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ストーリー

「誰もやっていないからこそ、たとえスピードが遅くてもやる価値はあるのかな」視覚障害者が立ち上げた出版社・読書日和 代表 福島憲太さん

羽田さんの詩集の画像。本の表紙の下部の読書日和の文字をアップで撮影している。

今回は、静岡県浜松市の出版社、読書日和で代表を務める福島憲太(ふくしまけんた)さんにお話を伺いました。

福島さんは金子あつしというペンネームでフリーライターとして活動しながら、2018年6月から読書日和を経営しています。2020年1月には全盲のロック詩人・羽田光夏(はねだひか)の詩集「世界と繋がり合えるなら」を出版しました。

視覚障害者が出版社を経営する中での困難や工夫、詩集に込めた思いを伺いました。

略歴

1983年福井県生まれ。大学卒業まで京都で暮らす。一般企業での勤務を経て、フリーライターとして活動を始める。その後、出版社で半年間勤務し、2018年6月に読書日和を設立。先天性の白内障と、右目は小眼球による視覚障害がある。視力は右目が0.01以下で左目が0.08 。視野の上部が欠けている。

インタビュー

ーご自身で出版社を立ち上げようと思った経緯を教えてください。
子どものころから文章を書くのが好きでした。大学生の時は、アルバイトができなかったので、新聞に投書を送って、図書券がもらうのを楽しみにしていました。その後、出版社で働いている時に、この事業を続けたいと思うようになりました。今まで、起業したいと思ったことはなく、自分の本を出したいという純粋な気持ちで出版社を立ち上げました。


ーなぜ、京都市にお住まいだった福島さんが静岡県浜松市を拠点に選んだのですか?
インターネットで起業について調べていると、浜松市が起業家応援都市であると知りました。浜松市に縁はありませんでしたが、非常に活気のある街だと感じ、移住することにしました。


ー静岡県浜松市での生活はいかがですか?
実際、私の周りでは、起業されている方がたくさんいて、セミナーもたくさん開催されています。浜松市は、日本で1番日照時間が長く、気候も温暖です。バス路線が充実しているので、視覚障害があっても住みやすいと感じています。


ーフリーライターとしても活動についても教えてください。
これまでに2冊の本を出しました。1冊目は、「風疹をめぐる旅」という風疹をテーマにしたノンフィクションです。2冊目は、ダウン症の妹がいる子どもが主人公の「ひかりあれ」という小学生向けの児童書です。障害者本人が主人公の話はたくさんありますが、障害者のきょうだいが主人公の児童書は少ないようで、きょうだい会などでも読んでいただいているようです。

福島さんが羽田さんの詩集を持って笑顔で映っている画像。

ー読書日和の事業内容について教えてください。
大きく2つの事業を行っています。1つ目は、私自身の本を出版することです。2つ目は、自費出版です。最近はこちらに力を入れています。全盲の詩人、羽田光夏さんの詩集が1冊目になりました。今年中に2~3本出版したいと思っています。たまたま障害に関する内容の本が続いていますが、障害にはこだわらず、今後は浜松を題材にするなど色々なジャンルの本を出したいと思っています。


ー出版の仕事をする中で、視覚障害があって大変なことはありますか?
資料を探すのが大変です。1冊目の風疹をめぐる旅では、出典が約5ページ分あります。医学雑誌を大学の図書館で探すのですが、雑誌は表紙が同じで、巻の数字が違うだけなのです。掛けメガネ式のルーペを使って、とても時間をかけながら探しました。
また、原稿をたくさん読むので、字の間違いがないように注意しています。編集と校正は、外部の方にお願いしています。装丁も細かくアドバイスをしてくれるので助かっています。


ー読書日和が他の出版社と違うセールスポイントとは何でしょうか?
視覚障害者が代表を務める出版社というのは、極めて珍しいと思います。
以前、私が出版社に本を出版してほしいと話を持ち込んだ時、「障害者は継続的にサポートできないから」ということで断られました。障害の有無に関わらず、本を出したい人の希望を叶えられるようにしたいです。小規模なので、出版までの過程のやり取りがしやすいというのもメリットだと思います。

 
ー仕事のやりがいはどんなことでしょうか?
もちろん本ができることがうれしいですし、1冊1冊を自分の力で売って、手渡していく過程も魅力的です。自分でAmazonに出品をしたり、地元のイベントや古本市、さらには障害者の研修大会などにも参加することがあります。

ルーペやメガネなど福島さんが制作に使うグッズを机に並べている画像

ー羽田さんとの出会いから出版にいたる経緯を教えてください。
2018年、出版関係の方から、「詩人として活動している視覚障害者がいる」と紹介を受けました。当時は、詩集を出すために原稿の整理をしているという話を聞いた程度でした。その後、私が出版社を立ち上げたこともあり、詩集を出そうとことになりました。出版費用を集めるために、クラウドファンディングを行い、今年の1月に出版することができました。


ー羽田さんの詩を初めて読んだ時の印象はいかがでしたか?
羽田さんは、10年以上前から詩を書いていました。まず、そのキャリアの長さが印象的でした。羽田さんは盲学校の音楽科を卒業していて、音楽には精通しています。そのため、どの詩にもリズム感があって、曲がつけられそうだと感じました。


ー詩集にはどのような思いを込められているのですか?

羽田さんは、幼少期からずっと盲学校に通っており、人との関わりが少なかったそうです。そこで、詩集のタイトルが「世界と繋がり合えるなら」となっているように、出版をする過程で色んな方とつながりができればいいなと考えていました。


ー実際に、新しいつながりはできましたか?
クラウドファンディングでは、インターネットのサイトで手続きをして振り込む作業が苦手だけど支援したいというお声を頂きました。羽田さんとSNSでつながっていた方もたくさん応援してくれました。また、新聞社に取り上げていただいたことで、地元の方から「読んでみたい」という声をいただきました。今までのご縁と新しいご縁、詩集の出版を通して色んな人のつながりができたことは本当に嬉しかったです。

机の上に本が積み重なったイメージ画像。

ーこれから本を出版する中で取り上げたい話題はありますか?
東京オリンピックパラリンピックが延期になりましたが、何かスポーツについて考えられるような本を出したいです。トップアスリートが活躍するのもスポーツの醍醐味ですが、みんながみんなスポーツするわけではありません。1つのスポーツを題材にして、スポーツの色々な側面を考察したいと思っています。


ー福島さんが生活する中で、社会に足りていないと思うことは何かありますか?

時間的な余裕のない人が多いと感じます。そんなときは、意識的に相手の話に丁寧に答えたり、ゆっくり本を読んでみたりする時間を持ってみてはいかがでしょうか。そのために、読書が好きな人だけでなく、そうでない方にも「本が寄り添っている」と感じてもらえるような本を出版していきたいです。


ー最後に、福島さんの仕事に対する思いを教えてください。

自分に視覚障害があるということを考えると、出版は向いている仕事ではないかもしれません。でも、誰もやっていないからこそ、たとえスピードが遅くてもやる価値はあるのかなと思います。焦ってやらなくてもいいと思える余裕もあります。これからも自分のペースでできることをやっていきたいと思います。

お問い合わせ先

読書日和のホームページ(外部リンク)

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詩集『世界と繋がり合えるなら』(著)羽田光夏
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この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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