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ストーリー

20代視覚障害者の起業ヒストリー  安藤将大さん

安藤さんと浅野さんが向き合って笑顔で話をしている画像。

株式会社19(いちきゅう)。
20代の視覚障害者2名が大学在学中に設立したベンチャー企業です。ユニバーサルデザインに関するコンサルティング業務を中心に様々な事業を展開しています。

視覚障害になった時期も見え方も違う2人が起業するに至った過程から現在の仕事、これから転職や起業を考えている人たちへのメッセージを2回に分けてお伝えします。

2回目は、株式会社19代表取締役社長の安藤将大(あんどうしょうた)さんです。

略歴

東京工科大学コンピューターサイエンス学部卒業。大学在学中の2015年2月に株式会社アーチャレジー(現:株式会社19)を設立し、代表取締役社長に就任。

インタビュー

自分が持っている能力で生きていく

ー目の見え方や病気のことを教えてください。
先天性の朝顔症候群という100万人に1人の病気です。視力は、右目が0で左目は0.03です。視野は周辺が欠けていて、中心が30度ほど見えています。


ーずっと盲学校に通っていたのですか?

小学校だけ盲学校に通い、中学校からは一般の学校に通いました。
小学生の時から活発で、鬼ごっこをしたりアスレチックから落ちたり、いつも外で遊んでいました。すると先生から、「視覚障害の自覚を持て」と言われました(笑)


ーそうなんですね。小学生に視覚障害の自覚とは、なかなか難しそうですね。

私はずっと先天的な障害者の世界で生きてきたので、障害を受容するという意味が当時は分からなかったんです。
先天的な障害者は、障害という言葉を頭で理解していても、実感してない人が多いのではないかなと思います。


ー障害を理解することと実感することは違うのですね。
自分が見える範囲で自分のできることをしているのは、晴眼者と同じだと思います。
例えば、晴眼者でも1キロ先のライオンを見分けられるマサイ族のことをいいなと思っていないですよね。生活の中でその能力が必要なければ、自分が持っている能力で生きていくだけです。
目が悪くて不便なことはあるけど、『だからどうした』というのが正直な気持ちでした。周りが見えるから自分はどうだ、ということを考えるのはもっと大人になってからなのだと思います。

安藤さんが真面目な表情で話をしている画像

障害を捉え直した学生時代

ー 一般の中学校に進学して、心境の変化はありましたか?
小学校の時は同級生の中でも見える方で介助する立場だったのですが、中学校に進学すると5人だったクラスがいきなり40人になって、見えないのは私だけで…カルチャーショックを受けました。そんな中、周りの人に支えられながら、障害をどのように捉え直すかを考えました。
高校生の終わりくらいまで時間はかかりましたが、何か大きなきっかけがあるわけではなく、徐々に気持ちが変化してきたのかもしれないです。


ー「障害を捉え直す」とはどういう意味ですか?
視覚障害というのは、晴眼者に比べて見え方が劣っています。ということは、できることが少なかったり、行動できること自体に制約がある。何をしても、周りから劣っているように感じます。そのことを『そういうもんなんだな』と開き直ることです。
最初は、どうやれば追いつけるかを考えて、同じ線上で勝負していました。でも、追いつけないものは追いつけません。周りと対等に渡り合えるために、『周りが持ってないものを見つけて、それを伸ばすためには?』ということを考えるようになりました。


ー具体的にはどのようなことでしょう?
例えば、教科書を早く読めと言われても難しいし、板書も見えなません。そういう時に、『先生の話を聞くだけで授業を理解するにはどうすればいいだろう』など、別の手段を使って周りと似た結果が得られる方法を考えました。
でも、私は自分が工夫していることに興味を持ってほしいとか、アピールしたいとは思っていません。なぜなら、結果が周りと同じかそれ以下だったら意味がないからです。過程はどうであれ、ちゃんとした結果が出せればいいと思っています。


ーそのころから既に起業家としての気概を感じますね。
世の中には視覚障害に限らず、色々な障害やハンディキャップを持った人がいるのですから、手段まで制約するのはナンセンスだと思います。
例えば、登山するのに「皆、同じ方法でたどり着きなさい」という設定はおかしいですよね。仮に、求められる結果が早く頂上に到着することであれば、ゴンドラに乗ってもヘリコプターを使っても大丈夫です。そういうことを中学・高校の6年間で考えていました。

安藤さんが山頂から日の出の様子を望遠カメラで撮影している画像。
趣味はカメラ。自らで加工も行う。

人と社会のつながりをデザインする

ー起業したきっかけは、浅野さんのインタビューでも伺いました。安藤さんは、就職する道は考えなかったのですか?
あまり考えなかったですね。大学生の時に、有料のインターンで1ヶ月くらい働いたことがありました。
その時の仕事は、『これくらいできるだろう』という上司の裁量によるものでした。晴眼者は、ちょっとオーバーな仕事をこなして成長するのに、視覚障害者にはそういう仕事は来ない。すると、成果をあげることすらできない。これは長い人生を生きていく上でリスクだなと思いました。上司に恵まれるかどうかで人生が決まるのはおかしいなと。
それなら自分で仕事を作って、自分の実力でできるかどうかを測ればいい。それは運ではなくて、できなかったら自分のせいでいいんだという気持ちで起業しました。


ー仕事をする中で、今の社会に足りていないことは何だと感じていますか?
弊社のコンセプトは、『人と社会のつながりをデザインする』ことです。そういう意味で、今社会に足りないていないことはつながりかなと思います。
つながり方にも、ものを作るのか評価するのか、電話なのかネットなのかなど、色々な方法があります。今はつながる手段がないから、高齢者の孤独死や障害者の引きこもりが問題になるのだと考えています。つながりが多様であればあるほど、多様な人が参画できる社会になると思います。


ー19の強みや他社と差別化しているところを教えてください。
ユニバーサルデザインというキーワードがありながら、あくまでマーケティングの対象者が健常者だということです。
ある特定の障害者のためだけに作られているものは、バリアフリーの製品です。例えば、街中の全ての道に点字ブロックを付ければいいかというとそうでもないですよね。なぜなら、点字ブロックによって車椅子やベビーカーを押す人が困るという声もあるからです。
ある特定の人たちのバリアをなくしているのがバリアフリーです。一方、誰もが使いやすいと思うものやサービスをユニバーサルデザインと定義しています。


ー最近は、カタカナの似たような言葉がたくさんで出てきていますよね。

ダイバーシティとインクルージョンという言葉も最近よく使われていますね。ダイバーシティとは、多様な人達が一緒に暮らす社会で、インクルージョンとは、様々な現場に色々な人が混ざることです。
ユニバーサルデザインは、ダイバーシティな社会を実現するツールでしかないのです。エレベーターがどれだけ使いやすくなっても、その先のお店で商品が買えなければ意味がないですよね。
ダイバーシティな社会を実現するために、インクルージョンが必要で、そのためには、その場にユニバーサルデザインの製品やサービスがなければいけないという話です。


ーコンサルティングを行う中で、印象に残っているプロジェクトはありますか?
現在進行している商業施設のユニバーサルデザインを考えるプロジェクトは良い方向に進んでいると思います。先日は、色々な障害を持った当事者と商業施設の担当者が一緒になって、施設の中の使いにくい箇所の解決策を楽しく考えました。コンサルティングをしていて、「勉強になりました」という人は多いけど、「このあとどうしよう」と考えられる人は少ないのです。

スライドを使いプレゼンをする安藤さんの画像。
企業の担当者向けにプレゼン。

尖った人たちの集団を作るために

ーこれから新しくやりたいことはありますか?
会社のメンバーを育てていきたいなと思っています。おこがましい話はできないですが、色々なことに挑戦したり成長できる機会を提供して、当事者の中で尖った人たちの集団を作りたいのです。


ー尖った人というのは具体的にどのような人ですか?
極端な話、企業で1~2時間講演をして数十万円の謝金を頂くなど、社会に対して価値を生み出せる人のことです。方法は何でもよくて、話がうまい人は講演すればいいし、絵が上手い人は絵を書けばいいと思います。


ー尖った人たちの集団を作るメリットは何でしょうか?
尖った人たちが集まって結果的に集団になることはあっても、一般の視覚障害者が集まって尖っていくことはあまりですよね。1人で頑張って尖った人の方法はその人の流儀でしかありません。
もし、集団を尖らせることができると、応用が効きます。当事者が自分も頑張りたいなと思った時に、自分が尖る方法を集団から見い出せることがメリットです。


ー尖った人たちの集団を作るというのは面白い発想ですね。具体的に何か構想はありますか?
皆が集まれる場を作りたいと思っています。第一歩としてシェアオフィスを始めようと思っています。そこで働く人が自然に交流したり、イベントもできるような広めのオフィスを借りる予定です。
『誰もがクリエイティブに仕事ができるオフィスをデザインしよう』というディスカッションのイベントも予定しています。

安藤さんが笑顔で話をしている画像。

起業を勧めない中で伝えたいこと

ー現在就職活動をしていたり、これから起業したいという視覚障害者に伝えたいことはありますか?
まずやってみりゃいい、考えてないでやってみたほうがいい、ということです。ただ、起業は勧めません。だって大変ですもん(笑)
やりたい人はやればいいですけど、おすすめはしません。
何をするにしても、絶対失敗はしますし、そこで止まっていたら失敗した人になってしまいます。失敗で終わらなければいいので、まずは失敗すると思って色々なことをやってみたらいいと思います。


ー起業は勧めないのですね。視覚障害者にとっておすすめの職業はあるのでしょうか?
できる社長についていくのが1番いいのかなと思います。入社する先を選ぶ力と言えるかもしれません。
そのためには、自分の知っていることが世の中の全てではなく、知らない世界が山ほどあるということを知ることです。自分の知っている範囲で仕事をすると失敗するので、知らないことがたくさんあることを意識するのが大切だと思います。


ー例えば、視覚障害者のイメージにないような仕事は何か思いつきますか?
コピーライターなどはまさにそうだと思います。もし視覚障害者のコピーライターがいれば、音声パソコンを使うかもしれないけど、それは総務の仕事をするためではなくてコピーを書き残すためですよね。パソコンは、あくまでクリエイティブを作るためのツールになっています。
「音声パソコンやマッサージができるから○○をします」ではなくて、まずは自分のゴールを見つけることが大切です。そして、繰り返しになりますが、ゴールを見つけるためには色々なことを知ることです。
今はまだ存在していないけど視覚障害者にぴったりな仕事はたくさんあると思っています。

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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