にコミュニティっていう形の依存先があるのはいいのかなと思いますね。
手嶋 たしかに。
森 最近友人から聞いたのですが、ある会社で当事者コミュニティから声が上がって職域開拓ができたということがあったそうです。企業内の当事者コミュニティで内部障害のあるインサイドセールス責任者が、視覚障害のある社員と話して「この人はインサイドセールスができるんじゃないか?」と思って、一度やってもらったところ、問題なく業務が回せたそうなんです。そこから読み上げソフト対応のマニュアルやシステム導入をして、インサイドセールス部門で視覚障害者を受け入れられる環境をつくったという話を聞きました。障害種別も所属部門も横断したコミュニティだからこそのパワーなんじゃないかな〜と思いました。
手嶋 実際に当事者コミュニティをつくっている村竹さんはどう思いますか?
村竹 森さんがおっしゃった依存先という話にも関連すると思うんですが、私自身が先天性ではなく中途で視覚障害になったので、やっぱり中途で見えなくなったみたいな人などのフォロー的な役割もできたらという思いがあります。
森 それはすてきですね。企業内の当事者コミュニティが、今障害がある人のためだけではないっていうのは開放的な考え方だと思います。
採用も定着も千差万別!各社の障害者雇用のスタイルの違い
森 今ちょうど、うちの会社で障害者採用の採用フローを見直していて、お二人の会社の採用方法についてもお聞きしたいです。
村竹 うちの会社は障害者採用を新卒採用でしかやっていないんです。なので、採用フローも普通の新卒採用と基本的に同じなのですが、同じ障害のある先輩社員との面談を挟んだり、個々の状況に合わせて少し採用フローをアレンジしていたりしますね。ちょっと困るのは新卒採用の基準が本当に高くて、年々障害者採用が難しくなってきていることです。
森 わかります。自分がいいなと思っていた候補者さんが落ちると結構へこみますよね。手嶋さんの会社の採用フローはどうなってますか?
手嶋 私の会社は障害者採用を中途メインでやっていますね。主には就労移行支援事業所や国立職業リハビリテーションセンター経由での紹介が多くて、まず書類選考、1次面接を通過したら3日間の実習をやって、その後2次面接、最終面接という順番です。
森 実習はどういうことをするんですか?
手嶋 実は私も入社したときに実習をしたのですが、私のときは Excel スキルを確かめるための集計業務とか、文書の作成とか、メールのやり取りとかそういう初歩的なことをやりました。あとは実習の最終日に自分の経歴や好きなことなど自由なテーマでプレゼンテーションを30分やるということもあって、すごく緊張しましたね(笑)こうした多角的な視点でその人の人間性や適性などを見極めて配属先などもマッチングしているようです。
村竹 手嶋さんの会社はかなり時間をかけて採用してるんですね。
手嶋 うちの会社は発達障害の方をメインで採用しているんですが、結構定着率がよくて、これは採用フローと定着に力を入れているからなんじゃないかと社内では話してます。
森 弊社だと入社前に上司、人事担当者との面談をして、合理的配慮や障害の公開について認識のすり合わせをして、入社後は上司との定期面談、人事担当との定期面談をやっている感じですね。手嶋さんのところはどうやっているんですか?
手嶋 私の会社も入社前は森さんがおっしゃっていたように、人事担当者や現場担当者、あとは産業医の先生も交えて合理的配慮や障害の公開について面談の場を持っています。入社後は発達障害の方だと就労移行支援事業所と連携をとって、四半期に一度、ご本人と上司、就労移行支援のカウンセラーの方とそれぞれの面談を実施して何か困っていることとかないかなどを話し合っていますね。
森 結構面談が多いですね。面談の設定数はどの人も一律なんですか?
手嶋 これ自体が最近決まった方針なので、この方針になってからから採用された人はもちろんですが、それ以前から入社してる人なども対象にしています。「面談はいらない」っていう人も中にはいらっしゃいますが(笑)
森 ご本人からもニーズはあるんですか?
手嶋 あるみたいですね。村竹さんの会社は定着支援でどんなことをやっていますか?
村竹 うちの会社の場合、入社1年目から3年目が育成期間で人事部が定着などを担当しています。その期間中は先に上司の面談した後に、本人と面談の場をもつようにしています。最初は本人と面談をして、次に上司という順番だったのですが、多くの場合本人たちは「大丈夫です」みたいな感じだけど、上司は「もうちょっとこうなってほしい」とか「今後の育成どうしよう」とか悩んでいたりすることが多かったんです。それで、先に上司のヒアリングしてからそのフィードバックを含めて面談を設定しています。
森 その感じ、わかります。
村竹 あと、うちの会社の管理職の人は人間的にも熱い人が多いので、そもそも障害の有無に関わらず面倒見がいい人が多いので、そこは個別にしっかりとフォローしてくれてる部分はあります。
森 なるほど。採用方法や定着の体制なども違いがあっておもしろいですね。
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