こんにちは、栃木隆宏(とちぎたかひろ)です。
私は、国立障害者リハビリテーションセンター学院の視覚障害学科で歩行訓練士の資格を取るために勉強しています。
私の友達に、山口凌河くん(愛称:りょうが)という視覚障害者の友達がいます。視覚障害者スポーツのゴールボールに取り組んでおり、日本代表の一員として活躍が期待されています。
そんな彼は今年の3月、大学を卒業して社会人になりましたが、昨年の11月という微妙なタイミングで突然一人暮らしを始めました。
迫力あるゴールボールのプレーからは想像できない日常と、心境の変化をお伝えします。
いきさつ
りょうがの略歴
1997年茨城県生まれ。幼少の頃から野球を始め、小学校5年生の時に市内の少年野球チームに入団。中学生の時には野球部のキャプテンも務めていました。
中学2年生の冬、眼に違和感を覚えて眼科を受診し、レーベル遺伝性視神経症と診断されます。それから数ヶ月で、光しか感じられない程度の視力にまで低下していきました。
目が見えなくなったショックから引きこもりがちになっていたものの、たくさんの友人からのサポートもあり、無事に中学校を卒業。高校は茨城県立盲学校に進学しました。そこでゴールボールに出会い、日々練習に励むようになります。
2013年には日本代表に選ばれ、ワールドユースチャンピオンシップスで金メダルを獲得しました。
その後、日本代表の中心メンバーとなり、2020年東京パラリンピックでの金メダル獲得を目標に練習に励んでいます。
根っからの明るい性格と、おっちょこちょいな一面があり、誰からも愛される人気者です。
突然の1人暮らし宣言
りょうがは昨年、ゴールボール日本代表としてアジアパラ競技大会に出場しました。
しかし、結果は4位。
大会期間中、「このままでは2020年の東京パラリンピックで勝てない」と直感的に感じたようです。
そして帰国後、これまで過ごしてきた実家の茨城県から、普段練習している埼玉県所沢市に引っ越すことを決断しました。
不動産屋に飛び込み、その日に物件を決めてしまったそうです。
散らかり放題の部屋
りょうがが埼玉県に引っ越して来てから、ちょっとしたことで「眼を貸して」という依頼を受け、彼の家に行くことが増えました。
しかし、家に入るたび、気になっていくことが…
日に日に部屋が汚くなっている…
そこで、「なありょうが、部屋の掃除ってどんな感じでやっとるん?」と聞くと、彼は堂々と「やらなくてもきれいでしょ!」と答えました。
そんな答えが返ってくると思っていなかった私は、彼に部屋の隅を指で触ってもらいました。
すると、「うわっ。めっちゃザラザラじゃん!」と言うので、その日は掃除した方が良さそうだということのみを伝えて帰宅しました。
決定的な出来事
数日経ったある日、彼の家に行きました。
家の中は汚いままでした。
衣服や机の上は散らかっているし、フローリングの掃除もした形跡はありません。
引っ越して以来、布団が敷かれっぱなしのことが気になり、布団をめくってみると…
なんと、布団にカビがびっしり!
このことを彼に伝えると、流石にショックだったのか、しばらく無言状態が続きました。
彼曰く「布団を干すことは知っていたが、まだ大丈夫だと思っていた」のだとか…
これが契機となり、部屋の掃除を始めました。
ビフォーアフター
机の上
まずは机の上。
書類、食べカス、小銭にイヤホンまで様々なものが重なった状態で放置されていました。
それぞれをテーブルの中で仕分けさせ、書類に関しては本当に必要なものなのかを判断して、要らないものはゴミ箱、要るものは書類ボックスへ。
食べカスは台拭きでまとめて取り除く。小銭は小銭ケースにしまい、イヤホンも複数をまとめて場所を決めて置いておく。
最後に、テレビやエアコンのリモコンなど、必要だと思ったもののみを机の上に置きました。
これにて完了です。
衣服
続いて、散らかっている衣服。
まず、衣服は系統ごとに分類しました。
クローゼットが狭く、全ては入りきらなさそうだったので、各系統で似たようなものは必要な数がどれくらいかを考えて、不要な分は実家に持って帰ることにしました。
衣類は1着ずつ丁寧に、時には口も上手に使いながら畳んでいきました。
カーペットとフローリング
最後にカーペットとフローリングの掃除です。
カーペットは粘着カーペットクリーナー(通称、コロコロ)を使ってゴミを取っていきました。
その際、やり忘れがないようにするために1列ずつ行ない、同様にしてフローリングも拭いていきました。
心境の変化
嫌々始めた部屋掃除ですが、やっていくうちに、彼の中で心境の変化が。
「部屋がきれいになっていくのって気持ちいいな」
短時間でここまで心境が変化するのかと、この発言には驚きました。
自分でやってみて、その成果が感覚的に分かるということがやる気に繋がったのかなと思います。
その日以降、彼の部屋は清潔な状態が保たれています。
りょうがは、「部屋をきれいにしたことで、きれいな状態を意識するようになった上、ものをなくす頻度が少なくなった」と嬉しそうに話してくれました。
これからの課題
今回の清掃で明らかになったりょうがの課題を以下にまとめます。
- コロコロのシートの破り始めを発見し、一周させてちぎること。
- フローリングや机上の拭きそびれができること。
- 衣服の色の識別。
- 靴下のペアの識別。
- 収納可能容量に対する収納量の見極め。
- 生活に関する知識の欠乏。
1人でできる工夫だけでなく、視覚障害者が使える便利グッズやアプリを紹介するなど、色々な方法で解決していきたいです。
例えばりょうがの場合、色を判別するアプリや靴下を対のまま洗濯するためのクリップのような便利グッズなどの利用が考えられそうです。
視覚障害者が一人暮らしをするということ
今回の清掃を通して感じた視覚障害者が一人暮らしをする上での困難と解決策をまとめてみました。
視覚障害ゆえの困難
- 物を失くしやすく、その発見が難しい。
- 部屋が汚れたことに気付きにくい。
- 汚れた箇所のみを清掃するのが難しい。
- 清掃しても綺麗になった実感を持ちにくい。
あれだけ部屋が散らかっていたにも関わらず、どのようにしてものをなくさないようにしていたのかを聞くと、「大切なものは全て1つにまとめている」そうです。
そういえば、練習の時も遊びに行くときも、いつも大きな黒いリュックサックを持っています。彼なりの工夫をしていたようですが、部屋が綺麗なことに越したことはありませんね。
解決策
- カテゴリーごとにボックスを用意して収納したり、決まった場所に置き、その場所に戻すことを徹底する。
- 汚れたかどうかに関わらず、定期的に清掃する。
- 信頼できる晴眼者が来たときに、部分的な汚れの有無について尋ねてみる。
- 床やマットの汚れなどであれば、コロコロやクイックルワイパーのようなシートに付いている汚れ具合で汚れが取れているかを判断する。
1人暮らしをしていると、自分以外の目が気にならなくなり、掃除をする必要性を感じなくなるのかもしれません。
定期的に誰かを家に呼ぶことも部屋をきれいにするための1つの方法ではないかなと思います。
最後に
これからは、部屋の掃除であればりょうが1人でも大丈夫かなと思います。今後は、トイレやキッチンなど部屋以外についても主体的に行ってほしいです。
私の伝える方法が必ずしもりょうがに適しているとは限りません。
そのため今回は私が視覚情報を補いながら、彼なりの方法で掃除していきました。
視覚障害があることも踏まえて色々な方法を提案しましたが、それらは晴眼者にとっても掃除がしやすくなるものだと思います。
障害者にとっての良い方法は私たちにとっても良い方法なのかな、そんなことを感じたりょうがとの時間でした。
視覚障害者が外出時に利用できる同行援護
一人暮らしをしている視覚障害者は、今回のように様々な工夫をして生活しています。ほんの小さなことでも、生活が大きく変化します。
しかし、視覚障害者は外出する際にも、不便を感じることがあります。
そんな時、ガイドヘルパーの資格を持つ有資格者が移動の支援や情報提供を行う「同行援護」という福祉サービスがあります。
Spotliteでは、視覚障害者の外出時にガイドヘルパーを派遣する障害福祉サービス「同行援護」の事業所を運営しております。利用者、ヘルパーともに、若年層中心の活気ある事業所です。余暇活動を中心に、映画鑑賞やショッピング、スポーツ観戦など、幅広いご依頼に対応しています。お気軽にお問い合わせください。
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