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ストーリー

同行援護も視覚障害者のスポーツのきっかけになる。誰もが「外に出たい」と思える社会へ【河合純一スポーツ庁長官】

笑顔でインタビューに答える、グレーのスーツ姿の河合さん。スポーツ庁内長官室にて。

日本パラリンピック委員会(JPC)などで長年パラスポーツに携わり、2025年10月にスポーツ庁長官に就任した河合純一さん。パラアスリートとしての顔も持つ河合さんに、就任からの1年間で印象に残っている出来事や、視覚障害者のスポーツを取り巻く環境、同行援護が果たせる役割についてうかがいました。

河合純一(かわい・じゅんいち)さんプロフィール

静岡県出身。早稲田大学大学院教育学研究科修了。生まれつき左目の視力がなく、15歳で右目を失明し全盲となる。5歳から水泳を始め、1992年に17歳でバルセロナパラリンピックに初出場。競泳選手として6大会連続で出場し、金メダル5個を含む21個のメダルを獲得した。引退後、日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会などでパラスポーツの普及、強化に携わる。2025年10月、スポーツ庁長官に就任。

スポーツ庁の政策や情報は公式サイトをご覧ください。
スポーツ庁ホームページ(外部リンク)

スポーツ庁内長官室の、ポスターなどが飾られた棚の前に、胸を張って立っている河合さん。

「初めてオリンピックの現場に」就任から1年を振り返る

2025年10月の就任からまもなく1年。就任前は日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会などでパラスポーツの支援に携わっていた河合さんですが、スポーツ庁長官に就任してからは、より幅広いスポーツの場に関わる機会が増えたといいます。

河合さん「スポーツ庁長官としてミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックを現地で視察しました。これまでパラリンピックには委員長としての同行も含めて10回ぐらい行っているのですが、実はオリンピックには縁がなくて(笑)。初めて現場に行くことができました。

そのほかにも、春の選抜高等学校野球大会の開会式では挨拶や始球式を務めたり、2026FIFAワールドカップではアメリカのダラスに視察に行ったりと、これまで接点のなかったパラスポーツ以外の現場もいろいろ経験させていただいています」

スポーツ庁内長官室にて。ソファに座り、インタビューに答える河合さん。

河合さんが働くスポーツ庁も、河合さんの長官就任をきっかけに変化が生まれています。

スポーツ庁があるフロアを中心に点字ブロックが敷設され、視覚障害のある河合さんも働きやすい環境が整備されました。これは、来訪者や職員に向けてのバリアフリーとしても意義深いことです。

長官室に向かう室内の誘導ブロックの写真。パラアスリートの葭原さんが白杖を持ってガイドヘルパーと歩いている。
長官室に向かう点字ブロック。パラアスリートの葭原さんがガイドヘルパーと歩いてみました。

また、業務の進め方にも工夫が取り入れられています。視覚障害者は紙に印刷された「墨字」を読むことは困難ですが、デジタル文書であれば音声読み上げで読むことができます。

河合さん「会議資料などを事前にクラウド上に格納してもらい、私があらかじめ音声読み上げで内容を確認してから説明を受ける、というやり方に工夫しました。私も職員の皆さんもだいぶ慣れてきたかなと思います」

また、約150人の職員との距離を縮めるため、ブラインドサッカー体験の研修会を開いたり、若手職員とのランチ会を実施したりと、対面で話す機会も大切にしているそうです。仕事の話だけではなく、それぞれの前職やこれまでの経験など、たわいもない会話を楽しむ時間もつくっているといいます。

河合さん「現在スポーツ庁は、第4期スポーツ基本計画の策定や部活動の地域展開、国際競技力の向上などに取り組んでいます。また、パラスポーツの発掘・育成についても、しっかり計画的に進めていきたいと考えており、一つひとつ、職員の皆さんと進めているところです」

視覚障害者のスポーツを支える同行援護の可能性

パラアスリートとして長年活躍してきた河合さん。視覚障害者のスポーツ環境についてたずねると、同行援護を含めた「一緒にいてくれる人」の存在が、視覚障害者が外出やスポーツをはじめるきっかけになり得ると語ってくれました。

取材者4人に向け身振りを交えて話す河合さん。座った状態で両手を20センチ角程度に広げ、サッカーワールドカップを視察した時のデバイスのサイズを教えてくれている。

河合さん「視覚障害者にとって、同行援護も含めて一緒に来てくれる方がいれば、周囲にいろいろなことを理解される環境が整いつつあると思います。同行援護をどんどん活用して何より外に出ることが大切だと思います。

私もそうですが、視覚障害者はひとりでふらっと出かけたり、ウィンドウショッピングをしたりできない場面が多い。『誰かと出かける』というきっかけがあると、それ自体がモチベーションになるし、とても助かるだろうなと常々思っています」

スポーツジムなど、民間のスポーツ施設でも同行援護を活用できる可能性があります。

河合さん「たとえばジムに一緒に行って、筋トレをするマシンの位置や重りを確認してもらったり。そういったサポートも同行援護の対象だと思いますので、うまく活用するといいのではないでしょうか」

同行援護について詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。

「危ないから」で終わらせない。視覚障害児がスポーツに出会うために

視覚障害のある子どもたちがスポーツに出会う機会についても、課題があります。

周囲が善意で「危ないから」と止めてしまったり、そもそもスポーツをする機会が少なかったりといったことがあります。しかし、幼少期には運動経験が少なかった視覚障害者が大人になってから競技を始め、トップパラアスリートとして活躍する例もあります。

河合さんは、学校や地域スポーツの現場にいる指導者の理解が解決策になりうると話します。

両手を膝の上に軽く握ってそろえ、真剣に話す河合さん。

河合さん「スポーツ庁として、一般の指導者向けに障害に関する理解や支援方法をまとめたハンドブックを取りまとめています。こうした資料を研修などで活用していただくことで、障害のある子どもたちがスポーツに参加しやすい環境をつくることを目指しています。

参考:障害のある方へのスポーツ指導・関わり方 入門ハンドブック:スポーツ庁(外部リンク)

目が見える見えないに関係なく、スポーツをする中では一定の怪我をするリスクはあります。しかし、そのことを理由にスポーツの機会を減らしてしまうのは、子どもたちのやる気や可能性をつぶしてしまうことにもつながるのではないかと思っています。大人たちが見守りながら、体験の機会を増やすことを心がけるのが大切なのではないでしょうか」

Spotliteも、パラアスリートと視覚障害のある子どもとの出会いを応援しています。

外出のきっかけに「シュープロ」を実施

同行援護は、買い物や散歩など、日常のさまざまな外出に利用できます。そして、日常の外出が増えることは、スポーツのきっかけになり得ます。

現在スポーツ庁で進めているのが、「シュープロ(シューズ・プロジェクト)」です。スニーカーなどの歩きやすい靴を新しく購入し、それをきっかけにアクティブな日常生活を始めてもらおうという取り組みです。

参考:シュープロ | Sport in Lifeプロジェクト(外部リンク)

河合さん「自分にぴったりの新しい靴と出会えたら、嬉しくなって出かけたくなる。そこから同行援護も使ってみようとか、スポーツをはじめようとか、そういったきっかけになるといいと思っています。前向きな気持ちをつくるのにも、影響するのではと考えています」

笑顔で楽しそうに話している河合さん。

こうした「外に出たくなるきっかけ」を増やすことは、スポーツだけでなく、心身の健康や社会とのつながりにも関係します。

河合さん「国民の皆さんに健康でいていただきたい。この『国民の皆さん』には視覚障害者をはじめとした障害のある方々も当然含まれています。私は、心と体が社会的に満たされた状態を『ウェルビーイング』と言っていますが、同行援護をはじめとした福祉サービスをうまく活用することも含め、このプロジェクトが皆さんの『ウェルビーイング』につながっていくといいなと、ずっと思っています」

国・自治体・事業者、それぞれの立場を生かして

河合さんは、これまで教育現場、県の教育委員会、日本スポーツ振興センター(JSC)や日本パラリンピック委員会など、さまざまな立場からスポーツや教育に携わってきました。それぞれの立場で「できること」が異なる点を感じています。

河合さん「国、自治体、事業者のそれぞれで、できることは少しずつ違います。ですから、お互い十分に理解していくことが大切だと思います」

長官の方を向いて話を聞く、Spotlite編集長の高橋と編集部アキ。

同じスポーツの課題でも、立場が変われば、見える景色は変わる。だからこそ、お互いの立場を理解しながら協力することが重要だといいます。

河合さん「もっと良くなると思うことは、どんどん伝えていただきたいです。すぐにできることばかりではありませんし、立場によって、得意と不得意、できることとできないことがあります。そこも一緒に話をしながら進めていけるといいと思います」

河合さん、葭原さん、高橋が笑顔で並んで立っている写真。
編集部メンバーと記念撮影も。写真左からパラアスリート葭原滋男さん、河合純一長官、Spotlite編集長の高橋。

視覚障害者のスポーツについて、以下の記事もぜひお読みください。

写真・執筆:mio.h
取材:aki
編集協力:株式会社ペリュトン

この記事を書いたライター

Spotlite編集部

Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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Spotlite編集部は、編集長で歩行訓練士の高橋を中心に、視覚障害当事者、同行援護従業者、障害福祉やマイノリティの分野に精通しているライター・編集者などが協力して運営しています。

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