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編集部から

視覚障害者が家を借りること。4年越しの活動を経てシンポジウムに登壇しました【代表コラム】

晴れた昼間の住宅街、白杖を持った女性が歩道に立って車道の方を向いている。顔をあげ斜め上を見上げている。

2025年8月30日、第33回視覚障害リハビリテーション研究発表大会で「ライフの基盤“家”を借りる」というテーマについてのシンポジウムに登壇しました。

今回は、そのシンポジウムで取り上げられた内容をご紹介いたします。私自身の体験をもとに小さな発信を続けてきたことが、4年越しで少しずつ形になってきた経緯とその裏側を、あらためて整理してみたいと思います。

シンポジウムの概要:開催概要|第33回 視覚障害リハビリテーション研究発表大会(外部リンク)

視覚障害者の家探しで、契約当日に断られる経験

4年前、神奈川県で1人暮らしをしている視覚障害者の引っ越しを手伝ったときのことです。

管理会社といい感じでやり取りが進んでいたにも関わらず、身分証明書として障害者手帳のコピーを提出した瞬間に入居を断られたり、契約当日の朝、「やっぱり視覚障害者の入居は不安とのことで……」と急に契約を取り消されたりしたことがありました。細かい説明もなく、視覚障害があるだけで、入居を断られるという現実に強い無力感を覚えました。

この出来事を、Spotliteで記事にまとめました。大きな影響を与えられるとは思っていませんでしたが、「こういうことが起きている」という事実を残しておきたいと感じたのです。

すると数カ月後、1通のメールが届きました。差出人は、一般社団法人全国賃貸不動産管理業協会の事務局の方でした。

メールには、不動産の業界に携わっていながら、視覚障害者の入居に関して問題意識が向けられていなかったことへのお詫びと、会報誌や研修会で周知できるのではないかという前向きなご提案が書かれていました。その後、わざわざオフィスにお越しいただき、視覚障害と住宅の課題について熱心に耳を傾けていただきました。

こうした背景もあり2023年には視覚障害者の1人暮らしについて座談会も実施しました。記事は以下のリンクからお読みいただけます。

全国賃貸不動産管理業協会に招かれ講演

後日、全国の役員が集まる場にお招きいただき、視覚障害と賃貸物件についてお話しする機会をいただきました。そこには国土交通省の担当者も来てくださり、当事者の声を直接お伝えする貴重な機会となりました。

私はシミュレーションゴーグルを用い、視覚障害の見え方を体験してもらいました。

机の上に置かれた3つのシミュレーションゴーグル。全体がぼんやり見えるタイプ、視野が狭くなるタイプ、全盲のタイプの3種類。
シミュレーションゴーグルの一例。視野が狭くなるものや全体がぼんやり見えるものなどがある。

通勤や料理も練習すれば問題なく行えることや、色々な福祉制度や支援機器を活用できることなどをお話しました。日常的に視覚障害者に関わる人々からするととても非常に基本的なことですが、受講者の皆さまからは「初めて知ることばかりだった」「これからは視覚障害者が相談に来られても対応できそう」というお声をいただきました。

さらに、協会の会員が閲覧できるサイトで動画を公開いただいたり、セミナーに登壇する機会もありました。このような発信を見たいくつかの大手賃貸仲介サイトのご担当者ともご縁をいただき、昨年2024年には、記事にしていただきました。

全盲の大学1年生、賃貸探しは困難だらけ…。一人暮らし物件20件以上で拒否、視覚障がい者の住まい探しサポート利用でようやく入居へ(外部リンク)

大きな成果とは言えないかもしれませんが、少しでも社会に問題を知ってもらえるきっかけになっていれば嬉しいです。

どれだけ微力でも、発信を続ける

そして今回、2025年8月30日に、視覚障害リハビリテーション研究発表大会のシンポジウムで、この住宅の課題を取り上げていただくことになりました。この研究発表大会は毎年1回開催されていて、今年は第33回でした。

第33回視覚障害リハビリテーション研究発表大会の様子。ステージ上に4人の登壇者がいる。

そこで、これまで引っ越しで断られた事例のある視覚障害者の方と、日頃からお世話になってきた全国賃貸不動産管理業協会の事務局の方に登壇をお願いしました。当事者と不動産管理の双方の立場からお話しいただくことで、より現実的で多面的な議論ができたのではないかと思います。

一方、周りには「まったく苦労したことがない」という視覚障害者の方もいます。何が違うのでしょうか。単なる運だけではなく、さまざまな条件や環境の影響があるのだろうと感じています。

思えば、私自身も大学1年生で初めて1人暮らしを始めてはや16年。合計5回、引っ越しをしてきました。広島、所沢、横浜、川崎、そして東京。飽き性な性格もあり、住宅は購入よりも賃貸派です。これからもまた引っ越しをすると思います。家を探すのは好きで、時間があれば定期的に賃貸サイトを見ています(笑)。

自分で言うのもなんですが、いい物件を見つけるのは得意だと思います。もし賃貸物件でお困りの視覚障害者はお気軽にご相談ください。我々は不動産関連の許認可や資格はありませんが、できる限りご協力させていただきます。

こうした取り組みは決してお金になるものではありません。それでも、住宅に関する困難は暮らしに直結する問題だからこそ、できる範囲で続けていきたいと思っています。

今日もどこかで、家を借りたい視覚障害者が断られているはずです。来年の引っ越しシーズンに、不動産の入居を断られる視覚障害者が「0」になっているかと言えば、正直、自信はありません。

だからこそ、どれだけ微力だとしても、一人ひとりが発信を続けることが重要です。今はつながっていなくても、私たちと思いを同じくする誰かに届くかもしれないからです。住宅をめぐる取り組みが、視覚障害の有無を超えて、誰もが安心して暮らせる社会につながることを願っています。

視覚障害者の女性と晴眼者の女性二人が、公園のベンチに座って楽しそうに笑いながら話している。

記事内写真撮影:Spotllite
編集協力:株式会社ぺリュトン

この記事を書いたライター

高橋昌希

1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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1991年香川県生まれ。広島大学教育学部卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院修了。視覚障害者のための福祉施設での勤務を経て、ガイドヘルパーの仕事を行う。教員免許(小学校・特別支援学校)を保有。歩行訓練士。Spotlite発起人。

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