1996年に設立された視覚障害者のための福祉施設「NPO法人六星 ウイズ半田・蜆塚」。
就労継続支援B型事業所として、ものづくりや梱包作業、点字印刷などを行っています。
現在は、静岡県浜松市の半田と蜆塚に事業所を持ち、視覚障害者が自分の見え方や強みに合わせて、それぞれの役割を全うできる環境が整っています。
今年10月には、生活訓練事業所「ウイズかじまち」を開所し、様々な生活訓練も行っています。
今回は、ウイズ蜆塚の施設紹介とインタビューを通して、全国から見学者が絶えないNPO法人六星の魅力をお伝えします。
ウイズ蜆塚 施設紹介
ウイズ蜆塚では、視覚障害者がそれぞれの担当する作業を行っています。作業内容や見えにくさを補う工夫を順番にご紹介します。
まず最初のテーブルでは、裁縫や毛糸を編み込む作業をしていました。おきあがりこぼしのフクロウやアクリル製のたわしを製作します。
隣では、布ぞうりを作っています。専用の木の板に下地となる紐を通して、その上から布を編み込んでいきます。
「産前産後の母親が足を踏みしめる力をつけるために布ぞうりがいい」と、助産師さんがたくさん買いに来てくれるそうです。
その奥では、新聞の配達会社からの依頼で、各家庭に配る古新聞を束ねる紐を作っていました。紐の長さは、机の幅を往復させる回数で測っていました。
円形にして束ねるためには、ゴミ箱を逆さにしてその外周に紐を5周巻きます。全員が一定の位置で周回できるような目印がついています。ウイズでは、見えにくさに関わらず同じように作業ができるよう工夫された専用の治具と言われる道具がたくさんあります。
これは、利用者が全員最初に取り組む仕事で、毎月8000本を納品しているそうです。
さらに、ゼリーを詰める箱の組み立て、点字名刺の印刷も行っています。作業内容は日によって変わるそうです。
2階では、点字電話帳の発送作業が行われていました。
ウイズ蜆塚の作業スペースには心地いい音楽が流れており、活気と真剣さを感じる空間でした。
インタビュー
インタビューにご協力いただいたのは、法人代表 斯波千秋さんと施設長の古橋友則さんです。ウイズの人材採用や海外での取り組み、また運営を続ける中で感じている行政の課題や今後の展望などについて、伺いました。
はじめは収益性がなくても「やるべき」事業がある
ーウイズはどのような施設ですか?
古橋さん ウイズは視覚障害者のための福祉施設で、静岡県浜松市の半田と蜆塚に事業所があります。いずれも就労継続支援B型事業所です。サービスによっては、支援区分により利用に制限がある場合がありますが、B型事業所は本人の働く意思があれば、年齢や障害の重度・軽度に関わらず利用できます。
ー2022年10月からは生活訓練事業も始められたんですよね。
古橋さん はい、生活訓練はさまざまな手続きを経て、標準的な利用期間である2年の間、国からの支援が受けられる制度です。相談員と計画を立て、プログラムを組んで利用する必要があり、気軽に始められるものではありませんでした。最初は浜松市と提携して行う予定でしたが、話し合いの中で最終的には法定の生活訓練事業として行うことにしました。
ただ、生活訓練は収益的に厳しい部分があります。生活訓練は制度上、利用者6人に対して職員1人で行うように設計されています。つまり、その分しか経費として認められないことになります。
しかし、ウイズでやろうとしているパソコンやスマートフォンの訓練は、基本的に利用者さんと職員が1対1で行います。そのため、利用者さんが3人いれば職員も3人必要になってくる。その場合、職員2人分の人件費はウイズの持ち出しになります。
そこを解決する手段の一つとして、スキルを身につけた利用者さんに、教える側にもなってもらうようにしています。雇用できると良いのですが、難しければ非常勤として活動していただいた分の報酬を払う仕組みにしています。
ー収益的に厳しくても、生活訓練を行うのはなぜですか?
古橋さん やはり、視覚障害者のニーズがあるからですね。ウイズは生活訓練を始める前から、さまざまな体験会やシンポジウムを実施してきました。今も月に一度、講演会を開催して、ニーズの掘り起こしを行っています。その際に「生活訓練を行う場所も必要だ」とみなさん言うんですよ。
時代はガラケーではなくスマートフォンですし、「孫とLINEがしたい」という声を聞いたとき、「これはウイズがやるべきだ」と思いました。はじめから収益性を求めたら、手は出せないですね。
「自分の経験が福祉施設にどう還元できるか」を考えた方がよっぽど面白い
ーウイズでは、どのような方が職員として働かれていますか?
古橋さん 前職はバラバラです。福祉大学を卒業していない方が圧倒的に多いです。教員や料理人、運転手などをしていた方もいます。最近入った方は、化学素材の開発を行っていたそうです。一般企業から来た人がほとんどですね。
私たち福祉業界の人間はお金を稼ぐという感覚が乏しいことがあります。しかし、実際、利用者さんに工賃を払ったり、運営を続けたりするためにはお金を稼ぐ必要があります。そういう意味では、一般企業で働いていた方が入ってきた方が面白いんです。
面接時に「福祉の経験が全くありません」と言われる方もいますが、そういう人にこそ「自分が働いてきた経験が福祉施設にどう還元できるかを考えてくれた方が、よっぽど面白い」と伝えています。
斯波さん 施設の職員は、障害者のための仕事を作るだけではなく、企業から障害者が行える仕事を取ってくる、そして活動のために必要な治具を作るというように、なんでもやらないといけなかったのです。視覚障害者に、どうやってサービスを提供すればいいかを考えて行動に移す力が必要でした。今も昔も、運営を続けるために儲ける力は大事ですね。
賑やかで活気のある雰囲気に驚く人も多い
ーウイズの雰囲気を教えてください。
古橋さん 施設に来られた方からは、「賑やかですね」と言われることが多いです。一般の人が想像する視覚障害者は、目を閉じたりアイマスクをしたりした時のように、全く目が見えない人です。だから、暗いというイメージを持たれがちです。施設全体も暗いのではないかと想像してしまいます。しかし、ここに来ると「なんで皆さん、こんなに明るいんですか」と驚かれます。
もちろん、職員から積極的に話しかけてもらうなど、意図してこのような雰囲気を作っている部分もありますが、利用者の皆さんはよく話をしますし元気です。ウイズではこの雰囲気が日常です。
さらに、小学生の福祉の勉強の場としても活用してもらっています。小学4年生の総合学習のテーマが福祉なんです。福祉の中でも視覚障害は、点字ブロックや盲導犬、白杖などイメージしやすいものが多くて、学校から見学のご依頼をたくさんいただきます。
ー小学生のうちから、視覚障害者のことを知る機会があるのはいいですね。
古橋さん はい、学校への出張授業もあります。最初は職員だけで対応していましたが、今は利用者さんが講演に参加する機会が増えてきました。最初は無償での授業が多かったですが、今は少し報酬が出ることもあります。いただいた報酬は、講演をした利用者さんの工賃として還元しています。人前で自分の経験を話すのも立派なお仕事として捉えています。
国内だけでなく、海外にも受け継がれるウイズの考え方
ーウイズを訪問される方の中には、海外からいらっしゃる方も多いと伺いました。
古橋さん 海外から視覚障害者が来ることもあります。自分の国に戻って、障害福祉分野リーダーとして活動していくような方ですね。ウイズは小規模施設ですし、利用者さんができる仕事を、無理のない範囲で行っています。だからこそ、真似しやすい大きさで、日本全国、さらには国境も超えて、ほどよい見本になっているのかなと考えています。
斯波さん 一例として、2003年にはインド南部のスリランカにあるクンブッカナ盲ろう学校に、ワークショップWITHという施設ができました。
ーワークショップWITHはどのような施設ですか?
斯波さん 盲学校に付属した作業所です。最初、学校は国の支援が受けられなかったので、100万円をこちらから寄付しました。開所式にスリランカの社会福祉大臣を呼んだことをきっかけに、今は国からの支援も受けています。
現在は聴覚障害者がメインの作業所になっていますが、視覚障害者の方も利用しています。こちらから足踏み式の点字の製版機を送ったのですが、亜鉛版がなかったため、ブリキの板で代用したりと、工夫しているみたいですね。
古橋さん 聴覚と視覚障害が一緒になっている学校で、今在籍しているのは聴覚障害者が7割、視覚障害者が3割です。
ー国内でもウイズの作業内容を展開している施設はありますか?
古橋さん 愛知県豊橋市、静岡県沼津市、静岡市に同じ就労継続支援B型事業所があります。豊橋の施設では、職員の方がウイズで2週間働かれていました。商品もここと同じものを作っています。
ウイズは、周辺の地域の方だけしか通えず、遠くに住んでいる方は通えません。色々な障害種別の方が一緒に利用する福祉事業所を利用されている方はたくさんいます。しかし、視覚障害者が馴染めないことも多々あります。そういう方たちのためにも、ウイズのような視覚障害者のための施設は必要だと思っています。他の地域の方が真似できるよう、運営のノウハウは積極的にお伝えしています。どんどん全国に広まって欲しいですね。
「通いたい」と思った時、思い出してもらえる場所に
ーウイズは、今後どのような場所にしたいと考えていますか?
斯波さん ウイズのことを多くの視覚障害者に知ってもらい、「1人で外出したい」「作業所に通いたい」と思ったとき、思い出してもらえる場所にしたいです。
ウイズの名刺を渡してから、5年後に突然連絡が来ることもあります。5年前は「まだ見えているから大丈夫」と言われた方から、「そろそろ話を聞いて欲しい」とご連絡をいただきました。実は、何年か前に名刺を渡した方が利用に繋がることは多いです。
古橋さん 私は歩行訓練士なので、まずは歩行訓練士の存在を知ってもらうことが重要だと思います。しかし、僕らを必要としてくれるタイミングは人それぞれです。
昔、入院している視覚障害者に会いにいったことがありました。若い男性で、事故によって一瞬で目が見えなくなってしまったのです。最初は何を話しても、全く興味を示してくれませんでした。ひとまず名刺を渡してそのときは帰ったのですが、3年後に彼から「外を歩きたい」と連絡が来たんです。その後、歩行訓練を続けて1人で移動できるようになり、あん摩鍼灸の国家資格取得のための学校に通いました。今は介護施設で働いているようです。
視覚障害者が必要になったタイミングで、我々を頼ってもらえるように、施設や歩行訓練士の情報提供を続けていきたいですね。
最後に
ウイズ蜆塚では、利用者のみなさんがいつもイキイキとした表情で作業している姿が印象的でした。助産師さんが買いに来る布ぞうりのように、社会からニーズのある仕事を行うことが大きなやりがいにもつながるのではないでしょうか。
視覚障害者が数年後に「連絡したい」と思った時に受け入れられるのは、ウイズがあり続けるからこそです。
全国から見学が絶えない理由は、「真似しやすい大きさのほどよい見本」だからであり、ノウハウを惜しみなく伝えるという考え方に感銘を受けました。
視覚障害者のため、地域のため、世界のために、今日も変わらず運営しているウイズ蜆塚には、福祉施設の運営に関する極意が詰まっています。
このような場所が全国にひとつでも多く増えればいいなと感じました。
随時、見学を受け付けているそうです。興味のある方は、ぜひ連絡してみてください。
NPO法人六星 ウイズ半田・蜆塚 (外部リンク)
執筆:高橋昌希
執筆協力:古賀瞳