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ストーリー

支援する側とされる側、両方を経験してわかった「心のバリアフリー」の意味。日本心のバリアフリー協会代表理事の杉本梢さん

ピンク色の花が咲く木の前で、白杖を持ちながら微笑む薄いピンク色の服を着た杉本梢さん。

「おばんで~す!視覚障害弱視のこずえです!」

杉本梢さんの動画はこんな第一声ではじまります。

黒髪ストレートのロングヘアに、眉の下で切りそろえられた前髪。よく通る聞きやすい声と、明るい笑顔が印象的です。杉本梢さんは、YouTubeやTikTokを中心にSNSでさまざまな発信をしています。動画では一人飲みや旅行の様子など、アクティブな杉本さんの日常を見ることができます。

2023年12月に「一般社団法人日本心のバリアフリー協会」を立ち上げたばかりの杉本さんに、お話をうかがいました。

杉本梢さん 略歴

夏の花畑の前で左手に白杖を持ちながら右手でブイサインをする杉本さん。

一般社団法人日本心のバリアフリー協会、代表理事。
先天性の視覚障害で、現在の見え方は矯正した最大視力で0.09の弱視。
視覚支援学校の中等部を卒業後、地域の普通科高校に進学。
就職を経て進学し、教員免許を取得。2007年春から視覚支援学校の教員として11年勤務。
2018年に現在の社団法人の前身となる、Lululima branch(ルールリマブランチ)を設立し、障害理解啓発活動を開始。2023年12月に、一般社団法人日本心のバリアフリー協会設立。

自分をきっかけに、視覚障害について知ってほしい

ー杉本さんは、YouTubeとTikTokでいろいろな発信をされています。動画という視覚的なメディアをメインにしているのは、理由があるのでしょうか。

杉本さん いろいろな方に見ていただけるからです。

ありがたいことに講演で全国に呼んでいただきますが、自治体などの主催で講演をすると、障害当事者、支援者、家族など、すでに障害に関心のある方が中心になります。もちろんそれも大切ですが、より広く届けるにはどうしたらいいかという課題がありました。

動画配信は、広く不特定多数の方に伝えることができます。私の動画をきっかけに「今まで白杖の人に気づけなかったけど、意外と街で見かけると気づきました」とか「はじめて声をかけてお手伝いしてみました」といったコメントもいただきます。

私は、中学卒業までは視覚支援学校に通っていましたが、高校は普通高校に行きました。当時から「自分と関わることで視覚障害について知ってもらいたい」という思いがあり、当時の日記にも書いています。振り返ると、10代から現在の活動につながる考えがあったんだと思います。

「視覚障害と生きてきた、生い立ちまるわかり!」というタイトルの動画のサムネイル画像。
杉本さんのYouTube動画のサムネイル画像。杉本さんのチャンネルのリンクは記事の最後にあります。

「僕たちと変わらないんですね!」という小学生の言葉

ー現在、SNSのほかに、講演活動をされていらっしゃいます。特に印象的な出来事はありますか?

杉本さん 学校で子どもたちに話をすることは大切にしたいと思っています。40分くらい話すだけで、子どもたちの感じ方がガラッと変わるのを実感できます。

白杖を持って小学校に行くと、最初は子どもたちが遠くで小声でザワザワしているのがわかります。「見えてるのかな?見えてないのかな?」とか「今、先生の方向いた!」とか(笑)。

でも講演が終わるとワーッと集まってきて、たくさん話しかけてくれます。先日は「なんだ!僕たちとあんまり変わらないんですね!」と言ってくれました。ほかにも「スカートかわいいですね」とか、障害以外の話もたくさんしてくれます。

中学生以上だとワーッとはなりませんが、感想文をもらいます。「話を聞いて、同じ人間なんだと実感が持てた」とか、「障害についてメモを取るつもりだったけど、“杉本さんの話を聞きたい”に変わった」といった感想が届きます。やはり、実際に行って話すことで伝わることもあると感じます。

青い南国の海に向かって笑顔で手を伸ばす杉本さん。

見える人の世界を知るのは、おもしろい

-杉本さんは、視覚支援学校の教員も経験されています。やはり今の活動につながっていますか?

杉本さん 視覚支援学校には「重複」といって、視覚以外の障害、例えば知的障害により発語がないなどの複数の障害がある子どももいます。学年相応の学習が難しいケースもあります。

でも、教員として関わってみてわかったことがあります。それは「その子にはその子の、1日、1年の成長がある」ということです。

例えば、障害特性により食事が難しい子であれば、1日3食を食べて栄養をしっかり摂取できるようになることが、身に着けるべき必要な力のひとつです。使う食器に慣れたり、運動量を増やしたり、食事をする気持ちになる環境を整えたり、何年も様々な学習を経てその成長を促し、見守ります。学習の内容やペースはそれぞれ異なり、その子どもが目指す未来も、それぞれに合ったものを描いていける支援をしていきます。

そのような経験を通して、「生き方はその人に合ったものでいいんだ」「“あたりまえ”はみんな違っていいんだ」と、心の底から実感できました。自分の経験や考え方、自分のものさしだけで、相手のことを測ってはいけないという、その気付きが、今の私の活動にも活かされています。

私は先天性の視覚障害者なので、見える人の世界を知ることもおもしろいです。「毛穴ってそんなに見えるんですか?!」とか(笑)。同じように、自分と違う障害の人、同じ視覚障害でも見え方が違う人、高齢者など年齢が違う人、それぞれの立場を知ることは、自分が障害者であっても大事なことです。

支援学校の支援も似ています。社会に出ると、晴眼者中心の世界がそこにはあります。特に中途障害ではなく、生まれつきの視覚障害者の場合は「視経験」がないので、視覚からの情報を知りたくても知ることができない。そこを保障するのが私達教員の大事な役割のひとつでした。「紅葉が赤くてきれい」という情報をキャッチして、会話を一緒に楽しめるかどうか。見える人たちの世界がどんな感じなのかを知る。それは、勉強と同じぐらい大事です。

赤から緑にグラデーションになっているモミジの枝を下から見上げた写真。
(イメージ写真撮影:Spotlite)

制度や仕組みの限界は「人」が支えている

-障害者の支援では環境面を整えることが重要とされています。障害と環境の関係についてどのように考えていらっしゃいますか?

杉本さん 支援や環境については、私自身は社会人になってからの方が困難を感じました。また、教員の立場で考えても、今目の前にいる子どもたちが社会に出たときには近くにいられない。自分が困ったときのことを思い起こしたときに、やっぱり理解してくれる人がいることで、私は支えられました。

例えば音響信号などの物理的な支援は、すべての場所に同じように整備するのは難しい。それを補って支えるのは人にしかできないなと、すごく感じています。逆を言えば、人がいれば、障害があっても環境が変わっても、困ることを和らげたり補ったりできる。だからこそ、今こういう活動をしています。

例えば、横断歩道で白杖を持って立っていると、通りすがりの人が「青ですよ」と声だけかけていなくなるといったことを実際に経験します。そうした理解や支えがベースだと感じます。私達のことを認識してくれて、こういうことに困るだろうなと気付いて行動してくれる。困ったときに応えてくれる人がいることが、大事だなと思ってます。

雇用の場では「ぜひ当事者の声を聞いてほしい」

黒いスーツを着て、マイクと白杖を持ちながら壇上で講演する杉本さん。

ー「日本心のバリアフリー協会」の今後の活動について教えてください。

杉本さん これまでの発信活動に加えて「高齢者と障害者の雇用促進」に力を入れたいです。

国の方針として義務感で取り組んでいる企業も多いのですが、障害者雇用や高齢者の雇用は、しっかり狙いを持って取り組むと、一般雇用の方たちにも良い影響を与え、生産性を高めることができます。そういう事例がたくさんあります。自分の会社がより良くなるきっかけになるのが障害者雇用であり、高齢者の雇用です。

雇用に関して、いつも「餅は餅屋です」と伝えたいと思っています。企業では障害者雇用について担当者が抱え込んで、自社の中だけで何とかしようとしている場合が多いです。ただ専門知識がないと難しい部分もある。そこは専門の方と連携することが大切なので、講演でも必ず伝えるようにしています。

連携先としては、もちろん私もですが(笑)、障害者本人、家族、出身校の教員、支援機関、主治医などそういう方たちに聞いて連携するのもありなのです。

ー障害者本人からの発信も大切ですね。

杉本さん はい。たとえば、視覚障害とひとくちに言っても見え方はそれぞれ違います。同じ全盲でも、その方がいつから見えないのかによって困難も違います。また得手不得手は個人で異なります。これは支援する側が探っていくだけではなくて、当事者が発信しないと支援者もわかりません。

当事者は自分のことを発信していく。発信しなければ、適切な支援を受けられないことがある。そこを理解して、自分がどうしたいかを選んでいってほしいと思っています。当事者と企業の橋渡しも、お手伝いしていきますよ!

日本心のバリアフリー協会 WEBサイトはこちら(外部リンク)
杉本梢さんYouTubeチャンネル:梢の心になるほど隊(外部リンク)
杉本梢さんTikTok:こずえ@視覚障害弱視のぴんぼけライフ(外部リンク)

真っ赤な紅葉の中で、青いコートを着て白杖をもって微笑む杉本梢さん。

記事内画像提供:杉本梢さん(※注釈のあるものをのぞく)
取材・執筆協力:aki

この記事を書いたライター

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Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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