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同行援護DXシステム「おでかけくん」でペーパーレス化大作戦-運営メンバーが語る導入メリット-

机の上でスマートフォンを操作している手元のクローズアップ。スマホの画面は「おでかけくん」の画面で、横には折りたたんだ白杖がある。

視覚障害者の外出を支援する「同行援護」は、買い物やショッピング、スポーツ観戦などさまざまな場面で利用することができます。同行援護事業所みつきが運営する当メディア「Spotlite」でも、いろいろなお出かけシーンや利用方法などを紹介してきました。

同行援護には、業務の面で大きな課題がありました。ほとんどの事業所では、紙に書かれた実績(実際の利用時間)を、ガイドヘルパーが代わりに「10時から12時です」と読み上げて、視覚障害者が印鑑を押す方法で運用されているのです。

間違ってしまっても視覚障害者が確認できない仕組みは、現代に合っていない。そう考え、みつきはDXアプリ「おでかけくん」を開発しました。現在では、業界全体を良くする目的で、同業他社のみなさまにも安価に利用いただけます。

今回の記事では、「同行援護事業所みつき」で紙での煩雑な業務を担ってきた土屋このみさんと浜可奈子さんのインタビューを通して、みつきのペーパーレス化大作戦をご紹介します。

「おでかけくん」とは?以下のリンクより概要をご確認いただけます。

おでかけくんのプレスリリースは以下のリンクから。
株式会社mitsuki、視覚障害者の外出を支援する「同行援護」のDXを推進する支援システム「おでかけくん」をリリース。|PR TIMES(外部リンク)

ノートパソコンを使っている笑顔の土屋さん。
土屋このみさん
ノートパソコンを使っている笑顔の浜さん。
浜可奈子さん

視覚障害者向けの制度なのに、「紙」と「印鑑」?

─まずは「おでかけくん」を開発する前には、どんな課題がありましたか?

土屋さん 利用者さんやヘルパーさんとのやり取り、また、役所への申請業務に、ものすごく時間がかかってしまっていました。原因は、やはり紙を使って手書きされたものをパソコンで打ち込む業務フローにありました。人為的なミスも発生してしまうし、大量の紙の管理にはコストもかかるし、郵送にはお金も時間もかかってしまいます。「こんなにデジタルが普及している時代に、なんて生産性の低い作業をしているんだろう」と思っていました。

また、事業所とヘルパーさんとのやり取りでは、依頼の受諾可否確認のLINEを送って、お返事を待ってNGならまた別の方に打診していました。以前は同行援護の依頼件数が少なかったので、なんとかなっていたのですが、今の量を当時のやり方でやるのは到底無理だと思います。

机の上に複数の紙やペン、封筒などが乱雑におかれ、二人の男性が確認しながら紙を封筒に入れている。

浜さん 月末から月初にかけて請求業務があるので、私は「もう月末・月初が来ないでほしい」とよく思っていました(笑)。請求は月ごとに締めて、翌月10日までに行うと決められています。期限が決まっているなかで、ヘルパーさんから紙を集め、1件ずつ入力していくのは大変でした。

また、なかには提出が期限に間に合わない方もいます。そうしたとき、再度「提出してください」と連絡する嫌な役回りをしなければいけませんでした。加えて、10日の請求を終えてから「実はありました」と言われることも……。自治体への請求を取り下げて、再請求する手間も生じます。そうした管理ややり取りもかなり負担に感じていました。

土屋さん 特に1月と5月は大変です。お正月とゴールデンウィークがあるにも関わらず、期限の「10日」が後ろ倒しされるわけではないのです。休日にも出勤して作業しなければならないこともありました。
また、代表の高橋は、「そもそも視覚障害者向けの制度なのに、紙と印鑑でやり取りしなければならないことはおかしい」と考えていたようです。

机の上に紙の一覧表があり、ヘルパーが印鑑を押している手元の写真。横には白杖があり、ヘルパーの隣には利用者が座っている。

より良い支援のために、自動化しすぎない部分も大切に

─社内で「おでかけくん」を開発することになった経緯を教えてください。

土屋さん まずは、視覚障害者向けの福祉サービスとして、視覚障害者への情報保障を行い、公正に運営したいと考えていました。そして、ヘルパーさんや私たちが、スマホ1台で働きやすい環境を整えたいとも思っていました。

いろいろなアプリやサービスを使って試してみましたが、同行援護事業の運営に使いやすいものが見つからなかったため、自社で開発することになりました。

開発には、視覚障害者のエンジニアが活躍しています。(以下、内部リンク)

─「おでかけくん」では、どのような業務が可能なのでしょうか?
浜さん 「おでかけくん」には、以下の機能があります。みなさんのスマートフォンに入っているLINEアプリを通じて気軽に使うことができます。

視覚障害者がスマートフォンを耳の近くに持ちながら、満面の笑顔で音声で操作している様子。
  • スマホから実績報告
    • ヘルパーの実績報告や交通費の申請は、帰り道にスマホで入力。
  • 管理画面で一元管理
    • 運営スタッフは、同行援護の依頼を一覧で確認。事務所外など、どこからでもアクセス可能。
  • マッチング最適化
    • 視覚障害者とヘルパーのマッチングを独自のシステムで最適化。楽しい同行援護を実現。
  • 請求ソフトへ簡単連携
    • 「介舟ファミリー」とCSV連携。毎月の実績をワンクリックで取り込み可能。
  • 給与計算ソフトへ簡単連携
    • 「マネーフォワードクラウド給与」とCSV連携。勤怠データから即座に給与明細を作成。

─開発のプロセスで、気をつけていたのはどんな点でしたか?

土屋さん 個人情報の保護は絶対に必要です。利用者さんが依頼を登録したときに、最初からお名前や住所が多くのヘルパーさんに伝わる状況は避けなければなりません。

まずはお名前を出さず、年代や市区町村の情報だけを提示してヘルパーさんを募ります。マッチングが決まった後で、お互いに詳細がわかるような仕組みにしています。

浜さん 利用者さんとヘルパーさんのマッチングは、あえて自動化しすぎないように開発を進めていました。例えば、利用者さんが登録したときにヘルパーさん全員に通知がいくと、トラブルのもとになってしまうこともあります。

その点は、普段からみなさんとコミュニケーションを取っている私たちが考え、割り振るのが重要な仕事だと思っています。

念願の海外ワーケーションも実現!

─「おでかけくん」を開発し、導入して良かったのはどんな点ですか?

土屋さん 私は海外でのワーケーションを実現できました!「おでかけくん」がなかった頃には考えられませんでした。もともと海外でも仕事をしていて、今も海外に行くのが好きなのです。昨年9月にはスリランカに2週間、今年の2月から3月にかけてはアフリカとインドに3週間行きました。場所に縛られずに働けるようになってとても嬉しいです。

浜さん 土屋さんがワーケーションができるほど、膨大な量の業務を削減できました。

具体的には、まず実績記録表の紙を廃止することができました。おでかけくん導入前は、紙の目視確認に約10時間、計算ミスや読めない文字に関する個別連絡に約10時間、郵送や印刷対応に約10時間で合計30時間ほどかかっていました。ペーパーレスを実現し、30時間以上の業務をゼロに削減することができました。また、郵送、紙、印刷代などの経費を削減することもできています。

さらには、請求ソフト(介舟ファミリー)への入力業務も削減できています。「おでかけくん」導入前は、紙を見て手入力していて、スタッフ3名で2〜3日間、合計50〜70時間ほどかかっていた業務です。導入後は、ボタン操作のみなので5分以内に完了します。入力ミスもなくなりました。

給与計算業務は、顧問社労士に依頼し、月に6〜7万円程度かかっていましたが、現在はボタン操作のみで、あとは自動で計算が完了するようになっています。

ほかにも、利用者さんとヘルパーさんのマッチング能力は、運営スタッフを新規採用せず約2倍の依頼に対応できるようになりました。

請求業務を削減し、利用者さん・ヘルパーさんとの交流を増やせました

ヘルパーと視覚障害者が、待ち合わせをしている様子。ヘルパーはスマートフォンを持ち、視覚障害者は左手でOKサインを出している。

─最後に、「おでかけくん」の導入を検討されている他の事業所さんに向けて、メッセージをお願いします。

土屋さん 「おでかけくん」を導入して業務を自動化することで、一部の利用者さんやヘルパーさんからは「寂しくなってしまう」といった声が届いていました。LINEや電話で、直接やり取りしていたのが、なくなってしまうと思われたからです。

ただ、直接のやり取りは、むしろ増えました。今まで業務で手一杯になってしまっていたのが自動化できたことで、時間を作ることができ、以前よりも一人ひとりと電話やオンライン通話で密なコミュニケーションができるようになったのです。

浜さん 「おでかけくん」を開発・導入したことで、利用者さんとヘルパーさんと向き合う時間を多く作れるようになったのは、私たちの仕事としてとても大事な部分だと感じています。今では、「みつきエキスポ」というイベントを企画・運営したり、どなたでも来られる「みつき運営メンバーと話そう会」を毎月開催したりして、関係者のみなさんといろんな交流をしています。「おでかけくん」がなかった頃には、こうしたイベントの企画まで手がまわっていませんでした。

他の事業所さんの中には、「うちの利用者さんには使えないのではないか」と感じていらっしゃる方もいると思います。でも、視覚障害者のアクセシビリティや使いやすさにはよく工夫をしていますし、運営側ももちろん使いやすくなっています。

「過去数十年、ずっと同じ方法でやっている」といった事業所さんに対しても使いやすく開発しているので、ぜひ一度使ってみてほしいと思います。

おでかけくんのプレスリリースは以下のリンクから。
株式会社mitsuki、視覚障害者の外出を支援する「同行援護」のDXを推進する支援システム「おでかけくん」をリリース。|PR TIMES(外部リンク)

記事内写真撮影:Spotlite
取材・執筆・編集協力:parquet