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編集部から

福祉の事務作業はなぜここまで複雑なのか。現場から見た制度と構造の課題【代表コラム】

座ってノートパソコンを見ている男性と、その左隣から、立って画面を指さし話しかけている男性。

福祉の事務作業は、まあ複雑です。本当に、複雑です。

最近、「これをどう効率化するか」ではなく、「そもそもこの複雑さは必要なのか」と考えるようになってきました。

今回は、現場で感じる課題と、福祉業界の根本的な構造について書いてみたいと思います。

上限管理を効率化したいと「かんりちゃん」を開発

例えば、同行援護の上限管理です。

利用者は一定の所得がある場合、利用料の1割を負担します。ただし、1ヶ月の上限額が決まっています。

例えば、利用者Aさんが、みつきと、もうひとつの事業所さつき(仮称)を利用していたとします。  Aさんの1ヶ月の上限額は9,000円とします。

とある月、みつきでの利用額が6,000円、さつきでの利用額が4,000円だった場合、本来は上限の9,000円までの負担で済むはずです。

しかし、そのままそれぞれの事業所が請求すると、Aさんからは合計で10,000円が徴収されてしまいます。つまり、上限管理を行わなければ、利用者が損をするのです。

男性二人が机の上に書類やペンなどを広げて話している。一枚の書類を二人でのぞき込み、確認しながら困った顔をしている。

それを防ぐために、事業所同士でやり取りが発生します。

「今月、Aさんの利用額はいくらですか?」  

「合計9,000円を超えていますね。では、さつきさんの徴収は3,000円でお願いします。差分は国に請求してください」

この調整を、毎月行います。

事業所によっては「FAXで送ってほしい」と言われることもありますし、期日までに返ってこないこともあります。  逆に「何日までにください」と土日関係なく連絡が来ることもあります。送られてきた金額が間違っていることもありますし、そもそも「ジョウゲンカンリって何ですか?」という事業所もあります。もちろん、こちらが間違えて相手に迷惑をかけることもあります。

もう一度言いますが、まあ複雑です。

やり取りする事業所が増えれば増えるほど、この煩雑さは増していき、現場はパンク寸前になります。

そこで、私たちは「かんりちゃん」というシステムを開発し、運用を開始しました。

正直に言うと、コスト的には全く見合っていません。それでも、現場のスタッフが疲弊してしまう状況を見て、効率化のために開発せざるを得ませんでした。

結果として、他の事業所でもおおむね好意的に受け入れていただいています。一方で、「難しそうだから今まで通りがいい」「人数が少ないから不要」という声もあります。  これもまた、現場のリアルだと思っています。

以前開発した、同行援護支援システムの「おでかけくん」の開発背景は以下の記事からお読みいただけます。

移動支援はまた違った事務作業が。次は「イドーマン」?

もうひとつの例が、移動支援です。

同行援護は国の制度なので単価は統一されており、請求も一括で行えます。  しかし、移動支援は自治体ごとに単価も異なり、請求書の形式も違い、請求方法も違います。これもまあ複雑です。

AIの発展によって、こうした業務の一部は自動化できるようになってきました。ルールを学習させれば、上限管理や請求処理もかなりの部分まで自動化できそうです。  実際に、そうした仕組みづくりにも取り組んでいます。

ただ、それでも最後には「印刷」「押印」「郵送」が残ります。

机の上の複数の書類と人の手元の写真。左手で指さし確認をしながら右手にペンを持ち書類に書き込んでいる様子。

ちなみに、Snow Manが好きなスタッフがいるので、移動支援のシステムは「イドーマン」という名前にしようか、などと冗談を言っています。ただ、冗談では済まされないくらい、複雑さの度が過ぎているのではないかと感じる今日この頃です。

ここで、ふと考えました。

今は便利な時代です。AIの急速な発展によって、システム開発は、より手軽に多くの人ができるようになりました。「SaaS is Dead(※)」と言われることもあります。ただ、私たちが関わる福祉業界において、それでいいのでしょうか。

そもそも、根本の制度が複雑すぎるのではないか。

私は制度の専門家でもなければ、学者でもありません。  これから言うことが乱暴であることは承知のうえで書きます。

上限管理という制度そのものがなくなればどうでしょうか。  利用者の負担額が青天井にならないようにする方法は、他にもあるはずです。

移動支援の単価も、国で統一すればいいのではないでしょうか。  実際には大きな差があるわけではないのに、ロジックと運用方法を自治体ごとに変えて、あえて複雑にする理由が私には分かりません。

効率化は大切ですが、制度自体に大きなエラーがある状態で、現場だけが工夫し続けることに限界を感じています。

私がやるべきことは、夜な夜なAIで開発をすることではなく、  現場で起きているこの「エラー」をきちんと言語化し、伝えていくことです。

大変だったものが便利になると、確かに嬉しくなります。でも、そもそも大変なもの自体がなくなれば、全員がハッピーになります。

男性二人がノートパソコンを見ながら笑顔で話している様子。

※SaaSとは、インターネット経由で月額や従量課金で料金を支払い利用するソフトウェア提供の形のこと。AIが発展して「SaaSは終わる」という考え方も注目されています。

皆さんの事業所では、どんな課題がありますか?

とはいえ、ひとつの事業所が声を上げたところで、すぐに何かが変わるわけではありません。

政治家には、そう簡単になれません。では、どうすればいいのか。

この記事を読んで、同じような課題を感じている方がいれば、ぜひ私たちにシェアしていただけると嬉しいです。違うという意見も大歓迎です。賛否両論含めて、現場を認識していただく契機を作りたいと考えています。

他の福祉サービスでも、同じようなことは起きているのでしょうか。

目の前の利用者さんやスタッフのことをこれまで以上に大切にしながら、根本解決につながるようなアクションを少しずつでも積み重ねていけたらと思います。

記事内写真撮影:Spotlite
編集協力:株式会社ペリュトン

この記事を書いたライター

高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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