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ストーリー

弱視で陸上選手の私が「視覚障害者に見えない」から「困っていること」。パラ陸上銀メダリスト福永凌太さん

銀メダルを手に持ち、笑顔の福永選手。日本国旗のついた赤い代表ジャージを着ている。

パリパラリンピックの男子400m(T13クラス)の銀メダリスト、福永凌太選手。弱視のため「なんとか見えている」こともあり、普段は白杖を使用していませんでした。「見えている人」に見られることも多いという福永選手が、「周りに障害が伝わること」で変化を感じたといいます。

福永凌太(ふくなが・りょうた)さん プロフィール

1998年生まれ。滋賀県出身。日本体育大学大学院所属。
パリパラリンピック男子400m(T13クラス)で銀メダル、男子走り幅跳び(T13クラス)7位入賞。2025年10月「ニューデリー世界パラ陸上競技選手権大会」では、T13クラス(視覚障がい)400m決勝で銀メダルを獲得。

前回、寄稿してくださった記事は以下のリンクからお読みいただけます。

視覚障害者だと気づいてもらえない私

「視覚障害者は、何に困っていますか?」

そう聞かれることがあります。

おそらく多くの人は、「道が見えないこと」や「文字が読めないこと」を思い浮かべるのではないでしょうか。もちろん、それも「困っていること」のひとつです。でも実際に生活していると、「そこなんだ!」と意外に思われるような場面で困ることがたくさんあります。

私の場合、一番「困っていること」は「障害があることに気づいてもらえないこと」だったりします。

車いすや白杖を使っていると、周りの人も「何かサポートが必要かもしれない」と気づきやすいですが、弱視で白杖を使っていない私は見た目だけでは視覚障害があると分かりません。

そのため、電車の優先席に座っていても、「元気そうなのにどうして座っているんだろう」と思われてしまうことがあります。実際には立っていると周囲の状況が把握しづらかったり、揺れでバランスを崩しやすかったりするのですが、その事情はなかなか伝わりません。

「転ばぬ先の杖」として白杖の練習をはじめた

人混みの歩行者天国を、白杖を持って歩く男性とガイドヘルパーの男性の胸から足元までを写した写真。
(写真撮影:Spotlite)

私は、最近白杖を使って歩く練習をしています。「歩行訓練」と呼ばれるもので、歩行訓練士に白杖の使い方を指導してもらいます。

普段の生活ではなんとか見えている部分もあるし、陸上競技もしています。これまで白杖を使う機会はほとんどありませんでした。でも、ふと思ったのです。“転ばぬ先の杖”という言葉があるように、白杖が本当に必要になった時に、いきなり使えるものではないのかもしれない……と。

見えづらさは、その日のコンディションや環境によっても変わります。年齢を重ねれば、今見えているものが見えなくなる可能性もあります。だからこそ「必要になった時のために」今から練習しておきたいと思ったのです。

そして実際に使ってみると、回を重ねるたびに前より慣れてきた感覚があります。最初は白杖を前に出す動きすらぎこちなかったのに、白杖を通して少しずつ地面の情報が入るようになってきました。

段差、壁、人の流れ……。

視覚以外で空間を理解していく感覚が少しずつ分かってきた気がします。私は全盲では無いので、もちろん視覚も使ってはいるのですが、途中からは「これ、目を瞑っていても歩けそうだな」と思う瞬間もありました。

もちろん実際には危険もあるし、簡単なことではありません。でも、白杖が単なる“道具”ではなく、自分の感覚を広げてくれる存在なんだということを実感しました。

白杖は「自分らしく安全に行動するための選択肢」

走り幅跳びで飛んでいる瞬間の福永選手。両足を前にまっすぐ伸ばし、両手を体のわきに少し広げるような形で空中にいるところ。
(写真提供:一般社団法人 日本パラ陸上競技連盟)

実際に白杖を使ってみて一番驚いたのは、周りの反応です。

人がよけてくれる。

お店での対応が変わる。

困っていそうだと気づいて、声をかけてくれる人もいる。

普段の私は「見えている人」に見られることが多いのです。だからこそ、困っていても気づかれない場面も少なくありません。

でも白杖を持つことで、「視覚障害がある」という情報が周囲に伝わります。それだけで、こんなにも周りの行動が変わるのかと驚きました。

白杖の男性とガイドヘルパーが横断歩道を渡り終えるところ。車道にはトラックが停止している。
(写真撮影:Spotlite)

特に印象的だったのは、海外の方がとても気にかけてくれたことです。ヨーロッパやアメリカの方が「大丈夫?」と声をかけてくれたり、自然によけてくれたりする場面が何度かありました。もちろん日本の方が冷たいという話ではありません。ただ、欧米圏の方は、障害者へのサポートが“特別なこと”ではなく、自然なコミュニケーションとして生活に根付いていると感じました。

今回、白杖を使ってみて感じたのは、“障害が相手に伝わること”の重要性でした。自分の状態が相手に伝わらなければ、周りもどう接していいか分かりません。また、伝わることで生まれる優しさや配慮もあります。

私はこれまで、「できるだけ普通に見られたい」という気持ちがどこかにありました。でも最近は、障害を隠すことよりも、必要なときにちゃんと伝えることの方が大切なのかもしれないと思うようになりました。

白杖は、“できない人の道具”ではなく、自分らしく安全に行動するための選択肢のひとつ。実際に使ってみたことで、少しだけその意味が分かった気がします。

スマホが視覚障害者の目の代わりになることも

駅や電車のモニター、会議の資料、飲食店のメニューなど、「文字を見なければいけない場面」は弱視であっても意外と苦労します。

最近はスマートフォンのカメラや拡大機能がとても便利で、見えにくい文字を読むときによく活用しています。少し離れた場所の案内表示を確認するときも、スマホで撮影して拡大して見ることがあります。

スマートフォンを使いながらバスの時刻表を確認している白杖の女性。
(写真撮影:Spotlite)

ただ、ここにも別の「困ったこと」があります。

誰かと話している最中にスマホを取り出したら、相手によっては「話を聞いていないのかな」「失礼だな」と感じるかもしれません。でも実際はそうではなく、「今見えていない情報を確認するため」にスマホを使っているだけなのです。また、全盲でも音声読み上げでネットの情報を活用することもできます。視覚障害者にとってスマホは、“目の代わり”として使う場面が少なくありません。

だからこそ、私たちが「困っていること」は単純に「見えないこと」だけではないのだと思います。

見えにくいことによって生まれる誤解や、「見た目では分からない障害」であるがゆえのすれ違い。実はそういった部分に困ることが多いのです。

最近はバリアフリー設備も増え、便利な技術もどんどん進歩しています。それでも、人と人との間にある「知らなかった」という壁はまだまだ残っています。

この記事を読んで、視覚障害者の困っていることや、全盲ではない視覚障害者のことを少しでも知ってもらえたら嬉しいです。

知ることが、誰かにとっての優しさの第一歩になるのかもしれません。

執筆:福永凌太
アイキャッチ写真提供:一般社団法人 日本パラ陸上競技連盟
編集協力:株式会社ペリュトン

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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