ちょうど1年前、「視覚障害者の移動をもっと自由にしたい」という思いをコラムで書きました。
電車の直通運転のように、同行援護も事業所が連携して、視覚障害者の自由な移動体験が実現できればいいのに……という内容です。
それから1年。少し時間がかかりましたが、具体的な取り組みとして、全国の同行援護事業所がつながる新しい一般社団法人「全国同行援護事業所ネットワーク」を立ち上げました。
参考:全国同行援護事業所ネットワーク(外部リンク)
支援者・運営者の課題を共有し、利用者に還元するネットワーク
同行援護は、障害福祉の中でも特にニッチな領域です。障害福祉に関するノウハウやシステムはたくさん存在するものの、「同行援護」に特化したものはほとんどなく、多くの事業所が、日々の実務判断をほぼ独学で行わざるを得ないのが現状です。日頃の運営業務、ガイドヘルパー育成、監査、地域差への対応など、孤立の中で難易度の高い意思決定を迫られています。
現在、日本視覚障害者団体連合の中に「同行援護事業所連絡会(以下、連絡会)」という組織もあります。連絡会は、厚労省への政策提言や制度普及、研修の整備などを担う重要な組織です。
この連絡会とは別の観点で、現場の管理者・サービス提供責任者が日々直面する課題の解決を目的としたのが今回立ち上げた一般社団法人「全国同行援護事業所ネットワーク(以下、ネットワーク)」です。
「事業所で行うべき研修、どうやって実施している?」
「監査で指摘されやすいポイントは?」
「契約書の説明はどこまで丁寧に行うべきか」
「ガイドヘルパーの定着が難しい」
「地域によってルールが全然違うのはなぜ?」
こうした毎日の運営業務の悩みに、現場同士ですぐに相談できる仕組みは、これまでありませんでした。

そこで私たちは、既存の連絡会を補完する、現場サイドのコミュニティを立ち上げました。参加主体は「同行援護事業所」そのもので、管理者やサービス提供責任者が実務課題や工夫を共有できる場です。制度をつくる側ではなく、制度を使って運営する側が主役となるのがネットワークの特徴です。
勉強会やイベント等への参加対象者は、法人の代表者や役員、同行援護事業所の管理者、サービス提供責任者、運営業務に従事するスタッフに限定しています。
ヘルパーや利用者を対象外にしているのは、より、運営に特化した課題を解決していくためです。結果的に、ヘルパーや利用者の皆さまに還元できるように取り組みますのでご理解いただければ幸いです。
実態にあった制度運用と質の高い支援を実現するために
既存の連絡会が担うのは、制度の正しい姿を国とともに形づくることだと解釈しています。一方、私たちが今回立ち上げたネットワークは、制度をどう現場に落とし込み、より質の高い支援を行うかを考える場所です。両者は互いに補完し合い、制度の整備と現場の力の両輪で回ることで、初めて安心して移動できる社会の実現につながると考えています。
ネットワークの具体的な活動内容は、契約・実績・監査対応の書式共有、人材育成、DX、地域連携など、現場ですぐに使える情報の標準化などです。年会費は無料で、規模に関わらず全国の事業所が参加可能です。すでに、事業所の関係者から参加の声をいただき、動きは着実に広がっています。
今回のネットワーク設立のもうひとつの大きな目的があります。それは、全国の事業所がつながることで、誰もがもっと自由に移動できる社会をつくることです。事業所同士が知恵を出し合い、支援の質を高め、地域差に左右されず安心して外出できる環境を作ること。これが、私たちの目指す「移動の自由」です。
将来的には、47都道府県の事業所に登録いただき、全国どこでも自由に移動できる未来を実現することが目標です。小さな一歩でも、全国の事業所がつながることで社会は確実に前進すると思っています。
ネットワークは、非営利で活動し、会員事業所の年会費も無料のため、日頃の運営は皆さまからの協賛によって成り立っています。もし、活動に賛同していただける方がいらっしゃれば、ご支援いただければ嬉しいです。

2025年12月22日にキックオフミーティングを開催
ふと、この記事を書きながら、1年の速さを痛感するとともに、思い出したことがあります。
私が福祉施設を退職し、同行援護事業所の運営を始めたのは、2018年、27歳のときです。当時は、業界の人に会うたびに「若いね。若いね」と、言われていました。
それからあっという間に8年が経ち、30代の半ばに差し掛かりました。来年にはアラフォーの仲間入りをします。しかし、最近もまだ、「若いね。若いね」と言われています。
私はいつまで、若いままでいられるのでしょうか。見た目が若々しいね、という意味であれば、これからもずっと言われたいのですが(笑)、業界の中での年下ポジションはいつか卒業したほうがいいのではないかなと思っています。
私の周りでは、自分より年下の人たちが、同行援護はもちろん、それ以外でも視覚障害に関わる面白い活動をしている様子をたくさん見かけるようになりました。
ただ、私の印象ですが、彼ら、彼女らは独自のコミュニティを形成しており、業界との関わりをあまり持っていないように感じるのです。
このネットワークは、そんな若さ溢れるエネルギーと、これまでの先人たちが積み上げてきてくださった経験や歴史的な背景がうまく融合される交差点のような位置づけになれば理想です。
ネットワークの最初の集まりとして、2025年12月22日月曜日、対面とオンラインのハイブリッドで、キックオフミーティングを予定しています。会員になるかどうかは関係ありませんので、ぜひお気軽にご参加ください。
参考:キックオフミーティング開催のお知らせ|全国同行援護事業所ネットワーク(外部リンク)
この日は参加できないけど、ネットワークに関心のあるという方は、ぜひWebサイトをご覧ください。個別での相談も大歓迎です。
参考:全国同行援護事業所ネットワーク(外部リンク)
ここから新たな連携と学びが生まれ、現場の力がさらに広がっていくことを願いながら、一緒に活動していただける仲間に出会えれば嬉しいです。

記事内写真撮影:Spotllite
編集協力:株式会社ペリュトン