「企業で働く視覚障害者には、介助者をつけるより、介助者が働いて納税したほうがいいのでは?」
先日、都内のとある行政関係者と視覚障害者の就労について話した際の言葉です。
背景には、「視覚障害者に介助者をつけたとしても健常者と同じ業務はできない。わざわざ介助者をつける価値があるのか」という思いが透けて見えます。ダイバーシティの推進、働き方改革など景気のいい言葉が溢れていますが、視覚障害者の社会的な認知がまだまだ浸透していないことを痛感しました。
私たちは、同行援護事業所の運営を中心に、ガイドヘルパーの養成研修、 ウェブメディア「Spotlite(スポットライト)」での情報発信、同行援護事業所向けの業務支援システム「おでかけくん」の販売などを行っています。
「見え方の違いが活きる社会」をビジョンに掲げて、視覚障害者とともに、社会の中で多様な価値観が受け入れられるような取り組みを行っています。
しかし、冒頭のような言葉が聞こえてくる。まだまだ力が及んでいない証拠です。
今後、私から事業に関する思い、最近の出来事から感じたこと、関心のあることなどを月に1〜2回程度、発信していきたいと考えています。
実は数年前にもSpotliteで月に1回くらい記事を発信したいと書きました。そして、実現していません。このように、自己管理能力と意思が大変弱い人間なので、周りのお力も借りながら今回こそは継続していきたい所存です。
本記事では、ここ1年の会社の動きと背景の思いを共有いたします。
Spotliteでハウツー記事公開
1人の反対より、100人の役に立つサイトに
ウェブメディア「Spotlite」は2019年に公開し、視覚障害に関する情報発信を行ってきました。
インタビューやイベントのレポートなど、幅広い記事を公開し、一定の認知度は獲得してきたように思います。ただ、定期的に読んでくれるのは情報感度の高い、一部の視覚障害福祉の業界関係者だけになっている感覚がありました。それは、閲覧数の伸びが停滞していたことからも間違いなかったはずです。
そこで、昨年2023年に編集プロダクションに全面的に協力いただき、視覚障害に関するハウツー記事や取材記事を、合わせて100記事以上、半年で集中的に制作しました。
ハウツー記事とは、例えば、視覚障害者を見かけたときの誘導方法のポイントや情報の伝え方などです。
これまでのSpotliteは取材記事が中心で、ハウツー記事の制作はしてきませんでした。それは私が葛藤していたからです。なぜなら、誘導方法のポイントをわずか1つのウェブ記事で完璧に伝えることは不可能だからです。
私が卒業した国立障害者リハビリテーションセンター学院の視覚障害学科では、2年間をかけて、視覚障害者の誘導法や白杖歩行など、点字や音声パソコンの使い方を学びます。どうしても私が2年間で学んだような専門的な内容を、ウェブ記事に全て掲載することはできません。
一方、ウェブ記事は星の数ほどある記事の中で、まずは読まれなければいけません。検索したとき、検索結果の上位に表示されやすい文言、記事の構成、表現の工夫などがあります。
専門性と「読んでもらうこと」のバランスを取ると、ウェブ記事用に表現を変更したり、内容を精査しなければいけなかったりする箇所が多数出てきます。
私は、視覚障害業界の中で、著名な方の顔がたくさん思い浮かびました。「ここの表現が違う」「他にはこんな方法がある」「こんなに単純ではない」と、指摘しようと思えばいくらでも指摘できるからです。
しかし、私はハウツー記事を制作することにしました。
それは、1人の反対より、100人に視覚障害者のことについて知ってもらったほうがいいと思ったからです。
編集者さんやライターさんは自主的に私も知らないような専門書まで読み込んでいただき、校正段階では私を含めた視覚障害業界の仲間にも記事を細かくチェックしてもらい、丁寧に制作しました。
結果として、ハウツー記事は思った以上に閲覧されました。ときにはインタビュー記事の何倍もSNSでシェアされることがあります。
葛藤しながらですが、視覚障害者の社会的な認知を広げていくために、これからもSpotliteでさまざまな情報を発信していきたいと思います。
これからも代表コラムを更新していきます
以前、「今後も定期的に更新します」という決め台詞を残したまま、約2年の月日が流れました。
これからも私の発信を楽しみにしてくれている人がいるかどうかはさておき、私自身が約束を守れる人になりたいと思っておりますため、約1ヶ月後、またSpotliteのことを思い出して、ちょっとサイトを覗いていただけると嬉しいです。
私の記事が更新されていればその事実を確認し(+ぜひお読みいただけるととても嬉しいです)、万が一更新されていなければ、お問い合わせフォームから、おたくの高橋が約束を守っていませんとお叱りのメールをいただければ幸いです。
今後も視覚障害者とともに、見え方の違いが活きる社会の実現に向けて全員で協力しながら眼の前に取り組みます。
よろしくお願いいたします。
記事内写真撮影:Spotlite