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聞いてみた・やってみた

『恋です! ヤンキー君と白杖ガール』座談会 視覚障害者絶賛とそのワケ

白杖を持った女性に男性が腕を差し出しているイメージ画像。
写真:Spotlite

ドラマ『恋です! ヤンキー君と白杖ガール』が大好評のうちに最終話を迎えました。
このドラマの原作はWEBマンガ。主人公のユキコが弱視(ロービジョン)という設定のため、原作のマンガは点字図書や音声図書にも変換され、多くの視覚障害者に馴染みがある作品です。
それが待望のドラマ化だったのです。放送が終わり、ドラマを見ていた視覚障害者のみなさんがどう感じたのか、緊急座談会を開催しました。

松田昌美(まつだ・まさみ)さん 弱視。元祖ブラインドライター。
藤本昌宏(ふじもと・まさひろ)さん 全盲。大学院生。
小西正朗(こにし・まさあき)さん 弱視。パラアスリート兼ユーチューバー、パーソナルトレーナー
藤代実里(ふじしろ・みさと)さん 全盲。大学生。

座談会

「弱視」を取り上げたことの価値

―弱視の女の子が主人公というドラマでしたが、どうでしたか?

【藤本】「24時間テレビ」などで視覚障害者が取り上げられることはありましたが、一般枠でのドラマは珍しいと思うので、いよいよかと嬉しかったですし、普段サポートしてくれるかたたちも大学の先生も見てみようかなと言っていました。

【藤代】これまでの視覚障害者が登場する作品と比べるとライトでわかりやすく「あるある」を描いてくれていて、楽しめました。

【松田】視覚障害者がドラマに出るというと、盲導犬と生活している全盲の人が多いんですよね。「視覚障害と言えば全盲かあ」みたいな。ドラマではこれまでテレビに出てきたことのない、拡大読書機や拡大スマホ(自分の見え方に合わせてカスタマイズされたスマホ)などのお役立ちグッズが出てきて新鮮でした。

【小西】僕の知り合いは弱視からも全盲からも高評価でした。日常生活で悩んでるようなあるあるもよかったですね。印象深いのは映画館でユキコがオレンジジュースを頼もうとしていたシーン。そこで森生が「スムージーありますよ」って言ってくれるんです。弱視は、見えるだけあって周りの目を気にするところがあって、後ろで人が待っていると「メニューはなにがありますか」っていちいち聞けないんです。だから妥協して、手っ取り早く定番メニューを頼みがちなんですよ。こういうときに「××がありますよ」って言ってもらえるとすごく助かります。

視覚障害者が自動販売機に顔を近づけてジュースを買おうとしているイメージ画像。


―ほかに印象深かったシーンはありますか?

【松田】バイト先でユキコが、レシートを見て注文商品を用意しなければいけないのですが、レシートの字が読みづらくて、文字を大きくしてもらったというくだりがありました。するとユキコはもちろん、ほかの店員さんにも見やすくなって、お店全体でミスが減り、ユキコが感謝されるんです。盲学校の先生をしている友だちが、ドラマの取材を受けたのですが、ユキコと同じ体験があると言っていました。

【小西】ユキコがバイトを始めたとき、森生が外からこっそり応援しているシーンに感動しました。少し見えるからって背伸びしてチャレンジしようとしても、うまく行かないことも多くて負けそうになります。そういう不安なときに自分の辛さを理解して応援してくれる人がいるのは心強いです。

【藤本】最終話で、ユキコが家族と将来について話してるシーンがありましたね。ユキコは「全部1人でやっていけないと自立とは言えないんじゃないか」と思っていたんですよ。でもその時お父さんが「1人でできないことがあるのは見えてても見えてなくても同じ。自立は一人で生きていくことだけじゃなくて、人に頼って一緒に何かをすること」と言っていたじゃないですか。僕も20代半ばになって自立について考えるんですが、なかなか何が自立かって捉えにくいんですよね。ドラマではそこまで言及していて考えさせられました。

【松田】私は「人に頼ると自分でできることが増える」と気づき、生きるのが楽になりました。ユキコのお姉さんが「大事な人に頼ったり頼られたりすると嬉しい」と言っていましたが、「自分も誰かの役に立てるんだ」という思いが自己肯定感を高めていくきっかけに繋がったんですよね。

【藤代】私は、お姉さんとの関係がすごく印象的でした。序盤ではお姉さんはずっとユキコの心配していて、家で料理しようとしても「危ない」と言ってやめさせようとするんです。私にも似たような経験があって、10代の頃は姉から「あれは危ない」「これはやらない方がいい」と言われていました。でも一度お互い家を出て一人暮らしを始めたら、そのうちに「努力すればできることがあるから、気持ちを尊重してほしい」ことをわかってもらえるようになりました。ユキコはハッキリとお姉さんに「やろうとしていることを見守ってほしい」と言って、関係がよくなっていくんですよね。姉との関係がユキコとお姉さんと重なるところがあって、序盤と後半で2人の関係性が変わるところにぐっときました。

白杖を持つ女性が1人で道端に立っているイメージ画像。

視覚障害者も絶賛のリアルな描写

ー案内人の濱田祐太郎さんが「白杖をついて歩いていたら、隣におばちゃんが来て、白杖のリズムに合わせて『はいっはいっ』って声をかけられた」と話していました。

【松田】それはないですが、隣に人が来て勝手に案内を始めるのはあるあるですね。

【藤本】イヤホンを使って道案内を聞いているときなどは聞こえないと思って腕を引っ張られるんですが、普通にびっくりします(笑)。全盲だと、縁石にぶつかってから右に曲がるなど、見えている人と場所の捉え方が違うんですよね。腕を引っ張られて誘導され、逆に自分のいる場所がわからなくなって引き返すことはあります。

駅のホームに真っ直ぐのびる点字ブロックを撮影したイメージ画像。


―細田佳央太さんが演じていた青野くん役。顔の表情や姿勢がすごくリアルだなと感心しました。まだ20歳の俳優さんなのですね。


【小西】目が開いてるのに全盲の人の感じがナチュラルに出てるって僕の周囲でも全員絶賛でしたね。僕らの中でイメージしてる全盲キャラの典型的なタイプ。

【藤本】全盲って周りが見えてないので、空気が読めなくてずっと喋っちゃうって言われてるんですよね。いかにも盲学校にいる子って感じでした。

【松田】教室でも青野くんだけがバーッと喋ってましたよね。全盲といってもそれぞれで、喋りたい子もいるし、鬱々として喋りたいけど喋れない子もいるし、若い頃から悟りを開いてるような子もいます。

【小西】めちゃめちゃ弱視の細かいところ演出してましたね。ユキコがケガした森生の家に行って、部屋に入る手前でガラス戸に顔をぶつけるシーン。すごくわかります。初見の場所は気を張ってますが、部屋に入ると油断するんですよ。全盲なら油断しないかもしれないですが、弱視はときどき油断して危ない。弱視を本気で演出しているなと思いました。で、ぶつかったあとに恥ずかしさもあるので強がってしまうんですよね。

【松田】予期してないからめちゃくちゃ痛いんですけどね(笑)。声も出ないくらい痛いのに満面の笑顔で「大丈夫です!」とか言って。

【藤本】全盲の立場からすると見えるということがどんなものなのかわかってないです。「光を感じて形がボンヤリ見える」ってどのくらい見えてるってことなのか。でも点字使ってるしな、とか……。

【小西】僕の視力はユキコより見えてますが近いと思います。あの視力でよくハンバーガー屋で働こうと思ったなと思います(笑)。

【松田】若さですね! パワーもあるし、頑張れば何でもできると思っちゃう。頑張ってもできないこともあると知るとまた変わるんですけどね。

白杖の先端と路面に人影が写っているイメージ画像。

「前例」という言葉が選択肢の幅を狭めてしまう

【藤本】最終話で調理師学校の先生が「視覚障害者の前例はないけど断ってるわけじゃない」と言ってますね。この「前例」がやっかいなんです。最近は進路が開かれてきましたが、前例のないところへは最後は本人が押し切らないと進めないですね。

【小西】周囲からは視覚障害者の定番である、理学療法士や鍼灸の国家資格といった、前例の多い職業を勧められる傾向にありますね。

【松田】親も先生も、本人も、やった経験がないことを「前例がない」という言葉で片付けちゃうんですよ。親は、子どもが自分の想像する範囲を飛び越えたときに、自信がないからかいろんなことを言って諦めさせようとする。新しいことやろうと思うときに本人に寄り添える人が増えれば、いろんな経験ができるようになるのになあ。

【藤本】そういう意味で、最終話のラストはよかった。大きな会社組織の下で働くのもキャリア構築のひとつだと思うけれど、フリーランスで働く道もあると思う。「一緒にやれることがあるよ」という森生の言葉には、なるほどなと思いました。

【松田】生き方を自分で決められる子が増えればいいなと思います。先生自身が外の世界を知らないまま指導をしていて、白か黒か、グレーはあり得ないと思っていたりします。それで子どもも白か黒かしかないと思っていたのに、大人になって社会に投げ出されたときに、グレーがいっぱいあって、できることがなさ過ぎて困ってしまうんです。

【小西】日本は、「他人に迷惑をかけない」というのが教育の主流ですよね。インドかどこかは、「どうせ迷惑をかけるんだから、他人に寛容になりなさい」と教わるそうです。日本の考え方は秩序につながると思うので、どちらの考え方も一長一短ありますが、多様性に寛容な社会であってほしいですね。

【藤代】最後、ユキコと森尾の夢が叶って終わったところがよかったです。料理を作りたい夢を諦め妥協する形で就職先を決めたユキコと、ユキコと一緒にいたいけれども離れてしまった森生、一体どうなるかと思っていたら、2人の気持ちが尊重される終わり方で幸せな気持ちになりました。

ピンクの白杖のグリップとえんじ色の落ち葉を写したイメージ画像。

意外と知られていない、全盲の人の超人的能力

―森生がユキコに気づかれないように店内を逃げ回るシーンがありました。その時、青野くんが「でも黒川くんの空気感じるけど」って言うんですよね。

【藤本】空気はわからないけど、「この人いるかも?」って思うことはありますね。

【小西】狭い空間だとバレると思う。7,8割の確率でわかります。

【松田】森生は歩行訓練士に向いてると思う。歩行訓練士って、利用者がちゃんと訓練士の言ったことを守っているか、絶妙な距離をとって見守っているんですよね。

【藤本】遠くから見ているんだけど、なにかあったらすぐに駆けつけられる距離にいるみたいなんですよね。「そこまで行ってらっしゃい」って言われて出かけて、帰ってきたら「また間違ってたね」って言われたことがあります。

―最後に、ドラマ放送の前後で変わったことや、これから期待していることなどいただけますか?

【小西】知り合いの全盲の男性が、駅などで「困っていることはないですか?」と声をかけられるようになったと言っていました。60歳近い人ですが「なんで30年前にこのドラマをやってくれなかったのか」って言っています(笑)。弱視にもいろいろあって、白杖をついていない人もいます。もしかしたら、いますれ違った人も弱視かもしれません。この機会に、弱視について知ってもらえたら嬉しいです。日常生活で心がけているのは、「すみません」ではなくて「ありがとう」と感謝を伝えることにしています。そういう気持ちが助け合える世の中を作っていくんだろうなと思うんですよ。

【藤代】「視覚障害者ってなにが困るんだろう」ではなくて「この人はなにに困っているんだろう」というふうに、関わったその人個人と交流を深めて、視覚障害についても知っていってほしいです。

【松田】声掛けをして頂いたときに、助けが必要じゃないときも、お断りの仕方にすごく気を遣っています。「今は大丈夫です」「またお願いします」というふうに、次につながればいいなと思って。でも私が高校生のときに、ユキコみたいにちゃんと説明して断れたかと思うと、できなかった気がしますけど(笑)。

ドラマのタイトルと主人公2人の後ろ姿、点字ブロックを描いたイラスト
原作者うおやま様のイラスト

編集後記

企画・取材・執筆を担当しました、ライターの和久井香菜子です。視覚障害者による文字起こしサービスを提供する合同会社ブラインドライターズの代表も務めています。
以前から原作マンガには注目していましたが、ドラマ化により、ますます注目度が上がりました。弊社スタッフもみんな楽しみにしていたようです。

ドラマは期待以上で、とても真摯に取材を重ねて作られていた印象です。弱視や全盲の人たちがどう生活をしているのかを多くの人に知ってもらう、よいきっかけになったのではないでしょうか。

一方で「学生はバイトを探すのが大変」「飲食のバイトなんてやっている人はほとんどいない」とドラマの虚構部分が気になる人もいたようです。
確かにまだまだ視覚障害に対する社会の偏見は大きく、「あんまや鍼灸」が彼らの勤め先だと思い込んでいる人が多いでしょう。しかしドラマでは、仕事に関して「できること」をポジティブに表現することで、こうした社会のバイアスを払拭する意図があったように思います。つまり、「あんまや鍼灸が多い」と言うと、どうしても「それしかできない」と捉えてしまう人がいます。しかしユキコが飲食で働く姿を描くことで「できるよ!」というイメージを発信したかったのだと思うのです。現実を伝えるとともに、期待も描くドラマでした。

個人的には、森生とユキコのラブコメ部分にひたすら萌えました。大きなメッセージをエンタメのオブラートに包んで発信する作品はとても質が高い。今後もこのような作品が作られることを期待しています。

原作漫画のご紹介

『ヤンキー君と白杖ガール』
著者:うおやま
発行:株式会社KADOKAWA
コミックス①~⑦巻好評発売中

漫画ヤンキー君と白杖ガールの1巻の表紙の書影。

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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