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ストーリー

視覚障害者はデコレーションケーキの形を知ることができない。触る博物館開館を目指す齋藤健二さん

テーブルの上に置かれたデコレーションケーキの食品サンプル。齋藤さんが手で触れている。

デコレーションケーキの形を、あなたはどのように認識しましたか?

晴眼者にとっては当たり前すぎて、普段は考えもしないことかもしれません。しかし、全盲の方にとっては、形を知る機会が得られません。例えばリモコンやコップならば、触って形を知ることができますが、デコレーションケーキはそうはいかず、形を知ることのできるタイミングがないのです。

また、幼少期から全盲の齋藤健二さんは、観覧車が車輪状の形であることを40代になってから知ったそうです。乗ったときに「上がって下がる」ことは知っていましたが、「エレベーターみたいな感じかな」と想像していたと言うのです。

そうした経験を持ち、現在は神奈川県立平塚盲学校の英語教員である齋藤さんは、触ることで形がわかる「触る博物館【サイトウワールド】」の設立を目指して模型収集を続けています。コレクションも拝見しながら、お話をうかがいました。

オマケの「オート三輪」が「朝ドラ」とつながった瞬間

-模型を集めるようになったきっかけを教えてください。

小さいころから、触ってものの形がわかるのは楽しいという感覚は持っていました。

目で見ることができない自分にとって、キャラクターや乗り物のおもちゃを触ることは、イメージが膨らみました。世界を知るひとつの入口だったと思います。観光地に行くと、キーホルダーなどでお城やタワーなどのミニチュアがあります。小さいころから好きでよく買ってもらっていました。

-模型を集める中で、特に印象的な経験があれば教えてください。

大学2年生の頃でした。高校まで盲学校に通っていた私は、教員になりたかったこと、もっと人数の多い学校生活を体験したかったことから一般の私立大学に進学していました。

2000年代初頭に、おまけがメインの食品が「チョコエッグ」をはじめとしていろいろ売られていました。精巧な動物や日用品のフィギュアが話題で大人のファンも多くいました。私も好きでよく買っていたのですが、その中に「タイムスリップグリコ<なつかしの20世紀>」シリーズがありました。

大学の生協で「タイムスリップグリコ」を買った時に「オート三輪」が出て、「あっ!これか!」と気づいたのです。

当時、NHKの朝ドラで昭和の高度経済成長期を舞台にした『てるてる家族』が放送されていました。主人公の父親がパン屋を営んでいて、私は音声解説付きでドラマを楽しんでいたのですが、「三輪車で配達する」という表現がよく出てきました。

「ふたを閉めるような音がするし、自分が知っている子ども用の三輪車とは違うんだろう」という想像はしていましたが、グリコのオマケで「オート三輪」を触った時に「朝ドラの三輪車はこれだったのか!」とつながったのです。

当時はお菓子のほかにも、ペットボトル飲料にハリウッド映画や人気アニメのキャラクターをかたどったミニサイズのフィギュアがよくついていました。自分にとっては触って形を知ることができるので、楽しかった記憶があります。

椅子に腰かけ、自宅でインタビューに笑顔で答える齋藤さん。グレーのトレーナーを着ている。

はじめは時々教材に使う程度だった

-20代のころから、コレクションを博物館にしようと考えていたのでしょうか?

当時は自分の楽しみとして、気に入ったものを集めていただけでした。

大学卒業後、英語をより磨きたいと考えカナダに半年間留学をしました。帰国後、あんまマッサージなど理療の技術も身に着けたいと思い、教員試験にチャレンジしながら理療の学校にも通いました。

在学中に盲学校で産休代理の非常勤講師の募集があり、そちらで働きながら改めて教員採用試験にチャレンジしました。そして、自分の母校でもある今の「神奈川県立平塚盲学校」に勤務できることになりました。

授業で使えそうだと思った時に、教材としてコレクションから模型を持っていくことはありましたが、当時は博物館までは考えていませんでした。

-以前取材を受けた動画を拝見しました。口の模型を英語の発音の授業に使っていましたね。

保健室の歯磨き指導用の歯の模型を、英語の予算で買ってもらって使っています(笑)。「唇もあった方が子どもが分かりやすい」と、晴眼者の先生がフェルトで唇もつけてくれています。

※齋藤さんが取材を受けた動画は以下の画像をクリックすると再生できます。

-その後、どういったきっかけで博物館の構想につながったのでしょうか?

岩手にある「桜井記念 視覚障がい者のための手でみる博物館」や、特別支援教育の研究者、大内進先生が運営している「手と目で見る教材ライブラリー」には何度か訪れていました。

コロナ禍の2020年ごろに、大学時代からの友人が、「模型が好きなら一緒にいろいろ買いに行こうよ」と誘ってくれました。100円ショップやリサイクルショップを回るうちに、自分でも新しい発見があり、どんどん物が増えていきました。

目が見えない子ども達、特に先天性の視覚障害の子どもは、形を知る機会が少ないのが課題です。それなら、コレクションをいろんな人に触ってもらえるようにしたいと思い、岩手の博物館のような「触る博物館【サイトウワールド】」を思いつきました。

-ネーミングも、視覚障害者ならクスッと笑えるいい名前ですね。現在、コレクションはどのくらいありますか?

正確に数えてはいないですが、2000から3000点以上あると思います。

私の活動を知って、生徒の保護者や知人のつてで不要になった模型やおもちゃを譲ってくださる方もいます。先日は東京都内の保育園が「閉園するので」と、保育園で使っていた楽器や動物の人形などを譲ってくださいました。食品会社につとめている友人は、社内で使わなくなったお弁当の食品サンプルなどを送ってくれます。

40代で、観覧車の構造を知る

-コレクションで、自慢の品やおすすめがあったら是非教えてください。

一番は、デコレーションケーキの食品サンプルです。これは、元同僚から地元平塚のサンプル作家さんを紹介してもらって、オーダーメイドで制作してもらいました。

デコレーションケーキは、触るとやわらかいし体温で溶けてしまうので、多くの視覚障害者は形を知ることができないのです。

ですから、あえてホールで、また通常の食品サンプルと違って、スポンジケーキの部分はロウではなくスポンジ素材で作ってもらいました。断面のいちごの部分は触って分かるように感触も変えてあって、生クリームのデコレーションも触ることができます。

いちごのショートケーキの食品サンプル。白い生クリームのデコレーションが全体にほどこされ、赤いイチゴが乗っている。5ピースあり、並べるとホールケーキの一部が欠けた形になる。各ピースの断面は黄色いスポンジケーキが見えていて、スポンジとスポンジの間にクリームとイチゴが挟まっている。

-目で見ても、とてもおいしそうな食品サンプルです。ほかにはありますか?

平塚市は七夕祭りが有名ですが、アーケードの高い位置につるされた大きな七夕かざりは、吹き流しの下の方しか触ることができません。平塚市では福祉作業所で「ミニ七夕かざり」を作っているところがあって、毎年お祭りの時期に販売しています。これは手に取って触ることができるので、どんなものが飾られているのか、視覚障害者でも楽しめるのです。

※2025年の平塚市観光協会のXのポスト

最近買ったものでは、100円ショップの観覧車のミニオブジェです。観覧車に乗ったことはあり、「上がって下がる」ことも知っていましたが、私は「エレベーターみたいな感じかな」と想像していました。今回、模型を買ってみて初めて「車輪状の物が回転しているのか!」と、知ることができました。大人になった今でも触ることで発見があります。

観覧車の模型を手に持った齋藤さん。模型は手のひらより少し大きいサイズで、金属の棒を組み合わせて作られている。

また、これはリサイクルショップで購入したオランダの「風車」のおもちゃです。こうした外国の建築物は、旅行に行ったとしても触ることができませんし、写真を見ることもできないので、楽しいです。

木とプラスチックでできた風車のおもちゃを持っている齋藤さんの手元。おもちゃの高さは手のひらの2倍くらい。
裏面に「MADE IN Holland」と記載があったので、取材時にお伝えしました。

-今回のお話で、視覚障害者の方にとって「触ることができる」模型がどれだけ多くの情報をもたらすのか、より想像できた気がします。博物館開館に向けてはどのようなことを考えていますか?

視覚障害者だけではなくて、多くの人がじっくり触ることができる、広い場所を探しています。 

また、晴眼者も視覚障害者も一緒に形を楽しめるようなワークショップを開けるサロンも用意したいと考えています。晴眼者の子にとっても、小さいうちから「社会にいろいろな人がいる」と体験できる場があることは重要だと考えています。

-最後に読者の方にメッセージがあればお願いします。

まだまだ模型やおもちゃを募集しています。「これは汚いから」とおっしゃる方もいますが、視覚障害者は目で見るわけではなく触って形を知ります。見た目の古さはそれほど関係ありません。形が崩れていなければ、少しの汚れは気にせず、記事末尾のメールアドレスにぜひご連絡をいただきたいです。

模型や玩具のご提供、お問い合わせ先

齋藤健二さん「触る博物館」関連のご連絡は以下のメールアドレスまで。
saito.world21@gmail.com

取材・執筆・写真撮影:aki
編集協力:株式会社ペリュトン

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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