今回は、全盲のロック詩人 羽田光夏(はねだひか)さんに電話でインタビューを行いました。
羽田さんは、2020年1月に詩集「世界と繋がり合えるなら」を出版しました。
詩集を出版する経緯から制作の過程、これから取り組みたいことを伺いました。
略歴
静岡県出身。未熟児網膜症により、生まれつき全盲の視覚障害がある。中学生の頃から小説を、高校生から詩を書き始める。
21歳からインターネット上に作品を投稿するようになる。趣味は点字での読書、音楽鑑賞、ラジオを聴くこと。好きな食べ物はマグロの刺身、味のり。
インタビュー
ー詩を書き始めるきっかけは何だったのですか?
盲学校の専攻科の寄宿舎の仲間とバンドを組んで、音楽活動をしていました。そこで、歌をつくるための詩を書いたのが始まりです。最初から詩を作ろうということではありませんでした。
ーいつから本格的に詩を書こうと思ったのですか?
専攻科の時、授業についていけず、自分のやりたい音楽活動ができず、理想と現実のギャップを感じて不登校になりました。その時の自分の鬱屈した気持ちを、恋愛という形で詩にしていました。それを担任の先生に送ったら、学校で個展を開いてくれたのです。そこから、いつかは詩集を出したいなと思い、21歳からネットに詩を投稿するようになりました。
ー詩集の出版はどのような形で実現したのですか?
障害者の就労支援事業所を転々としていたのですが、馴染めずに体調を崩して引きこもるようになりました。時間がたくさんあるから、詩の整理をしていた時に、フリーライターとして活動している福島憲太さんの紹介を受けて出版関係者と繋がりました。紹介してくれた出版社での話は流れたのですが、福島さんが出版社を作るということでそこで詩を出版させていただくことができました。
ー普段、どのような形で詩集を制作しているのですか?
点字盤とブレイルメモポケットを使用しています。点字盤は、A4サイズの木でできている大きいものです。詩を書くときは、点字盤で下書きしたものをブレイルメモで清書して、パソコンで編集しています。
小説やエッセイはブレイルメモで下書きを始めるのですが、詩だけは点字版でなければ気が乗らないんです(笑)
ー詩を書く中で、大変だったことや工夫していることはありますか?
漢字の見た目の印象が分からないことです。編集者から、「ここは漢字だと読みにくいから、ひらがなにしたほうがいいよ」と言われた箇所がいくつかあります。晴眼者に詩集を読んでもらうということは、見た目も重要です。音声読み上げ機能を使えば正しい漢字で書くことはできますが、見た目のイメージを把握するのは限界があります。この作業は、福島さんともう1名の編集者にお任せしました。
ー音声だけでは分からない見た目のイメージも大事ということなのですね。
はい、本の表紙を作るときも、私の要望を伝えてイラストを作成してもらいました。「窓の外に女の子が手を出して、雨のしずくをキャッチする」というものです。このイラストには、外の世界とつながりたい、自分自身を誰かに受け止めてほしいというメッセージを込めています。
ー視覚障害者として、詩人として、社会へ伝えたいメッセージがあれば教えてください。
障害は特別なことじゃなく、一人の人間として先入観なく接してほしいです。
仕事をしていた時、「見えないのにまっすぐ歩けるんだ、すごいね」と言われたことがあります。「ああ、自分は何もできないと思われているのだ」と感じました。私が当たり前にしていることが、特別なことのように見られるのです。私は普通に生活をしてはいけないのかなと思って、疎外感を感じることもありました。
ー視覚障害者のことを社会に知ってもらうことの難しさを感じます。
たしかに、社会に要求することは必要なのですが、視覚障害者の立場から素直に発信していくことも大切だと思うようになりました。私は、20数年間、盲学校という視覚障害者ばかりのコミュニティで過ごしてきて、仕事を始めてから晴眼者の世界に入りました。負けず嫌いなので、晴眼者と同じようにはできないけど、それを言い出せず同じようにやろうとしていました。私自身が、健常者からこう見られているだろうという先入観をなくさなければいけないのかなと思っています。
ー詩集を出版されたことで、羽田さんに変化はありましたか?
自分に自信が持てるようになりました。今まで仕事が長続きしなかったのに、「作品を書くことは続けていいんだ、自分は詩人と言っていいんだ」と思えました。見えないことでできないことはあるけど、詩を書いている視覚障害者もいるということを多くの人に知ってもらえればいいなと思います。
ー羽田さんがこれからやりたいことはありますか?
詩集のほかに、小説やエッセイも出版したいです。小説は、盲学校をテーマにした作品を書いています。視覚障害を含めて、様々な障害をライトに捉えていけるようにしたいと思っています。私が引きこもっている時、歌の力に救われてきました。私自身というよりも私の作品を通して、同じように悩んでいたり、人間関係がうまくいかない人の力になれば嬉しいです。
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